超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラスがギルドに到着すると、昨日に比べると人が少ない。ギルドに貼り付けられているクエストをザッと眺める。この周辺の地理には疎いが、まぁプラネテューヌ周辺の案内看板でも見ればどうにかなるだろう。
内容を見れば、千差万別。理由はともあれ、人々の出す依頼には多少なりとも報酬が支払われる。日々の金銭を稼ぐにはここで仕事を受ける他にない。とくに自分のような人間には。
「ふーむ……」
だが、ひとまずは簡単なクエストを受注しておく。準備体操はしっかりと。
その中に、ふと、目を引くものがあった。手に取って内容に目を通しておく。
「スライヌの耳、納品? ヤンキーキャットの耳、納品……ん? これ同じ相手からか……」
どうして一枚にまとめておかないのか疑問を抱きながらも、エヌラスはそのクエストを受けることにした。人にはそれぞれの事情があるのだろう。ひとまず、近場で済ませられるものから片付ける順番に並べ替えながらギルドを後にする。
元通りに舗装工事を終えた場所では、一人のロボットが周囲を見渡しながらしきりに手元のメモに視線を落としていた。
「おーい、そこのロボット――確か、レオルド?」
《あ、エヌラスさん。どうもっす》
「よう。何してんだ?」
《パシリっす!》
「そこまで自信満々に自覚のあるパシリ初めて見た」
親指を立ててみせるレオルドは、背中にマウントするはずの武装が全て買い物袋で埋まっている。
「すげぇ量だな……」
《はい! 自分、今回の演習で最下位を記録して先輩方からパシリ頼まれました! 大丈夫っす、慣れてるんで! でも、その……》
「どうした?」
《コンビニでコレ買ってくるように頼まれて困ってるっす……》
メモを指差す。そこには赤い丸で『ビニコンのエロ雑誌。R18アイランド特別号・壮観なる特殊性癖特集』に『超重要!!!』と書かれていた。
「高校生かよ……」
《いや、流石に自分でもこれは無理です……しかも》
「?」
レオルドの視線の先にはコンビニ。眼と鼻の先にあるが、そこでレジに立っているのは女性の店員だった。ポニーテールにさわやかな笑顔の、うら若い女性店員。だからこそエロ本を会計するというのが躊躇われた。
《結構、馴染みあるコンビニなんす……》
「なんだ。んじゃ俺が買ってくる。ちょっと待ってろ。金借りるぞ」
《あ、えっ!? マジすか!?》
手にしていた財布を流れるように抜き取ると、引き止める暇もなくエヌラスはコンビニへと足を踏み入れる――。
「いらっしゃいませー」
店員の快活な挨拶。女性店員の顔を一度チラリと見て、視線を外す。そのまま左手側で足を向ける。成る程、確かに。レオルドがエロ本を差し出すという行為を躊躇うわけだ。見立ては悪くない、上々といった感じである。小顔ながら、まるっとした瞳に女性らしい小さな背丈にコンビニの制服が似合っていた。育ちが育ちだけに、一目で相手がどういった人物かを見抜けないと命に関わる環境で鍛え上げられた観察眼が、なるほどと再度頷く。おそらくは、処女だ。純真無垢な女性というのは珍しい。だが忘れてはならない――そう、女は化粧で化ける。かわいい顔などいくらでも作れる! だが、エヌラスは仮にも魔術を扱う身分。ゆえに、その副産物とも言うべき術も幾つか嗜んでいる。まぁ私生活に全く活かされないスキルなのだが。その中にある占術、俗にいう占いの類。名は体を現し、態度は服装に出て、顔は生活を表す。それらの点から彼女の人物像を成人向け雑誌コーナーに立ちながら考える。
名前は二の次。まず制服。ピシッと着こなし、清潔さを保っていた。そして使用頻度の高いペンなどもしっかりと自ら保持している。規律を重んじて、かつ用意周到。顔立ちはどうか? 健康的な肌に、小ぶりな顔のライン。食生活がしっかりとしているのだろう。バランスの良い食事に睡眠。私生活においてストレスを抱え込むことのないような、清涼感のある生活基盤。化粧はどうか?
これもまた、控えめにしてある。接客業という職業柄、そう派手なメイクが許可されていないのは当然だ。だが、その中でも軽く整えるという感じで済ませている。それは元が良いということか。自分の容姿に不満がそれほどないのだろう。
――さて、そこまでで構築された人物像。要約してしまえば、コンビニ店員の彼女は実に良い振る舞いの女性だ。男がいるのかどうか、という下世話な勘ぐりはこの際どうでもいい。確かに、そんな女性へ向けて、手にした卑猥な雑誌を差し出すというのは些か良心が痛む。
表紙の時点で既に、豊満なスタイルの女性が触手責めにされて粘液に塗れている。白昼堂々と手にするようなものでもない。隣で立ち読みしている男性客の視線に、横目で応える。
『君は……そのエロ本を買うというのか』
『ああ。そのつもりだ』
小さく頷き、男性客は雑誌を棚に戻した。
『何のために』
眼鏡を直しながら、男性客はあくまでも平静を務めて視線を投げかける。エヌラスの視線の先、コンビニのガラス越しに見守るロボットが一人。立ち尽くしている。
『悲しいものだな。本能を凌駕する理性は』
『……彼のためにか』
興味本位でパラパラとページを捲ってみると、確かにそこには特殊性壁が凝縮されていた。触手だけでなく、後ろの穴や異種姦。拘束やフィストファック。エヌラスは一通りのページを流し見てから、閉じる。週間コミック雑誌ほどの厚さがあるそれを手にしてレジへと向かった。
全年齢の雑誌でカモフラージュすることもなく、白昼堂々と他に女性客がいる中で、手にした雑誌はR18アイランド特別号・壮観なる特殊性癖特集。人目につくことすら憚られる雑誌を手に、エヌラスは純粋な目をしている女性店員の前に立った。
「いらっしゃいませ」
雑誌を差し出す。それは女性の純潔を奪うに等しい行為だ。聖域への侵略行為。だがエヌラスは、さもそれが日常茶飯事であるかのように、静かに差し出した。女性店員が受け取り、手元に視線を落とす。顔を赤くして、裏表紙のバーコードをスキャンする。エヌラスはそれに釣り銭がないように金額を支払おうと財布の中を探った。一方で、女性店員は見ていられないとでも言うように袋を探し始める。コレを包装して自分から遠ざけようというのだ。
「そのままで」
だが、それに先手を打ったのはエヌラスだった。
――そのまま、だと……!?
店内に居た男性客がざわめく。特殊性癖の、それもコンビニの店内でひっそりと片隅で埃をかぶり、深夜営業の中で戦々恐々と手にされるはずの産物を、よもや一切隠さずに。それも女性店員の手渡しを所望していた。だが忘れてはならない。商品は、買ってから家に持ち帰らなくてはならない。つまりはそれを衆人環視の中に、手で持って行くのと同じこと。それは、もはや侵してはならない暗黙のルールのはず。それを正面から殴りにいっている、この男は一体……!? 男性客は戦慄していた。
きっちり釣り銭無しでピッタリ支払うと、女性店員はレシートを渡す。それを受け取り、腫れ物でも扱うように差し出される成人向け雑誌を手にする。
「あ、ぁりがとうございましたぁ……」
頬を赤くして、女性店員は言葉を尻すぼみにしながらその背中を見送った。
男は戦利品を手にして颯爽と店を後にする――その姿に、コンビニに来ていた男性客は知らず知らずの内に親指を立てていた。
後に、男性客達によって語られる『黒衣のアダルト
エヌラスはコンビニを出ると財布を返して、雑誌とレシートを渡した。
「ほれ。これでいいんだろ?」
《あ、アザーッス! 感謝っす!! 自分、今すごく感動してるっす! まさか昼間から女性店員に向けて威風堂々と、あんな貫禄のあるエロ本の会計初めて見ました!》
「よせやい」
《ありがとうございます! そうだ、自分も何か手伝えないっすかね》
「ん? いいのか?」
《もちろんです! はい! 命の恩人ですから!》
「そういうことなら、ちょっとクエスト手伝ってくれるか? ひとりでも良いんだが、二人のほうが効率はいいだろうしな」
《お安いご用っすよ! じゃあちょっと荷物届けてくるっす! 待ち合わせ場所はバーチャフォレストっていいすか?》
「ああ、いいぜ。先に行ってる」
《了解です!》
走り去るレオルドを見送ってから、エヌラスは頭を掻く。ふと、背後から視線を感じて振り向くとそこには――。
「…………」
「…………」
コンパが立っていた。少し頬を赤くしている。
「えぬえぬ……え、えっちなことに興味……あるですか?」
「……いつからいた?」
「ちょうど、コンビニに入る辺りからですぅ」
一連のやり取りを目撃されていた模様。つまりは、何を手にしていたかも完全に見られていたということだ。
「……コンパ。俺は健全な成人男性だ。興味が無いといえばピノキオの鼻が世界一周する」
「そんなに伸びるです?」
「理論上は。だからな、その、なんだ……何も言わないでくれ」
「はいですぅ……」
プラネタワーへやってきたコンパにユウコを紹介すると、二人はすぐに打ち解けた。
「ねぷねぷー」
「んー? どうしたのさコンパ?」
「さっき、えぬえぬがコンビニでえっちな本を買ってたですぅ」
『ブゥーーーーー!!!』
お茶を飲んでいたネプギアが、座っていたユウコが、ジュースを口にしたネプテューヌが、その場にいた全員が噴き出す。
「……や、やーっぱ。溜まってるのかな……」
「ずっと戦い詰めだったみたいですから、致し方ないことかと……男性の方は大変だと聞きますし」
「う、うぅ……エヌラスさん、なにしてるんだろう……」