超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
無限に続く敗北の歴史――それから目を背けてトランス・パープルシスターはモノクロのバルド・ギアの背中を追う。だが、その背中を追っている内に背面へ向けたマイクロミサイルが分裂してトランス・パープルシスターの行く手を阻んだ。その全てを片端から撃ち落とす。だが、射撃に気を取られて距離が離されていく。
自分の両手に持つ、新たなM.P.B.Lを見やる。
“威力は抑えられてるみたいだけど……”
今は迎撃に向けて引き金を引いているが、本格的に狙うとなるとバルド・ギアの飛行能力と機動性を前に命中させるのは至難の業だ。どうしても、あと一歩のところで避けられてしまう。相手の射撃を避けるのにも精一杯だ。
狙いは正確。そして回避に映るまでの行動も早い。中々当てることができなかった。
“せめて、私がもっと速く飛べたら”
そう思った矢先に、プロセッサユニットからフレアが排出されてトランス・パープルシスターの視界にバルド・ギアの飛行ユニットが迫る。
「え? えっ? 加速してる!?」
その出力に振り回されそうになりながらも制御して、射程距離にバルド・ギアを収めながらM.P.B.Lを連射した。一発が主翼を掠めて、残りは避けられる。相手もトランス・パープルシスターの射撃性能に警戒心を露わにして背中ではなく、正面から向き合う。ロールしながら射線から身を逸らす。互いに間一髪の回避を繰り返すうちに、バルド・ギアの攻撃が複雑化していく。
両手のライフルからマイクロミサイル、その迎撃と回避に気を取られている間に機関銃を持ち出してトランス・パープルシスターの死角から射撃を加える。M.P.B.Lの刃で弾き、攻撃から身を躱すがその後を火砲が追う。
「くぅ……っ!」
ゆるやかな曲線を描いた回避から、急制動を掛けるとバルド・ギアが追い抜く。今度はトランス・パープルシスターが背後から追う形で両手のM.P.B.Lを連射した。今度は数発が飛行ユニットの機関部に直撃する。煙を吹いたユニットをパージ。爆発の中に突っ込む形になり、黒煙から出てくるとバルド・ギアの姿を見失う。
「どこに――」
消えた、と周囲を見渡している間に、寒気がしてその場から飛び退く。前髪が数本、斬撃を掠めて宙を舞った。両手には槍と矛を持った異種二槍流で接近戦を挑む。中距離の刺突、横薙ぎ、切り払いと機人の特性を活かした攻撃を捌くのでトランス・パープルシスターの体勢がぐらつく。
「っ……!」
やられる――、そう思った瞬間。プロセッサユニットが無数の部品となって光の壁を形成し、刺突を防いだ。バルド・ギアの動きが止まった隙にトランス・パープルシスターが銃口を突きつける。だが、引き金を引くより先にその姿が消えていた。
排熱口から湯気が漂う。その間に、自分の周囲を舞うプロセッサユニットを見つめる。それは、鏃のような形状をした誘導兵器だった。
「これ……もしかして、私の思い通りに動くのかな……?」
一旦、距離を離したバルド・ギアのビームランチャーに手をかざす。
「防いで!」
その声に応じて、即座に光の壁を形成すると攻撃を防いだ。
「うん。なんとなくだけど、勝手が分かってきた……!」
武器の周囲にプロセッサビットを待機させてトリガーを引くと、幾つもの光線が放たれる。範囲の広がった射撃を避けきれずに肩の装甲が破損した。奔る紫電に、意外そうな顔で――とはいえ、機械の顔で表情は読めないが――被弾した箇所に視線を向けている。
《…………、》
“……笑った?”
セロンによって造られた偽物であっても、その内面は自分達の思い描く人物に限りなく近い。
軍事国家アゴウ前で交戦した、バルド・ギアを思い出す――。
「……ソラさんは、いいんですか」
《…………》
トランス・パープルシスターの問いに、バルド・ギアは銃を構える。鋼鉄の肌に、鋼鉄の四肢。冷たく機械的な、無慈悲な銃。それを握ることを彼は良しとしなかったはずだ。光速の射撃が互いの身体を掠めていく。
「ソラさん! こんなアダルトゲイムギョウ界で、いいんですか!」
モノクロの神格者は応えない。ただ無感情に引き金を引き続ける。言葉を遮るように、その先の言葉を拒絶するかのように攻撃が激しくなる。きっと、今のソラならこう応えるはずだ――《そんなはずはない》と。お人好しの彼が憤慨する姿が目に浮かぶ。
プロセッサビットを臨機応変に攻防へ展開する。しかし、頭の片隅がチリチリと熱を持つ。
電界突破したバルド・ギアの武装の展開速度についていくだけで、トランス・パープルシスターの処理速度は疲弊していく。
「まだ……まだです!」
《――――》
攻撃を最低限の防御だけで凌ぎながら接近する。連結させたプロセッサビットを光刃で包み、バルド・ギアの召喚した槍を切断した。矛で防御しようとするが、受け止めた穂先が粉砕される。それにグレネードを放って全速力で離脱していく。強烈な閃光と爆音がトランス・パープルシスターの三半規管を揺らした。“遊び”のない攻撃に、全方位をプロセッサビットで防御しながら快復を待つ。
何度も瞬きを繰り返して頭を振ると、ようやく目が見えてきた。衝撃に揺れると、シールドの基部が一つ破壊される。
“やっぱり、ソラさんは気づいてる”
プロセッサビットを破壊することでこちらの戦力を削ごうとしていた。しかし、そう簡単にやられはしない。
「やぁぁぁっ!」
射撃戦から近接戦に移行して、逃げようとするバルド・ギアに肉薄する。プロセッサビットを推進力にして、M.P.B.Lを振るう。肩のレドームが破壊された。
「同じ手は、二度も食いません!」
緩やかなアンダースローから投擲されるスタン・グレネードを切断する。煙幕によって視界を塞がれるが、プロセッサビットが探知した方角に向かって突進した。
衝突と離脱を繰り返して二人は螺旋を描くように一進一退を繰り返す。
プロセッサビットがまた破壊される。残りは、六つ。
バルド・ギアの胸部装甲に一文字が走る。だが浅い。それでも電界突破で展開している装甲の隙間は脆く、射撃の一発でも通ろうものならショートは免れられない。全身全霊。
《――――》
モノクロのバルド・ギアは、視界に一瞬だけ走るノイズに気を取られた。それが敵の攻撃だと瞬時に判断するが、相手の銃はこちらを向いていない。周囲に浮かぶ誘導兵器も。ならば、その刹那の雑音、雑念は一体何だったのだろうか――疑問に答えを出すまでもなく、両手に携行型榴弾投射砲を装着する。砲口は六門、装填されているのは特殊炸薬弾頭。時世から戦場に送り出されることは見送られた禁忌の一挺。
砲身と機関部を接続する。左手のグリップを回転させて内部シリンダーを固定。指先ひとつで怪物は六門の咆哮を一声に放つ。携行型榴弾投射砲――セフィロトは神樹の如く弾頭を広げながら次元の狭間を灼き尽くす。
その轟音と爆風から身を守るようにプロセッサビットを展開していたトランス・パープルシスターはヒビ割れて力なく落ちていく武装を破棄して突貫する。黒い煤を拭いながら、真っ直ぐな瞳がバルド・ギアを射抜いた。その周囲を舞うプロセッサビットは数が更に減って四つ。
「M.P.B.L、バーストモード!」
内部機構の変動により、延長された銃身を覆うビームセイバーが斬撃を放つ。三日月形の衝撃波をバルド・ギアはサイドアームのマグナムリボルバーで撃ち抜いた。相殺されるが、六発目で弾が切れる。それをトリガーガードに指を引っ掛けて回転させながら装填プログラムによって排莢とリロードを同時に行って、二回転もする頃には終わっていた。右脇に抱えた携行型榴弾投射砲、セフィロトが斬撃を受けて破壊される。プロセッサビットが狙う。
電界突破最終兵装、解除――『EXE FORCE』起動。
「きゃあっ!」
機人は光となってトランス・パープルシスターを轢いた。自らを次元間転送システムに乗せた光速の突貫攻撃は冷却システムが排熱を続ける限り稼動する。演算処理性能に特化させた自分に追いつけるはずはないと、モノクロの神格者は“前世”の記憶から自負していた。しかし、すれ違いざまの一撃が左腕を掠めている。
残るプロセッサビットは二つ。
“どうしたら……!”
トランス・パープルシスターは思考を加速させる。脳裏に浮かぶのは“螺旋砲塔”神銃形態――電撃に打たれたような衝撃に、プロセッサビットが呼応した。両手のM.P.B.Lの銃身下部に装着され、巨大な刃を形成する。両腕を引き寄せられるように二挺を合わせると、まるでそうべきであったかのように一挺の巨大な銃が出来上がった。引き金を引くと桁違いの出力で砲撃がバルド・ギアの身体を包み込む。
しかし、間一髪のところで
「M.P.B.L・デュアルコンビネーション!」
フル展開させたプロセッサビットが踊るように斬撃を繰り返すトランス・パープルシスターの攻撃の合間にバルド・ギアの全身に射撃を撃ちこむ。斬り抜けて、反転しながら連射して二挺を組み合わせる。相手と正面から向き合う形でエネルギーを充填する間に、バルド・ギアは残る左腕に剣を召喚すると予備の飛行ユニットで加速する。
“間に合って――!”
引き金を引く。光の中へ消えていくバルド・ギアは電子防御障壁を展開しながらトランス・パープルシスターへと突貫する――その光の奔流の中で見たものは、とても悲しそうな表情の少女だった。
《――――……》
どうしてか。何故か。その少女の泣き顔が、有りもしない胸の鼓動を深く穿つ。そして、気づいた。その少女は、自分が武器を持つことをひどく悲しんでいるのだと。
――同じ場所で、隣に並んで。笑って、パソコンに向き合う日々が。二人で過ごした時間が、バルド・ギアの演算処理能力をパンクさせた。
マルチプルビームランチャー・バーストモードの限界出力を超えた砲撃が収束されていく。光の帯が消えた跡には、全身を焼き焦がしたバルド・ギアが漂っていた。
「……どうして、ですかソラさん」
《…………》
孤独な王様は答えない。
「あのまま突撃していたら、私がやられていたのかもしれないのに」
飛行ユニットの推進力を上げていたら、負けていた可能性だってある。それなのに、バルド・ギアは最後の最後でエンジンを切っていた。まるで自分がやられることを望むかのように……。
無限に続く敗北の歴史の中で、虚空を彷徨う機人の瞳から光が消えつつあった。それでも、壊れそうな左腕がトランス・パープルシスターの頬を伝う涙を拭って――力尽きる。
「…………」
そこで、この人がどうしようもないほど。神様ですらどうにもできないお人好しである事に、トランス・パープルシスターは気づいて。拭ってもらったばかりの頬を涙で濡らした。