超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
タバコを吸い終えて、携帯灰皿に捨てるとイストワールとエヌラスは夜風で身体が冷える前に中へと戻った。まだネプテューヌとネプギアは入浴中なのか、楽しそうな姉妹の声が聞こえてくる。
一日中ゲームをやっていたのにまだあれだけの元気があるのは、流石ネプテューヌというべきか。恐るべきスタミナだ。
「では、あちらに一度お戻りに?」
「とはいっても、すぐこっち来るつもりだけどな。場所と行き方さえ分かれば自由に行き来できるようになるし」
「便利ですね」
「ま、そんなんだからあちこちでトラブルに巻き込まれてるんだけどな」
その過半数が自分から引き起こしてるものだという自覚がないので言及は敢えてしないものとする。
エヌラスがソファーに座って身体を休めていると、ネプテューヌの声が聞こえてきた。
「あれー、いーすーん! シャンプーの替えってどこにあったっけー」
「それでしたら、確か――って、ネプテューヌさん!?」
「うん? どしたの、いーすん?」
「ん?」
イストワールの驚愕する声につられて振り向けば――そこには、一糸まとわぬ全裸のネプテューヌが首からタオルを下げて立っていた。お風呂に入っている途中だからまだポタポタと雫が滴っている。未成熟で未発達な幼女体型を恥ずかしげもなく腰に手を当てながら晒しているネプテューヌは、疑問符を浮かべて首を傾げていた。
「な、なんて格好で歩いてるんですか! タオルくらい巻いてください!」
「えー、いいじゃん。別に誰かに見られるってわけでもないんだしぃ」
「わたしに見られてますから!」
「いーすんだったら別に問題ないよー」
「そ、そそそれに、エヌラスさんだっていますし! って、なんで見てるんですか! 見ちゃダメです! わー! わー!」
「わぷっ、ちょ、イストワール。前が見えねぇ」
「見えなくていいんです! ネプテューヌさんの未熟な発達の裸は見なくていいですから!」
「なんだろう、そんな必死に言われるとちょっと傷つくなぁ」
イストワールが必死にエヌラスの顔に引っ付いて視界を塞ぐ。その行動にネプテューヌがますます疑問符を浮かべていた。
「減るもんじゃないし、いいよー。エヌラスになら見られたって」
「そういう問題じゃありません! 女神としての自覚がなさすぎます、ネプテューヌさん!」
「もー、うるさいなーいーすんは……じゃあ一緒にお風呂なら問題ないよね! 裸を見せるのが問題なら一緒にお風呂に入ればいいじゃないって、ゲイムギョウ界の偉い人が言ってた!」
「女神より偉い人って教祖様くれぇじゃね……?」
「言った覚えはありません! とにかくネプテューヌさん、シャンプーの替えでしたら脱衣場にありますから!」
「そっかー、ありがと!」
全裸のネプテューヌが浴場へ戻った後、顔を真っ赤にしていたイストワールが大きな溜息を吐き出す。自由奔放なネプテューヌに苦労しているのだろう、心労は尋常じゃない。
「……ネプテューヌさんの裸、見ましたか?」
「そりゃ……見えちまったものは」
「忘れていただけませんでしょうか……」
「……ちょっと、無理かもなぁ」
久々に見た。しかも照明付きで堂々と。
「綺麗な肌してるよな」
「その発言はどうかと……」
「なんでだ……」
「流石に、ちょっと引きます。だって、見たんですよね。ネプテューヌさんの裸」
「ごめんなさい」
「謝るのはまぁいいですけれど。普通、そんな風に言わないと思います」
「?」
「かわいかったー、とか。ビックリしたー、とか。ネプテューヌさんが裸で出てきたことに対するリアクションを取るはずなんです。なのにエヌラスさん……綺麗な肌って、ネプテューヌさんへの感想言ってますし」
通常、目の前の出来事に対するリアクションや感想などが口から出てくる。アクシデントなら尚更だ。咄嗟の判断で行動する。なのに、今。「入浴中のネプテューヌが裸で出てくる」という出来事に対するエヌラスの反応らしい反応は、ネプテューヌに対する感想だった。しかもまじまじと見た挙句に、しみじみと言っている。イストワールの顔が不審者を見るそれになっていた。
「俺、なんか変なこと言ったか?」
「はい。言いました。色々と危険な発言です。もしかして、ネプテューヌさんやブランさんみたいな方が好みなんでしょうか?」
――ルウィーでくしゃみをする女神がひとり。
「へぷち。……なんでだろうな、今スゲェ腹が立ったッ!」
「いや、別に未成熟な青い果実の幼女が好みなわけじゃないぞ?」
「ホントでしょうか……」
「出会った相手が幼女で女神だったというだけで。基本、守らなきゃいけない相手にしか手を出さないしな」
「守らなきゃいけない相手って。ネプテューヌさんは守護女神ですよ?」
女神を守る。そんな事を言う人が目の前にいる。だが、イストワールにはそれが不思議でならなかった。国が生まれ、国民が望み、女神が生まれる。そしてその女神は国を治め、脅威から国民を守る為に戦う――その女神が守られるというのは矛盾していた。
「確かに。そうだな……でもな、イストワール。俺が戦ってきた相手は、そういう奴らばかりだった」
記憶を無くして、“リセット”されたアダルトゲイムギョウ界で戦火に身を投じてきた。命の危険に晒されて、何度も折れそうになった。挫けそうになった。妥協してしまおうかとも悩んだ時もある。邪神に命を奪われるその刹那に、“諦めてしまおう”と思った時に――必ず脳裏に浮かんだのは四人の少女達の笑顔だった。
それが奪われる。それだけは、何故か、どうしてか許諾できなかった。全てを犠牲にしてでも守らなきゃいけないと駆り立てられて、それが誰なのかも分からないまま戦い続けてきた自分がいる。
その答えが、やっと見つかった。思い返せば、記憶を無くした後も、ずっと守られていた。
女神の笑顔に。笑うネプテューヌ達の姿に。頭ではなく、心が。魂が覚えていた。
自分に敗北は認められない。撤退は許可できない。自分が退けば、邪神は女神に手を伸ばす。それだけは許せない。だから戦い続けた。
「国一つ。世界一つ滅ぼせるような邪神が相手だった。俺の敵はいつだって俺と同等かそれ以上の実力を持った化物どもだ」
「…………」
「万が一にでもそいつらにネプテューヌ達が負けるとも思えないが、俺は強欲でね。女神と一緒に肩を並べて戦いたいと思ってる。実力と立場が対等なら、そりゃこうもなるさ」
「ネプテューヌさん達が女性で、エヌラスさんが男性だからですか?」
「男なんてバカばっかりだ。その救いがたい大馬鹿野郎代表の俺が言うのもなんだけどよ」
戦えるのに見過ごす事なんて出来ない。彼女達が傷つくのに自分だけが守られるのは赦せなかった。
「俺はネプテューヌ達を守りたい。邪神の脅威から、世界の終わりから。黙って見てるなんて、後味悪ィだろ?」
「……では、お聞きします。エヌラスさん。もしも――自分が犠牲となってネプテューヌさん達を救えるとしたら、どうしますか?」
「んー、犠牲になってやりたいところだが……それだと絶対恨まれるからなぁ……どうすっかな。保留、ってことでいいか? 今の俺には答えが思い浮かばない」
「じゃあ、そういうことにしておきましょうか」
イストワールは笑う。エヌラスは何気なく、そんな教祖様のほっぺたを突いた。
「あぅあぅ……もう、何をするんですか!」
「イジワルな質問をした、ちょっとした仕返しだ」
「むぅ~……」
「そんな睨まないでくれよ」
「今回だけですからね」
「以後気をつけます」
こんな風に穏やかな時間を過ごしたのは、いつ以来だろう――。
「あー! いーすんがエヌラスとイチャツイてる! ずるいぞー、いーすん! いつからそんな攻略キャラになっちゃったのさー!」
「ネ、ネプテューヌさん!? 違います! 別にイチャツイてるわけでは!」
「うっそだー、だってほっぺたぷにぷにされてちょっと嬉しそうにしてたじゃん!」
「別に嬉しくなんてありません! 大体、わたしはプラネテューヌの教祖なんですよ」
「でも、今はオフだよね。プライベートな時間なんだよね?」
「え、ええ……そういうことになりますけれど……」
「もーーーーーー!! いーすんでも駄目だからね! プラネテューヌにいる間はエヌラスはわたしのなんだから!」
「おいー、ちょっと。なんで俺が私物扱いなんだよ」
一転して、穏やかな時間は賑やかな時間へと。
ナイトウェアに着替えたネプテューヌがイストワールから引き離すようにしてエヌラスへ抱き着く。頬を膨らませて睨む様は、まるで玩具を取られた子犬のようだ。着替えたネプギアも戻ってくる。
「お、お姉ちゃん。もー、エヌラスさんに抱きついたりして……」
「ネプギアもする?」
「えと……」
チラリとエヌラスの顔を盗み見ると、それに気づいたのか手招きしていた。
「俺はいいぞ?」
「だってさー、ほらほらネプギアも思う存分甘えちゃいなよ!」
「うーん、でも」
今度はイストワールの顔を窺う。だが、怒ってはいない。むしろちょっと眉を寄せて困った様子だ。
「えっと、いーすんさん」
「構いませんよ。今日はもう遅いですし」
「すいません。じゃあ、そういうことなら……えいっ」
ネプテューヌは少しずれて、ネプギアはその空いたスペースに腰を落として座り込む。その頭を抱き寄せて、エヌラスは髪を梳くように撫でた。
「ぅぅ……恥ずかしいよぉ……」
「いやならやめるが?」
「い、嫌じゃないです。むしろちょっと気持ちいいって言うか……」
「ネプギアばかりずるいなぁ。エヌラス、わたしもー」
「はいはい……」
わしゃわしゃとネプテューヌの頭を撫でると、不満そうにしている。
「もー! わたしの時だけどうしてそんな風に撫でるのさー、エヌラス! もっと優しくしてよ」
「の割に嬉しそうだよな……」
「そりゃそうに決まってるじゃーん。だって、一緒にアダルトゲイムギョウ界を救った仲間でしょ? 忘れてたとばかり思ってたけど、いざこうして思い出すとやっぱり違うなぁ……」
「どんな気分だ?」
「うー、んとねぇ……あ! ゲームで取れないのに見えてる宝箱が取れた気分!」
ネプテューヌらしい例え方に、エヌラスは笑うしかなかった。