超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――やってきた。やっと来た。辿り着いた。そのことが、ネプテューヌ達の胸を暖かく満たした。
「エヌラス!」
「よぉ、また随分と派手にイメチェンしたな」
「アナタ、左目……」
「ん? ああ、これか。クロックサイコの野郎に持ってかれた」
「……治せないの?」
「傷が深すぎるし、手遅れだ」
銀鍵守護器官も万能ではない。処置が遅れれば、当然ながらその分の損傷は残ってしまう。
心配そうに見つめるトランス・ブラックハートに、エヌラスは笑ってみせた。
「心配すんな。お前達の顔が見れないわけじゃねぇんだから」
「でも、貴方の顔がちょっと近寄りがたい印象になってるわよ。凶悪な人相も相まって」
「そうね。隣を歩いてたら女神の沽券に係わりそうな感じになってるわ……」
「全力で治しますので嫌いにならないでください……」
「ちょっとやそっとじゃ嫌いになったりしないわよ」
それにホッと胸を撫で下ろすエヌラスが、玉座に座るセロンを睨みつける。
「テメェが大いなる“C”で間違いないんだよな」
「如何にもだ。しかし、解せん。貴様、どうやってここに来た」
「なぁに、これもちょっとした次元連結装置の応用って奴だ」
エヌラスの手からぶら下げられているのは、銀色の懐中時計。チクタクと針が“あべこべ”な振れ方をしている。
「次元連結装置って、もう壊れてたじゃない」
「機能は停止していたが、どっかの誰かが電源を供給してくれたらしくてな。中身を書き換えて再生させた。後はそいつを使って、無理やり“門”をこじ開けたってわけだ」
進んだり、戻ったり。止まったり急に回ったりと分針も秒針も狂ったような動きをしている蓋を閉じて、ポケットにしまう。
「つまり――次元衝突装置は再稼働したってことだな!」
「……えっ?」
「俺の計算が正しければ完全に消滅するまで残り時間は一時間を切ってると見た。さぁ、急ぐぞ!」
「このクズ! バカ! アホなの! どうしてそんなことしたのよ!?」
「うっせぇバーカ! 俺がどんだけ死ぬ思いで戦ってたのかも知らねぇのかよ!? 右腕の神経を一から繋ぎ直しながらクロックサイコと戦って次元連結装置のプログラム復旧させんのにどんだけ苦労したと思ってんだ! 誰の為にしたと思ってんだよ!」
「もしかしなくてもアタシ達のためよねぇ?」
「ああそうだよ。大好きなお前らの為にしてやってんだから言わせんじゃねぇよ恥ずかしい」
『……――――』
トランス・パープルハートがネクロソウルの偃月刀によって吹き飛ばされるが、体勢を立て直す為に自分から飛んだようでダメージはない。そこへトランス・パープルシスターも戻ってきた。
「エヌラス!」
「エヌラスさん! 無事だったんですね」
「無事じゃねぇよ! 顔見りゃ分かんだろうが!」
「なんか、ますます犯罪者っぽくなってるわよ。大丈夫?」
「だいじょばねぇよ!!!」
精神的苦痛によって若干涙目になりつつあるエヌラスが咳払いを一つ。改めて状況を確認する。
「んで? あのモノクロ大魔導師はなんだ」
「セロンが召喚したのよ」
「全盛期の大魔導師じゃねぇか。んじゃ、ま。アレは俺がやる――変神」
偃月刀を担ぎ上げて、エヌラス――ブラッドソウルは首を鳴らす。
「勝てるの?」
「勝てなきゃ話にならねぇ、誰に物言ってやがんだ」
ブラッドソウルがプロセッサユニットの翼を広げて飛翔する。その先にいるネクロソウルの二挺拳銃が火を噴いた。その軌跡を避けながら、弾きながら迫り、偃月刀同士がぶつかりあう。衝撃、閃光、衝突と離脱を繰り返しながら二人の間を赤と白の弾道が無数に走る。金色の矢が放たれ、ガラス細工のように砕け散っていく。漆黒の重力弾が神獣によって食い破られていった。
無限熱量と極々冷温の拳と手刀が爆ぜる。師弟の勝負は互角だった。
「こうしてると思い出すな、大魔導師。俺とアンタが初めて出会った日を――」
「…………」
モノクロの大魔導師は答えない。あの日と違うのは、自分が機神を駆っていないこと。そして、妹がいないこと。
こうして真っ向からの一対一の勝負は、九龍アマルガムの地表都市を焼滅させた時以来だ。
「街を滅茶苦茶にしたっけな。ろくに覚えてねぇけどよ、きっと俺はどうかしてたんだろうな」
黄衣が迫る。偃月刀で切り払う。
「あぁ悪い。どうかしてんのは今でもそうだった」
恋人を奪われた。愛していた。そんな彼女が赦せなくて、そんな大魔導師が赦せなくて、心の拠り所をなくした自分が求め、望んだのは世界の破滅。“こんな世界は消えてしまえばいい”とさえ思った。
大魔導師を手に掛けて、恋人を手に掛けて、崩れ落ちる姿を見て気づいた。遅すぎた――。
自分は今まで、そうしてきたのだ。大切な人を。大切なモノをぶち壊しにしてきたのだと。ちっぽけで儚い人の願いと想いを無に還してきた。だから、やり直せると信じて手を出したのだ。次元連結装置に。
「――ホント、どうかしてんだろうな」
金色の弓――天狼星が放つは無数の殺意。流星群が降り注ぐ。それに魔法障壁をかざして凌ぐと“螺旋砲塔”神銃形態で返す。同じように防がれる。
何もかもが模倣だ。教授されてきた全てだ。教えを乞うて学んできた。それが今日までの自分を活かしてきた。
“超電磁”抜刀術・壱式“迅雷”が大魔導師の十字架を砕く。灼熱の魔弾が日本刀を溶解させた。白銀の魔弾を蜘蛛の鋼糸を広げて絡めとる。
全てが仕組まれたことだった。妹の死も。恋人を奪われたことも。次元連結装置でさえ。全てが、ひとりの男が望んだ絶望だった。神殺しの刃とさえなり得る自分に用意された運命だったが――そうはいかない。
「今更謝る気もねぇけどな、大魔導師。俺は、あの守護女神達が好きだ。大好きなんだ。愛してると言っても過言じゃねぇ」
偃月刀同士が衝突する。砕け散り、無数の破片が魔力によって撃ち出される。火花がバチバチと爆ぜていく。そんな中で二人の手が輝きを増していった。
「だから、テメェの絶望にこれ以上は付き合ってらんねぇんだよ!!」
極々冷温の手刀――ゼロ・ドライブ。白く灼きついた手刀は触れたもの全てを決壊させる。
無限熱量の拳――シャイニング・インパクト。奇しくも“輝望”の名を冠する、白い闇が衝突する。互いが互いの術式を食い破ろうと貪り合う。
「――――!」
「そんなに滅びたけりゃあ、テメェひとりで勝手にく・た・ば・り・やがれぇぇぇぇぇッ!!!」
右腕に組み込まれた魔術回路を介した神経が銀鍵守護器官に蓄えられている無限の魔力を術式に無理やりねじ込まれる。それはやがてゼロ・ドライブの術式にすら介入し、崩壊させた。呑み込まれていく大魔導師の肉体を結界に閉じ込める。
「――昇華ァっ!!!」
収縮される無限熱量の結界は、その中に存在する全てを焼きつくして消滅した。後に残るのは、男の絶望を見限った絶望の魔人。
「俺はアイツ等の笑顔が見れるなら幾らでも世界を滅ぼしてやるが、テメェの為には二度と御免だ」
ブラッドソウルは何も残らない空間に吐き捨てるように言うと、ネプテューヌ達の元へ向かって飛び立つ。
「――もう出し物はおしまいかしら、セロン」
トランス・パープルハートが太刀の切っ先を突きつけていた。シャイニング・インパクトに呑み込まれる大魔導師の姿を見て、勝利を確信したからだ。
相変わらず足を組んで玉座に座るセロンの目は落ち着きを取り戻して、退屈そうにしている。
「正直、あの男が来た時は驚いたが……そうだな」
視線を彷徨わせて、どうするか悩んでいる様子だった。
「……“とっておき”が残っているが――見たいか?」
「まだ誰か出すっていうの? いいわ、好きにしなさい。ムルフェストでもクロックサイコでも呼び出しなさい。切り捨てるだけよ」
「もしユウコさんだったらどうするの、お姉ちゃん」
「……話し合いで解決ね」
言いくるめられそうで怖い。勝ち目もなさそうだ。だが、セロンはそれに拒絶のサインを見せる。
「いいやぁ、違う。あの神格者では話にならん。そうだな――今のお前達であれば、この者が相応しいであろう」
パチン――。セロンが指を鳴らす。
空間にノイズが走る。雑音が、雑念が、妄念が生み出すのは、守護女神だった。
『――――』
その姿に、誰もが絶句する。ブラッドソウルでさえも息を呑んだ。
凛とした眼差し。額に巻いた鉢金。モノクロではあるが、その神威に微塵の衰えはない。このアダルトゲイムギョウ界においてただ一人、唯一正しく存在していた守護女神――軍事国家アゴウの女神にしてアルシュベイトの想い人。
「果たして、お前達はその守護女神を超えることが出来るかな……私の“
「……アゴウの、守護女神……!? 冗談じゃねぇぞ……!」
手には日本刀が一本。だがそれだけだ。静かに腰を落として、整息――その眼差しが語る。
『寄らば、斬る』