超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――――ネプテューヌ達が、目を覚ました。そこは、ラステイションの外れにある、なんでもないような地域だった。
「ぬら~」
「…………」
目蓋を開けて真っ先に目に入ってきたのは、水色のスライム状のモンスター。犬耳と尻尾の生えたかわいらしい外見のスライヌ。ペロペロと顔を舐められて、ネプテューヌが身体を起こした。
「ほらー。しっしっ」
「ぬらっ、ぬらぁ~」
ネプテューヌに追い払われてスライヌがピョンピョンと跳ねるように去っていく。寝ぼけた目を擦って周囲を見渡して、眠っているノワールとネプギアの身体を揺らすと小さな呻き声を上げて身体を起こす。
「んっ…………あれ? ネプテューヌ? どうしたの……?」
「お姉ちゃん……?」
「どうしたのー、はこっちの台詞だよ。――なんでこんなところで寝てるの、わたし達?」
はて、と顔を見合わせて、二人は首を揃って傾げる。
「な、なんでかしらね……」
「でも今日は天気もいいですし、仕方ないと思います」
「だよねぇ~。こんな日はピクニックとかしたら気持ちよさそう。そうだ、あいちゃんとコンパを呼んでみんなでピクニックに行かない?」
「え、えぇ!? これから!?」
「そうと決まればプラネテューヌにダッシュで戻るよー、ネプギア!」
「わ、たたっ……ま、待ってよお姉ちゃーん! あ、ノワールさん。すいませんいつも」
「いいわよ、気にしてないわ。ネプテューヌの気まぐれはいつもだし……でもたまには悪びれてもいいと思うのよね」
「あはは……すいません。それじゃ、私もいきますね。予定が決まったらユニちゃんに連絡させてもらいます。それでは」
お辞儀をしてからパタパタと走り去るネプギアが変身してネプテューヌの後を追って飛んでいった。
「……さて、と」
ノワールも身体を起こしてツインテールをなびかせると、ふと左手に見慣れない物がついていることに気がつく。
「何かしらこれ……?」
左手の薬指に装備された真っ白な指輪に首を傾げて、まじまじと眺めている内に何故か頬が熱くなってきた。慌てて外すと、ポケットに入れて無くさないように大事にしまう。
「……ホント、いい天気ねー。たまには息抜きも必要かしら?」
教会に戻ったらユニと一緒に出かける準備でもしてみようかしら? そんなことを思いながら、ノワールは一度自分が眠っていた場所を振り返る。
木漏れ日の当たる森の中を爽やかな風が吹き抜けていった――。
「ま、そういう日もあるわよね。気にしない気にしなーいっと」
――プラネテューヌを元気に走る子供の姿があった。街中から抜けて、それは近隣の森林保護区へと向かっていく。
そこでは、気持ちよさそうに眠っている一人の少女の姿があった。
「あーーーーーー!!!」
大声を出して、子供は元気よく走ると眠っている少女の傍で屈むと身体を揺さぶる。
「おーきーる、ぷるると! 起きてー!」
「んぅ~~…………ほえぇぇ……あぁ~、ピーシェちゃんだぁ~……おはよう~」
「うん、おはよ! ぷるると!」
「えぇ~っとぉ~……あたしぃ、寝ちゃってたぁ~?」
うんうんと元気に首を振る子供に、プルルートはほわほわとした笑みを浮かべて小さく手を叩く。
「んぅ~っとぉ……何しに来たんだっけぇ~? まぁ、いっかな~」
「ぷるると。ピィ、プリン食べたい!」
「そっかぁ~。じゃ~あ、プラネテューヌでプリン買って帰ろっかぁ~」
「やったぁー! ぷるると、早く早く!」
「あぁ~、待ってぇ~ピーシェちゃん~! 置いてかないでぇ~!」
ピーシェと呼ばれた子供はみるみる遠ざかってあっという間に見えなくなってしまった。
その背中に追いつく頃には既にプラネテューヌに辿り着いており、約束通りにプリンを買って教会へと戻るとすぐに食べる準備を始める。
「あ、プルルートさん。戻ってきたんですね(^^)」
「ただいまぁ~、いーすん」
「もう、今度はどこでお昼寝してきたんですか!ヽ(`Д´)ノ」
「えぇ~っとねぇ~……どこだったかなぁ~……」
う~ん、う~んと唸り始めたプルルートに、小さなイストワールは「はぁ……(´Д`)」と溜息を漏らした。これ以上言及するとまた寝てしまうかもしれないからだ。
「あれ? プルルートさん、それは誰のぬいぐるみですか?(?_?)」
「え~?」
プリンを食べているピーシェをよそに、プルルートが趣味のぬいぐるみ作りを始めていたが、それにイストワールが疑問符を浮かべている。
「真っ黒くろすけですねー(・∀・)」
「う~ん……?」
言われてから疑問に持ち始めたのか、プルルートは作っている途中のぬいぐるみを掲げてみた。
全身真っ黒の、髪が黒い、ちょっと怖そうな人相の男性……はて、誰だっただろう?
「誰、だろう~? 分かんないけどぉ……えへへぇ」
胸の辺りが、ほわほわする。だから、多分。悪い人じゃないはずだ。
「かわいいから、いっかなぁ~」
「そ、そうですか……(;´∀`)」
イストワールはそれ以上追求することをやめた。にこにこと満面の笑みを浮かべながら楽しそうに作っているプルルートの横顔を見て、せっかく上機嫌なのだから藪の中の蛇をつつくのは止したほうが賢明だ。
――――どこかの次元。どこかの世界。そこはどこにも属さない世界の狭間。何も、無い場所だった。
最初のスタートはいつだってそこだ。何も無い世界の何も無い場所の、どこの次元かも定かではない無限宇宙の何処か。
失敗した――舌打ちを漏らす。だから、やり直す。失敗した。やり直す。失敗した、やり直す――そんなことを何度も繰り返してきていた。何度も失敗してきていた。結果は、失敗続きだ。だからこそ、辟易してきた。疲れてきた、膝を着いて諦めてしまおうかとさえ思う。
「お前はどうして諦めない?」
声が聞こえてくる。それは、聞き飽きるほどに、鼓膜にこびりついた耳垢のように繰り返されてきた言葉だった。
どうしてかは、分からない。諦めない理由などないはずだ。諦める理由もまた、ないはずだ――そう思いかけていた男の脳裏にノイズが走った。
誰かも分からない少女たちの笑顔が浮かぶ――。
「……なんでだろうな。なんでかは知らねぇが、胸糞悪ぃんだわ」
振り返れば、屍山血河。前を見れば、魑魅魍魎。前門の虎、後門の狼――にも係わらず、青年は笑った。悪鬼のように笑う。
「俺は、諦めねぇぞ」
それでも、繰り返す。その身体を血に染めて。その手を血に染めて。亡骸を抱いて、ただ歩く。
「お前の望んだ世界だ――」
見慣れた風景。見慣れた光景。見慣れた顔に、見慣れた声。息づく世界の中で、独りぼっちだった。
「――それでも、諦めないのか?」
商業国家ユノスダスの噴水公園。ベンチに腰掛けながら、空を見上げる。アホみたいに透き抜けた青空を無心で眺めていると、腹の虫が鳴った。
ぐぅ~~~るるるふたぐぅん……。
この三日、いや四日ほどだったろうか。まともに口にしたのは雑草とよく分からないモンスターぐらいだった。
「…………ひもじい」
ポツリと呟く。もはや公園の鳩ですら脅威とみなしていないのか足元にまとわりつく始末。とっ捕まえて焼き鳥にしてやろうかと思い、視線を巡らせばそこには『鳩を食べないでください』の看板。貧乏人に慈悲はない。
「……なにしてんの、キミ?」
「死にそうになってる……」
背後から聞こえてきた声に、青年は振り向くことなく応えた。ふわりと香る柑橘系のシャンプーに、焦げ茶色の髪が鼻をくすぐる。
赤い瞳がこちらをじっと見ていた。
「えーっと、もしかしてとは思うけど……」
「住所不特定無職二十代の男性です」
「うわ、字面がヤベェ……」
「死因は餓死な」
「あー……公園で野垂れ死なれても国王である私が困るんだよねぇ。うわ、どーっすかなーこの不良債権……」
「丸聞こえなんですけお」
「いや事実っしょ?」
ぐぅ。お腹の音しか鳴らない。
それに見かねたのか、商業国家ユノスダス国王は仕方なさそうに紙袋を持ち上げると、そこに突っ込まれていたパンを一つ差し出してくる。
「なんか、放っておくのも後味悪いし――ご飯作ってあげるからウチに来なさい、キミ」
「……いいのか?」
「まぁ当然ながら、我が商業国家ユノスダスの座右の銘は――」
「働かざるもの食うべからず。貧乏人は死ね」
「貧乏人のくだりはねぇよっ! 慈悲くらいあるから! っていうか知っててそこまで追い込まれてんの逆にすごいからねキミ!? 教会に着くまでパンひとつで我慢できる?」
「我慢します……」
「うん、よし。偉いぞ住所不特定無職二十代の男性! で、キミの名前は? 私はユウコ」
「――――エヌラスだ」
「さぁー、お腹いっぱい食べたら馬車馬のごとく働いてもらうからそこんところ覚悟しとけー」
れっつらごーと言いながら、ユウコは紙袋を抱えて歩き始めた。その後ろに貧血で倒れそうになりながらエヌラスはパンを口にする。
空を見上げる。
そこには、落ちてくる月もなければ月面都市もない。無尽蔵の絶望、その妹さえもいない。
「……諦められるかよ」
――諦めんな、エヌラス。もう二度とご飯作ってやんないぞ?
「……コイツの手料理食ったことねえとか、人生の十割損してるぜ神様」
「んー? なんか言った?」
「なんでも。世界一美味い手料理が食えると思うと、楽しみだ」
「お、言うねぇ。私の手料理は高いぞぉ」
思い出された言葉が、一体いつの言葉かも忘れてしまった。だけど、此処にある。
守らなきゃいけない少女の笑顔と――心に焼きついた名前を忘れた少女たちの笑顔が。