超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
アルシュベイトが駆ける。ブラックハートがその長刀を受け止めた瞬間に吹き飛ばされた。バルド・ギアのミサイルをパープルシスターが迎撃する。ドラグレイスの大剣とアイリスハートの蛇腹剣が拮抗していた。
大魔導師の偃月刀とパープルハートの太刀が衝突する。セロンはただその光景を眺めていた。玉座へと腰を下ろして。
「私にできることなど、その程度のことだよ。それ以外は何も出来ん」
「神格者を四人も喚び出しておいて、その程度ってどういう了見よ! キャアァァァ!」
ブラックハートがアルシュベイトの一撃を受けて大きく吹き飛ばされた。
「ノワール!?」
大魔導師の攻撃をすり抜けたパープルハートに黄色の布が巻きつけられる。動きを止められたそこへ、深紅の自動式拳銃が魔弾を放った。
「お姉ちゃん!」
パープルシスターの射撃をかいくぐってバルド・ギアが近接戦闘からすぐさま反転。距離を選ばない戦法に翻弄されていたパープルシスターが、折りたたみ式グレネードランチャーの爆炎に呑み込まれた。
ドラグレイスの大剣がアイリスハートを弾き飛ばす。すぐさま鞭のように伸縮させて全身を切り刻むが、意に介さず一直線に突進してくる。全身を使った振り上げによってアイリスハートが吹き飛ばされた。
アルシュベイトただ一人でも手に余るというのに、神格者が四人。絶望的な状況で守護女神達は四肢を投げ出して漂っていた。もし、仮にここで自分達がセロンを倒してしまえば、エヌラスとの思い出も何もかもが消えてしまう。何もなかったことにされてしまう。それだけは絶対に駄目だ。笑ってお別れをしようと約束したではないか。
だからこそ、手も足も出ない。倒さなければならない神格者ですら、今までエヌラスと共に戦ってきたからどうにかなってきた相手だ。
“……ここまで、なの……?”
ブラックハートの胸中に、諦めに似た心境が湧いてくる。頭を振ろうとしても、拭えない敗色に涙が溢れてきた。ここまで頑張ってきたのに、その努力が全て無駄だった。それでもまだ続けることが出来るだろうか。
視線の先。敗北の歴史から目を背けて、目を閉じようとした――その時、偶然目についた。探そうと思って探したわけではない。だが、それに守護女神達が気づく。
そこに映っていたのは、エヌラスだった。対するは、アルシュベイト。バルド・ギア。ドラグレイス。ムルフェスト。大魔導師。おおよそ考えうる最悪の状況だった。アダルトゲイムギョウ界の全てを敵に回したような様相に、血の気が引く。だが、エヌラスの手には妹の亡骸があった。血塗れで泣いて、怒って、剣を執っている。この後に起きることを彼女達は知っていた。
気づかない内に、手を伸ばす。届かないはずの手を伸ばして、引き止めようとする。勝てるはずがない――だが、その手が届くことはなくエヌラスは全身に剣を突き立てられて死んだ。
思わず小さな悲鳴が漏れる。それでも、その男はそれで終わらない。
自分もろともシャイニング・インパクトを放って全てを巻き込んだ。そして、映像が途切れる。
「…………」
流石、というべきかバカと言うべきか。ただでは終わらない。探せば、無数に存在する。まるで星のように、塔争の歴史を眺めた。
エヌラスが戦っていた。戦い続けていた。アルシュベイトと共に。バルド・ギアと共に。ドラグレイスと共に。大魔導師と、ムルフェストと共に。その中には、ユウコと一緒に映っているものもある。
何度折れても立ち上がった。何度挫けても起き上がった。何度でも――。
“……どうして?”
どうして、諦めないのだろう。なんで諦めることを知らないのだろう。そこで立ち止まってしまえば他の道もあるはずなのに。
だけど、そんなエヌラスの傍らにはいつだって誰かがいて、亡骸が転がっていた。
「正直、あの男のしぶとさは私も疑問に思っている。なにがあの男をそうさせる?」
アルシュベイトが迫る。バルド・ギアが狙う。ドラグレイスが構える。大魔導師が唱える。その攻撃を避けて、防いで、反撃して、躱して、パープルハート達は態勢を整えた。だが、神格者達の攻撃は止まらない。
“……嗚呼、そうか”
そういえば、エヌラスは――いつだって私達の為に戦ってきてくれた。守護女神を守るだなんて、何をカッコつけているんだろうと思った時もある。だけど、口だけじゃなかった。本当に命がけで守ってくれた。助けてくれた。救ってくれた。死にそうになりながら、何度も死にかけながら。きっと、そういう性分なんだろう。理屈とか、そういうのはどうでもいいのだ。
“後味悪い”という理由だけで、出来てしまうのがエヌラスなのだから。底抜けのバカにも程がある。
「……諦め、ないわ…………!」
「……ほう」
大魔導師の攻撃を受けて、パープルハートが立ち上がった。
「そう、ね……やられっぱなしは、いやだもの……!」
アイリスハートもまた、立ち上がる。
「なにがお前達をそうさせる」
「……分かりません……だけど、今、ここで諦めてしまったら、今まで戦ってきたエヌラスさんの戦いが無駄になります」
「それだけは、しちゃいけない……無かったことになんか、できないわ……!」
「ならば、どうする。“次”に持ち越すか? お前達が勝っても負けても結果は変わらん」
「“次”なんて、無いわ。これは“
パープルハートが太刀を向ける。
「いいや、“
「セロン! ゲームというのはね、自由で孤独で……大勢で楽しめなきゃダメなのよ」
偃月刀と幾度も火花を散らしてはプロセッサユニットが損傷していく。大魔導師の肩口が裂ける。そして、胸板を蹴り飛ばした。
「……それができればいいが、生憎と私は孤独なのだ。楽しむ必要など無い、ただの暇つぶしになれさえすればいい」
目の前で繰り広げられる激闘ですら、セロンの目にはスクリーンに映される映画のように思える。
「私を誰が殺す? 私に、誰が刃を届ける。誰も届きはしない。願いも救いも何も無い。私はただここで待つだけだ」
最後の勝者が誰であっても構わない。どうせ結果は変わらないのだから――。
エヌラスとクロックサイコとの戦いは、銀鍵守護器官を最大駆動させたことにより、エヌラスに軍配が上がった。しかし、無限に再生を続ける狂気の魔人には焼け石に水。
「ハァ、ハァ、ハァー……テッメ、いい加減、マジでくたばれ……!」
「うーん、そうしたいんだけどネ? キミが中途半端に私を殺すものだからそうもいかないネ?」
既に何度殺したかさえ記憶に無い。というよりは手応えがない。
“……コイツの心臓、どこにあんだよ”
仮面を破壊する。すると蟲が散り散りになり、すぐに集まって身体を再生した。
「なんってったって! ボクは大いなる“C”の隷属だからネ、仕方ないネ! 今のキミじゃまるで“神殺しの刃”に成り得ないからネ! ダメだったらその時は、死ぬしかぁないよねぇ!」
銃刀が無数の銃弾をばらまく。それを片腕で防御魔法を展開しながら防ぎ、反撃の機会を伺う。銃声が鳴り止むと同時に銃を向ける、がそこにクロックサイコの姿はない。無数の蟲が部屋中に溢れている。
「コッチだよぉ~!」
背後から聞こえた声に振り返ろうとした瞬間、胸板を刀が貫いていた。それが引き抜かれ、背中からの衝撃につんのめる。エヌラスが咳き込み、吐血した。
「ボクの正体がなにか分かるかな? 大いなる“C”の隷属だけかな?」
「這い寄る……
「じゃあボクの殺し方が分かるかな?」
ようやく理解した。コイツを殺しきる方法が。だが、今のエヌラスにはそれが叶わない。銀鍵守護器官の機能の大半を治癒に回している現状では、火力不足が否めない。一刻も早い快復が望まれる。
“あと、もう少し……!”
「ボクとしてもねぇ、我慢してるんだヨォ? キミの心臓はとてもとても、トォっても美味しそうだから食欲がそそられるネ! お腹ペコリンコだ! まるで黄金の果実! 知恵の実!」
銃刀を鳴らして、クロックサイコがその刃をエヌラスの心臓に突き立てる――だが、その姿がガラスのように砕け散った。
「ヒャ!?」
「――繋がっ、たァ!!」
鏡像による幻影もまた、大魔導師からの教えの一つ。クロックサイコの仮面が粉砕される。
蟲が這い集まる。身体が形成される。狂気の魔人が形作られた。
「今のは一体? ああいや、疑問はナンセンスだ。識ってる、知ってるよぉ? ニトクリスの鏡だろう? 大魔導師が得意としてたネ」
プッ。血痰を吐き捨ててエヌラスは口元を拭う。首を鳴らして、調子を悪そうにしていた。
「……“右腕”は使えないはずじゃなかったのかい? 致死量のミードとクスリの服用で」
「ああそうだよ。神経が死んでたからな。だから“一から繋ぎ直した”。おかげでテメェとの戦いに集中できなかったがこれでやっと集中できる」
「ドウヤッテ!?」
クロックサイコの悲痛な叫び。それだけは予想できなかったのだろう。
「魔術回路を組み込んだ。足りねぇ部品はそいつで賄ったが……中々どうして、悪かないぜ?」
拳を鳴らしてみるが、特に不具合は見当たらなかった。
「さて――覚悟はいいか、大道芸人。テメェをぶっ殺してネプテューヌ達を追いかけねぇといけねぇんでなぁ! ぶっ殺させてもらうぞ、クロックサイコ!」