超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネテューヌに夜が訪れる。ネプテューヌ達が入浴している間、イストワールはエヌラスを探していた。ノワール達は自分達の国へ戻り、アイエフは調査に出掛けている。そしてコンパも今日は夜勤らしく外出していた。
「ここにいたんですか」
「ん? ああ、イストワールか」
「何をしているんですか? 風邪引いちゃいますよ」
「バカと何とかは紙一重ってな。風邪なんか早々引かない。仮にも神格者だしな」
教会のテラスから眺める夜景に、イストワールがエヌラスの横顔を盗み見る。なんの事はなく、ただ目を細めていた。その口元が緩んでいる。
「なにか楽しいことでもありましたか?」
「突然だな……」
「なんだか、嬉しそうにしてるので」
「……そうだな。今日は、楽しかった。戦ってばっかりだけど、偶には悪くないなこういうのも」
エヌラスの人並み外れた生き方に、イストワールは疑問を持っていた。それは、何がそこまで彼を戦いに駆り立てるのかということ。
「――俺は、元々魔人の一人だった」
「そう、なんですか? でもどうして」
「無尽蔵の絶望。ヌルズと呼ばれる魔人で、終焉を望む人々の救いだった。滅ぶを願う人々の叫びに応えるだけの存在……そんな俺が、ある時を境にアダルトゲイムギョウ界に喚ばれてな」
「次元神セロンによってですか?」
「いや、違う。地下帝国、九龍アマルガムを統治していた
妹も、恋人も犠牲にさせられた。だが、結果としてそれが今の自分に繋がっている。
「それも、“前世”の記憶ですか?」
「前世って言うか……俺が旧神になる原初の記憶だな。それより前は“戦禍の破壊神”なんて呼ばれてたし」
「はた迷惑そうな呼び名ですね」
「そうな……」
しかし、プラネテューヌに迷惑を掛けてしまったことは事実だ。エヌラスはアイエフから受け取った報酬を取り出して考えていたことがある。
「……イストワール」
「はい。なんですか?」
「そのー、まぁなんだ。この金なんだが……プラネテューヌに寄付って形で渡してもいいか」
「えっ……いえ、構いませんけれど。それはどうしてですか?」
「出来ることなら、この国の為に使いたい。というか、まぁネプテューヌ達の為だな」
「ネプテューヌさんの為に……ですか」
「俺が金なんか持ってたってしょうがねぇしな。その日の食い扶持稼げりゃ御の字だ」
そう言ってイストワールに渡した賃金の代わりに、エヌラスはタバコを取り出した。
「タバコも酒もクスリもやるが、金が本当に必要なわけじゃないんでね」
「まるで犯罪犯すために生きてるみたいですよ、それだと」
「そうでもないと、戦い続けられなくてな」
指先を鳴らして火を点ける。紫煙をくゆらせると、タバコの臭いにイストワールが眉を寄せた。嗅ぎ慣れない甘い香り。予想していた煙たさが感じられなかった。それどころか爽やかさに近いものがある。
「くんくん……なんですか、それ? ミントのような、柑橘類のような香りですけど……」
「ああ、九龍アマルガムで俺が製造したドラッグシガーレットだ」
「結局は麻薬じゃないですか!? ダメですよそんなの! めっ、めっ!」
「お、おお落ち着けイストワール! ちゃんと理由があるんだよ! これなきゃ死んじまう!」
「末期症状の中毒じゃないですか!」
プラネ警察24時待ったなしの発言に、イストワールが両手を振り上げてタバコを取り上げようとするがエヌラスはうまく躱した。
「――右腕が動かせない?」
「そう。俺の身体、というか銀鍵守護器官が特殊なんだ。今でも気を抜くと右腕の感覚が無くなる」
「だからそのお薬が手放せないんですね」
「まぁな……」
かといって右腕の神経と魔術回路に魔力を回して動かしていれば当然、燃費は悪くなる。その為のエネルギーを補給する食事の量も当然ながら増えていく。そんなことをするくらいならばクスリで抑えた方が財布にも優しいし、補給も容易だ。
「ドラッグといっても、蜂蜜酒の一種を使ってるくらいだ。臭いに関しても出来る限り周囲に迷惑掛からないようなもの使ったしな。造るの苦労したんだぞ、これ」
指差しながら咥えたタバコを揺らす。
「……ちなみに、合法ですか?」
「脱法ハーブ多数使用。常人なら一箱で廃人レベル」
「没収です! ボッシュートです!!!」
「おいばか待てやめろください! 頼むよ! これないと俺マジで戦えねぇんだから!」
「だーめーでーすー! 教会でそんなの吸ったらいけません!」
「これ買うのだってユノスダスに戻らなきゃならん――」
そこで、ふと思い出したようにエヌラスがD-PHONEを取り出して電源を入れた。待受画像は幾何学模様の中に目がいくつも書かれた奇妙な画面。その表示にイストワールがちょっと引いている。
「……着信件数116件ってなんだ」
「えっ!? 電波繋がってるんですか?」
「ああ。これを開発したのも俺だし、共同開発したのはインタースカイの国王だ。俺がどの次元に居ても連絡取れるように、ってことで開発したんだが……まぁ普段は電源切ってるしな」
「それ。持ち歩く意味あります?」
何のために携帯しているのか分からない。履歴を遡ると、どうやらエヌラスが邪神を追ってアダルトゲイムギョウ界から離れた時からずっと掛かっていたようだ。
「お相手は誰からです?」
架空請求の業者かはたまた借金の返済か。そのどちらでもなく、そのどちらよりも恐ろしい相手からの履歴にエヌラスの口からタバコが落ちそうになっている。
「……ユノスダス国王から……」
「そんなに怖い方なのですか?」
「俺にとっては邪神より怖い」
(どんなに恐ろしい方なんでしょう……)
メールも何件か来ており、内容を確認する手元をイストワールが覗き込んだ。
『無事だったらメール頂戴』
『生きてる? 確認したらメールの返信よろしく』
『昨日ユノスダスで子猫見つけたんだけど、餌あげたらメッチャ懐かれ(以下略)』
『今度の週末、みんなでパーティーするから早く帰ってきて』
「…………」
「…………」
エヌラスの顔が、青ざめている。恐る恐る、ボタンを操作して電話帳からユノスダス国王を選んで通話ボタンを押そうとするが指が震えていた。
「――――無理だ。超こええぇ……!」
「で、でも連絡してあげないと可哀想ですよ。ほら、こんなに心待ちにしてますし」
「イストワール」
「はい、なんでしょう」
「……短い付き合いだったな。骨は拾ってくれ」
「えぇ!?」
遺言を残してから意を決し、通話ボタンを押すと最初はノイズが走ったもののすぐにコール音へと変わる。一回、二回――三回、四回と続いて五回目のコール。これは繋がらないか? そう思っていたエヌラスが手を下げようとした、八回目のコール音で繋がった。
「――も……もしもし?」
《…………》
「あー……その、俺だ……です……はい」
《誰?》
「……エヌラスだ。つうか着信画面見れば分かんだろ」
《いや、ここ数年連絡取れなかったから本人かどうかわかんないし》
「年単位で音信不通だったんですか!?」
「バッ、声がデケェよイストワール!」
《え、誰か居るの? ちょっと替わってもらえる?》
「あっ、いや、これは違うんだ」
《いいから替われ》
「ウッス……」
エヌラスが画面をイストワールに向ける。
「あ、あのー」
《コホン。初めまして、私は商業国家ユノスダス国王のユウコです》
「ご丁寧にありがとうございます。わたしはイストワール。よろしくお願いしますね、ユウコさん」
《こちらこそ。イストワールさん、声がかわいいですね》
「いえいえそんな。ありがとうございます」
《それで単刀直入に聞きますけど、そこにいるパッと見殺人犯にしか見えない外面ばかり良い、内面海の藻屑にすらなりえない度し難いクズの極みとはどういったご関係ですか》
「あの、加減してあげた方がよいかと……」
エヌラスが今ちょっと死にそうなことになっていた。とはいえ、事情を説明すると相手はすんなりと頷いて受け入れてくれたらしい。理解のある相手で良かったとイストワールは胸を撫で下ろす。
《なぁるほどー、そうだったんですかー。いやホントごめんなさい。うちで面倒見てたバカが邪神追っかけて音信不通になった挙句にそちらで破壊活動を行ってとんだ迷惑掛けたようで、ええ》
「はい、そうなんです。ですがお気になさらないでください」
《じゃあちょっと話したいことあるのでバカに替わってもらえます?》
「わかりました。……ナチュラルに罵倒されていませんか?」
《アッハッハ》
笑って誤魔化すユノスダス国王の声色からは「うるせぇ黙って聞き流せ」と言われた気がしてイストワールは背筋が寒くなった。
「まぁ、その……聞いてのとおりだ……」
《何考えてんだバァァァーカッ!!! テメ、こっちがどんな思いで待ってたかも知らねぇでなにしてんだよ!!!》
「うるせぇよ仕方ねぇだろ!?」
《ユノスダスで飲み会やってた時に現れた邪神相手に酔っ払いながら斬り掛かっておいてそっから音信不通とかどんだけ酔ってんだよ! 帰ってこいよ! 連絡返せよ! 迷子かよ!!》
「連絡入れる暇もねぇんだよ察しろよ!」
《しかもなんで別な次元で保護されてんのッ!! お前なに暮らしだよ! その日暮らしのナニエッティだよ!! 生きてたなら連絡のひとつくらい返せよバカァァァァ……グスッ、ひぐっ……うぇぇぇん》
「泣・く・な・よ!!」
《うるせぇバカぁ、アホー! こっちが、ぐす、こっちがどんな、どんだけ待ったと思ってんだぁぁ……心配してたんだかんなぁ……!》
「だーかーら、死なねぇって言ってんじゃねぇかよ」
《言うだけなら簡単だよなぁ! 言われる身にもなれバカアホうすらトンカチハゲセックスデビル!》
「好き放題言ってくれんじゃねぇか胸と態度ばかりデケェ吸血鬼の守銭奴が!!」
《いいから一回帰って来い!! さもないと私からそっち行くからな!》
「いや、帰って来いったって……」
《いいから!!》
「……わぁったよ……んじゃな」
通話を切ろうとして、ユウコからの言葉に手を止める。
《――エヌラス》
「なんだよ、しつけぇな」
《ご飯作って待ってるから》
「……切るぞ」
プッ。ツーツーツー……。泣きそうな声の相手からの通話を遮るようにエヌラスは通話を切った。
「泣くこたぁねぇだろ……卑怯だろ、そんなん」
「それだけ大事に思われてるんですよ。そういうこと言ってはいけません」
「そりゃ――俺だってそうだけど……」
「なら、いいじゃないですか? どうしてそんなに気が乗らない顔を?」
「…………俺、帰ったら何日タダ働きすればいいんだろうな」
「ああ、そういう方なんですね……」
聞いている限りはエヌラスを不当に雇って働かせている張本人。これは顔を合わせたら色々と聞かなきゃならない。