超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
翌日――。
「おはよー、あいちゃん」
「おはようございます、アイエフさん。コンパさんも」
「あら、おはよう――今日は珍しいのね、早起きで」
「おはようですぅ、ねぷねぷ」
「やっほうおはよう天気予報! 今日も一日晴れだってさ、イイネ!」
器用なことに、両腕に料理の皿を持っているだけでなく頭にまで載せた朝食を並べていくユウコに、ネプテューヌ達が驚く。
「わっ、ビックリしたぁ!?」
「そ、そういえば泊まっていったのよね……あの、ユウコさん」
「私のことはユウコでいいよーアイエフちゃん」
「そういうことでしたら遠慮なく。早起きなんですね」
「そらぁもう。あ、これ二人のお弁当ね。はい」
「お、お弁当まで作ってくれたですか? ありがとうですぅ」
「いやー、楽しいね! 私こういうのやってみたかったんだよ。さぁさぁ冷めない内に食べちゃって」
寝起きの胃袋に流しこむには程良い軽食は、まるで喫茶店のモーニングセットのような献立で並べられていた。サンドイッチにスコッチエッグ、ウインナーとオニオンスープ。
「さーて、後はねぼすけサンタマリアを叩き起こすだけだ。へっへっへ、私のフライパンとお玉が奏でる目覚まし音頭で鼓膜はち切れさせてやるぜ……」
「いや、普通に起こしてもらえないですか?」
「そうするよ。ほらーエヌラス! 朝だぞー!」
そして、ネプテューヌの部屋に入っていくのを見て――昨晩の出来事にネプギアが「あっ」という間に部屋へ入っていく。
「うわ、エロイ臭いする! 換気しろ換気!」
「ブッホゴフッ!!」
ユウコの叫びにアイエフが飲んでいたオニオンスープを食道から逆流させて盛大にむせていた。ネプテューヌは顔を赤くして背け、ネプギアは小さくなっている。コンパだけはモグモグとサンドイッチを頬張っていた。
「ねぷねぷ。えぬえぬとえっちぃことしてたです?」
「う、うん……ちょっとやり過ぎたかなー、とは思うけど……」
「ユウコさん、声が大きいよぅ……」
「あいちゃん、だいじょうぶです~? こんなにこぼしたらもったいないです」
「げほ、えほっ……! あ、ありがとコンパ。もう、ネプ子!? アンタ一体何してたのよ!」
「うぅぅ~……! なにしてたってナニしてたに決まってんじゃん! だってベッドでギシアン事案はいーすんに禁止されてないもんね!」
案の定――朝から大惨事である。
プラネテューヌで正座するのは二度目である。三度目の正直という言葉があるが、果たして。
ネプテューヌ、ネプギア、エヌラスの三人が仲良く正座している前には、腕を組んでいるアイエフとイストワール。
「一体何事ですか? アイエフさん」
「聞いてくださいイストワール様。ネプ子がですね――」
「ふんふんなるほど――」
「うぅ、あいちゃんが先生に告口する委員長みたいなポジションだよぅ」
「いるよなー、そういう優等生のお手本みたいなの」
「アンタらうっさい! 自分がどういう立場にあるか分かってんの? 犯罪よ犯罪」
「そんなに怒らなくてもいいじゃんかぁ……はぁ~あ、朝からやる気なくすなぁ……」
「いってくるで~す」
「はーい、いってらっしゃーい。気をつけてねーコンちゃーん」
笑顔で弁当を手にしてコンパは勤務先の病院へ。それにユウコは笑顔で手を振って送り出す。
「それで、処罰はどうしますか? プリン禁止令出しますか?」
「そ、そんな――!? 正気の沙汰とは思えない処罰! わたしにとっては地獄すら生ぬるい!」
「アンタはそんだけのことしたのよ。わかってんの、ネプ子。仮にも一国を預かる女神がそんな肌を許すなんて許していいと思いますか、イストワール様」
「……別にいいんではないでしょうか?」
「そうですよね。別にいいですよね。そうと決まれば――――――――――え?」
「いえ、ですから。別に良いと思いますよ」
イストワールはあっけらかんと答え、アイエフの頬が引きつっていた。相手が相手だけにちょっと脳の理解が追いついていないらしい。
「えっと、その……別にいいとは、どういう」
「言葉通りの意味ですが。ひとつお聞きします、ネプテューヌさん」
「うん」
「互いに合意の上で、同意を求めたから行為に及んだんですか?」
「そうだよ。ねー、ネプギア」
「はい、そうです」
「それでしたら、私からは何も言うことはありません」
「えっ!? 本気ですかイストワール様!?」
「アイエフさん。女神といえど、恋仲になる殿方との付き合いもあるでしょう。まぁ、本来ですと許されないことなんですが……それはそれです。男女の恋の営み、それぐらいは普通です」
「……」
「そんなに目くじらを立てなくてもいいではありませんか」
昨晩まで、アイエフと一緒になってエヌラスを警戒していたイストワールがまさかの許可。それに面食らってパクパクと口を開ける姿に、ネプテューヌもポカンとしている。
「えっ、いーすん? えっと、どうしたの?」
「ネプテューヌさん。ネプギアさん。私は確かに、お二人がエヌラスさんとお風呂場で淫行に及ぶことを禁止しました。それは然るべき場所でキチンとしてほしいからです。アイエフさんやコンパさんだけでなく、今はユウコさんまで使うのですから。掃除するから、なんて軽い気持ちでは困りますよ?」
「じゃあ、ベッドでだったらいくらでもエッチなことしてもいいの!」
「た・だ・し、ですよ。場所を弁えて、時間も考えてくださいね? ネプテューヌさん、ネプギアさん。プラネテューヌの、女 神 な ん で す か ら?」
「…………は、はい」
「分かってくれたのなら、結構です」
ニッッッッコリと笑ってイストワールはエヌラスに視線を移し、顔の前で止まった。
「エヌラスさん」
「はい」
「ネプテューヌさんとネプギアさんを、愛していますか?」
「愛してるさ」
即答する。それにネプテューヌもネプギアも、聞いていたアイエフも尋ねたイストワールも赤面していた。ユウコだけは鼻歌混じりに掃除と洗濯を併行して始めている。
「……えと、コホン。口先だけでなら、まぁ言えるかもしれませんね。でもその覚悟を、ちゃんと見せてくれますか」
「……どうやって?」
「そうですね……では、こうしましょう。今、ゲイムギョウ界で抱えている問題を解決してください。アダルトゲイムギョウ界で旧神として活躍していることを、このゲイムギョウ界で」
「俺の本業は邪神狩りで……」
「はい。ですので、ハァドラインへの対抗策をお願いします」
「臨むところだ。もとよりそのつもりだったしな、手間が省けた」
「アイエフさん」
「……はい。なんですか、イストワール様」
「出来る限り、エヌラスさんのサポートをお願いしますね」
「わかりました」
アイエフからエヌラスに向けられる視線はあくまでも平静を努めているが、どこか軽蔑の眼差しも含まれていた。
「そういうことだから、今日は全員でクエストに行くわよ。文句はないわね、ネプ子」
「うぅ、お仕事嫌だなぁ……あ、わたしぷるるん達に連絡しないと――」
「仕事終わってからでもいいでしょ。ほら行くわよー」
「あぁんヒンドゥー!」
アイエフにパーカーのフードを掴まれてネプテューヌが引きずられていく。それにネプギアが付いて行き、エヌラスが最後に立ち上がった。その表情はどこか浮かない。朝からの叱責に落ち込んでいるのかと思ったが、そうではない剣呑さを感じ取ったイストワールが横から顔を覗きこむ。その様子に気づいたのか、ユウコも掃除機を持ってきて顔色を窺う。
「エヌラスさん、どうかしましたか?」
「……あぁ、なんかな。すげぇ嫌な感じする。胸の辺りがざわつくような、神経を逆撫でされてるような嫌な気分だ」
「エヌラス。それって、もしかして……」
「俺の気のせいであってほしいんだがな」
顔を見合わせて、ユウコはエプロンのポケットから携帯を取り出すとすぐに電話を始めた。それはすぐに繋がる。
「もしもし、私。ユウコだよ。起きてた? うん、じゃあ良かった。ちょっと聞きたいことがあったんだけどいい? うん。――そっちで邪神とか、見なかった? …………ありがと、それじゃ」
通話を切り上げ、ユウコが腰に手を当てて深い溜息を吐き出した。
アダルトゲイムギョウ界で邪神が来るようになったのは、次元神セロンが冗談半分で“門”を開いたからだ。そこから溢れる邪神の群れを退治するのが旧神――エヌラスの役目。その為、ココ最近はパタリと襲撃されることなんてなかった。それでも、時折思い出したように奴らは侵略してくる。エヌラスが居なくなってもだ。
「エヌラス、キミってほんとこういう時の野生の勘って未来予知レベルだよなぁ」
「向こうはなんだって?」
メールの着信。それに画面を開くと、画像が添付された本文には短く一言だけが添えてあった。
『邪神が来て、追い払うのが精一杯だった』
恐らくは衛星カメラだろう。望遠レンズを目一杯拡大した画像は粗いが、全容を確認するには十分な解像度で映し出されている邪神は、エヌラスも見覚えがあったのかユウコの横から食い入る様に画面に顔を近づける。
「エヌラス、近い……近いって」
「……コイツは――」
「知っているのですか?」
全身に黒い霧を纏った、人型の邪神。そのモヤに包まれた姿にエヌラスは思い出す。
「――俺が仮面を付けた邪神を追って戦っていたのは知っているな」
「はい」
「そいつが呼び寄せた、邪神の眷属とでも言えばいいか……コイツのせいで、俺がどれだけあの野郎を相手に苦戦したか。間違いない、俺が殺し損ねた奴だ」
それがどこに追い払われたのかは分からない。だが、エヌラスが今感じているのは天敵を目の前にしたような、そんな暗示じみた感覚。
「……多分、いや。十中八九、この野郎はゲイムギョウ界に来るだろうな」
エヌラスは、静かに宣告した――。
「今度は俺の全生命力を費やしてでもこの次元世界から消滅させてやる……!」
憎悪と憤怒に塗れた形相で画面越しに殺意を滾らせる。