超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラス曰く――邪神より怖い。アダルトゲイムギョウ界で誰よりも相手にしたくない。言うなれば天敵。カエルにとっての蛇。蛇にとってのなめくじ。なめくじに塩。
プラネテューヌの教会に招き、イストワールに経緯を話した。それは予め聞いていたのか、困惑した表情をしている。それもそのはずだ。
アイエフから渡されたネプビタンによって一度は快復したエヌラスだったが――その後、ユウコの手によって再びボロ雑巾と化している。
「…………」
合掌。今は床にぞんざいに投げられていた。というか捨てられている。
「この度はうちのバカが本ッ当にご迷惑おかけしたようで大変申し訳ございません。あ、これ良かったらどうぞ。つまらないものですけど、ユノスダスのお土産です」
「これはご丁寧にどうもありがとうございます、ユウコさん」
「本当は一番美味しい名産の『べまモンまんじゅう』を持ってこようとしたんですけど、なーんか知らないけどコイツがやめろやめろうるさくってごめんなさい。また今度持ってきますね」
「いえ、そんなお気遣いなく……」
邪神より怖いと聞いていただけに、その常識的で良識的な姿勢にイストワールは何度も頭を下げた。
「あんなもん初対面で出されてみろ、お前の第一印象が「キモい饅頭の人」になっちまうぞ」
「ムカッ。なんだよぅ、べまモンまんじゅう結構売上いいんだぞ? 顔もデフォルメにしてあるし、デザイン頑張ったんだからな。しかも高級品なんだぞ」
「何人犠牲になった」
「えーっと、デザイナーだけで六人。製造工場でうっかり生のべまモン見て精神病棟行きが三人。発狂した患者一人。いやー、商品化まですごい苦労したなぁ……」
商品よりも製造工程の時点で既に犠牲者が出ている饅頭とは一体なんなのだろうか。逆に気になるが、ユウコが持ってきてくれたユノスダスのお土産は「ユウコ印の柑橘大福」だった。甘い皮に包まれたこし餡と、わずかに含まれる柑橘の酸味が程良く合わさって、お茶とよく合う。
「美味しいですね」
「それは勿論、一番人気の商品ですから!」
「お前の教会で作って売り出してるしな」
「そらそうよ! ユウコ印は教会から直売だから安全面でも一番だし! まぁ作ったの私なんですけどねー」
たはー、とちょっと笑って見せるユウコに、イストワールは大福を頬張る。
「あむあむ……これは。美味しいです」
「気に入って貰えたのなら良かったぁー、朝一で作った甲斐があります」
「アイエフ……今の俺を見て何か思うことはないか?」
「そうね……。立たないの?」
「立てたらな!」
立ち上がろうにもユウコに踏まれていては立ち上がれない。まるで重石でも乗せられているかのような圧力に、エヌラスは床に突っ伏していた。
「ははっ、うっせーぞー。人様に迷惑掛けるだけかけといて反省しないのかー?」
「反省しとるわ」
「街のどまんなかでシャイニング・インパクトぶっ放したって?」
「……」
「“無限熱量”、撃ったって? 近接昇華呪法、撃ったんだろー?」
「あい……」
「バ カ か お 前 は! うちならともかくよそさまで何してんの!」
「いや、撃たなきゃ逆にここら一帯が消滅してたんだが……」
「そうらしいけどさぁ。もうちょっと出力抑えろよぅ」
「無茶言うな。あの邪神の魔術、俺並に被害叩き出すんだぞ? 現に次元世界幾つかぶっ壊したしな」
「あ”? 今なんつった?」
「…………」
笑顔でドスの利いた声でユウコが足元のエヌラスに視線を落とした。それに肝を冷やされてイストワールとアイエフが固まる。グリグリと背中を踏まれてちょっと背骨がヤバイことになっていた。
「次元世界ぶっ壊したって? 邪神との戦いで? お前今までそんなこと一回もしたことねぇじゃん! なんでアイツだけそんなことになってんの」
「今まではアルシュベイトとかソラとかいたからどうにかなってたが俺一人でどうにか出来たら苦労してねぇわ!」
「だったらどうにかしろよ! 挙句こんな事になってんじゃねぇか!」
「ひぎぃあごめんなしあ!」
メゴシャァッ! ユウコの脚がエヌラスの背中を強烈に踏みつけている。
「……おかしいですね。旧神、とは仮にも次元神に匹敵する役職のはずなのですけれど」
「多分、人間としての地位がネズミ以下だからではないかと思われます、イストワール様……」
もぐもぐと柑橘大福を食べる二人はその様子を眺めながら、ユウコを止めた。
「ゴホン……すいません、見苦しいところを」
「いえ、気になさらないでください。それで、ユウコさんは」
「はい! アダルトゲイムギョウ界随一の商品流通、商業国家ユノスダス国王でっす! 趣味特技は料理! 家事全般! 座右の銘は働かざるもの食うべからず「貧乏人は野垂れ死ね」! ってオイコラぁ! 勝手に付け加えんな!」
「ぐほぉあ!?」
「エヌラス。アンタそろそろ抜け出さないと殺されるんじゃない?」
「ふ、ふふ……俺もそう思い始めてきた……」
なんとか抜け出たエヌラスは、這うようにしてソファーに座り込む。
「それで、不当に雇用しているというお話を耳にしましたが。なんでも、タダ働きをさせられていると」
「正確には、キチンと仕事はするんですよコイツ。でも報酬が渡せなくて……」
「なんでか知らねぇが俺が仕事すると毎回トラブル起きるよな……おかげで報酬貰いそびれるわ勝手に懐に入れられてるわで」
「そういう契約だろー?」
「実質タダ働きってわけなんだよな」
「それって、もしかしてわざとやっていませんか? エヌラスさん。邪神との戦いを口実に」
「――ア、アハハ。ないない。コイツに限ってそれはないですよ、イストワールさん」
「ああ、そりゃないな」
「あ、あははは……な、ないよな? ないよね、エヌラス」
「ねぇよ」
「うわ、かわいくねぇー……」
断言するエヌラスに、ユウコは口をへの字にしながらお茶を冷ましてから口に含む。だが、イストワールとアイエフはなんとなくではあるが、エヌラスが嘘を言っているのが分かった。
「っていうかなんでお前邪神と戦ってるんだっけ?」
「知らん。忘れた」
「ほらー、コイツこういう奴ですよ。気に食わないとかムカツクとか、そんな自分勝手な理由で相手ぶちのめすようなろくでもない人でなしの穀潰し! どこがいいのやら……」
「ほっとけ」
ずずず……、お茶を啜りながらエヌラスはユウコを横目で盗み見た。
「……まぁ。エヌラスさんがそういうなら、別に構いませんけれど」
「?」
「んで、ユウコ。お前はこれからどうすんだ?」
「うーん、そうだねぇ。私としてはやっぱプラネテューヌを見て回りたいな。初めての次元旅行、やっぱり物資の流通とかそういうのは積極的に取り入れたいし、願わくはユノスダスの商品も市場進出狙っちゃう?」
「次元超えてまで商売の話とか勘弁しろよお前……」
「ばっきゃろう、商業国家国王舐めんな!」
「ほんとうに筋金入りの商売人なのですね」
「惚れ惚れするくらい商魂たくましいわねー……」
親指を立てるユウコ。すると、そこにクエストを終えたネプテューヌとネプギアが帰ってきた。
「たっだいまー! いーすん!」
「あら、おかえりなさい。ネプテューヌさん。ネプギアさん。ちょうどお客様がお見えになっていますので、自己紹介をさせていただきますね。こちらがプラネテューヌの守護女神、パープルハートことネプテューヌさんです」
「はじめま――って、あれ? ユウコじゃん! ぅわー、久しぶりー! 元気にしてた?」
「うんうん、私はいつでも超元気だよー! でもあれ? 私と会ったことある? うーん、おかしいなぁ。職業柄、人の顔と名前は忘れないようにしてるつもりなんだけど……ネプテューヌちゃん……うーん、うーん……ごめーん、思い出せないや。どこかで会ったことあると思うんだけどね」
「あ……そっか。ユウコもわたしを知ってるユウコじゃないんだ……」
何度も謝るユウコだったが、そこはやはりネプテューヌの知っているユウコだった。すぐさまニコニコと笑いながら打ち解ける。
「ユウコも教会に泊まってくの?」
「も?」
「エヌラスは教会で保護、って言う形で泊めてるけど」
「へぇ~~~~……そうなんだぁ~~~? なぁエヌラスー?」
「いい、分かってる。お前が言いたいことが痛いほど分かるから何も言うな。頼むからお願いしますマジで!」
「…………アダルトゲイムギョウ界には帰ってこないの?」
「……そういや、向こうはどんな調子だ」
「いつも通りって感じ。お前がいなくなってから、しばらくは邪神とかやっぱ来たけど。そこはほら。最強さん勢揃いだし? ぶっちゃけアゴウの軍隊総動員すりゃどうとでもなってたし。大魔導師もいるしさ、だから別にお前が一人で頑張らなくても大丈夫だよ」
「ん、そうか。んじゃもうしばらくはこっちの世話になるかな」
「むぅー……そっかぁ…………」
むくれながらそっぽを向いて、ユウコがエヌラスを横目で睨む。視線には気づいているのだろうが、無視して柑橘大福を口に運ぶ姿に面白くなさそうにしていた。腕を組んで、胸を持ち上げる。
「ふぅ……まぁ、いいけどさぁ……」
「じゃあさ! ユウコは教会でハウスキーパーとして雇うってのはどうかな?」
「ん?」
「わたし達のお世話をしてくれる代わりに、滞在中は教会で好きに過ごしていいよー。エヌラスだって私のお仕事を手伝ってくれる名目で保護してあげてるんだもん、ユウコもそれぐらいしてあげてもいいよね、いーすん!」
「そうですね。ユウコさんがよろしければ、どうでしょうか?」
「えー? いいんですか? 私結構そういうの頑張っちゃいますよ。あ、でも本業は疎かに出来ないのでたまにで良ければ……」
「全然オッケー! ネプギアもいいよね?」
「お姉ちゃんがいいなら、私もいいよ。ユウコさんの手料理、凄く楽しみですし」
「お、私の手料理は次元を超えて好評かぁ。さてはお前が広めたなー、エヌラス」
「美味いもんは美味いからな」
適当に口裏を合わせるエヌラスに、ユウコは満更でもなさそうに頬を赤くしていた。
「さて。んじゃ、俺は午後からギルドに行って仕事でもしてくる。アイエフにやり方は教えてもらったしな」
「わたしも今日は色々と忙しいの、手伝えなくてごめんなさい」
「いいさ、気にすんな」
「わたしは午後からはゲームをするって決めてたからテコでも動かないからねー!」
「お前にゃ期待してねぇから心配すんな。たっぷり遊んでろ」
そう言いながら、エヌラスは教会を後にする。
「……プラネテューヌのシェア、大丈夫でしょうか?」
それに一抹の不安を抱えるのはイストワールだけだった。