超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――ギルドにクエスト達成の報告はアイエフが「わたしがやっておくわね」と言って別れ、エヌラスとベールとブランの三人はその足でプラネタワーへ戻ってきた。
「エヌラスー! おかえりー!」
「どわっぷ……、あー。うん、その……」
「?」
「……いや、悪い。そんなこと言われたの、いつ以来だったか忘れちまってな。なんて言えばいいんだっけ」
帰ってくるなり飛びついてきたネプテューヌを受け止める。
本気とも冗談とも取れない言葉に、ネプテューヌとノワールが何か言いたげにしていたが、ごまかすようにエヌラスは笑って頭を撫でる。
「その、なんだ……ただいま……で、いいんだよな」
「うんうん。それでいいんだよー」
「ベールさんも、ブランさんもおかえりなさい」
「ええ、ただいま……」
「もー、二人とも止める暇もなく飛んでっちゃうんだもん! エヌラス大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
「いや特には」
「ほんとにー? とかなんとか言って、ホントは怪我してたりするんじゃない?」
「マジだよ。そんな気にすんな」
イチャつく二人を見ていたブランとベールだったが、その様子が何かおかしいことにノワールが気づいてそれとなく尋ねた。
「ねぇ、どうしたの二人とも? 教会から飛び立つ前は「ッシャオラー!」って感じだったのに随分大人しくなったわね」
「ノワール」
「へ? な、なによベール……」
「わたくしが間違っていましたわ」
ノワールの手を取り、まるで聖母のように慈愛に満ちた微笑みを浮かべながらベールは目尻に浮かぶ涙を拭う。
「アダルトゲイムギョウ界での戦いがどれほどの苦難と困難に満ちていたかも知らず、あのような事を言ってしまったのが恥ずかしいですわ」
「えっ? ええ……そう……」
「ネプギアちゃんも。とても大変だったでしょう?」
「あ……はい……」
「ど、どうしたのベール? 頭でも打った?」
「いいえ、わたくしは至って正気ですわよ?」
あまりにも態度を改め過ぎて逆に怖い。
「ネプテューヌも」
「ブラン?」
「悪かったわ……確かに、あなたくらい誰からでも愛されるキャラなら一人くらいはいてもおかしくないものね……」
「な、なんかブランが一周回って正気に戻ったのか洗脳されたのか判断つかないんだけど!? エヌラス、二人に何したの」
「いや、何もしてないぞ?」
「ほんとに? 変なことしてない?」
具体的にはアダルティックなことを。してません。即答した。
「そうだな、強いて言うならそこの二人が眼の色変えて襲ってきたから“軽く”相手したぐらいだ」
「軽くって……」
「あと、変神してモンスター八つ裂きにしたくらいで、特に何もしてないぞ」
「してるから! ものすごくしてるから! というか原因それだから!!」
プルルートの変身が貞操の危機であるというのなら、エヌラスの変神は生命の危機に瀕する。
「ぐ、具体的には何したの……?」
「ドラゴンの活造り(瀕死)ぐらいで、別に……」
「そんなの刺激が強すぎてトラウマものになるわよ! 謝りなさいよ!」
「すまなかったな、許してくれ」
「なんだろう! その謝り方、許されない気がする!」
だが、ネプテューヌの予想に反してベールとブランの二人は腰が引けていた。
「い、いえ……お気になさらず!」
「そ、そうよ。わたし達の早とちりが原因なんだし……謝ることはないわ」
「ブランの言う通りですわ」
「……なんか、こう、あからさまに遠ざけられてる気がすると込み上げてくるものがあるんだが」
「そ、そんなに怖いの……?」
「やだなぁ……怖いの……びくびく」
「う、うん……式場で見た時も思ったけど、怖い人はきらい!」
ユニとロムラムの三人もエヌラスの変神後の姿は見ている。しかし、今日ブランとベールが見たのはエヌラスの本性の片鱗とでも言うべきもの。つまり――本当にぶちのめしていい敵を前にした時の行動がどういったものであるのかだ。月とスッポンくらいの差があるそれを目の当たりにすれば無理も無い。ぶっちゃけネプテューヌ達もドン引きする。
アダルトゲイムギョウ界に居た時よりも更に手数が増えて、なおかつ無慈悲。
「ロム、ラム。いい? エヌラスはまだゲイムギョウ界での生活に慣れてないの。だから、ミスしたり失敗したりしても責めちゃダメよ。分かった?」
「うん、分かった」
「はーい!」
「ユニも。万が一にでもエヌラスが変神しそうな時はできるだけ離れておきなさい」
「そんなに危険なの? でも、お姉ちゃんが言うなら覚えておく……」
「…………なぁ、ネプテューヌ。俺ってそんなに変神した後ってヤバイのか……」
「むしろ今まで自覚なかったんだ……って言ってもしょうがないよね。ずっと独りぼっちだったんだもんね。でも大丈夫だよ、エヌラス。なんてったってこれからはわたし達がずっと一緒だもん! ねー、ネプギア!」
「はい! あ、でも……できれば変神は控えてくれた方が、助かります……」
「……泣きたい…………!!」
もうゲイムギョウ界では変神しないように努めることにしたエヌラスだった。
ソファーに座って一休みしていると、アイエフが戻ってくる。その手にはクエストの達成報酬である賃金とアイテム。
「今戻ったわ。はい、エヌラス。今回の報酬よ」
「…………俺の?」
「当然でしょ? わたしはあくまでも一連の流れを案内しただけだもの。報酬目当てじゃないの、だからこれは貴方の分よ」
「………………」
エヌラスはアイエフから受け取った報酬をまじまじと見ていた。それに全員が疑問符を浮かべる。
「……すげぇ、仕事して報酬がまともに支払われた」
泣いた。誰もが涙を浮かべた。ちょっと言いようのない感情がこみ上げてくる。流石にイストワールもそれは不憫に思ったのか涙を拭っていた。
「エヌラスさん。つかぬことをお聞きしますが……アダルトゲイムギョウ界でお仕事の方は」
「まぁ、たまに。それ以外だと金にならない邪神退治で飯を食う暇もない」
「……ネプテューヌさん。なにか思うところはないんですか?」
「エヌラス。プリン食べよ? ね? ほら、疲れてるよね」
「というか、ほんとに今までどうやって食い繋いできたのか疑問になってきたわね……」
「モンスター」
『…………えっ?』
「いや、だから……モンスター。邪神とか食ってた」
いやちょっと待って何言ってるかわかんない。ナニソレイミワカンナイ。食べ、え? 食べ物?
「戦いながら食ってた。大抵食えたものじゃねぇけどな。生だし。何処にでもいるから困らないんだ。味はお察しだけどな」
「…………」
仮にも。仮にも――アダルトゲイムギョウ界を救い、それからもずっと孤独に戦い続けていた男が。世界を滅ぼそうとする邪神の群れに対峙している人類の守護者である旧神が。
まっとうな職にありつけず、まともな食事も摂れず、ただひたすら四六時中戦って。しかも仕事をしてもまともに報酬が支払われない環境。
「お、おいどうしたんだお前ら……なんで泣くんだよ……やめろよ、泣くなよ。なんだ、どうした? 催涙ガスでも投げ込まれたか?」
どうしてそういう物騒な発想に至ってしまうんだろう? なんでこの人、そんな可哀想な環境で戦い続けることができるんだろう。あまりに哀れ過ぎて女神たちは涙を流した。
「ごべんねぇぇぇエヌラスゥゥ……ぐすっ、わだし、ひぐっ。わたし達、頑張るからぁぁぁ……!」
「えっ、あ……おう?」
「イストワール様、その、エヌラスを教会で保護という件は」
「もう全面的に承諾する他にありません……いつでも来てください」
「いや、なんかそう言われるとちょっと遠慮」
「そんなこと言わずに! 来てください! お願いしますから!」
「……そ、そういうことなら頼っていいんだよ、な……?」
「ルウィーでも歓迎するわ……」
「ラステイションでもよ」
「リーンボックスで最高のおもてなしをしますわ」
「え、えーっと……どういうことだ……? なんでお前ら手のひら返してそんな事言い始める?」
だってもう――可哀想過ぎる。言葉にするよりもオイオイ泣き出す女神達にエヌラスは困惑していた。
――夜のサクラナミキ。月明かりに照らされる桜の木々が花びらを散らせている。
その宵闇に紛れて歩く機体があった。
《……ふぅむ》
電子音声は、唸る。
《あてが外れた、か……》
周囲を見渡せばそこにはスライヌ達が去った後にはいつもの生態系が戻っていた。気ままなモンスター達が生息するそこで、落胆の色を見せる。
《女神パープルハート様が来るものと思い、発注したはいいがよもや諜報部員……それに見知らぬ男……何者だ? ……メッチャ怖かったけど……ああ怖かった……気づかれないように半径百二十メートル圏内から離れててよかったぁ……》
ともあれ、計画は失敗に終わったということだ。足元のぬめりに指を触れると掬いあげて、指先を擦り合わせる。
そこへ、甲高いブースター音。月明かりを受ける純白の機体に、漆黒の機体は敬礼する。
《何をしている》
《ハッ。実験結果を観測していました》
《結果は》
《小型モンスターの異常繁殖。及び、大型モンスターの凶暴化》
《……実用には至らないか》
《何分、試験対象がモンスターでありますので……》
《まぁいい。時間はある。向こうの連中が利口であれば、な。引き上げるぞ》
《了解であります。――シロトラ教官》
まだ計画は始まったばかりだ。