超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
剣撃の音が鳴り響く。まるで弔鐘のように。悲しい音色を響かせながら、パープルハートの太刀がドラグレイスの肩口に傷を刻む。ブラックハートの大剣が脇腹を削ぎ落とした。
パープルシスターのM.P.B.Lが兜の半面を砕く。アイリスハートの蛇腹剣が大剣の軌跡を逸らして首に巻き付いた。襟首から頭が破壊される。それでもまだ、ドラグレイスは立っていた。
顔を見合わせて、頷く。
「ネプチューンブレイク――」
パープルハートが持ちうる最大火力で斬る。斬る、斬る――。だが、その最中で再び時間が巻き戻される。
立っているドラグレイスに、ブラックハートが遮二無二突っ込んだ。
「レイジーズダンス!」
蹴り上げからの斬撃のコンビネーション。だが、やられるだけでなく反撃してきた。距離を取るとパープルシスターが入れ替わりでミラージュダンスによってドラグレイスの肩鎧を破壊する。
地面に叩きつけられたドラグレイスの手には、今にも砕けそうなシェアクリスタルが握られていた。
「もう……もういいでしょう!?」
「――――変……神……ッ」
身体の一部を再生しながらドラグレイスは立ち上がる。理性を失いつつあるシルバーソウルが竜の翼を広げる。ボロボロで、片羽しか残っていない惨めな姿だった。それでも吼える。俺の夢を奪わないでくれ。俺の夢を笑わないでくれ。俺は救われているのだから。
「オ、レハ……マダ……タタカ、エル……!」
「呆れるほどタフね。エヌラスといい勝負よ」
「この二人の戦いが長引く理由がなんとなく解ったわ」
それももう、幕引きだ。アイコンタクトでパープルハートとブラックハートが前衛を務める。アイリスハートは距離を取った。
「インフィニットスラッシュ!」
「ネプチューンブレイク!」
今度こそはと二人の猛攻に、七姉妹を召喚するがパープルハートとブラックハートの攻撃によって半数が破壊されて切り抜けられる。その全身に無数の剣を受けたシルバーソウルだが、最後の一撃を自らの身体で受け止めると二人を神楽迦具土で吹き飛ばす。
「M.P.B.L、最大出力です!」
「グッ――!」
大剣の腹で受け止めていたシルバーソウルがその勢いに負けてふらつく。そこに挟みこむように斬りかかるパープルハートとブラックハートに、左腕の盾を開いて――。
「トリックが分かる手品は見栄えしないわよ、大バカさぁん?」
ガキッ!
真っ直ぐに伸びた蛇腹剣の切っ先がむき出しの歯車を止めた。
「32式、エクスブレイド!」
パープルハートの手から放たれる剣が左腕を切り落とす。
「ヴォルケーノダイブッ!!」
シルバーソウルの身体がブラックハートの大剣によってキンジ塔の床へ強烈に叩きつけられた。
シェアクリスタルが砕け散る。変神が解除されたドラグレイスは動かなかった。
「……俺の、負けか」
頭を失い、胴体は辛うじて繋がり、両腕を失っている。これ以上の戦闘は無理だ。
「ええ、そうよドラグレイス……私達の勝ち。貴方の負け。だからもう、これ以上は止めて」
「……貴様らは甘いな。俺はまだ生きているぞ」
「どうしてやれば気が済むのよ。身体が木っ端微塵になるまで砕いてやればいいわけ!?」
次元連結装置に背中を預け、立ち上がるドラグレイスの前に大剣が突き立つ。左腕と盾がくっついたまま。
「…………次元連結装置、か。俺の夢が叶うはずだったんだがな……大魔導師。やはり貴方は雲の上の存在だったか。俺達がどれだけ足掻こうと、掌の上だと言うのか」
歩み始める。その先は、崩壊している壁の向こう側。かつてエヌラスが放った“螺旋砲塔”神銃形態による破壊の爪痕。
皮肉なことに、あの時は夢の近道を置いて逃げ去った足取りを自分は繰り返している。
「俺の夢は、此処に置いていく。この世界の最後の希望に」
「……!」
「肉体を失った俺ではあるが――」
パープルハート達がドラグレイスが何をしようとしているかに気づいて、止めようと手を伸ばした。だが、それを拒むかのように赤い薔薇が舞う。
「貴様らに人殺しは似合わんよ。後味が悪すぎる――そうだろう、エヌラス……」
そして。
ドラグレイスはキンジ塔から身を投げた。絶望へと身を委ねて、奈落へとその姿が消えていく。
ただ伸ばした手だけが無情に行き場を失っていた。此処で、終わらせるはずだった。自分達が止めるはずだったのだ。だがそれを良しとしなかったのだ。
竜騎士は夢に身を任せた。高すぎる望みは身を滅ぼすと知っていながら、それを手放すことが出来なかった。
最後まで、自分の夢を信じたのだ――ティル・ナ・ノーグはあるのだと。
「……先に、進みましょう」
「エヌラスさんは……」
ネプギアが階段を振り返る。まだ階下ではエヌラスとクロックサイコが死闘を繰り広げているに違いない。その助けに行こうとするネプギアを、ノワールが止めた。
「ダメよ、ネプギア」
「どうしてですか?」
「エヌラスはぁ~、必ず後から来るって言ってたよぉ~? だから~、置いて行かなくちゃ~」
「いや、そうなんだけどそうじゃないのよね……信じてあげましょ」
「……はい」
ネプテューヌが次元連結装置をぺちぺちと叩いている。
「んー。これが次元連結装置なんだよね。なんとなくだけどそんな感じするもん。でもなんかボロっちぃよねぇ」
「エヌラスが壊したって言ってなかったかしら?」
「あ、そういえばそうだったっけ。どうなってるんだろうこれ? ネプギアー、こっち来て見てもらえる」
「うん、いいよ。でも、直せないと思うよ?」
「え、どうして!?」
「直すのもタダじゃないだよ、お姉ちゃん……部品が無いと無理だよ」
「じゃあNギア繋げない? ほら、なんかここに「繋いでください」って感じのポートあるし!」
「あ、ホントだ。じゃあちょっとやってみようかな」
Nギアを接続してみるが、応答はない。中のシステムが既に死んでいるようだ。
「ダメかぁ……」
「せめてこれだけでもどうにかできたらいいんだけどね」
「あ~! ねぇみんな~、こっち来てぇ~」
「どうしたのーぷるるん? 配線まみれになって」
「えっとねぇ~階段あったよぉ~? 上の階にいけるっぽいんだ~」
「おお~、グッジョーブ! よーし、気合入れて行ってみようか!」
「でも、なんだか妙じゃない? なんだか、そこだけ意図して配線で隠された感じよね」
ノワールに言われてネプギアが次元連結装置から伸びるケーブルを目で追うと、確かに妙な配置にされていた。上の階から引っ張っておきながら、そこをまるで隠すようにぐるぐると何周もさせている。先ほどの戦いで切れた配線がのれんのようになっていた。
「ほらほら、ネプギアも置いてっちゃうよ?」
「待ってーお姉ちゃん!」
Nギアのケーブルを引き抜いて、ネプギアがネプテューヌの後を追う。
《...|》
――点滅した画面があることに気付かずに。
ネプテューヌ達が辿り着いた場所は、見晴らしの良い展望台とも言うべき場所だった。壁も何も無い。だが、配線が伸びている。それも途中からプッツリと切れていたが、確かに此処にある“何か”に繋げられていた。それが消えている。
「うわー、落ちたら地面まで真っ逆さまだろうなーここ」
「いくら高所からの飛び降りが趣味のアナタでもこれは洒落にならないわね」
「そうだよねぇ~、ねぷちゃん自由落下のプロだもんねぇ~」
「えっと、さすがのわたしも落下できる地面の無い場所に落ちるのは嫌だなぁ」
引きつった笑みのネプテューヌが周囲を見渡して、ふと唐突に気づく。
「……扉?」
「は? 何言ってるのアナタ? 扉なんてどこに」
「ほら、あそこ」
「……扉ね」
何も残らないアダルトゲイムギョウ界に、扉が一つだけ浮いていた。奇妙なことにそれだけ巨大な門のような物に気づかなかったのだ。
静かに、ゆっくりとだが扉が開く。その先に次元が渦巻いていた。そこに大いなる“C”がいるのだろうと見当をつけて、ネプテューヌ達は顔を見合わせる。既に答えは決まっていた。
「泣いても笑っても、これが最後の戦いね」
「大いなる“C”に勝って、それで全部解決なんですよね」
「じゃあみんな、行くよ!」
女神化して、ネプテューヌ達は扉の中へと消えていく。そして、緩やかにその門が閉じられた。