超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
さて、ここですっとぼけた所で火に油。レーシングカーにナイトロのようなもの。この二人を説得となると相当に根気がいるだろう。エヌラスは赤いハルバードを担ぎあげながらどうするか考えるものの……二人の女神はやる気満々だ。
「セレモニーじゃうやむやになっちまったからな。白黒ハッキリつけてやる!」
ホワイトハートさんはやる気満々で戦斧を構えている。その小さな身体のどこにそんな怪力があるのか疑問に思いながら、エヌラスはハルバードを向ける。
「話し合いってわけにはいかねぇか……」
「当然ですわ。わたくしより弱い殿方にネプギアちゃんを任せられるはずがありませんもの」
「お前はさっきっからネプギアの何なんだよ!?」
「お姉ちゃんですわっ!!」
「それネプテューヌじゃねぇの!?」
グリーンハートがプロセッサユニットの羽を広げて一気に間合いを詰め、槍を突き出した。だが、以前と違って今回はエヌラスの得物のリーチも伸びている。穂先で払いのけ、柄を回転させながら石突の鎌で続く刺突を払う。しかし、相手はひとりではない。
ホワイトハートが入れ替わりざまに戦斧を振り下ろすと、地面から氷塊が噴き出してエヌラスを襲う。それを防御障壁を展開してどうにか防ぎながら飛び退くと更にグリーンハートが風を纏う槍を射出する。ハルバードでどうにか打ち払いながら防ぐものの、そこへホワイトハートの横殴りの戦斧をまともに防いでエヌラスが吹き飛んでいった。
「っ~~、この馬鹿力め……!」
腕を振りながら痺れを取り、背中を受け止めた桜の木から立ち上がる。
「アダルトゲイムギョウ界の旧神、ってのも大したことなさそうだな!」
「アホ言え。俺が本気出したらゲイムギョウ界なんぞ焼け野原になっちまう」
二人の攻撃をうまく避けながら凌いでエヌラスはハルバードから青いソードへ持ち替える。さっきまでスライヌ達を相手していたから使っていたが、一撃の重いホワイトハートと、リーチが長く一撃離脱を繰り返すグリーンハートが相手では少々厳しい。
「まぁーなんだ。とにかくお前ら二人を倒さなきゃいかんっていうのはよく分かった……」
「ようやくやる気になりましたか。あ、いえ、やる気と言ってもそちらのヤる気ではないのですが」
「逆に殺意溢れてくるわぁそこの女神……!」
赤いハルバード――ヘルサイスキラーから、青いソード――ブルースシミターへ持ち替えたことでどうにか二人の攻撃を防ぐものの、反撃に手こずって中々攻勢に出れない。攻めあぐねているエヌラスを嘲笑うかのようにグリーンハートの攻撃は苛烈さを増していく。
「守るのは上手ですのね!」
「そりゃあな!」
手首を返し、逆手に持ち替えながらグリーンハートの猛攻を防ぎきる。一瞬の隙を見せて、そこへ釣られた相手から一気に距離を離す。がら空きの身体目掛けてホワイトハートと息のあったコンビネーションがエヌラスの身体を上空高くに放り上げた。そこへ追撃しようと二人が飛ぶ。
「くそったれ!」
ブルースシミターの刀身が解けて鞭のように変化し、桜の幹に巻きつくと引き寄せて攻撃を避ける。着地と同時にふたりを見上げた。
「うまく避けやがって……」
舌打ちを漏らすホワイトハートに、グリーンハートは殺意混じりの穂先をエヌラスに向ける。
「ええいチョロマカと! おとなしくお縄について裁判所へ突き出されなさい!」
「嫌・だ・よッ! 誰が裁判所なんぞに行くかぁ!」
「多分、余罪だけでン十年は固いわよ?」
「そこ! 冷静に人の牢屋暮らし年数を数えるな!」
「ああ、もう!! “諦めて”私の槍の餌食になりなさいな!」
「観念しやがれこの“ロリコン”野郎が!!」
ブチッ。聞こえちゃいけない堪忍袋の音。
――NGワードを同時に踏み抜かれたエヌラスから表情が消えた。
地面に降り立った二人が武器を向けるが、エヌラスの手からブルースシミターは魔力に還元されて消えている。
覚悟を決めたか? そう思った二人とは裏腹に、アイエフが眉を寄せていた。
「あれ? スライヌ達が……」
女神たちの戦いに恐れをなして逃げ出していたのかと思っていたが、違う。全部同じ方角に背を向けて逃げ出している。なにか妙だと思い、アイエフが枝に昇って注視すると――。
「なるほどね、サクラナミキにスライヌが大量発生した原因がわかったわ」
大きな翼を広げて桜の花びらを舞い散らせる大型のドラゴン。本来であればこの周辺には確認されないはずのモンスターが現れたせいだろう。
その周囲から小型モンスター達が逃げ惑っている。どうにも様子がおかしい。手当たり次第に暴れまわっている。
「エンシェントドラゴンが確認できたわ。こっちに気づいたみたい!」
スライヌ達はもう四方に散り散りになっていなくなっていた。となれば、一応はクエスト達成ということだ。とはいえ、その原因と思わしきエンシェントドラゴンは放っておけない。
グリーンハートとホワイトハートが顔を見合わせて、頷く。一時休戦。まずは先にモンスター退治からだ――振り向いた二人の間を抜けて背中を向ける姿がひとつ。
「あ、おい! 勝負はまだ」
「…………」
ちょっと人には見せられないような顔をしていたエヌラスに気圧されて、ホワイトハートが言葉を詰まらせた。
「テメェ等下がってろ……」
「ひとりで倒す気ですの?」
「死にたきゃ勝手にしろ」
カチンと来たグリーンハートだが、その手に浮び上がる五芒星を見て立ち止まる。
「……シェア、クリスタル? それにしては変わった形をしていますけど……」
エンシェントドラゴンが吼える。対敵を見つけた威嚇の咆哮に、エヌラスは憤怒の形相で応えた。
「今の俺はぶつけようのない怒りと憎しみとその他諸々の感情でご機嫌斜めだ。――
エヌラスの全身が光に包まれる。眩しさに目を細めて、光が収まるとそこにはプロセッサユニットを装着したエヌラス――ブラッドソウルが立っていた。炎の中から鍛え上げた偃月刀を引きずり出すと肩に担いでエンシェントドラゴンに立ち向かう。
巨体から繰り出される鉤爪の威力は、女神といえど決して無視できない。だが、目の前でブラッドソウルは腕を掴んで。掴んで――持ち上げた。
『はい?』
三人同時に素っ頓狂な声を上げて、次の瞬間。アッパーカットで高く打ち上げられたエンシェントドラゴンの姿にそれこそ信じられないといった様子で絶叫する。
『はいぃぃぃぃっ!?』
今のブラッドソウルは、限りなく殺意に満ち溢れていた。傷めつけるにも相手はネプテューヌ達の友人でありゲイムギョウ界の守護女神。半殺しにでもしようものなら絶交待ったなし。加えて好き放題言われて言い返せない。こちらの事情を察しているならまだしも、どれほどの苦難と困難と死線を越えたかも知らない二人に言われては流石にエヌラスと言えどキレる。ブチギレても致し方なし。そんなところへ出てきたモンスター。人様に迷惑を掛けるだけの害獣を発見したらそれはもう、絶好の的だ。
そう、八つ当たりである。紛うことなき八つ当たりである!
宙を飛ぶエンシェントドラゴンに向かってブラッドソウルが偃月刀を投てきすると、ふたりの女神に向き直った。
「あぁなりてぇなら覚悟してろ」
怒り以外の感情が微塵も感じられないような声色で、眼光だけで人が死ぬんじゃねぇかと思わせるような凶悪な面構えでブラッドソウルは背中の羽を広げて飛び立つ。
背中の羽根がボロボロに斬り裂かれ、飛行能力を失ったエンシェントドラゴンの巨体目掛けてブラッドソウルの拳が深く腹部を穿つ。一瞬の静寂から、その手にヘルサイスキラーを構えると羽を根本から斬り落とす。続けて紫電を纏わせた踵落とし――アクセル・インパクトが頭部に叩きこまれた。背中から地面に落下したエンシェントドラゴン目掛けて矢のように降り立つブラッドソウルの手にはブルースシミターが握られている。
「こっから先はR指定だ。悲鳴を上げろ、豚のようになぁぁぁぁ……ッ!!」
『ブギャァァァアアアァァァァ……!!』
苦悶の声を上げるエンシェントドラゴンに耳を貸すことなく、剣を深々と腹部に突き刺すと次から次へと武器を召喚していく。斬って、刺して、穿って、傷口を広げて鮮血を浴びながら解体していく。ドラゴンの返り血で狂気じみた笑みを浮かべてブラッドソウルは溜まりに溜まった鬱憤を晴らしていた。ビクンビクンと痙攣するドラゴンから飛び降りると、そこには竜の活造り(瀕死)が出来ている。
返り血が滴り落ちる服を拭うこと無く、ブラッドソウルの手に召喚された偃月刀がエンシェントドラゴンの頭部に突き立てられる。
「まぁなんだ。テメェに罪はねぇよ? うん、運が悪かったとしか言いようがねぇわ」
『ア、アババ……』
「でも死ね」
高く振り上げた脚から振り下ろされるアクセル・インパクトがエンシェントドラゴンの頭部を踏み砕く。モンスターの姿が消えて、残るのは返り血を全身に浴びて偃月刀を担ぐブラッドソウルひとり。
『………………』
言葉を失って、ただ呆然と引き止める暇もなく、何の罪もないはずのエンシェントドラゴンが暴力の限りを尽くされるのを見届けることしか出来なかったグリーンハート、ホワイトハート、アイエフの三人がブラッドソウルと目が合って思わず身体を竦ませた。
「あ、あれ……? あの人、ラスボスとかじゃないわよね……」
アイエフが涙目で声を震わせている。
「わーりぃワリィ。愉しくてつい調子乗っちまった……で? “あぁなりてぇ”のか、テメェ等」
ブンブンブンブン!! 首を高速で横に振る。
逃げ遅れ、木の後ろに隠れていたスライヌに向けてノーモーションの銃声が突き刺さった。頭部を一発で撃ち抜かれて蒸発する。
「ぬ”ら”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”……」
その手には深紅の自動式拳銃。威力を最低限にまで抑えた結果、夏場のアイスのように溶けていくスライヌにはゴア表現としか言いようのない状態となっていた。
気がつけば――周囲にいたスライヌ以外の小型モンスター達も居なくなっている。
「三秒以内に女神化を解除しない場合。お前ら二人を俺の敵と認識してぶちのめす。さ――」
女神化を解除した。アイエフは両手を上げた。
「――ん……チッ」
(舌打ち!?)
「テメェ等俺に何の不満があんだよ。喧嘩売ってんなら買うぞ」
「わ、わたくし達も頭に血が上っていたみたいですわ……おほほ……」
「はいそうですかで済ませると思ってんのかコラァ!!」
「ヒィ、ごめんなさい!」
ベールが涙目で謝ると、ブラッドソウルが地面に偃月刀を突き立てて熱量を注ぎ込む。熱気が陽炎のように揺れて悪鬼の形相で睨む。
「ネプテューヌの野郎が何言ったんだか知らねぇし、テメェ等二人がどう受け止めたのかも俺が知る由もねぇがな。あいつらと関係持っちまったのにはそれ相応の事情があんだよ! それを好き勝手言いやがるのは構わねぇが、加減しろバカ!」
「……今のあなたが言えること?」
「ひん剥くぞ」
「! ご、ごめんなさい……!」
「さっき旧神が大したことねぇとかほざいたのはどっちだっけなぁ!?」
「わ、わたしよ……」
「手加減するに決まってんだろうがッ!! ぶっ殺すぞ!」
「どっちなの!?」
涙目で震える二人に代わって、アイエフが恐る恐る手を上げる。
「え、えっとほら……クエストも達成したみたいだし報告に戻りましょ? ね?」
「…………」
「ほら、変神も解除してくれない……かしら……」
もしかすると今、自分はものすごくバカな真似をしているんじゃないか? そう思ったアイエフの背筋を冷たい感覚が撫でる。だが、思いの外素直にブラッドソウルが変神を解除した。
「今後。俺に“諦めろ”と“ロリコン”って言ったら容赦なく殴る」
「…………」
「返事はどうした」
『は、はい!』
その場にいた三人の心がひとつになった。
この人は絶対に変神させちゃいけない人だと――プルルートよりも怖い。命の危険さえ覚える恐怖に腰を抜かしそうになりながら、絶対に敵対してはならないと心に固く誓った。