超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「だが、ここにお前たちが辿り着いた。この“
言葉もなく、ただ立ち尽くすパープルハート達に大いなる“C”は賞賛の拍手を向けた。パチ、パチとその小さな喝采だけが胸に響く。何もしていないはずの相手に、パープルハート達は封殺された。倒すべき相手を、倒せない。
「だけど、エヌラスなら――」
「ああ、あの男か。あの男は決して此処に辿り着くことはない。この世界の真実に、この私に辿り着くことは一生ないだろう」
「どうしてそう言い切れるのよ」
「それを何故、とお前達が言うのか。本来ならば、此処へ辿り着くことが出来るのは“ひとりだけ”だ。ところが、お前達が来た」
『――!』
「あの男には、私の隷属を相手にこの世界諸共滅ぶ以外に道が残されていない」
狂い時計、クロックサイコ。最狂最悪の狂気の魔人を相手に、エヌラスは戦い続けている。
「あの男は、決して真実に辿り着くことはないだろう。それがあの男に残された希望だ。“諦めろ”守護女神」
「……その前に、ひとつだけいいでしょうか」
「なんだ?」
「どうして、貴方は大いなる“C”と呼ばれているんですか」
「さて……それを何故、と聞いたのはお前が初めてだな。何故、か……ふむ」
そこで、初めて大いなる“C”が悩む素振りを見せた。
「私は、元々はあらゆる次元の境界線に位置する存在だった。決して世界に干渉することはなく、同時に干渉されることはなかった。異なる次元同士の衝突を防ぐ、いわば壁役だった。ところが、ある時を境にして次元の歪みが生じ始めた。あらゆる次元、あらゆる世界が徐々に狂い始めた。私はそれを防ごうと原因を調査した――その結果、ある一つの理由が判明したのだ。私の拘束を抜け出す者達が現れた。このままでは世界が消滅すると思い、私は箱庭を作り出し、そこに脱走者を放り込んだ」
「……それが、アダルトゲイムギョウ界……?」
“もしかして、ユニちゃんの言っていた突然の消滅って、このことなんじゃ……!”
「私はあらゆる世界に存在するし、どの次元にも存在しない。概念のひとつと言っていいだろう。ゲイムギョウ界に人知れず存在する壁だ。次元を隔つ壁なのだ――私を感知できるものは、こう呼んでいた。
――“セロン”とな」
「……それが、貴方の名前なのね。大いなる“C”――いえ、セロン!」
「だが驚いたのはそれだけではない」
大いなる“
「次元の拘束を抜け出した者達が、箱庭で暮らし続けている内に国が出来上がった。それは最初こそ穏やかに時が流れていたが、互いに力を持つに連れて衝突した。そして、滅ぼし合った。そのままではあまりにも勿体無いと思った私は、そんな彼らに救いの手を差し伸べてやったのだ。終わりのない戦いに、目的を与えた――それがこの
「もしかしなくても、貴方の拘束を抜け出した連中っていうのは……!」
「ああ、そうだ。
だが、と一言区切り。セロンは頭を振る。
「だが、そんなことを続けているうちに
「……エヌラスのことね」
「私としても困り果てているのだ、あの男の扱いに。実際のところ、私の力は彼らをこの世界に留めることで手一杯なのだ。かといってこのまま野放しにするわけにもいかん……だからこそ私はこの塔争を続けている。続けさせている。彼らは朽ちることによりその力を私に還元し、次の“
「じゃあ、記憶が残っている人達は!」
「私に辿り着いた褒美、といったところだろうな。“前世”の記憶を持ち越せるのも、最後の一人だけだ。それが積み重なり、もはや一部の者達にとっては薄々感づき始めているようだがな……ただ一人の例外を除いては」
それが誰を指しているのかは、もはや聞くまでもない。エヌラスのことだ。ただ一人だけが何も覚えていない。
「これで満足か? お前達の知りたいことは」
「……クロックサイコは、一体何者なの?」
「ああ、アイツか。
「貴方は――人の命をなんだと思っているの!?」
「ただの、駒だが……? それがどうした。実際に死ぬわけではない。“どうせやり直される”のだ、そう怒ることもないだろう」
吐き気を催す。絶対に許してはおけない邪悪が、醜悪極まりない諸悪の根源がそこにいた。画面の向こう側で人が死ぬのを当たり前のように、眉一つ動かさない子供のようにセロンは嗤う。しょせん“
「私とて、辟易しているよ。こんな光景ばかりが繰り返されていてはな」
パチン。セロンが指を鳴らして世界が一変した。まるでスクリーンをいくつも映しだしたかのように無数の画面がパープルハート達の視界を埋め尽くした。あまりの情報量の多さに目が眩んだ。だが、そのうちの一つに視線を集中させると――。
「アルシュベイト……?」
最強の鬼神が、立っていた。ボロボロになりながら、刃は折れて片腕を無くし、膝を着いて、ヌルズを前にただひとり残されていた。
「バルド・ギア……」
孤独な王様が戦っていた。無尽蔵の絶望を前にあらゆる銃火器を駆使して、望まない戦いに身を投じていたが、徐々に劣勢に追い込まれていく。弾が尽きかけていた。
「……あっちはドラグレイス?」
竜騎士が戦い続けていた。醜い世界だと一笑に付した世界で。黄金の輝きを放つ大剣を振るって、だがその刀身がもはや見る影もないほど血に濡れている。ボロボロだった。
「大魔導師……」
地上最強の国王が、膝をついている。終わらない戦いに嗚咽を漏らして、それでもまだ戦っていた。彼の眼前に広がるのは無数の魔物たち。ただひたすらに絶望に灼けた偃月刀を振るい続けていた。
戦っていた。戦って、闘って、戦い続けて……そして、彼らは余さず死んだ。目を覆いたくなるような最期だった。誰かに看取られたわけではなく、誰かに背中を預けていたわけではなく、ただただ孤独に闘って、無様に殺された。
「……やめて……」
そんな戦いを彼らは続けてきた。前回も、その前も。そのまた前も。ずっと、ずっと――。
「もう、やめて……!」
守護女神達の悲痛な叫びも空しく、アルシュベイトが、バルド・ギアが、ドラグレイスが死んでいく。何度も何度も。何度でも。
「もうやめてよ! こんな戦い、何の意味があるの!?」
「言ったはずだ。“なんの意味もない”とな」
敗北の歴史。最期の瞬間のリピートから目を逸らすようにパープルハート達はセロンに武器を構えた。
「だが、お前達はそれを良しとしないのだろう? 守護女神達よ。だからお前達も戦い続けるのだろう、彼らと同じように」
玉座から立ち上がる。その一身に守護女神達の憤怒と憎悪の視線を浴びて。
「ならば、いいだろう。此処に、アダルトゲイムギョウ界の権能を執行する――」
指が鳴らされた。空間にノイズが走る。
「この試練を、超えてみせろ守護女神。お前達が辿り着くのは希望か、絶望のどちらかだ」
そして、そこに現れるのは――モノクロの神格者達。
アルシュベイト。
バルド・ギア。
ドラグレイス。
大魔導師。
「この者達を打ち倒し、見事私に一太刀浴びせてみせろ。そうすれば、“
四人は顔を見合わせる。元より、倒す他に先に進む道はない。だがしかし、それまでにエヌラスが来なければ、その時は――とても辛い別れになるかもしれない。
“……エヌラス、お願い。早く私達のところに来て……!”