超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
指の骨を鳴らして嗜虐的な笑みを浮かべるエヌラスは
その直後、ネプテューヌ、ネプギア、ノワール。そしてエヌラスの足元に銃弾が三発撃ち込まれた。完璧なまでの威嚇射撃は同時に着弾。そして、木々の青さを塗り分けてその三人が跳躍する。
濃紺に染め上げられたカラーリング。三叉槍のエンブレム。見間違えるはずがない。
軍事国家アゴウ国王アルシュベイト親衛隊、トライデント部隊。
《
「またロボットだ!? やっぱりバルド・ギアから受け入れ拒否されてるよーこれ!」
「よく見ろ、タイプがちげぇだろうが」
「ロボットなんて全部一緒だよ!」
「……テメェにはいつの日かスーパーロボットとリアルロボットの違いが分かるまで
ノワールがショートソードを召喚したその瞬間、一発で弾かれた。手元から離れたショートソードは地面に突き立って消える。
《……この一発、高くつくぞ》
同一のカラーリングでありながら、三人の装備はバラバラだった。背中に突撃銃を二挺背負う者。一方に剣を背負う者。両方に剣を背負う者。だが共通して、その手に突撃銃を持ってピタリと狙いを定めている。
「テメェらが来たってことは――来るか、最強」
《我らが王の御前である。口を慎め、戦禍の破壊神!》
「ほざけ。俺とアイツの仲に口を挟む気か?」
その言葉にはトライデントも言い返せなかったのか、銃口を改めて突きつけるに留まった。
――そして、最強がやってくる。称号を欲しいままに謳歌する鋼鉄の軍神。
護国の鬼神にして守護神。
軍事国家『アゴウ』国王アルシュベイトが飛翔する。全身を塗りつぶすダークグレーの機人がトライデントの前に轟音と共に着地と同時に抜刀。するやいなや、剣を地面に突き立てた。
剣礼――得物を晒して手の内を開示するというアルシュベイトの礼儀に、エヌラスも則った。倭刀を召喚して地面に突き立てる。
《なるほど。バルド・ギアからの報告通りだ。三人、それもすべて女とはな。そうまでして勝ち残りたいか、エヌラス》
「こっちのセリフだ、アルシュベイト。ご自慢の三叉槍引き連れて散歩か?」
《ぬかせ。だが、我が剣礼に応じたということは太刀打ちを所望か》
「テメェが先に抜いたんだろうが」
低く野太い電子音声が笑う。その奇妙な光景がさも当たり前のように無視してトライデント部隊はアルシュベイトの指示一つで素早く銃口を下げた。まだ見ぬ強敵との邂逅に歓喜が抑え切れぬのだろう。武人としての誇りで胸が震える。
「アルシュベイト」
《ぬ?》
「足労してもらって悪いが、そっちの三人は無関係――俺達の、被害者ってわけだ」
《なんと……》
アルシュベイトの視線がネプテューヌたちに向けられた。その視覚ユニットが次々と映し出す解析情報のいずれもがエヌラスの能力に劣っている。とはいえそれは彼女達がアダルトゲイムギョウ界に馴染めていない証拠だった。
《秘めたる力はある、がしかし……如何せん、お前の言葉を信じざるを得まい》
「今、インタースカイに向けて移動してる途中でな。テメェとの決闘は受けて立つ、だがその代わりにそっちの三人を無事に送り届けてやってくれ」
「ちょ、ちょっとエヌラス! アナタ何勝手なこと言ってるの!」
「そうだよ! 私達も手伝うよ!」
「はっきり言うが“勝てねぇ”んだよ、この堅物には」
「えっ、敗北イベント確定!?」
ハッキリと断言した。自分は負ける、と。だがそれで、何故決闘の申し入れを受け入れるのかネプテューヌ達には分からなかった。
「勝てないって分かってるなら」
「分かってるからこそ、足手まといはいらねぇって言ってんだろうがバカか」
喉まで出かかった怒りをノワールは飲み込む。確かに自分たちはまだ不慣れなところがある。この世界での戦いに。まだ三日と経っていない、一刻も早く自分達のゲイムギョウ界に戻って災害の対策を練らなければならないのもまた事実だ。
エヌラスが言っていることは、無関係な自分達を遠ざけようとしている。巻き込みたくないというハッキリとした意思表示だった。別な世界の人間の手を借りようとは思わないらしい。
それが、無性に腹が立つ。
「だからって、アナタ――」
「四人まとめて死ぬよかマシだ。そもそも俺達の戦争に首突っ込んでのはそっちだろうが。分かったら黙って行けよ」
《――トライデント》
《ハッ》
《お前たちに命ずる。あの三人をインタースカイまで送り届けろ。お前たちの足ならば、彼女達の細足よりも遥かに速い。昼までには到着するであろう》
「いいのか、アルシュベイト」
《構わん。もとより貴様との決着は俺自身の手で着ける腹積もりでな》
「……ってーことらしい。お言葉に甘えて送ってもらえ」
トライデントの三人が顔を見合わせた。
《アルシュベイト様、ですがそれは》
《我らの死闘。無関係のものを巻き込むわけには行くまい?》
《我ら三人は貴方様に命を捧げた身。それを、無関係と!?》
《戯けがッ! 俺と、奴との太刀打ち。それに身を乗り出して無駄死するつもりか! 貴様らにはまだ働いてもらう! それとも、なにか――あの少女たちを、我らが戦禍に巻き込み、死なせたいと言うか。ならば、撫で斬りにするぞ》
鋼鉄に覆われた体躯であっても、その殺意にネプテューヌは背筋が凍る。あまりに強大で、あまりに熾烈な魂の放つ熱を直に当てられてトライデントの三人が思わず後ずさる。それこそが決定的な敗北であった。
《……了解、しました。アルシュベイト様》
《手間を掛けさせるな、我が誇りの三叉槍》
トライデントの三人がネプテューヌ達の前で屈む。「乗れ」という意思表示らしい。
《勘違いするな、少女達よ。我らの魂が傅くのはアルシュベイト様ただ一人だ……》
「……エヌラス。私達本当に行っちゃうけど、いいの?」
「ああ。いいからさっさと行けよ」
「ホントにホントに、いいの?」
「しつけぇな、さっさと行け!」
「もう帰ってこないかもしんないんだよ!?」
「二 度 と 来 ん な!」
中指を立ててまでエヌラスが拒む。だが、三人がトライデント部隊の背中に乗るまで一度も振り返らなかった。
ランス01――長刀と突撃銃を背負った三人の隊長格にはネプテューヌ。
ランス02――突撃銃二挺を背負った機人にはネプギア。
ランス03――長刀を二本背負った機人にはノワールがそれぞれ背部ラックにしがみつくと、同時に立ち上がる。
《アルシュベイト様。ご武運を》
《おい、戦禍の破壊神。せいぜい健闘することだな》
《行くぞ、トライデント!》
腰部のブースターを吹かして三人が跳躍した。
「エヌラスさん! 私達――」
ネプギアの言葉を遮ったのはネプテューヌの悲鳴だった。
「ゆ、揺れ、揺れる~~~~~!?!?」
《おいやかましいぞ! 耳元で大声出すな!》
緊張感の欠片もなくなった別れの瀬戸際、アルシュベイトだけがエヌラスの笑みを見ていた。
《……なにがおかしい、エヌラス》
「マヌケだろ、アイツら」
《ああ》
「いい奴らだよな。俺が「逃げろ」って言ってんのに留まろうとして」
《そうだな。惜しい女を手放したな、エヌラス》
「ちげぇよ、アルシュベイト。“だから”俺は手放した。アイツらは俺の手元に置くには眩しすぎる」
《……世界がこうでなければ、共に歩むことも出来たろうに。つくづく惜しい》
そこで、アルシュベイトが長刀を担ぎあげ、左肩の背部ラックから突撃銃をパージする。
《だが、この世界をこうしたのは、貴様だ! エヌラス! 手加減はせん。手心も加えん! 全身全霊、せいぜい死力を尽くして足掻け! 貴様がかつての旧友であってもだ! 今一度俺は貴様の前に立ちはだかろう! 無名の鬼神であった頃のように!》
エヌラスが倭刀を地面から引き抜くと、片手で構えた。空いた左手の五指は弄ぶわけでもなくただ“ゆるり”と広げて構えている。
「ああ、やめろよ昔話なんて。懐かしくって涙が出らぁ……。だけどな、アルシュベイト。俺に、足掻けと言ったのは失策だったな。死に物狂いで足掻くぞ」
《失策も我が策の内だ。もがき苦しみ抜いた貴様に一度は遅れをとった身だ。此度はそれを乗り越えるための決闘でもある!》
「――いざ」
《尋常に――》
機人と人間。国王と国王。護国の鬼神と戦禍の破壊神。互いに目指したものは、明日の笑顔。
そうであった。そうであっても尚、引けぬ道がある。だからこそ、二人は相見える。
激闘を繰り返し、死闘を演じ、互いの手の内をひけらかしてもまだ乗り越えることの出来ぬ障害であり戦友であり無二の親友であり、同じ夢を見た。
――だからこそ。
「勝負、アルシュベイト!」
《雌雄を決するぞ、エヌラス!》
だからこそ、全力でぶつかるだけの価値がある。