超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
パチ、パチ、パチ――。セロンが手を叩く。その右の頬が何やら膨れ上がっていた。
「滅茶苦茶痛かったぞ」
「ったりめぇだ、殺す気で殴ったからな」
「とはいえ――おめでとうだ。これにて今回の“
エヌラスがセロンの胸ぐらを掴みあげて玉座から立たせる。そのあまりに不遜な態度に、さすがのトランス・パープルハート達も静止の声を上げた。
「あ、あのそんなに乱暴にしちゃ……」
ネプギアが恐る恐る進言すると、バツが悪そうに放す。変神を解除したノワール達が大きく息を吐き出した。
「これで、終わりなのね?」
「ああ、もちろんだ。此処まで辿り着いたのは、お前達が初めてだよ。さて、勝者には褒美を与えねばな――」
トランジスターがセロンの手に浮かべられる。その五芒星は、アダルトゲイムギョウ界に存在するシェアエネルギーによって構成されていた。
「お前の願いを言ってみるがいい。この“斬魔大星”は叶えてくれるだろう」
「…………」
「既に彼女達の願いは聞き届けられた。明日を守る。未来を守るのだとな。お前はどうする?」
エヌラスは、トランジスターに手を伸ばして――これまでの戦いを思い返す。自らの手に浮かぶ“旧神”の紋章を見つめていた。
果たして、本当にこれで良いのだろうか? 今一度自分の胸に手を当てて、考える。
「セロン。このままだと、この世界はどうなる」
「……“存在しなかった”ということになる。アルシュベイトも、バルド・ギアも、ドラグレイスも大魔導師も何もかもが“無かった世界”になる。お前も、私もあの世界に縛られることはない。お前はただの絶望の魔人、ヌルズと成り果てるだけだ。私はただの“境界”となる」
「そうか。なら、ネプテューヌ達のゲイムギョウ界はどうなる?」
「無かったことになるのはアダルトゲイムギョウ界だけだ。彼女達の世界は傷ついたままになるだろうが、それがどうした?」
「…………」
自分は、“正しい”と思う選択を選ばなければならない。世界を救った英雄などではない。そんな器ではない。
ネプテューヌ達の顔を見渡せば、不安そうな、心配そうな、子犬のような表情をしていた。
「でも、エヌラス。全部“リセット”しちゃったらわたし達――」
「お前達の世界も俺のせいで大変なことになったんだろ?」
「だけど、それは時間を掛ければなんとかなるわ! だから」
「――――」
それでも。嗚呼、だけどそれでも――忘れられない思い出がある。
ネプテューヌと出会った。ネプギアと出会った。ノワールと出会った。プルルートと出会った――それだけじゃない。アダルトゲイムギョウ界で数えきれないほどの思い出が出来た。忘れることなんて出来ない。忘れてしまうことも、無に還すことも出来ない。
ゼロになんて出来ない。できるはずがないのだ。
「……それでも、俺は――世界をやり直したい。今度は誰かの掌の上じゃなくて、自分の意思で戦う」
「エヌラス!?」
「そんなことしたらぁ~、あたし達と出会わなかったことになっちゃうぅ~!」
「記憶も全部、何もかも無かったことになるのよ!? わかってる!?」
案の定、非難轟々だ。それにエヌラスは大仰なため息をついてみせた。
「ハァ~~~~~……」
「本気で言っているのか、絶望の魔人。此処に至るまでのお前の戦いも、犠牲も、彼女達との思い出すらも全て“リセット”してでも、お前はあのアダルトゲイムギョウ界をやり直すというのか?」
「ああ、本気だよ。大本気だ。出来ない、とは言わせねぇぞテメェ」
「不可能はない。お前が望むのであればな」
「――どうして!? どうしてさ、エヌラス! わたし達との思い出なんていらないっていうの!」
ネプテューヌの頭を小突き、エヌラスは右目で睨みつける。
「んなわけ、あるかぁ! いいか! 誰が忘れるか! お前達との出会いなんかとっくに次元超えてんだから今更なんだって言うんだよ! 何度でもやり直す! 何度でも、俺が満足いくまで俺は戦う。アルシュベイトも、バルド・ギアも、ドラグレイスも、ユウコも、全員だ! 絶対に諦めねぇからな、セロン! 俺は必ず全員連れて、ネプテューヌ達のゲイムギョウ界に遊びに行くからな! 覚悟しとけ!」
「で、でもぉ……あたしの次元には遊びにきてくれないのぉ~?」
「行きます行かせてください行かせていただきます!」
「わぁ~い。今の台詞ぅ、もう一回言ってぇ~!」
「いきますいかせてください!」
「えへぇ~~……」
何故か頬を赤らめて身体をくねらせるプルルートに苦笑いを浮かべながらエヌラスはトランジスターを浮かべる。
「……エヌラス。絶対だよ」
「ああ、勿論だ」
「絶対に絶対だからね!」
「わぁってるよ」
「絶対に絶対に絶対だからね!!」
「し・つ・け・ぇ・な!!! いいから行けよ!!」
セロンが指を鳴らすと、虚空に穴が開いた。
「その先はお前達の次元に繋がっている。往くといい」
「ま、待って」
ノワールが駆け出し、エヌラスの首に手を回すとキスをする。やがてゆっくりと唇を離した。
「ラステイションに、遊びに来なさいよ。歓迎してあげるから」
「遊び倒すつもりだ」
「おぉ~。ノワールがデレた! やっぱりツンだけじゃなくてぇ、プリンのように甘いデレも必要だよね!」
「う、ううううるさいわねネプテューヌ! ほら行くわよ!」
「あ~、待ってぇ! あたしもぉ~~~~……!!」
「あっ」
ノワールが掴む→プルルートが逃げようとする→バランスを崩したネプテューヌをネプギアが掴む→咄嗟にノワールを掴む→全員まとめてお約束☆
「あぁぁぁぁ~~~~れぇぇぇぇぇ~~~~~……!!!」
「……なんとも、緊張感に欠ける別れだな。あれで良いのか? 絶望の魔人よ」
「ああ、いいんだよ。その方が平和ボケしたアイツ等らしい。――俺は“こっち”で、アイツ等は“あっち”だからな」
「だからこそ」
「そうだ。“だからこそ”俺は命を懸けた。俺の命に代えてでも愛し続けるさ。俺にできることなんて、これくらいだからな――」
トランジスターがまばゆい輝きを放つ。それに、セロンは目を伏せた。
「ならば、行くがいいさ。無尽蔵の絶望よ。無限の希望を夢見て、輝く明日を夢見て、未来の光を掴むその時までお前は戦い続けろ。私はここで待っているよ。いつでも、いつまでも――お前の“
「飽きて投げ出したら承知しねぇからな、セロン。地獄の果ての果ての最果て。無限地獄まで追い詰めてやる」
「ふっ……それは、怖いな」
目を開ける。そこには、ボロボロで、片目を失い、片腕を失い、それでもまだ戦い続けようと足掻く最弱無敵の魔人の背中があった。
「――無尽蔵の絶望よ。お前には似つかわしくない言葉ではあるが、この言葉を送らせてもらおう」
世界が、再構成されていく。大いなる“C”の創りあげた箱庭が、再び戦火に呑み込まれようとしている最中で言葉を続ける。
「絶望の魔人よ。エヌラス――祝福の華に誓って」
汝は世界を紡ぐ者なり――――――。