超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネテューヌの街並みを見渡して、物珍しそうにしているエヌラスにネプテューヌが自慢気な顔をしている。
「そういや、ここどこなんだ?」
「今更!?」
「ここはプラネテューヌよ」
先頭を歩いていたアイエフが答えると、意外そうな表情で左腕に引っ付いているネプテューヌに視線を落とした。
「ふっふーん、ドヤァ……」
「いや、なんでお前が胸を張ってるんだ?」
「ズコー! な、なに言ってるのさエヌラス! プラネテューヌは女神パープルハート=わたしが治めている国なんだよ!? わたし=プラネテューヌって言っても過言じゃないくらいプラトニックな国なんだよ!」
「ああ、そういやお前女神だったな」
「ヒドッ!?」
今の今まで忘れていたかのような言い草にますますネプテューヌがくっつく。それにムッとした表情でノワールが腕を引っ張りながら歩いていた。
「ああもう、あんまりそっちに引っ張らないでよネプテューヌ。歩きにくいじゃない」
「あ、ごめんノワール。っていうかそれなら先に歩けばいいんじゃない?」
「そういうあなたこそ」
「逃げも隠れもしねぇから腕離せよお前ら……」
一番被害を受けているエヌラスの言葉に耳を貸す者はいつものようにこの場にはいない。火花を散らすネプテューヌとノワールに挟まれて、助けを求めるように視線を後ろに向けるとネプギアと目が合った。助けてくれ、という声なき声に応えて、ネプギアはネプテューヌの手を取る。
「お姉ちゃん」
「ん、どしたの? ネプギア。あ、そっか。せっかく再会出来たんだしネプギアもくっつきたいよね」
「えっ?」
「うーん、そういうことならわたしはそーだなー……てやっ!」
「ぐえっ!?」
ネプテューヌがエヌラスの首に手を回して背後から飛びついた。一瞬悲鳴が聞こえたがキコエナーイ。
「さっきから後ろでイチャついてないで早く着いてきなさいよ」
「悪い……えーっと」
「ああ、自己紹介がまだだったわね。わたしはアイエフ。プラネテューヌの諜報機関に所属しているの」
「俺に手錠かけたのも確か」
「わたしね。その辺はおいおい聞かせてもらうから、今は教会に行きましょう」
エヌラスが見上げる先にはプラネテューヌの教会があった。その周辺の被害を改めて見て――深い溜息を吐く。
「まさか暴れた場所がお前の国だとは、ツイてねぇな……」
「む。なにその、会いたくなかったーみたいな言い方! あれからどれだけ経ったと思ってるのさ」
「……そういや今何年だ?」
「今はGC2015よ」
「…………」
「アナタと別れてから大体二年くらい経ってるんだけど」
「そうか」
遠い目をして、その歳月を噛みしめる。
「……たった二年しか経ってねぇのか、こっちで」
教会に到着してから、最上階へと移動する。女神の執務室、もといネプテューヌとネプギアの主な生活スペースではイストワールとコンパが昼食の用意をしていた。
「お待ちしておりました、みなさん」
「ただいま、いーすん」
「ええ、おかえりなさい。ネプテューヌさん、ネプギアさん。それにみなさんも、ようこそいらっしゃいました」
馴染みのある顔は各々行動するが、イストワールはエヌラスの背中にくっついているネプテューヌを見て頬を膨らませる。
「ネプテューヌさん。そこで何をしているんですか?」
「え? くっついてるんだけど?」
「それは見れば分かります。ですがその人は」
「分かってるよ。プラネテューヌだけでなく、ゲイムギョウ界を震撼させた人でしょ?」
降りるネプテューヌの言葉に、エヌラスはあの後どうなったのかを尋ねた。自分は即刻牢屋送りとなって爆睡していたのでまったく情報がない。
「どの国でも一面記事を飾っていましたよ。こちらです」
「どれどれ……? 『ゲイムギョウ界に現る謎の人物、四女神の活躍により逮捕』……えーっと? 『超次元国民感謝セレモニーの最中、突如大量のモンスターと謎の人物がプラネテューヌで破壊活動を行ったものの、四女神とその候補生達の活躍により逮捕となる。仮面を付けた人物は依然行方不明』」
「大変だったんだからね!」
「ああうん、悪かった」
記事から目を離さずにネプテューヌの頭をワシャワシャと撫でると、それにイストワールが首を傾げていた。特に抵抗するわけでも、嫌がるわけでもなく、人懐っこいとはいえ限度がある。
「ですから、ネプテューヌさん? 疑問に思っていたんですが、その方と面識があるのですか?」
「え? 面識があるもなにも、エヌラスはわたし達と一緒にアダルトゲイムギョウ界を救った仲間だよ」
「アダルト、ゲイムギョウ界……? 聞いたことはありますけれど……」
「知ってるの、いーすん!」
「知ってるもなにも。大昔にゲイムギョウ界から滅んだはずでは? その世界を救った、というのは――少々信じがたいです」
イストワールの言葉に、ネプテューヌも、ネプギアも、ノワールも――言葉を失った。それにエヌラスは視線を逸らす。
「ど、どどどういうこといーすん!?」
「どういうことも何も、言葉通りです。その界隈では諍いが絶えず起きていて、ゲイムギョウ界から突然姿を消したんです。まぁ今はぴーしー大陸とR18アイランドという場所がありますけれど」
「でもでも、大いなる“C”は――」
「大いなる……“C”? 何処でその名前を?」
「アダルトゲイムギョウ界だよー!」
「…………これは、詳しく聞かせてもらう必要がありますね。改めて自己紹介を。私はイストワール。プラネテューヌの教祖を務めさせております」
「俺はエヌラス。聞いての通り、アダルトゲイムギョウ界の住人だ」
よろしくな、という言葉の代わりに空気を読まない腹の音。ぐぅきゅるん。
「……まずはご飯と、お風呂ですね」
「風呂?」
「そのような格好で平然と歩かれていたんですか? というより、ネプテューヌさんもよく平気な顔でくっついていましたね」
「うーん、割りとエヌラスってこういう人だし。これより酷い時だってあったし」
言われて、自分の格好を見直す。確かに汗臭い。服も戦闘続きで汚れ、イストワールの言う通りだった。ネプギアに一言二言伝えると、すぐに頷いて浴室に向かっていく。
「まずは身だしなみを整えてください」
「俺、替えの服持ってきてないんだけどな……」
「お風呂に入っている間に洗濯と乾燥させておきますので」
「一文無しです」
「お代はいりません。あくまでも厚意として受け取ってください」
「……な、なんか企んでたりしないよな?」
「どうしてそう、人の親切を素直に受け取れないんですか……」
「すまない。ちょっとそういう生活と身の回りにそういう相手ばかりなもんで……」
他人の親切と好意を受け取ったが最後、死ぬほどこき使われてきた。そんなエヌラスの姿を知っているネプテューヌとノワールは不憫に思えて仕方ない。
「いーすんさん、お風呂の準備できました」
「ありがとうございます、ネプギアさん。では、エヌラスさん……でしたか? どうぞ」
「ああ……そういうことなら」
羽織っていた黒のロングコートを脱ぐと、その下に着ていた半袖の黒いシャツから覗く腕に傷跡が見えた。思わずそれに目を取られ、エヌラスも気づいたのかコートで隠す。
「悪い、気にしないでくれ」
ネプギアに案内されて浴室に向かっていった後、妙な沈黙が場を支配していた。
「……一体、どういう生き方をしていればあんな風になるのかしら」
「四六時中戦闘していたというのは、あながち嘘ではないようですね」
「――でも、良い身体してそうだわ」
「ええ。それには激しく同意いたしますわ、ブラン」
「ふ、ふえぇ……お姉ちゃんとベールさんが怖い顔してるよぉ……」
「まるで獲物を狙う肉食獣みたい……」
ちょっと形容しがたい笑みを浮かべている二人の顔に、ロムとラムが未知なる恐怖を覚えて震えている。……なお、幼女には刺激の強い世界がブランとベールの脳内に繰り広げられていた。
「胸が熱くなりますわ!」
「抉れちまえッ!!」
ガッツポーズをするベールに、思わずブランが叫んでしまう。それは切実な叫びだった。