※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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episode158 アゴウの女神と紫の守護女神

 軍事国家アゴウ・国防剣術の使い手にして、武人。その生涯に一切の華がなくとも彼女こそが戦場に咲く一輪の仇花。遍く国家の敵、屠るべし――。

 ブラッドソウルが両手に二挺拳銃を召喚して引き金を引いた。灼熱の魔弾、白銀の魔弾は異なる属性として魔術的な加護によって守られている。

 白銀の魔弾は不規則な弾道を描く。それに、アゴウの守護女神は静かに目蓋を閉じていた。

 

「……」

 一閃――したように見えたが、果たして本当に抜刀したのかすら怪しい。しかし、セロンにもアゴウの女神にも弾丸は届いていなかった。何故なら一振りで全ての弾丸が切り落とされていたからだ。

 常軌を逸している剣技に、冷や汗が伝う。

 

「……行くぞ」

「ええ」

 ブラッドソウルの声に、トランス・パープルハートが応える。飛翔する。偃月刀が、太刀が別角度から絶妙な時間差によって振り下ろされた。それにアゴウの女神は応じる。

 鞘で偃月刀の腹を打ち、逆手の抜刀術が太刀を一瞬だけ弾いた。納刀、掌底がブラッドソウルの顎に打ち込まれ、肘打ちと胴蹴りがトランス・パープルハートを押しのける。

 そこへトランス・ブラックハートが駆け込む。光速の斬撃に、無数の剣戟を繰り返してもなお、その場からアゴウの女神は動かない。

 鞘を握る手元が揺らぐ。

 

「ッ――避けろ、ノワール!」

「間に合って!」

 陽炎型抜刀術弐式・不知火に、トランス・パープルシスターがプロセッサビットを咄嗟に支援防御に回すものの、それを上回る速度で走った剣閃が燃え盛る軌跡を描いて爆炎と共にトランス・ブラックハートを吹き飛ばした。

 トランス・アイリスハートの蛇剣が迫る。それに、何を思ったか日本刀を“ひょい”と放り投げた。

 

「えっ?」

 一瞬だが虚を突かれて、目の前で三戦の構えを見せたアゴウの女神が放った正拳突きによってトランス・アイリスハートも大きく吹き飛ばされる。残心――日本刀を手にして、音もなく構えた。

 二人を抱きかかえて、ブラッドソウルは冷や汗を流す。

 軍事国家アゴウ国防剣術――徹底的に“守る”という一点を極めた抜刀術。それはつまり「攻撃は最大の防御」ということを体現している。攻撃までの動作は一瞬。一意専心にして専守防衛。見敵必殺。

 

「……アレを相手に手段を選んでいられるか! 時間を稼げ!」

「エヌラス、貴方まさか……!」

「他に手がねぇ、時間もねぇ俺の所為! 銀鍵守護器官最大出力だ――!」

「――」

 それに、ピクリとアゴウの女神が眉をひそめた。ただならぬ魔力の気配を察知して刃を奔らせる。それを防いだのはトランス・パープルハートの太刀。刃の部分だけが光に包まれていた半実体の剣が微動だにしない。

 

「エヌラスは、やらせないわ――! 私達が守るもの!」

「…………!」

 キィン――、互いの剣が離れた刹那。既にアゴウの女神は納刀し、トランス・パープルハートは構え直している。プロセッサユニットが展開していく。

 神速の攻防が二人の間で繰り返される。それにアゴウの女神が笑っていた。薄く微笑んでいる。戦いを楽しんでいるわけではない。ただ愛おしいと思っていた。その恋慕に身を焦がす異世界の守護女神が。

 無数の剣が舞う。その剣を手にしながら残像を残し、トランス・ブラックハートがアゴウの女神に振り下ろす。しかしながら、十文字で受け止めると反撃の掌底によって腹部を強打された。その身体を掴んでトランス・パープルハートに押し退ける。蛇腹剣を鞘で受け止めると、絡みつく。

 

「離さないわよっ!」

 しかし、抜刀した刃が隠れているワイヤーを斬り落とした。鬱陶しそうにジャラリと蛇腹剣の先端を持つと手首を返してヌンチャクのように振り回す。それによってトランス・パープルシスターの射撃が全て弾き落とされた。

 

「――――」

 吐息が聞こえてきそうなほど口を開けて、息を吸い込んだアゴウの女神が日本刀を構える。

 国防剣術、空戦抜刀術・震電が大気を震わせて振り下ろされた。まるで鉄槌のような剣圧に歯を食いしばって堪える。それに、ますますアゴウの女神は破顔した。面白い、美しいとさえ手を叩いて賞賛しただろう。彼女達の放つ魂の輝きに魅せられて、剣技は更に冴え渡る。

 

「エヌラス、まだなの――!?」

 急かすトランス・ブラックハートが発勁によって大きく吹き飛ばされた。

 

「エヌラスさん、このままじゃ……ッ!?」

 プロセッサビットが一振りで両断され、トランス・パープルシスターは蹴り飛ばされる。

 

「急ぎなさいよ、この遅漏!」

 誰が遅漏だと叫んでやりたいが術式の逆算に全神経を集中させる。

 

「――我が運命は、砕けない。例え御身が神であろうと!」

 その詠唱を始めた瞬間、ブツリと電源を切られたように右腕が垂れた。

 

「――!」

 アゴウの女神とトランス・パープルハートの間で幾度と無く火花が散る。満面の笑みを浮かべ、その姿に見惚れながらアゴウの女神の剣閃は間違いなく命を散らそうと必殺の刃を繰り返していた。その切っ先が頬を掠め、髪を切り落としても構わず斬りかかる。

 笑う剣姫に、トランス・パープルハートは眉を釣り上げながら迫っていた。

 

「何がおかしいの」

 首を横に振る。いや、何もおかしくないと。その眼が慈愛に満ちていることに、トランス・パープルハートは気づく。

 愛している。軍事国家アゴウを。私の生きたアダルトゲイムギョウ界を。――言葉はない。だが、その唇が紡ぐのは“いのちの歌”だった。

 無尽蔵の絶望を前に散ったアゴウの守護女神。自らを犠牲にして国の命を繋いだ。それはアルシュベイトが紡いだ。世界の全てを背負うことを捨て、愛する者の愛した国を愛する。

 

「…………」

 アゴウの女神は、ハッキリと言葉を続けた。

 

“おわりにしよう”

 しかし、そこに加減の文字はない。トランス・パープルハートの腹に押し当てた前蹴りから、神速の抜刀が振り下ろされる。

 辛うじて太刀で防いだが半ばから叩き切られ、切っ先が額を掠めて鮮血が僅かに流れた。さらなる掌打が今度こそ吹き飛ばす。受け身を取ろうにもプロセッサユニットがいつの間にか切断されていた。

 

 セロンとアゴウの女神が遠ざかっていく――そんな自分の身体が、ふとした拍子にガクンと止まる。

 

「エヌラス!?」

 自分の足を掴んでいたのは右腕をダラリと垂らし、口に“銀の鍵”を咥えたエヌラスだった。

 

「みっともねぇ姿晒してんじゃ、ねぇええええええ!!!!」

「ねぷぅううううううっ!?」

 トランス・パープルハートはまるで逆再生のように投げ飛ばされる。眼前に迫るのはアゴウの守護女神の抜刀術によって蛇剣が切り落とされるトランス・アイリスハートの姿。折れた太刀で日本刀を受け止める。

 

「此処にアダルトゲイムギョウ界の権能を代行する――! 使えぇぇぇぇぇぇ、ネプテューヌッ!!」

 穢れを知らない白銀の輝きに照らされて、アゴウの女神は吐息を漏らした。

 ああ、なんて美しい滅びなのだと――。

 

 太刀を投げ捨て、放物線を描く“銀の鍵”を掴んだトランス・パープルハートが大上段からアゴウの女神に向けて振り下ろす。

 その一閃を受け入れるように両手を広げて、アゴウの女神は無尽蔵の魔力を叩きこまれた。無数の闇が。無数の光が。アゴウの女神の身体を侵食していく。

 

「…………」

 その最期の瞬間に、アゴウの女神はトランス・パープルハートを抱きしめて、すぐに離した。

 彼女が愛していたのは――。

 

「……こんな形でなければ、貴方と話してみたかったわね。アゴウの女神」

 トランス・パープルハートは“銀の鍵”をエヌラスに返そうと振り向くが、それよりも先に空間を蹴って走り出している。

 その先には――セロンが目を丸くして玉座に腰掛けていた。

 

「えっ?」

 誰もが呆然とする。もう勝負は着いた。アゴウの女神を倒したことにより、ネプテューヌ達の勝利は決まったも同然だ。事実、セロンもまたそんな腹積もりでいたのだろう。エヌラスの凶行を止められるものはこの場にはいなかった。

 

「テメェのその面ァ、一発ぶん殴らせろぉぉぉぉおおおりゃあああああああ!!!!!」

「いや、待っ――」

 盛大に横っ面をぶん殴られたセロンに、ただただトランス・パープルハート達は呆然とする。

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