超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――プラネテューヌ第三資源採掘場
《すいませーん!! 誰かいますかー!!》
レオルドが稼働している掘削機に負けないくらいに声を張り上げる。その手には集めたスライヌの耳と尻尾。合わせてヤンキーキャットの耳と尻尾も入った袋。薄暗い洞窟の中に向かって声を張り上げたものの、誰も出てこない。詰め所に向かうと、そこでは細身のフォルムの機体が狙撃銃を調整していた。
《ジーンさん、こんちゃっす》
《……レオルドか。どうした?》
《どうしたはこっちの台詞です。何ですか、このギルドへのクエスト。耳と尻尾集めって》
《お前がやったのか?》
《あ、いえ、自分はお手伝いしただけです。とりあえず置いておくっすね。他の人達は?》
《向こうの視聴覚室でなんか観てる》
《じゃあ挨拶だけでもしてきます》
《うむ》
一応ノックしてから隣の視聴覚室へと入る。するとそこでは、過去にネットで流れた四女神達の拘束された姿が大画面で流れていた。
《何見てんすかーーーー!?》
《シッ! うるせぇぞ! ってお前、レオルドじゃないか!》
《ディルさん、こんちゃっす。ってそうじゃなくて! なんでそれ観てるんすか!? 昔ネットに流出した映像っすよね!? 消されたんじゃないっすか!?》
《馬鹿野郎お前俺は保存したぞお前! それこそ光の速度で一足お先にな!》
《シュラ、相変わらずお前の煩悩は振り切れてるよな……》
しかも綺麗にパープルハート以外はモザイク処理を施されている。むしろそれのせいで逆にいかがわしい映像作品に仕上がっているが、個人的視聴が目的の為なので決して外部には漏らしていなかった。
《…………》
《…………》
《…………》
《…………》
セイン、ディル、シュラ。そしてレオルドも正座でプロジェクターに映し出される女神パープルハートの拘束シーンを薄暗い視聴覚室で食い入る様に視聴中。
《そういえば、珍しいな。レオルドが此処に来るなんて》
《あ、ギルドに発注してたクエスト。やっといたっす》
《おお、本当か! ありがとな!》
《でも、モンスターの耳とか尻尾とか何に使うんです?》
《想像してみろお前。いいか? 女神パープルハート様が! ケモミミのモッフモフだぞ! たまらんだろ!》
《もうそれだけでプラネテューヌのシェアは爆発的に増大するに違いない!》
《これぞプラネテューヌのシェア増加作戦! 名づけて『ケモミミ女神でねっぷねぷ』だ!》
《一歩間違えたら通報待ったなしのネーミングはどうにかならなかったんですか、セインさん》
《ごめん、今ノリと勢いで名付けた》
《あ、そうっすか……》
温度の上下が激しいノリには、慣れたレオルドですら久しぶりで疲れる。とはいえ、悪い人たちではない。悪い人達ではないのだが――良くも悪くも、欲望に忠実というか。愛すべきバカというか、煩悩の塊というか……とどのつまり、変人しかいない。
《どうだ、レオルド。想像してみろ! ケモミミと尻尾のパープルハート様! もふもふしたくて堪らんだろう! 凄いだろ! やばいだろう!》
《は、はぁ……ディルさんの言う通りっすけど……》
《歯切れが悪いな、レオルド。パープルハート様に対する萌えエネジーでシェア増加待ったなしだと思わないか?》
《いやまぁ、確かにかわいいと思いますよセインさん……》
《もー、何が不満なんだ! 言ってみろ!》
《いえ、自分……パープルハート様よりネプテューヌ様派っす》
………………。
……………………。
…………………………。
間。そして視聴覚室に響くくっそでかい溜息の三重奏。
《お前にはガッカリだよ、万年最下位ドベ太郎…………》
《この裏切り者め……》
《でもそれはそれとして納品ありがとうな…………》
《な、何ですかこのお通夜ムード!? やめてくださいよ!》
先ほどまでのテンションから打って変わって静かな緊張感が流れる。
《いいんだ、分かってる。うんうん、それもまたトンカツ(トンデモナイレベルの信仰活動)だよな》
《絶対分かってないっすよね?! トンカツ(サクサク衣の豚の揚げ物)の話題してないっすよね!?》
《いや、用が済んだら帰れよお前……ガッカリだよガチペドロリコン》
《流石に怒るっすよ!? もーいいっす! ちゃんと報酬は届けてくださいね! じゃあみなさんまた今度! 失礼しましたっす!》
文句は言いながらもキチンとお辞儀をしてから視聴覚室を出て行くレオルドは、狙撃銃の調整を終えたジーンがカリカリと何かノートを書いている姿を見て会釈しながら横を通った。
《ジーンさん、お疲れ様でした》
《ん》
《何書いてるっすか? 報告書ですか?》
《日記だ》
《そうですか。じゃあ、また今度合同演習の時にでもよろしくっす》
《元気でな》
ノートから視線は外さずに、ジーンはレオルドに手を振る。
ジーンの日記――『○月○日 今日の天気 晴れ 今日は他の三人が隣の視聴覚室で昔流出したネットの動画を垂れ流してました。夢に出るくらい観たので自分は遠慮していましたが、珍しくレオルドが訪ねてきたのでテンションが上がりました。どうやら以前に発注したクエストをやってくれたみたいです。万年最下位とはいえ、やっぱりアイツは良い奴なんだなと思う。アレぐらいまともな人達に囲まれた職場に異動したいと考えているので今度シロトラ教官に異動届を出してみよう』
――余談ではあるが、その申請が却下されて荒れたジーンは演習で滅茶苦茶突撃した。圧勝だった。
教会に戻ってきたネプギアとユウコ、それにエヌラスはネプテューヌとイストワールに迎えられて一段落。コンパとアイエフも夕飯前に帰ってきた。
「よーっし! じゃあ今夜はユウコちゃん頑張っちゃうぞ!」
「自分をちゃん付けすんな」
「食材にされてぇか」
「こわい」
「コホン。腕によりをかけて私と!」
「わたしが、頑張るです~」
ユウコとコンパの二人が台所へと仲良く消える。
「ユウコさん、まるで昔から居たみたいにすぐ皆と打ち解けてますね」
「人見知りしないし、後は仕事柄だ。いちいち相手の顔色窺ってたらキリがねぇ」
ソファーに座ってくつろぐエヌラスが天井を見上げた。
「帰ってくるなりどうしたのよ、だらしないわねぇ」
「あぁ、いや……悪い。思ったより疲れてるみたいでな」
「邪神退治に比べたらなんともないはずでしょ? どうしたのよ、エヌラス」
「他人といると気を遣ってしょうがないんだ。一人で暴れる時と違って、巻き込まないようにしなきゃいけないしな」
「つまり、心労ってわけ?」
「情けないことになー……特に今日は、レオルドって奴と一緒にクエスト行ったせいで尚更な」
「国境警備隊と? ハァドラインの連中ともう付き合い始めてるとか、流石は犯罪王ね」
「それを言わないでくれ……昔の話だ」
「へー? じゃあ今は?」
「……か」
「か?」
「仮住まいのエヌラッティ……」
「自虐ネタも程々にしなさいよ……」
いたたまれなくて目を背ける始末。とはいえ、疲労は疲労だ。エヌラスはコートの裏ポケットからシガレットケースを取り出すと、煙草を咥える。だが、視線を感じて火を点けるのを止めた。
「悪い。外行ってくる」
「タバコを吸うのはちょっと感心しないわね」
「うんうん。ゲーム機とかに臭い移っちゃうし、というかエヌラスってタバコ吸ってたっけ?」
「ですがそのタバコでしたら、臭いの心配はないのでは?」
「いや、そうもいかねぇさ」
外に出て火を点けるエヌラスの背中を見ていたイストワールに、ネプテューヌが疑問符を浮かべる。
「あれ? いーすんはエヌラスがタバコ吸うの知ってたの?」
「はい。とはいえ、アレがタバコというのはちょっと気が引けますけれど……まぁ、そのような形をしているので仕方ありませんね」
「じゃあ、あれ本当は何なんですか?」
「なんでも、一箱で常人を廃人にするという脱法ハーブ多数使用の魔術ドラッグらしいですよ」
「え、それを知ってて止めないんですかイストワール様!?」
「はい。邪神と真っ向から戦い続けるという意味を考えれば、多少、彼のやることは大目に見ることにします。それに、あれが無いと“右腕”が動かせなくなるらしいですからね」
右腕――その単語に、ネプテューヌとネプギアの脳裏には凄惨な酸鼻を極める血闘が蘇った。
無尽蔵の絶望、ヌルズ。そしてエヌラスの招喚した“機械仕掛けの神様”同士の決戦は、瀕死の重傷を負いながらもエヌラスが勝利を収めたものの、右腕は……。
「…………ねぇ、いーすん。わたし、今日エヌラスと一緒にお風呂入ってもいいかな?」
「え?」
「え?」
「えっ? あいちゃんまでどうしたのさ」
「……ま、まぁ……そういう関係っていうのは知ってたけど……えっと、ごめんやっぱ待って。えーっと……エヌラスと、ネプ子が、一緒に、お風呂。よね」
ひとつひとつ確かめるようにアイエフが言葉を噛みしめる。
「……後でわたし達も入るんだから、変なことしないでよ?」
「やったー、あいちゃんから許可出た! いーすんは?」
「そうですね……まぁ、背中を流すくらいでしたら構いませんよ」
「わーい」
「ただし、浴場での淫行が発覚した場合はエヌラスさんの身の安全は保障致しませんが。――よろしいですか、ネプテューヌさん?」
「わ、わぁい……」
目元が笑っていないイストワールに背筋を震わせながらも、一応。許可は降りた。