超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
洞窟の中で毛布に包まっていたノワールがうめき、まぶたを開けた。楽な姿勢ではなかったとはいえ、それでも十分すぎる休息が摂れたのは確かである。身体から抜け落ちている疲労感を確かめるように伸びをしようとして、抱きついているネプテューヌに気づいて声を出しそうになった。
「んにゃ……プリン……」
「……もう、ベタな夢見てるわね」
「……プリンが……エヌラス……やめてぇ~……後生な~……」
「……どんな夢見てるのよ……」
どうやら夢の中でもエヌラスと一悶着あるようだ。二人を起こさないようにそっと離れて、光の差し込む外の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。三人の中でノワールのバストは豊満である。
昨晩、見張りをすると言って離れたエヌラスの姿が見当たらない。
「エヌラスー? どこー?」
青々と茂る森の中に、目立つはずの全身黒ずくめの姿は見つからないノワールが、ふと何気なく上を見上げて驚いた。細い木の枝に片足で立ちながらエヌラスは眠っていたのである。刀を抱きしめるようにして、腕を組みながら脇の下にレイジング・ブルを隠すようにしながら。
「ちょ、ちょっとアナタ。なんてとこで寝てるの!?」
「……んぉ? ああ、なんだ。起きたのかノワール。朝早いんだな」
ふわりと枝から離れると、地面とは優に五メートルはあるであろう高さから音もなく着地する。まるで軽業師のような身のこなしは国王とはにわかに信じがたい。これならばまだ暗殺者の方が信憑性が高かった。
「寝てたでしょ」
「そりゃ寝るだろ……」
「見張り。してくれるんじゃなかったの」
「してたぞ? 夜明け前まで」
ノワールが目を覚ましたのは、いつもこの時間帯で目を覚ますように習慣付いていたからだ。それとは真逆にエヌラスはまるっきり夜型の生活リズムであくびを隠そうともしない。
「ま、五分でも十分でも仮眠さえ取れりゃいいんだよ。顔でも洗うか。ネプ姉妹は?」
「あの二人ならまだ寝てるわ」
「んじゃ、俺達だけで行くか」
近くで流れる川の水で顔を洗う。パシャパシャと水音が朝の静かな森の中に響き渡る。昨日までの激戦が嘘のような静けさが不気味にすら思えた。エヌラスは素知らぬ顔で洗顔を終えると髪をかきあげる。
「あぁー、やっぱ森の水ってのはいいな。目が冴える」
「そうね。冷たくていい気持ち。気合が入るわね」
「朝飯どうすっかな。昨日と同じでいいか」
「贅沢は……言えないわね」
さすがに朝から詳細不明の肉という胃袋にヘヴィパンチャー級の献立は抜きにして、二人が川魚を捕って拠点に戻ると、ネプギアが起きていた。
「あ、おはようございます。ノワールさん、エヌラスさん」
「おはよ、ネプギア」
「よく寝れたか?」
「はい」
それは良かった、と言いながらエヌラスは毛布を独り占めしてうなされているネプテューヌを見下ろす。プラネテューヌの女神というにはにわかに信じがたい寝相である。ヨダレが出ていた。
「うへ……うへへ……エヌラス、プリンまみれ……むにゃ……」
「……どんな夢見てやがんだろうなこいつ」
「さ、さぁ……?」
「ほれー、起きろーネプテューヌ」
「むにゃ……あと……五分だけぇ……」
「俺の腹時計が五分縮まった。起きろおらぁ!」
「ねぷゃー!?」
ネプテューヌがくるまっている毛布をトイレットペーパーのように引き剥がされて叩き起こされる。宙で二回転、三回転……半、地面とキスして最高にハードラックな目覚めとなった。
「お、お姉ちゃん大丈夫……?」
「記憶喪失になっててもおかしくない衝撃だったよ」
打ちどころが悪く、結局ネプテューヌが意識を取り戻したのは三十分後。軽めの朝食を摂ってエヌラスが拠点から最低限の物を持ちだし、三人は移動を始めた。目的地は電脳国家インタースカイ。バルド・ギアの治める国である。
エヌラスが言うには、通信技術に優れ、元々近代的な国であったが、ある時からその技術を軍の使う無線から武装の自動召喚アプリケーションの開発に尽力。成功を収めて以来、インタースカイのシェアはアダルトゲイムギョウ界中に広まっている。
「俺が武器を自在に召喚出来るのも、その恩恵ってわけだ」
「だからバルド・ギアはあれだけの武器を召喚できたのね。チートよ、チート。チーターよ」
「す、すごい……もしそれが本当ならアダルトゲイムギョウ界と互角に」
「いや、それは早計だネプギア。確かにアイツは強い。だが、最強は他にいる」
エヌラス曰く、そのアプリケーション開発によってインタースカイ並びにバルド・ギアのシェアは桁外れに増幅した。だが、あくる日にそれが致命的なエラーを吐き出し、急速にシェアが低下。その原因を突き止めて解決するも、大きな波紋を呼んでいた。今では新しいアプリによってある程度は回復したものの、焼け石に水状態らしい。
「なんだか業界の闇を見ているようだよぅ……何か明るい話題とかない?」
「あ、でもそれだったら……」
ネプギアが思い出したように肌身離さず持ち歩いていたNギアを取り出し、起動する――が、ダメ……! 圧倒的。圧倒的沈黙……ッ!
「な、なんで!?」
「ああ。多分、規格が違うんだろ。よくある話だ」
「あ、ホントだ。お客様の機種ではご使用できませんってメッセージ出てる……うぅ。いけると思ったんだけどなぁ……」
がっくりと項垂れて、太もものホルダーにNギアを落としこむ。
「エヌラス、何か気分転換に面白い話とかしてよ」
「今じゃエロアプリで一山当ててるバルド・ギアの話か?」
「なんか聞きたかったのと違う! でもなにそれすっごい気になる!」
「エロいほうの内容か」
「そっちじゃないよ!?」
「あれ。でも……エヌラスさん、シェアエネルギーが消耗……とか、どうとか言われてませんでしたっけ」
「そういえばそうね。バルド・ギアが『あと何回変神できるか』って言ってたような気がするわ」
エヌラスが押し黙り、間を挟んで口を開いた。
「……変神するのに、シェアエネルギーを消耗するんだよ」
「えっ?」
「ちょっとした理由があってな。不便だが、身から出たサビってことで我慢してる。それに、そう簡単に回復できるものでもない」
「でも、変神できないんじゃマズイんじゃない?」
女神化できないネプテューヌ達がそうであるように、この世界で変神できないエヌラスにとっては致命傷だ。しかし、口をへの字に曲げている。
「大丈夫だ。お前たちをインタースカイに送り届けるまでは、雑魚くらいしかいないだろうし。仮に見つかっても、インタースカイの領分で仕掛けてくるバカは――心当たりあるが」
「ちょっと不安です……」
「エヌラスのシェアエナジーが回復できるように私達も協力するからさ。ネプテューヌさんにお任せだよー!」
「…………」
押し黙り、またも奇妙な沈黙が生まれた。四人の足音だけが森のなかに続く。
「それで、エヌラスのシェアエネルギーってどうしたら回復できるの?」
「私達の世界だと、普通は国民からの支持によって上下するわね。だから努めて不平不満の解消やアピールは欠かさないものだけど」
国王――つまりは国を治めている者であるエヌラスも同じものだと思っていたが、そうではないようだ。仮に、それで変神が可能なのだとしたら、戦う都度、国民からの支持が下がるという奇妙な関係になってしまう。ノワールには想像がつかず、ネプギアも同じだった。
「……今一度、現状を整理するぞ」
唐突に、エヌラスが口を開く。
「お前たちが来たのは、ゲイムギョウ界」
「ええ。そうよ」
「それで、守護女神なわけだ」
「あ、私は女神候補生ですけど……そうです」
「守護女神が変身するためには国民の支持、シェアが必要」
「うん。そうだよ」
「…………」
『…………?』
またも奇妙な間隔。
「……で、ここはどこだった…………」
深々と。マリアナ海溝に深く響くような重っ苦しいため息を吐いて、エヌラスが問う。
ここが何処かと聞かれたら。アダルトゲイムギョウ界と答えなければならない。
「あー! 分かった!」
「ちょっと、びっくりするでしょネプテューヌ! いきなり大声出さないでよ!?」
「あ、ごめんごめん」
「お姉ちゃん、分かったって?」
「エロゲとかにありがちな設定でエッチなことしないと回復しないとか、そんなんでしょー? もー、野暮ったいんだからぁ。それならそうと早く言えばいいのにぃ」
「おう、そういうことなら服脱いで素っ裸で股開けやネプテューヌ」――と、エヌラスが間髪入れずに反撃する。
…………はずだったのだが。ここでも沈黙が流れた。期待と予想を裏切られて、ネプテューヌが冷や汗を流す。
“もしかして、物凄く怒ってる……!?”
あの化け物マグナムリボルバーか。はたまたあの赤い自動式拳銃か。そうでなければ、もしかして
エヌラスが立ち止まって、振り返る。困惑した表情で、バツが悪そうな顔をしていた。
「………………まぁ、そうなんだけどな」
「え……っと……つまり、その……ゴニョゴニョ……しないと」
「回復……出来ないの?」
「……できない」
「もしかして、一回変神するのに……一回、とかですか?」
「いや、そこまで燃費悪くねぇよ。しばらく保つ」
気まずい空気が流れ、顔を赤らめたネプギアが目を逸らす。
「ところで、ネプテューヌ。お前さっき協力するって言ってなかったか」
「遅れてやってくるボディブロー!?」
「お、お姉ちゃんじゃなくて私で我慢できませんか!」
「頑張って、ノワール! そのおっきい胸でご奉仕だよ!」
「そこで私に振るの!? い、嫌よ!」
「そこまで頑なに拒否しなくてもいいじゃん! 命の恩人だよ!?」
「それなら言い出しっぺであるアナタがすればいいじゃない!」
「へへーん、残念ながら貧乳がステータスである私にそこまでの胸はないんだよーだ、恐れいったかー! あ、ネプギアでも挟めるくらいはあるんじゃないかな」
「ふむ……」
「どうしてそこで悩むんですかエヌラスさん!? な、なんで私を見るんですかぁ!」
身体を抱いて、ネプギアが頬を赤らめながらエヌラスの視線から胸を守る。それを見ていたネプテューヌとノワールも思わず「ムラッ」と来てしまう。
「くっ、姉でも愛さえあれば関係ないよね……!」
「あるよ!? 大有りだよお姉ちゃん!」
「あ、でもロリコンだったらもしかして私一番マズイ?」
「正直お前の顔面歪ませたい。骨格的な意味で」
「それ怒ってる!? すごく怒ってるよね!?」