超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
次の日。エヌラスは朝からアダルトゲイムギョウ界に一度戻ると言って出かけていた。すぐに戻るとは言っていたものの、まるでその姿が死ににいくような覚悟を決めていたのは一体どういうことだろう。
「うーん、エヌラス。どうしたんだろなー……」
「なんかすごく嫌そうにしてたけど、どうしたんだろう」
ネプテューヌはいつものパーカーワンピに着替えていた。今日はネプギアとギルドに来て女神のお仕事だ。イストワールと約束した以上、三日坊主で終わらせるわけにはいかない。エヌラスが教会に滞在する限りは毎日こうしてクエストをこなしていかなければならなかった。しかし、やはりネプテューヌはそれが苦痛なのか、肩を落としている。
「はぁ~……」
「お姉ちゃん、無理しなくてもいいんだよ?」
「ううん、やる! やるったらやるからね! 仕事をしないとゲームもプリンも触っちゃいけない食っちゃいけないっていーすんから禁止令出てるもん」
(いーすんさん、そこまでするなんて結構本気なんだなぁ……)
女神との交際。特に男女間。今まで陽の目を見なかったその事態に、しかもネプテューヌが遭遇している。それがイストワールにとっては「不出来な娘(姉のほう)に馬の骨の男が出来た」という状態。危険人物というオマケつきではそれは当然、警戒もする。どれほど本気なのかを試されている、ということに違いない。
(うん、頑張ろう。ここでわたし達が頑張らないと、エヌラスさんがまた捨てられちゃう)
ネプギアの気合の入れ方もそうだが――まるっきり犬扱いであるという自覚がなかった。
ギルドを出れば、そこではB2AMのロボット達が片付けを始めている。修繕作業の全工程を終えて、現在は仕上げの最中らしい。現場で指揮を執っている濃いブルーの機体は隊長機らしく、角が生えていた。機械オタクであるネプギアはそれに目を輝かせている。
軽量化された装甲に、大容量のブースターを装着した隊長機は、ラインの入ったマスクで顔を覆っていた。時折、手元の資料に視線を向けては周囲を見渡している。
《指揮官殿ー、こちらの機材はどちらにー?》
《それは向こうのA地点だ》
《了解ですー》
装甲に装甲を重ね、重量級も重量級。まるで浮かぶ要塞。ホバー型の最重量級ロボットがのんびりとした口調で隊長機に尋ねると、キビキビとした口調で場所を指し示した。だが機動力が犠牲となるのはしかたのないことなのか、ブオーッと鈍い低重音を鳴らしながら緩やかに移動している。
「ネプギア? おーい、ネプギアー?」
「…………――」
「ネップーギアー? ねぷぎゃー?」
「ハッ! ど、どうかしたの、お姉ちゃん!?」
「なんか凄いキラキラした顔であのロボット達見てたみたいだけど、どうしたの?」
「凄いなぁ、って。でも、プラネテューヌにこんなに沢山のロボット達がいたんだ」
「わたしも。プラネテューヌはあちこちお散歩してるけどもこんなに沢山動いてるの見たことないよ」
(そうだ、忘れちゃいけないんだった。この人達はハァドラインの……)
女神信仰の狂信者。だが総指揮官であるシロトラに従っている。普段はプラネテューヌの中を歩くことさえ叶わない境遇。問題を引き起こそうなら、それこそ国境警備隊の沽券に関わる。だからこそ、こうして目の前の仕事に没頭している。
周囲の人々の視線は、その作業から目を背けるように一瞥もしていなかった。まるで危険物でも見るかのような。それに彼らも気づいているのか、黙々と作業を続けている。
「ほら、ネプギア。お仕事行くよ?」
「う、うん」
――でも、やっぱり少し可哀想。後ろ髪を引かれる思いを残して、ネプテューヌとネプギアがその場を後にする。
アイエフは、諜報機関から調査結果の報告を受けていた。携帯を耳にあてて公園のベンチに腰を下ろして、頷く。
「なるほどねぇ……」
ハァドラインの調査。特にアームドソウルスについての調べに、アイエフは感慨深く相槌を打っていた。元々はラステイションで生まれた企業。それが長い時間を掛けて発展し、幾つかの中小企業をまとめ上げる企業連盟として成長した。交易を繰り返す内にリーンボックスへも進出、だがそちら側での事業は半ば手放した状態で、謂わば片手間。それを事業家であるプレジレントが株を買い占めて独占。後に、国家間を超えた一大企業連盟として君臨した。ということらしい。
しかし不思議なのは、なぜラステイション企業連盟代表がプレジレントに席を譲ったのか、ということだ。アイエフにはそれが不思議に思えてならない。
「それで、辞任した代表なんだけど、その理由については?」
地下重工業会社に就職して、今は警備隊長の任を受けている。ラステイションでも過酷な労働環境に作業用ロボットを導入している会社はあるが、黒い噂が絶えない――ブラックハートだけにというのは無粋なツッコミ。
「ふんふん……まぁ、そりゃそうよね。自分の国の女神を信仰しているんだもの」
直接聞いてきたところ、辞任の理由については「ラステイションの利益のみを求めているから」とのコメント。リーンボックスと手を組んで両国の儲けとなっては面白くないのだろう。腐っても狂信者、その為なら地位も名誉も投げ捨てて国の地下にこもる筋金入りだ。
「プレジレントについての調べは?」
重量型のロボット、とは聞いている。とりあえず、仕事の方針についてはイケイケタイプらしく、事業の多角化に積極的ではあるが、手堅い攻め方をしているようだ。試験段階で導入した経営を波に乗れないと見るやいなや早々に手を切っている。そのせいか、名目上は幾つもの工業廃棄物を抱え込んでいるらしい。多額の負債を抱え込んでいるかと言えばそうではなく、あくまでも自分の趣味の範疇でしていることらしく会社の損害は極めて少なかった。
こちらもリーンボックスの女神を信仰しているらしいが、ラステイションの代表とは違う。リーンボックスの観光会社の経営だけでなく特産品を積極的に国外に売り出している。
「お金を搦めて自国に引きこもうなんて、一癖ありそうね。とても軍用ロボットとは思えないわ」
国の経理部にでもいた方が良いんじゃないだろうか? そんな冗談の一つでも出てくる。
「それで、頼んでいたその部下についてだけど……」
副官、ジョッシュ。元は腕利きの傭兵だったらしいが、プレジレントの勧誘によってさっぱりと足を洗っている。現在は事業の現場監督役。新人の教育係も兼任していた。
もうひとり。気になっていた人物――ナイルスについて。こちらの調査は一向に進んでいない。名簿には確かに表記されているのだが、名前以外の一切が不明。ただその履歴を遡ると、ラステイションが建国されて以来から存在している。旧型どころか古代ロボットに等しい。よくも今まで壊れずにいたものだと感心しながら、アイエフはそれ以上の調査を打ち切った。
「ええ、ありがと。残りはこっちで目を通しておくわ。……うん、それじゃ」
それ以外のスタッフについて調べていたら何年あっても足りない。何しろ古株から新人までで数えきれない数を抱え込んでいる。揃いも揃ってロボットばかり。
「……ふぅ」
リーンボックスが軍事国家であった頃の面影が色濃いハァドライン、アームドソウルスについて警戒すべきだろう。謎が多く、表向きは確かにただの企業連盟ではあるが、裏があるはずだ。疑ってかかっても問題はないだろう。
「なーんか、引っ掛かるのよね……」
ここ最近の動きを見るに、手を出していた事業の撤退や縮小。大人しい、というよりは手を引いているような状態だ。それも何故このタイミングで?という疑問が浮かぶ。廃棄された工業の解体作業、壊れた部品の修理に最近は精を出しているらしいが……。アイエフにはそれが引っ掛かった。何しろ気まぐれプレジレントのすることだ、どうせ《大片付けでもしよう!》とかそんなノリなのではなかろうか。いや、会ったことはないが――。
「ま、いずれにせよ。要調査ってことね」
アイエフが自分の買ってきたジュースに手を伸ばそうとするが、カタカタと震えていた。紙コップに注がれている飲料水が波紋を揺らしている。……地震? だが、ベンチに腰掛けている自分のお尻に伝わるはずの振動がなかった。ならばなぜ紙コップが揺れているのかと、周囲を見渡す。道行くプラネテューヌの国民達も不安そうに周囲を見渡していた。
――ォォォォォ……!
「……? なんの音かしら」
例えるなら、巨大なエンジン音。低空で飛ぶジャンボジェット機のような豪快なタービン音。燃料をありったけ注がれたエンジンが悲鳴を上げているようにも思える。
空を見上げると、段々とその振動が腹に響くほど接近しているのが分かった。目を細めてみると、異常なまでのスピードでそれが飛行している。
巨大なブースター。ただただ、そうとしか言いようがなかった。戦闘機ほどのサイズのそれが、まるごと燃料と推進剤を注ぎ込まれて飛んでいる。申し訳程度の主翼と副翼によって生まれる揚力ではなく、生み出される膨大な量の加速によって文字通り弾丸のようにかっ飛ばされていた。言うなれば航空力学を正面から燃料でぶん殴ってるようなものだ。そんな馬鹿げた科学の産み落とした変態の産物が、なぜプラネテューヌに? ――それも、二機。片方は黒いカラーリング。もう一基は白いカラーリングに塗装が申し訳程度に施されている。
「ちょっ!? なによアレ! 誰が作ったのよ!?」
それに答える間もなく、アイエフとプラネテューヌ国民達の上空を飛び去っていく――というよりは青空に突き抜けていくに近い。爆音と豪風を置き去りにして吹っ飛ぶブースターの先頭に、人型ロボットと思わしき物体が見えた気がした。
「……なんかのデモンストレーション? にしてはちょっと派手すぎよね」
揺れさざめく木々がようやく収まった頃に、通り過ぎた先の建造物を見てアイエフが走りだす。その進路上には、プラネタワー。止めていたバイクに跨ると、エンジンを掛けてスタンドを上げた。馬鹿げた速度で飛行する物体に追いつけるはずがないが、それでも向かわずにはいられない。