超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
仮面の男性が教会から蹴り飛ばされてから周囲を見渡すと、守護女神達による完全な包囲網が出来ている。その輪の中に放り込まれた相手の視線は、教会の出入り口に向けられていた。
斬り裂かれた胸から血を流し、それでもつり上がった目尻が怒りの形相を表している。ポタポタと血が滴っていた。血に濡れた偃月刀の切っ先を突きつける。
「お互い、年貢の納め時らしいな?」
「…………」
はぁ、とさえため息の聞こえてくるような落胆ぶりに、仮面の男性は日本刀を手放した。
「おい、テメェ等の目的はなんだ! あの渦は何なんだよ! 答えろ!」
「コイツぶっ殺してから答えてやる」
偃月刀を振り上げようとした青年が、鼻を鳴らして立ち止まる。昂ぶる魔力の濃厚な気配にホワイトシスターが気づいた。
「なにかする気よ、アイツ!」
「させない……!」
それを妨げようと二人で氷山を落とそうとするが、高く振り上げた蹴り上げの一撃で砕けた。紫電が走る。“右腕”に集まる魔力に、青年の顔が青ざめていた。
「――ぉぉおおおおおおおおっ!!」
それが、一体何を意味するのかを誰よりも先に察知した青年が走る。しかし、相手は破片のような小さな剣を手にすると踊るように攻撃をすり抜けた。そのまま上昇する仮面の男性を止めようとするが、相手はそれよりも速い――だが、上空で反転すると右腕を高く掲げる。その掌には漆黒の闇が生まれていた。
「ッ、まさか!」
視界が闇黒に呑まれそうになる瞬間、青年が飛び出す。同じようにその手には白い闇を掲げて。
「えっ!? 此処でシャイニング・インパクト使っちゃうんですか――!?」
パープルシスターが驚愕する声に、パープルハートとブラックハートが揃って声を張り上げた。
『エヌラス、ストーーーーーップッ!!』
「止めたら死んじまうだろうがぁ!!」
そして、その日――超次元ゲイムギョウ界感謝セレモニーは空を覆う雲すら消滅させる熱量の衝突によって閉幕となる。
プラネテューヌの会場は、燦々たる有様だった。用意されていた会場の飾り付けは戦闘の余波でこれでもかと破壊され、教会の扉は蹴破られ、街にも一部被害が出ているほど。
あれから間もなくして仮面を付けた相手は飛び去り、海上の空にできていた渦は消失した。結局残ったのは――跳ねた黒髪に凶悪そうな風貌に身元が一切不明の怪しい青年。
守護女神達に囲まれ、それぞれから武器を向けられていた。しかし、パープルハートとパープルシスター、ブラックハートの三人は訝しむような視線を向けるだけである。
「っだぁぁぁーーーーー!!!! 逃げられたぁぁぁぁっ!! テメェ等が邪魔さえしてなけりゃあの野郎を此処で仕留められるはずだったんだよッ!! しかも見失っちまったし……」
当の相手はと言うと、怒り心頭といった様子で喚いていた。ぶつけようのない怒りを地面に拳という形で振り下ろすと、一瞬にしてクレーターが出来上がる。大きく亀裂の入った地面に、ブラックシスターが目を点にしていた。
「な、なんて馬鹿力……」
「おい、テメェ結局のところ私の質問に答えてねぇじゃねぇか!」
「そうですわ! ネプギアちゃんとはどのような関係なのですか!」
「オイ!」
「どこまでお付き合いしている関係なのです、貴方は!」
「オイ、ベール! そういうのは後にしろよ!」
ガリガリと機嫌を損ねたのか頭を掻いていた青年が口をへの字に曲げて睨みつけると、その凶悪な風貌と態度も相まってホワイトシスターが姉の背中に隠れる。
「さっきから人に質問ばっかのお前は誰だよ」
「ルウィーの守護女神、ホワイトハートだ! 覚えなくてもいいぜ」
「ああそうかよ。悪いが俺はさっきの仮面を付けた野郎を死ぬまで追いかけ回すつもりだから此処に長居するつもりはねぇよ、じゃあな」
歩き去ろうとする青年を捕まえたのは、ブラックハートとパープルハートの二人。
「離せよ! まだ追いつけるかもしんねぇだろうが!」
「いいえ、そういうわけにはいかないわ」
「エヌラス。貴方でしょ?」
「人違いです!」
「絶対にウソよ! だって他にいないもの、人を殺して回ってる歩く凶悪犯罪みたいな顔の人!」
「土下座強制しても文句言われないレベルの暴言じゃねぇかなそれ!?」
「あの、私達のこと忘れちゃってるんですか……?」
女神化を解除したネプギアが、青年――エヌラスの前に詰め寄る。しばらく見つめ合っていたが、目を逸らす相手に、確信のようなものを持っていた。
“エヌラスさん、わたし達のことを思い出してくれたんだ……!”
「……だから、人違いだし、俺はお前達のことを知らない。どこの誰と間違えてんだよ」
「アダルトゲイムギョウ界のエヌラスとよ。違うかしら?」
「…………」
「ほら見なさい。否定出来ないくせに」
ブラックハートが女神化を解除したのを皮切りに、他の全員も女神化を解除した。その中でエヌラスだけは変神を解除せずにいる。
「ネプギアちゃんは、この方を知っているみたいですが……」
「はい!」
「私には見せたこと無い、屈託のない笑み……ますます気になりますわね?」
「ノワールもこの人のこと知っているみたいだけれど……一体何者なの? この見るからに犯罪者は」
「否定したいが否定できねぇ……」
「犯罪者なのね……」
「そっか、ブランとベールは初対面よね……じゃあコレに代わって紹介するわね」
「彼氏ですの?」
「兄妹とか?」
兄妹――その一言に、ノワールが思い出すのは高笑いをするエヌラスの妹だった。あれの、義姉……?
「これと血縁関係だけはご遠慮願いたいわ……」
「今お前、俺との結婚フラグ全部へし折ったからな」
「ガーン!!」
「はぁ……テメェ等といると調子狂うぜ……わぁったよ、クソが」
変神を解除したエヌラスは、肩を落とす。左目に走る刀傷を見て、ノワールが小さく微笑んだ。その下で閉じられているはずの目が開いている。
「左目。治ったのね」
「メチャクチャ時間掛かったけどな。傷跡までは治せなかった、悪いな」
「ちょっとちょっとちょっとー! 主人公=ヒロインであるわたしを差し置いて、どうして二人が恋人オーラ全開なのさー! せこいよノワール! ずるい! わたしもエヌラスと感動の再会シーンあるじゃん! いーじゃん!」
「いや、お前の今の一言で完全に空気ぶち壊しだわ……」
「ガーンッ! ここに来てまさかわたしのシリアスブレイカーが裏目に出るとは……でも私はめげない! くじけない! 泣かないもんねー!」
「うわうるせぇ」
「ごめん、やっぱ泣きそう……もー! ちょっとくらいは手加減してもいいじゃん」
「はんっ、す る わ け ねぇ」
「うわぁーん!!」
泣きつくネプテューヌを鬱陶しそうに引き離しながら、エヌラスは頭を軽く叩いた。置いてけぼりのブランやベールに慌ててノワールが説明を始める。
「え、えーっと。改めて紹介するわね。ブラン、ベール。この人はアダルトゲイムギョウ界のエヌラスよ。神格者と言って、まぁわたし達守護女神みたいな人なの」
「まぁ、そうでしたか。それで?」
「えっ? それで? って……」
「ネプギアちゃんだけじゃなくて、ネプテューヌやノワールとも親しいみたいですが、三人はどういった関係なのでしょうか?」
「う、うわぁ……ベールの顔が笑顔なのに凄く寒気がするよぉ……」
「そうね。そこはわたしも気になってたわ……」
ブランもにやりと笑って問い詰めようとしていた。そこにイストワールが咳払いを一つ挟む。アイエフ達も騒動が収束しつつあることに様子を見に来ていた。
「コホン。よろしいでしょうか?」
「あ、いーすん」
「初めまして。私はプラネテューヌの教祖を務めている、イストワールと申します」
「いーすん。この人はエヌラス、よろしくね」
「では、早速でしょうがよろしいですか?」
「へ? なにが?」
「アイエフさん」
「はい」
ガチャン。エヌラスの両手にはめられる手錠。
「え?」
「ん?」
「器物破損に領土侵犯に加えてその他諸々の罪状で逮捕ね」
「……まぁ、そうなるよな」
『えぇぇぇぇぇぇーーーーー!!!?』
恐ろしく冷静にエヌラスは自分の両手を拘束する手枷に視線を落としていた。
「な、なななななんで!? なんでさアイちゃん!?」
「はぁ……あのね、普通はこんな被害をセレモニーで叩きだされたらとっ捕まえるに決まってるでしょ? 貴方も女神なんだから、和やかな会話と空気に入る前にしょっ引いときなさいよ」
「エヌラスも!? なんでアナタそんなに冷静なのよ!」
「いや、とっ捕まるの慣れてるしな」
「さ、流石犯罪王は格が違った……!」
「なんで慣れてるのですかこの方!?」
「ていうか犯罪王ってなによ? その辺も詳しく聞かせてもらうわよ。ほら、歩きなさい」
「んじゃちょっと牢屋にぶち込まれてくる」
「か、仮にも世界を救った神様が牢屋からスタートって……!」
エヌラス。二十代男性。職業、神様。
牢屋にぶち込まれてゲイムギョウ界での生活がスタートした――。