超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
アルシュベイトとエヌラスの決闘が始まった。背後から甲高い剣戟の音、木々の背丈を越える土煙が上がっている。それがアルシュベイトの“ただの”打ち下ろしであるということをトライデントの背に掴まった三人は知らない。その方が余計な心配に気を病む必要もなくなる。
「ねぇ、アナタ達ってロボットなの? 私達の世界にもアナタ達みたいな外見の人はいるけど」
ノワールがふとした疑問をランス
《ロボットじゃねぇ、機人だ。機械人類! とっくに肉の容れ物なんて捨てちまったよ!》
「えっ。じゃあ別にこれの中に誰か入っているわけじゃないの!?」
《アンタらの世界がどうだか知らねぇが一緒にすんな! 俺達のナマはこれっきりだ!》
《03。お前、口調が戻ってるぞ》
《作戦行動中でもねぇんだ、いいだろ
《今まさに、アルシュベイト様からの命令で行動中なわけだが?》
《……だそうだ。嬢さん、悪いが私語を慎めだと、俺達の隊長が》
しかし、その話を聞いて今度はネプギアが興味津々な面持ちでランス
「あの、じゃあ貴方達ってどうやって産まれてきたんですか?」
《……元々は人間でした》
「へ?」
《我々が人間であった頃の肉体を捨てたのには理由がありますが、今は伏せさせていただきます。どうか、ご了承ください。我らの中でも機密情報ですので》
「は、はい……そうまで言うなら」
“エヌラスさん。大丈夫かな……”
そんなネプギアの不安を目ざとく感じ取ったのか、ランス02が《大丈夫でしょう》と小さく答えた。それに面食らったネプギアが間の抜けたな声で答えてしまう。
「ほへ?」
《あなた方が共に行動したエヌラスという青年。あれも我らが王、アルシュベイト様と肩を並べるだけの実力を持っています。それに、あの二人の決闘は今に始まったことではない。今まで幾度と無く繰り返し刃を交わしています》
「じゃあ……」
《心配は無用、ということです》
それでも、ネプギアの不安は拭えなかった。一日しかこの世界にいなかったけれど、崩壊に向かっているアダルトゲイムギョウ界を止めることはできないだろうか。最後の一人を決める為の戦争が起こっている。
「お姉ちゃーん! 私達、本当にこのまま帰っていいのかなー!」
《あのー、お嬢さん? 大声出さなくても私達には通信機能がありますので……》
「あ、ごめんなさい……」
シュンと落ち込むネプギアだったが、先陣を切るランス01の背中ではネプテューヌがジェットコースターに乗ったようにはしゃいでいた。
「わぁ~~!! 凄いすごーい! まるでノーヘルでバイクに乗ってるみたいだよぉー!」
《ええい、さっきから人の背中ではしゃぐな! ノイズが入って周囲の探知がうまくいかないだろう! おいどっちかこの子と代わってくれないか!?》
《悪いな01、俺はこの嬢ちゃんがいいんだ》
《すまない、01。私もこの子がいい。おとなしいからな》
《こぉの薄情者ぉぉぉぉぉぉぉ!!》
「……姉がご迷惑おかけします」
なんだか気恥ずかしくなってネプギアが顔を赤くする。
『んー、でもさ。いいんじゃないかな?』
「えっ?」
唐突にランス02の通信機からネプテューヌの声がして驚き、先行するランス01の背中に視線を向けるとネプテューヌが笑顔でピースサインをしていた。
『だって、インタースカイに到着したらゲイムギョウ界に帰れるわけでしょ? それってつまり、両方の世界を自在に行き来できることが可能ってことなんじゃないかな。もしそうだとしたら、またこっちの世界に来ればいいんだし。ね、ポリデント部隊!』
《《《トライデントだッ!!!》》》
三人同時のツッコミに通信機が音割れする。だが、ネプテューヌの慧眼にはぐぅの音も出ない。
《大体、君たちは無関係なんだ。わざわざ我々の戦争に参加しなくたっていいだろう?》
『そういうわけにはいかないよー。世界が崩壊に向かっているって聞いて、知らんぷりしろっていうの? 出来ないよそんなの。戦いを止める方法が絶対にあるはずだって!』
《……残念ながら、不可能なんだ。諦めてくれ》
『いやですよーだ! 私だって国を預かる女神様なんだから、いまさら一つや二つくらい世界を救ったって変わんないよー』
《今考えたジョークにしては今世紀最高の出来だな》
『アッレェ!? 私ってそんなに信頼ない!?』
《……信じらんねぇくらい賑やかだな、あの嬢ちゃん》
「連れが迷惑掛けて悪いわね……」
《いいってことよ。あれくらい華やかさがないとツマンネェよ》
笑いのこもった電子音声は、確かに機械の身体だけでは成し得ない感情だ。量産型とはいえその内部にある魂の記憶は十人十色、千差万別。ただの一人として同じ個体が存在しない。
《あー、オホン。02、03。インタースカイへのルートを送る》
視覚ユニットに投影されるディスプレイには索敵範囲いっぱいの地図。そして、インタースカイまでのルートが幾つか表示された。……覗きこんでいたノワールの気のせいでなければ、その真っ赤に染まっている地域は『
《最短ルートを突っ切る。モンスターの密集地帯を突破することとなるが、構わないか》
《本気か、01。背中に嬢ちゃん背負って行くってのかよ》
《あまり得策とは言えませんね》
《だからこそ、だ。この少女達に、我ら親衛隊の実力を見せる意味合いも含めてな》
『ちょっとしたハプニングがあった方が面白いよー、私は全然オッケー!』
《……あと、ちょっと黙らせたい》
――ああ。この人、苦労してるんだなぁ……。ネプギアとノワールが何となくランス01の心労を汲み取って同情した。中間管理職はどこの世界のどの人間も胃薬が手放せないらしい。機械の身体に胃薬が必要かどうかはともかくとして。
《我らの隊長はあえて茨の道を踏み抜くつもりですが、大丈夫ですか?》
「はい。私は大丈夫です!」
《だそうだ、いいかい?》
「ええ。気遣ってくれてありがと。でも、問題ないわ」
両者の同意を得たことにより、ランス01はその進路を最短距離に設定する。幾つか提示されていたルートが消去されて、一本だけ残された。危険地帯の中を突っ切るという無謀な道。
《危険地帯突入と同時に
《ランス02、了解!》
《ランス03、了解!》
《陣形はこのまま。右翼は02、左翼は03。中央は私が担当する!》
ランス01の迷いのない作戦指示に、まるでそれが予め取り決められていたかのような相槌を間髪入れず返した。
間もなくして、その危険地帯へと差し掛かる。上空から眺める限り、モンスターが地面を覆って黒く蠢いていた。それが見渡す限り続いていた。それを見たネプテューヌ達三人が青ざめる。思わず強気に返事してしまったが――“コレ”を抜けると言っているのだ。
魑魅魍魎が跳梁跋扈する地獄絵図。百鬼夜行でもここまでの過密地帯にはならない。
『な、なななななななんじゃありゃぁぁぁぁ!? まるでコミケだよ!? 夏と冬とその他イベントが開催されているかのような密集地帯だよ!? あれ抜けるの!? 冗談でしょ!!』
《さっきのジョークよりは笑えまい》
『冗談じゃなくて、本当に女神なんだってばぁぁぁぁ!』
ネプテューヌの取り乱しようは尤もだ。モンスター同士が争い合っているこの地域はあまりにも異常すぎる。まるでここに取り憑かれたような執着を見せていた。力尽きた死骸を踏み、血で血を洗い、目先の獲物を狩ることばかりに目を取られている。
突如としてなくなる足場。切り立った崖の壁面ギリギリで三人は一度着地して、二本の足で走った。大きく揺れる身体にネプギアとノワールがしっかりと掴まる。
《往くぞ、我らがトライデントと呼ばれる由縁。しかと見せつけてやろう!》
ランス01が崖から飛び降りる。それに続いて自由落下する三人が、起伏の激しい壁面に目測をつけて蹴りつけると同時に腰部ブースターを一瞬だけ吹かした。体重が重力の縛りを抜ける瞬間にだけブーストして最低限の燃費で最大限の距離を稼ぐ。これは出撃だけでなく帰還するための推進剤を確保する為の移動方法でもある。
三人(と少女三人)の乱入に気づいたモンスターは上を見上げた瞬間に蜂の巣にされて肉片を踏みにじられた。各々の着地地点を確保すると、即座に短距離跳躍でその場を離れる。獲物を逃した爪と牙が目の前のモンスター同士にすり替わり、何事もなかったかのように争いが始まった。
むせ返るほどの血の匂いが充満していた。吐き気を催すような狂気の戦場には不釣り合いな甘美な匂いにネプギアが顔をしかめる。
《01、大型三匹! 中型四匹、進路上! どうする!》
《見えている! 単縦陣形で突破する! 先陣を譲るぞ03、大暴れしてやれ!》
《ィヨッシャアアアアアアッ!!》
それは歓喜の叫びだった。跳躍したままランス03がランス02に弾倉を交換した突撃銃を投げ渡す。突撃銃を左手に持ち替えていたランス02が器用に片手でキャッチすると、背部ラックに背負っていた二挺の突撃銃を前面に展開した。
長刀を二本取り出すなり、両肩に担ぎあげる。
大型モンスターが三匹、三つ巴の争いを広げている。その足元では中型モンスターが四匹、おそらくは番い同士の争いだろう。血みどろになっていた。
このままでは着地地点で中型モンスターの争いに巻き込まれる。そうなれば次の短距離跳躍は大型モンスターに進路を阻まれて大きなタイムロスとなるはずだ。その股下では小型モンスターの群れが例に漏れず狂ったように暴れている。
『どうするつもりですか?』
《02!》
ネプギアの言葉に、ランス01は号令一つで答えてみせた。
ランス02が前面に展開した“四挺”の突撃銃を同時に発砲する。それでまずは着地地点の確保、だが、大型モンスターの顔が乱入する機人達にのっそりと向けられていた。岩のような体躯に、羽を失ったデカイトカゲ。地を這うドラゴンそのものの顔にランス01が突撃銃下部に装着していたグレネードランチャーを浴びせかけた。鼻っ柱に撃ち込まれてもビクともしない。だが、爆炎で視界を大きく遮られた。
《行け、03!》
《ちぃと借りるぜ、大将!》
急にブースターを停止したランス03が加速した01と衝突する――かに思われた。だが、その大きく張り出した両肩に脚を乗せると、あろうことか隊長を足場にして跳躍。大型ドラゴンの眼前まで跳び上がる。
《チェエエエエエエヤアアアアアア!!!》
気迫の剛刀二閃。打ち込まれた二刀が頑強な顔面の皮を斬り裂き、叩き割って鮮血が溢れる。真新しい傷口に脚を乗せると、ランス03はその勢いのままに駆け上がった。
着地までの間にグレネードランチャーの装填と左肩の突撃銃を構えたランス01がランス02にアイサインを送る。その意図を組んだ二人は着地と同時に銃口を大型ドラゴンの前脚へ向ける。
そして、両前足に合計六発。グレネードランチャーが直撃して前のめりに大きく倒れこむ。その背中を足場にして二人がランス03の後を追う。
文字通り“切り抜けた”三人はそれぞれの装備を戻して危険地帯の出口まで差し掛かる。終わりが見えた矢先に、一匹のドラゴンが不意に飛び上がった。それは、空中で三人の進路を阻むような態勢で。だが不慮の事態でも三人は即座に対応した。
真正面からぶつかろうとするランス01に鉤爪が振り下ろされる。だがこれを片方のブースターの推力を切って、ロールしながら回避と同時に下に回り込む。
《
突撃銃の弾丸を全身に浴びせかけられ、弾倉が底を尽くと同時にグレネードランチャーを撃ち込まれたドラゴンを一瞥もくれずトライデント部隊は危険地帯を華々しく爆煙に見送られて通過。都合三十分にも満たぬ激戦地区を傷一つ負わず、それも背中に少女たちを背負ったまま。
アゴウ最強戦力であるトライデントの名に偽り一つ見せることはなかった。