超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「それじゃいいかしら、ネプ子?」
「う、うーん。なんでわたしまで正座させられるんだろ……」
最前列にエヌラスとネプテューヌ。その後ろにイストワールが待機している。
「エヌラスはゲイムギョウ界に来るのは初めてなんでしょ? その辺も踏まえて教えてあげるわ」
「ご丁寧にどうも」
「まずは此処、プラネテューヌなんだけど……ゲイムギョウ界の西に位置してるわ。北方にはルウィー、南方はリーンボックス。そして東にはラステイション」
脳裏に地図を描きながらアイエフの説明に耳を傾けていた。
「それで、今はハァドラインと呼ばれる組織が活動しているの」
「ハァドライン?」
「基本的には、女神信仰の狂信者ね」
「なるほど……“超”女神信仰ってことか」
「ええ、まぁそういうこと。そのせいか、自国以外の女神に対して攻撃的なのが多いわ。そんな連中ばかりだから主な活動場所は国境付近なの。それで、プラネテューヌの国境近辺で活動しているハァドライン――『B2AM』という組織について調査した結果報告なんだけど」
そこで一度アイエフは区切り、エヌラスの表情を窺う。真面目に話を聞いているのか、正座で待機しているのに比べて……ネプテューヌと来たらあくびを漏らしている。
「うーん、ご飯食べたばっかで眠くなってきたなぁ……」
「ちょっとネプ子。この中で一番真面目に話を聞かなきゃいけないのアンタでしょ? しっかりしなさいよ」
「えー、だってエヌラスに説明するためじゃーん」
「はぁ……」
「続けてくれ」
「ええ、そうさせてもらうわ」
思いの外、真剣に話を聞いてくれているエヌラスを見直しながら手元の資料に目を落とした。
「現在は国境警備隊として主に活動しているみたいよ。中には採掘や土木建築業、まぁ裏方で活動しているのがほとんど。そのごく一部についてはまだ明らかになっていない点も多数」
「ただの民間企業じゃないんですか?」
「ええ。“現在は”ね。昔の経歴を洗ったら、次から次へと出てくるのよ。黒い噂というか、怪しい点が山程ね。違法採掘や資源の強奪、それだけじゃないわ。他国からの移住者を拒絶したり、攻撃したり――っていうのが過去の活動内容ね」
「よく捕まらなかったな、そいつら」
「なんというか、動きが良いというか惚れ惚れするくらいの引き際よ。しかもそれが、信仰心からの行動なんだから女神としてはやりにくいことこの上ないでしょうね。やり過ぎなのは否めないけど」
「そうだな」
「それで、構成員についても調べたんだけども――現在はほぼ中身は入れ替わってるみたいだわ。過去に所属していたメンバーは大半が戦死か行方知れず。唯一、確認できたのは……シロトラ。例の白い機体だけだわ」
つまり、古株として存在しているのは実質ひとりということになる。
「その、シロトラさんはどういった方なんですか?」
「ロボット――なんだけど、妙な点が多いわ。製造会社に登録なし。プラネテューヌに国籍はないし、出自不明その他諸々も謎だらけ。彼らが国境警備隊として活動を始めたのが、ちょうど――友好条約が結ばれた辺りからね。それから教導隊として活動しているのが確認できてるわ」
「そのB2AMって組織。どんな構成になってるんだ?」
「内部構成に関しては、全責任者がシロトラ。四つの部門があるの。強襲部門、重火力部門、狙撃部門、支援部門ね。その下に国境警備隊の某部隊、って感じね。と言っても、昔の体制からほとんど変わってないから名前が物騒なだけよ」
ふんふん、とエヌラスは頷いていた。プラネテューヌの国境付近で活動するハァドラインはまだ穏やかな方だ。特に、ここ最近は無償でモンスター退治を引き受けていたりするらしい。
「プラネテューヌのハァドライン、ってことは――」
「お察しの通り、ラステイションとリーンボックスの二つにも存在するわ」
「ルウィーではハァドラインの活動は確認できてないわ……」
「そうみたいね。ハァドラインについては一通り調べたけれど、ルウィーだけはシロね」
「ホワイトハートだけに?」
「面白くないわ、ネプテューヌ」
うまいことを言ったつもりだったが、ブランの冷めた視線にネプテューヌは肩を落とす。
「ラステイション、リーンボックスのハァドライン。アームドソウルスについてなんだけど」
ノワールとベールに視線を向けると、二人もその存在については知っているらしい。だが、今日まで放っておいたので詳しい情報は持っていなかった。エヌラスも新たな組織に眉を寄せている。
「このアームドソウルスという組織は、国家を超えて合併しているみたい」
「そうなの? 一体いつから?」
「いつの間にか、って感じ。ラステイションの合併企業とリーンボックスの企業が手を組んだからごちゃ混ぜみたいよ?」
「まぁ、ラステイションはなんといっても交易が盛んだもの。そういうのも珍しい話じゃないわ」
「その企業連盟の責任者が、プレジレント。元々こういった事業家だったみたいだわ。リーンボックス在籍の軍用人型ロボット」
「ロボット三大原則は大丈夫なんだろうな」
「ロボに人権を与えれば問題ありませんわ」
「さりげに怖いこと言ってねぇかそれ」
「ふふ、リーンボックスではロボットでも罪を犯せば即刻裁判沙汰になりますわ」
笑顔で言うベールに寒気さえ覚えた。
「続けるわよ。ラステイション側の企業連盟代表はプレジレントにCEOの席を譲って退職してるみたい。今はラステイションの地下重工業会社に務めているのも調査済みよ」
「ねぇ、アイエフ。その調査結果に、ナイルスとJ.O……ジョッシュって名前は載ってる?」
「ちょっと待ってもらえますか……えーっと……載っていませんね。もしかすると、ジャックって人ですか?」
「そう、そのロボット」
「プレジレントの右腕、まぁ副官といった立場みたいです。主に現場で指揮を執っている、現場監督といった感じかと」
「ナイルスについては?」
「その名前は載っていませんね。こちらでまた改めて調査して、出てきたら報告させてもらいますね」
「お願いね。こっちでも調べてみるわ」
「と、まぁ――大体こんな感じかしら。実質二つのハァドラインが睨み合っているみたいよ。片や二大国家の大企業連盟。片や国境警備隊。戦力差は歴然ね。だけど、不思議な事に両陣営は大人しいのよね」
「そりゃそーだよ! プラネテューヌで暴れられたら堪んないよ!」
「ゴフッ――」
エヌラスがダウン。人知れず気に掛けていた事を、よりによって統治している女神の口で言われては大ダメージだ。しかも思いがけない再会で、来た直後にやらかした事もあってできれば触れてほしくなかった事を唐突に言われたものだから瀕死になっている。それに気づいたネプテューヌは、悪びれもなく笑っていた。
「あ、ゴメンゴメン。そうだよね、エヌラスって周りのもの壊さずには戦えないもんね」
「お姉ちゃん、それってフォローになってないから……」
「あの、大丈夫ですかエヌラスさん……?」
「土に還りたい……」
「……ネプ子。この人のメンタル大丈夫?」
「エヌラス、わたし達からの攻撃にはめっぽう弱いからね。でも大丈夫。ちょっと放置したら快復するから気にしなくてもいいよ、アイちゃん」
「いや、そういうわけにもいかないでしょ……」
見てて可哀想になってくる。
「それで、どうしてその両陣営が睨み合っている状態が続いてるんですか?」
「シロトラよ。アレの実力だけはずば抜けてて高いから、相手も下手に手出しが出来ないって。それに今は国境警備隊。手を出せばタダじゃ済まないからってことらしいわ。向こうも会社のイメージダウンに繋がるってことで変な動きは控えてるみたいだけど」
場所で言うならば、シロトラの機動性能を活かす為に市街地戦はうってつけの場所と言える。とはいえアームドソウルスの主な活動場所はリーンボックスとラステイション。山越えにせよ海を渡るにせよ飛行能力を持たない彼らにとっては地形という敵が立ちはだかる。
「わたしからは以上です、イストワール様」
「アイエフさん、お疲れ様です。さて、それでは――」
「…………?」
視線が殺到するのは、この中にいるイレギュラー。エヌラスだった。
「この人の扱いをどうするか、ですね」
「こういう場合って大抵は」
「ハイハイハーイ! 教会で面倒見ようと思うんだけどいいかな?」
「ネプ子のことだからそう言うと思ってたわ。どうします、イストワール様?」
「ダメです」
「まさかの受け入れ拒否!? なんでさいーすん!」
「話が本当なら、例の取り逃がした邪神は今もどこかで悪事を働いているのでしょう? それを追うのがエヌラスさんの仕事なのではないですか?」
「残念ながら手がかりはないんだなこれが」
「……見失っている、ということですか?」
「面目丸潰れだ。何処に行ったのか分からない以上、お手上げ状態。かと言って俺が長居していると、アイツが来るかも知れんしな」
「じゃあ、アダルトゲイムギョウ界に帰っちゃうんですか……?」
「……ダメか?」
これ以上ゲイムギョウ界にいても迷惑を掛けるだけだ。再会に心躍らせるのも束の間、エヌラスが立ち上がろうとするが――足が痺れてその場に倒れる。
「あ、足がぁぁぁ……うぉぉぉ……!!」
「……うわぁ、情けない」
「ねぇいーすん、お願い!」
「ダメです」
「お願いだからー! ちゃんと面倒見るから!」
「ダメなものはダメです。大体、ネプテューヌさんは女神のお仕事もきちんとできていないじゃありませんか」
「いーすんさん、わたしからもお願いします」
「ネプギアさんまで? もう……」
「女神のお仕事も、ちゃんとやりますから」
イストワールを説得しようとしているネプテューヌとネプギアの姿勢には非常にありがたいのだが、その扱いが捨てられていたペット並の扱いなのはどうなのだろう。
「はぁ……分かりました。そこまで言うのなら」
「やったー!」
「ただし! ネプテューヌさん、ゲームは一日一時間までですからね。それに、プリンは一個。わかりましたか?」
「う……頭では理解していても、心が……」
「俺はゲームとプリンで揺らぐ程度なのか……」
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぅ……!! そこは歩合制で!」
「それで妥協しましょう。ではネプテューヌさん、ネプギアさん。明日から“も”女神のお仕事頑張ってくださいね」
強調して、イストワールはニッコリと笑った。
「……エヌラス。捨てられたらラステイションに来なさい。人並みには扱ってあげるから」
「わおん……」
もはや、アダルトゲイムギョウ界を救った神様に人間としての尊厳など欠片もなかった。
犬扱いである。