超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
右手に偃月刀を召喚し、左手にレイジング・ブルマキシカスタムを握るエヌラスは変神する。クロックサイコが銃刀を構えた瞬間から両腕を撃ち落とし、胴体をアクセル・ストライクで壁まで蹴り飛ばした。
「準備体操だ! 元気にくたばれ!」
ガォン! 仮面が砕け散る。無数の蟲が散り散りになって再び地面からクロックサイコが這い出した。
「いやはや、元気になったねェ!?」
「ったりめぇだ。こちとら酒とクスリとタバコとありったけぶち込んだからな!」
銃刀の弾丸と剣閃を偃月刀と二挺拳銃で相殺しながらブラッドソウルはクロックサイコを壁に磔にする。“螺旋砲塔”神銃形態が跡形もなく消し飛ばす。静寂が訪れて――羽虫の音にその場から飛び退くと床から刀が生えてきた。
「ウフフフフフフ、ボクァ死なないよ。どうやっても、殺せないヨ? キミがある方法で殺らないかぎりねェ!」
「お、そうか。つまりそれまで殺し放題ってことだよな」
「ヘ!?」
「そいつは愉しみだぁゲェーハハハハハ!!」
クロックサイコの仮面が砕かれる。腕が切り落とされる。足が撃ち抜かれる。その度に再生していく狂気の魔人にブラッドソウルは今までの仕返しと言わんばかりに攻撃を叩き込んだ。
「こいつは、ノワールを追いかけ回した分!」
アクセル・インパクトが胴体を引き千切った。
「こいつは、ネプギアを緑竜会の本部に連れ去った分!!」
超電磁抜刀が姿を焼き消した。
「こいつは、邪神を呼び起こしてネプテューヌに苦労かけた分!!!」
更に、超電磁抜刀術・零式がキンジ塔の一部ごと消し飛ばす。それでもまだ再生を続ける。復活し続けていた。
「コイツはキモいテメェにプルルートが不快感マックスな分!!!!」
濡れ衣ではあるが、エヌラスにとってはどうでも良い模様。
「そしてコイツは、俺の妹を殺した分だ」
ヒビ割れたゼロクリスタルを握りしめて、再生しているクロックサイコの胸板に深々と拳を叩き込む。ズルリと汚泥を引き剥がしたような感触にブラッドソウルが手を振った。
「そしてこっから先は全部、俺の分だ」
ゴキ、バキバキ。指の骨を鳴らして迫るブラッドソウルに、クロックサイコが銃刀を構えようとして、身体の不調から武器を落とした。手先が震え、力が入らない。
「ナニを、したんだい……!?」
「“心臓”を持たないテメェに、心臓をくれてやった。俺達兄妹の全存在を掛けてテメェを否定してやる、狂い時計。一生ぶっ壊れろ」
マントを翻して自分の胸を見れば、ソコには歪に輝く双角錐が埋め込まれていた。形を持たないからこその混沌は今、狂気の魔人としてあるべき形を与えられた。
「ヒィアァァァ!?」
命を与えられた、怯えるクロックサイコにブラッドソウルは偃月刀と拳を叩き込む。乱暴に、知性を感じられないような攻撃に打ちのめされて身動きが取れない姿に慈悲など無い。
「テメェが“無限熱量”ぶち込まれて生きていられるかどうか、試してやる!」
「そ、ソイツはちょっとやりすぎじゃあナイカナァ!?」
「なぁにぃ? 聞こえねぇなぁ!! シャイニング!!」
右の掌に生み出される光球。銀鍵守護器官が生み出す最大熱量が充填されていく。
逃げ出そうとするクロックサイコの足に左の手首から蜘蛛の鋼糸が絡みついて逃さない。
「インッパクトォォォォ――!」
そして、クロックサイコの全身が無限熱量の結界へと呑み込まれていく。
「ギィィィヤァァァァァアアアアア!!!?」
絶叫が鼓膜を叩いた。だが、その結界の中の熱量は無慈悲にも温度を増していく。無論、それにブラッドソウルは一切の手心を加える気などない。
「――ォォォオオオオオオッ!!!」
灼き尽くす。肉片の一欠片、魂の一片残さず、この狂い時計の全てを焼滅させる。
「アアアアッハッハッハッハッハハハハハハハハ!!! ヤットダ、ヤァット! キミは!」
無限熱量の只中にいてもなお、哄笑を挙げるだけの生命力には肝が冷えたがブラッドソウルは構わず熱量を更に上げる。
「キミハ! 化物のキミハ! ようやくここまで来た! “神殺しの刃”に、成れるんだ! ボクが狂った理由にナレタンダネェ!」
「ウルッセぇ野郎だ!」
「嗚呼、ヤットダ――ヤット、ボカァ……終われる……!」
「――昇華ぁッ!」
そして、“無限熱量”の結界が収縮した。残るのは静寂と灼けた空気の残滓だけがキンジ塔に漂う。
ヒビ割れたゼロクリスタルも、仮面すらもそこには残りはしなかった。
「…………」
クロックサイコは焼滅した。だが、しかし。ブラッドソウルはまだ臨戦態勢を解いてはいない。
「……“ソコ”にいやがったのか、テメェ」
ガチャリと銃口を向けた先は、自らの影。引き金を引くと、影の中から飛び出した影があった。それはまるでコールタールのように粘ついた液体であり、膨張して人の姿を取ると、仮面が現れる。
顔のない、闇黒のファラオ――クロックサイコの“本体”が、初めてブラッドソウルの前に立つ。
「……ヨク、分かったナ?」
「ずっと疑問だった。まぁ、まさか逆探知がうまくいくとも思っちゃいなかったがね」
「形の無い私に、まさか命を与えて諸共焼滅させるとはナ」
「死んだ妹の形見だ。後悔はねぇよ。つーわけで、だ。改めて死ね、クロックサイコ」
銃撃を銃刀で弾く。やはり、そう簡単にやられてはくれないらしい。だが生憎とこちらも長く付き合うつもりはない。
綺羅綺羅と舞い散る銀の粉末……それに、クロックサイコがハッとする。シェアブラッド。
「マサカ……」
「弔いの鐘だ。コイツを亡き妹に捧ぐ――」
深紅の自動式拳銃が炎と共に現れる。白銀の回転式拳銃が氷と共に現れる。偃月刀が雷と共に現れる。無数の偃月刀が舞い踊る。
「
鮮血が溢れた。
「血闘の“
灼熱の魔弾が踊る。冷厳な魔弾が舞う。偃月刀が狂い踊る。水銀の粉末と共にクロックサイコが撃たれ、刻まれ、踊り狂う。銃撃乱舞、絢爛舞踏の鎮魂歌。
薬莢が無数に床に転がる。偃月刀が地面に突き立てられる。
「…………アア、良い……一曲ダッタよ……」
「くたばれ」
ガゴンッ!
狂気の魔人は、頭を吹き飛ばされて絶命した。硝煙の漂う拳銃を手にして、ブラッドソウルは深く息を吐いた。途方も無い量の魔力を総動員して、妹の仇を討った、そのはずなのに胸には虚しさだけが残る。
当然だ。クロックサイコを殺すことに“なんの意味もない”のだから――。
「……復讐ってのは割がいい。スカッとする。さて、これで何の憂いもなくネプテューヌ達を追えるな」
左目の血を拭って、エヌラスは階段を登り始めた。
階段を歩いて登る。あの日のことを思い出しながら、のんびりと身体を快復させて。
次元連結装置は、あの日のままだった。最初で最後の起動を、自分が食い止めた。“螺旋砲塔”神銃形態を放ったキンジ塔の壁がごっそりと削れており、そして、そこにドラグレイスの大剣が突き立てられている。左腕には見覚えのない盾がついていた。それに手を触れると、歯車が奇妙に捻くれた宝玉となってエヌラスの掌に収まる。最後の一つ――次元渡航能力。
ドラグレイスならば、これを使って何処にでも行けたはずだ。だが、ここにあるということはネプテューヌ達と戦う為に使ったということだ。
「……お前もバカだな、ドラグレイス。強かったろう? 俺の愛する女神達は」
答えは返ってこない。エヌラスは背中を大剣に預けて、その場に座り込んだ。
アダルトゲイムギョウ界は、滅んだ。キンジ塔を残して。
最後の一人となったエヌラスは、大いなる“C”へと辿り着くこともない。この世界の明日を、ゲイムギョウ界の未来を決めるのは守護女神である彼女達こそが相応しい。
「……さて、どうやって追い掛けるかな…………いや、流石に万に一つでも負けるわけがねぇんだけどよアイツ等が。甲斐性なしって言われんだろうなぁ、少しくらい休んでても文句言われねぇよなぁ……でも絶対なんか言われるだろうな。あー、チクショウ! 行くしかねぇか!」
それなりに大きい独り言を漏らしながら、エヌラスは立ち上がった。
「少し待ってろ! 今からそっち行って大いなる“C”だか“D”だか知らねぇが、ぶん殴ってやる!」
掌に握りしめた宝玉を叩き割って、絶望の魔人は立ち上がる。
希望を救うために。