超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――クロックサイコの腕が爆ぜる。頭部を横薙ぎにされ、胴体が別れを告げた。宙を舞う上半身が動く。切断面から無数の蟲が湧きだした。
「イア・クトゥガ!」
下半身に向けて深紅の自動式拳銃。上体に手放しの偃月刀が迫る。しかし、その両方を凌ぐ間に既に身体の再生を終えたクロックサイコが着地するとエヌラスを蹴り飛ばした。
「ン~ン、実に! しぶといッ! ネェ!」
「こっちの、台詞だッ!」
銃刀と偃月刀が二人の間で何度も火花を散らして、やはりエヌラスが押し負ける。クロックサイコは尻もちをつくその隙に壊れた懐中時計を取り出すと、すぐに蓋を閉じた。
「残念だけど、タイムリミットだネ。彼女達が大いなる“C”に辿り着いたみたいだヨ」
「どういう意味だ。最後の一人にならないとその扉は開かれないはずじゃねぇのか!」
「アッハハハ!? キミは本当におめでたいヤツダネ! もうとっくに最後の一人は決まってたじゃないカ! タネを明かそうか!? 考えてもみれば簡単じゃあないカ! ボクは大いなる“C”の隷属、いわばトーナメントのシード枠ダヨ? ほら、とっくに最後の一人は決まってた! ドラグレイスとキミの、どちらかが!」
「……ってことはアイツら、ドラグレイスを倒したのか」
「そうみたいだネ。だけど大いなる“C”へと辿り着いた彼女達は、果たして耐えられるカナ? この世界の真実に――そして、キミは良かったのカナ。大いなる“C”には、最後のひとりだけが辿り着く」
「つまり、俺は世界が滅ぶまでテメェとふたりきりってことか?」
「そういうコトさ」
「上等じゃねぇか。死ぬまでぶっ殺してやる」
口元の血を拭いながらエヌラスは立ち上がった。だが果たして、本当にこの不死の狂気を殺しつくすことが出来るだろうか――?
「キミにボクが殺せるかな? かな? どうやって? どぉ~~~やってボクを殺すつもりだぁい!? 見ての通りご覧のとおり見て分かる通りボクぁ不死身だよ?」
「ああ、そうみてぇだな。テメェの腸、全部蟲で出来てるみてぇだしな」
「キミは片腕が使えず、片目を失ってる! それでどぉぉするつもりなんだい?」
「さぁて、どうしてやろうかな」
骨もない。内臓もない。弱点など皆無。物理はほぼ効果なし。魔術も自分の一歩先をいっているようだ。勝算などない戦いを続けることに意味などない。だがしかし、それがなんだというのか。
「俺は、お前が憎い。憎くて憎くて仕方ねぇんだよ」
「どうしてだい?」
「お前は、俺の妹を殺した。この世界の為に。いや、理由なんかどうだっていい。テメェが殺したんだッ! だから俺はお前を赦さねぇ! 何度でも殺してやる。殺して殺して殺して、殺し尽くして、それでもテメェがまだ死にたりねぇって言うなら、上等だッ!! ぶッッッ殺すっ!!!」
「キミのその怒りは、正しいのかい?」
「家族を奪われて、怒らねぇ奴のほうがどうかしてんだよッ!!!」
純粋なその魂の怒りが銀鍵守護器官に焚べられていく。熱量を流し込まれたエンジンが稼働する。全身の魔術回路が励起されていく。充填されていく殺意に、その怒りにクロックサイコが手を叩いた。賞賛の意を込めて。
「キミは、正しい!! それが正解だ! 誰もがそうサ! それは、弱者を虐げられる怒りだ! さぁ、ソコまで来たらもう一歩だよエヌラス! 絶望の魔人! 戦禍の破壊神! 神様の作ったルールを壊すまでもうちょっとだ! カミサマロジックは手を伸ばせばスグソコだからさぁぁぁァハハハハハハハッ、ギャハハハハゲーハハハハハハハ!!!」
「う・る・せ・えんだよ糞野郎がァァァァァ!!」
覚えている。覚えてる。忘れたことなど一度もない。部屋中に巻き散らかされた妹の肉片を、インテリアに飾られた内臓を、床に敷かれた皮膚を、何もかもを鮮明に覚えている。今でも腸が煮えくり返る!
「いわゆる、コラテラルダメージってヤツサ! 妹さんは目的の為の犠牲! 犠牲だったんだよ! どーしても彼女の死は必要だったわけさ! キミにとっちゃドーデモイイコトかもしんないけどねぇ!!」
「ああ、どうでもいいんだよ! テメェをぶっ殺す口実が出来た! アイツの死は、それだけだ! 俺に! テメェを! 殺させろ!」
急激に燃焼を始める第二の心臓から供給される魔力が全身を沸騰させる。その熱量が自分に牙を向く前に片端から消化させていく。クロックサイコがエヌラスの猛攻を前に退いた。
「――――…………ここは……?」
パープルハート達は、大いなる“C”の扉を越えた先の空間に漂っていた。
そこには、何も無い。アダルトゲイムギョウ界を覆ってきた虚無の絶望だけが広がる空間だった。前後左右、上下の感覚さえもない。周囲を見渡せば、そこには仲間たちしかいなかった。ただ暗闇に放り投げられたように。
「みんな、はぐれないように」
「なぁんにもないわねぇ?」
「そうね。敵どころか大いなる“C”ですら……」
「とにかく、先へ進みましょ」
パープルハートは何が来てもいいように慎重に前へ向かって進み始めた。
やがて、暗闇の先。ポツンと何かが見え始める。その輪郭が徐々に広がっていき、ハッキリと認識できた時には、それが黄金の玉座であることが分かった。きらびやかな座席には、誰もいない。
「……何かしら、この玉座は?」
「きっと、ここに最後の一人が座るのね」
「――この世界は、敗北を続けてきた」
唐突に。そう声が聞こえてきた。男性とも女性ともつかぬ、魔性の美声。
「誰!?」
それぞれが背中を合わせて周囲に武器を向ける。
「だが、それも此度は終わる。お前たちのおかげだ」
玉座の後ろから影のようにひとりの男性が歩み出る。
それは、何処にでも居るような一人の人間だった。しかし、その全身から放たれる神気が人を遥かに超越した存在なのだと語っている。
「……貴方が、大いなる“C”?」
「如何にも、そうだ。よくここまで辿り着いた」
そう不遜に語る相手に向けて、パープルハート達が武器を突きつけた。
「貴方を倒させてもらうわ。私達のゲイムギョウ界を救うために」
「好きにするがいいさ」
「え?」
「お前たちが私を倒して、世界を救いたいと言うのであれば好きにするがいい。私は抵抗しない」
呆気にとられるパープルハート達が顔を見合わせる間に、大いなる“C”は玉座に腰掛ける。
「……えっ。貴方、ラスボスよね」
「この塔争の最後の敵、という意味であれば。私がラスボスだな」
「こういうのって普通、口上とかあって盛り上がるのが定番じゃないの?」
「そんな常識、誰が決めた? 話が始まって、終わる。それだけだろう」
「うわー、盛り上がらないわねぇこんなラスボス……」
とはいえ、だ。パープルハート達が大いなる“C”を倒さなければ話が進まない。気を取り直して太刀を構える。無防備な相手に向けて武器を振るうというのは躊躇われる、が――倒さなければゲイムギョウ界も、エヌラスの今までの戦いも救われないのだ。
それなのに、何故かパープルハート達の本能が、直感が告げている。
“倒してはならない”と。
躊躇している守護女神達を一瞥して、大いなる“C”は足を組み替える。
「……私を倒すのではなかったのか? 早くしてくれ。次の“
「どうしてそんなに余裕なのよ」
「どうして、とは……どういう意味だ?」
「意味がわかってるの? 貴方を倒したら、終わりなのよ!?」
「ああ……そういうことか。つまり、お前の疑問は、こうか。“ここで終わり”なのに、何故焦らないのか、と。先ほども言ったとおり“今回”は、確かにそれで終わるだろうな」
「今回……?」
「“前回”は……確か、そうだな。誰だったか。大魔導師だったか……? いや、アルシュベイトだったかな。まぁ、どちらでもいいか。“それで終わった”が、今回は違う。お前たちが来た。とはいえ、私にとってしてみれば、たったそれだけの違いなのだがな」
「…………」
言葉を失うパープルハート達に、大いなる“C”は嘆息してみせた。
「いやはや、私にはわからないのだがな。どうしてたかが“
時間の無駄――。そう言われた瞬間に、言い様のない怒りが込み上げた。武器を握る手に力がこもる。
無駄と言うのか。アルシュベイトの死が。バルド・ギアの戦いが。ドラグレイスの夢が。
「貴方は――!」
「待って、ノワール!」
「放しなさいよネプテューヌ! どうせ無抵抗なラスボスなんでしょ! だったら一発でスッキリ終わらせてやるわよ!」
「そうじゃないわ! 何かおかしいと思わない?」
「なにがよ?」
「大いなる“C”。貴方は、私達が倒すことになんの抵抗もないのね」
「無論だ」
「それは、どうして?」
「私を倒すことによって、お前たちが辿り着くのは“
「じゃあ」
「待って、ネプギア。まだ続きがあるわ」
「えっ?」
じゃあ、倒せばいいんじゃ。そう言おうとしていたパープルシスターの言葉を遮って、パープルハートは大いなる“C”の言葉の続きを待った。それに、不敵な笑みで応えてみせる。
「“元通り、また戦いが始まる”だろうな。この私を倒すことを夢見て」
怖気が走った。自分達が倒してしまえば、助かるだろう。ゲイムギョウ界で起きていた異変も何もかも“元通り”になって。“全てをなかったコトにされて”またいつもの日々が始まるだろう。プラネテューヌで。ラステイションで。リーンボックスで。ルウィーで。ゲイムギョウ界で。
そして、またいつもの日々が始まるだろう。九龍アマルガムで。アゴウで。インタースカイで。ユノスダスで。アダルトゲイムギョウ界で。
「次の“
絶望を越えて、最後の敵を打ち崩せば終わると思っていた。だが実際はそうではない。
ただ、振り出しに戻るだけだ。