超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「ユウコ、飯ー」
「オメーは人の顔見て言うこと他にねーのかー!」
「……今日のヘアピン新しいやつ?」
「そぅですけどなんだよぅっ!!!」
──商業国家ユノスダス。政治中枢部である教会ではいつものようにユウコとエヌラスの声が響いていた。
時たま、ふらりと足を運んだと思えば飯をたかる。ちょっと人としてどうなのかという生態をしているエヌラスを遠慮なく叩くユウコ。そんな姿は商業国家ユノスダス教会では見慣れた光景だ。
普段はどこで何をしているのか定かではない、怪しい風体の男に激務の最中でせっせとご飯を作る姿はどことなく嬉しそうでもある。
左側を伸ばした前髪、襟足も伸ばした黒髪はあちこち跳ねている。前髪で隠すようにして左目に走る刀傷は深く、そのせいで人相の凶悪さに拍車がかかっていた。しかも夏だろうが冬だろうが黒いサイバネティクスコートを羽織っている黒ずくめ。おまわりさんに通報しないほうが無理だが、呼ばれたおまわりさんが尻込むレベルの犯罪国家九龍アマルガム出身。そのうえ王位継承権を唯一保持している。
“あの”犯罪国家の次期国王候補だというのだからおまわりさんも引き下がる他にない。
「…………で? 今日はどうしたのさ」
「んが?」
──結局、なんだかんだ言いながらもご飯を大量に作ってあげるとこれまた馬鹿のように夢中で食べるエヌラスに呆れながらユウコはその食事姿を観察していた。
「どうしたもこうしたも、腹減ったからメシ食いに来ただけなんだが……」
「嘘つけ。キミとどれだけの付き合いだと思ってんのさ。なんかあった?」
「んー……いや別に。今日はそういう気分だったってだけ」
「むー」
絶対に嘘だとわかる。
ぐっと顔を近づけて睨みつけると、口を開けたまま箸が止まった。
エビフライが宙をさまよう。着陸許可が降りたのか、エヌラスの口の中に放り込まれる。尻尾ごとサクサクバリボリと音を立てて咀嚼されていた。
「ほらほら、私の目を見て正直に言いなさい。言え。言いやがれこの社会不適合者」
「生きててすいませんでした……」
「自分に素直になって自虐に走んじゃねー! この、この」
指で頬をつつくユウコはなにが面白いのか口元を緩ませている。忙しい中でも飯をたかればちゃんと作ってくれることをエヌラスは知っていた。だからたかりにくるのだが、当然その料金は請求される。
そう、肉体労働だ。無賃で。
何故ならエヌラスは普段から無一文だからだ。なのに「金には困ってない」と言い張っている。何を言っているのかわからないと思うが、何を言っているのかは本当にわけがわからない。
「で、本当にご飯食べに来ただけ?」
「そーだよわりーかモグムシャ」
「べっつにー。んふふー」
ユウコの見ている前で作りに作った料理の山がエヌラスの胃の中に消えていく。
「人が飯食ってるとこ見て楽しいかぁ?」
「私は楽しいけどー?」
「あんだけ作る時は文句言ってたくせに」
「いーの、なんだかんだご飯作るの好きだから」
「ならあんな怒んなよ……」
商業国家、という名前に恥じぬほどに豊かな食材と物流サービスが潤っているユノスダスにとって、食料自給率は死活問題。人口密度と比例してその数値驚きの九割。もちろんそのために生産職である農家から農機やら土地やら何やらと資金援助をしている。
一番過酷な労働だが、同時に一番稼げる仕事は何か。ユノスダスでは第一次産業だ。政治中枢部である教会にすら特産品の農地があると同時に直売所がある。時たま一般開放された際の盛況ぶりはまさにお祭り騒ぎだ。
そんなわけで。ユノスダスにおける食料品というのは格別に安い。無一文だろうがなんだろうが職にあぶれる、なんてことは早々ない。滅多にない絶滅危惧種と言っても過言ではないが、天然記念物は保護しなければ常に絶滅の危機に瀕するものだ。
おめーのことだぞエヌラス。
「それにしてもキミ、なーんでそんな無一文かな。財布くらい持ち歩きなよ」
「あー? いいんだよ。財布なんか持ち歩いたって使わねーんだから」
「いやまぁ、キミんとこは確かに持ち歩くのも危ないかもしんないけどさ」
犯罪国家九龍アマルガムでは犯罪率がべらぼうに高い。合法違法問わず常に発展を遂げている。同時に経済の新芽が摘まれることもあり、常に大黄金時代と大暗黒時代が枚挙して大混乱時代が続いていた。だがそれが常であり、その国王である大魔導師はどう政治の手綱を握っているのか──邪神災害じみた理不尽なまでの暴力で成り立っている。ちょっとそればかりは真似できない。
「でも困るでしょ、色々と。お金無いと」
「いーんだよ、困ってねーから。なんとかなってるし、使う時に使う金さえ手元にあれば」
「無一文で金に困ってないって頭おかしいって」
「いいんだよ、お前がいるから」
「はぁ!?!?!?!? は、ハー!!! ほん、おっま……この、あぁもっ……こん、この……そ、そういう!! ハーほんとさぁキミさぁマジ、ちょっとくらひは言葉考えなァ!?!?!?」
怒鳴り声に近い大声と共にテーブルを叩いて立ち上がったユウコの顔は真っ赤になっている。なんとも言えない表情だ。
眉を吊り上げ、口元は緩み、目尻に涙を溜めて怒っているのか嬉しいのか泣きそうなのかどれかにしてほしい。忙しい顔のやつだな、とのんきに構えながらポトフを啜る。ズズズ。美味い。
「……いや、だってなぁ。ほんとのことだし」
「──────そ、そぅぉ……なら……ぅん…………ありがと」
急激にしおらしくなるユウコを見て、本当に忙しそうだなとひと事のように思いながらエヌラスは炒飯を頬張る。
尻すぼみな言葉を最後に、押し黙る姿は耳まで赤くなっていた。
「……ユウコ」
「……なに?」
「おかわりもらってもいいか?」
「…………いいよ。遠慮なく言って。いっぱい作るから」
「んじゃオムライス」
「……その面でオムライス好きなんだもんなぁ」
本当のこの野郎はズルい。そう思いながらもユウコは浮き足立つ足取りで厨房へ向かう。
──エヌラスに手料理を振る舞ってから一月が過ぎた。
あれから一度も顔を見せることはなく、ユノスダスでの目撃情報もなければ大魔導師も知らぬ顔。
時々、というよりはずっとこうなのだが、エヌラスはすぐにフラッといなくなることがしょっちゅうあった。
来たら来たで確かに迷惑だし忙しくなるのだが、それでも嬉しさが勝る。
だから、待つことしか出来ない自分に歯痒さを覚えていた。
「やいこらクソメガネ」
「なんだい赤縁メガネ」
「エヌラスに連絡したら重い女って思われないかなぁ……」
うわ面倒くせぇ。電脳国家国王琴霧ソラはタブレット端末を叩きながらユウコにげんなりとした表情を向ける。飲食店の立ち並ぶ大通りこと『パルフェ通り』に軒先を連ね、喫茶店の店長でもあるソラはテラス席でメガネを押し上げていた。
「別にそれくらい普通じゃない?」
「……でもさぁ、なんか、こう……少し会わないだけで連絡するのってちょっと依存してるみたいで嫌じゃない?」
「除湿機の押し売りに来てる?」
「増税すんぞクソメガネ」
「職権濫用にも程がある!!!」
なおしっかり増税されたことが判明するのは後日。
「ハァ……そんなに言うなら僕の方から連絡しようか? 今どこで何してるのかって」
「ごめんそれはヤダ」
「面倒くさいなぁ君!!!」
「なんだとオメー! 固定資産税の減税額取り下げっぞ!!」
「やり口がもうほんと汚い!!!」
請求書を見て本当に涙程度の増額が判明したのもまた後日。
「エヌラスなんて野良猫みたいなもんなんだから。ちょっと見なくなってもひょっこり帰ってくるよ。もう少し様子見てみたら?」
「ん〜〜〜……わかった、そうする」
──それから三ヶ月が過ぎたが、エヌラスは戻ってこなかった。
「おいこらクソメガネぇ!! どういうことだぁ!!!」
「僕に言われてもすごく困るんだよねぇ!!!」
通りすがりの大魔導師をとっ捕まえて行き先を尋ねるが、放任主義なのかまったく興味なし。しかし心配などしていないようだ。
「どうせそのうち帰ってくる」
「ちょっとくらい心配しないの?」
「するだけ無駄だ」
「でもぉ……」
「私と三日三晩殴り合いをするやつが早々死ぬはずがないだろう。気になるなら自分から連絡のひとつくらい入れてみたらどうだ」
「むぅ……」
クソメガネならいざ知らず、大魔導師にまで言われたのなら仕方ない。渋々と言った様子でユウコはスマホを取り出した。
通信規格から何から何まで電脳国家頼み。国営企業の放送は別として。
「やいこらクソメガネ、本当に通じるんだろうな」
「そこは僕の国の技術力だからね。間違いないと自負させてもらうよ」
珍しくソラがふふん、と鼻を鳴らすと、珍しい顔ぶれに何事かと剣姫とアルシュベイト、おまけにムルフェストまで店にやってきた。オープンカフェが混雑してきたのでソラは他の客の邪魔にならないようにテラス席の端へ案内しながら事情を話す。
「へー、ユウコがそんな乙女な悩みをねぇ」
「もういっそ籍でも入れてしまえ」
《同感する。誰も文句言わないだろう》
「いや、ほら、それはちょっと……世間体ってものが」
一応国王なので。
「いいから早く電話してみなよ」
「…………うぅ。ごめん! ちょっと深呼吸させて! すー、はー!」
「吸って吐いて吸って吸って吐いてヒッヒッフー」
「ラマーズ呼吸法じゃねぇかあっぱらぱー!!」
「いたぁいぃー!! ユウコがぶったー!」
茶化すムルフェストをしばいて心を落ち着かせ、深呼吸。電話帳画面からエヌラスの名前を探すと通話ボタンを押す指が止まった。
「──出なかったらどうしよう?」
──ぅゎ面倒くせぇなこの女。奇跡的なことに全員の心がひとつになった。
「はよやれ」
《そうだ。やることやっているんだから早くやれ》
「アルシュベイト、機人の燃焼剤値上げするから覚えてろ」
《ぬぐッ……!!》
後日、ほんのちょっとだけ値上げされてアルシュベイトが菓子折り持って謝罪にきたのは別な話……。
押し問答をする間に、ユウコの手元を覗き込んだ大魔導師が通話ボタンを勝手に押した。
「わっ、バ、ちょっと何すんの!? あぁわわわ、どうしよう電話かけちゃったけど出るかなこれ、出てくれるかなぁ!?」
「知らん、鬱陶しい」
「ちょっと大魔導師ー、思っても言っちゃダメだぞぉ?」
「見ていてまどろっこしい」
「わかるー♪」
なんとも機械的な呼び出し音が一回、二回、三回……プルルルルル、と震える画面を睨みつけていたユウコが耳を当ててみる。
すると──プツ、と繋がった音に息を呑む。
「も、──」
もしもし。と呼びかけるよりも先に帰ってきたのは機械的な電子音声。
『おかけになった電話番号は、ただいま通話中につき、応答することができません』
プー、プー、プー……プツン。
「…………………………────、」
開いた口から言葉を絞り出すことはなく、ユウコは唇を引き締める。しかし、堪えた言葉が瞳を潤ませていくのを見た。眉を寄せて、息を吸い込み、こぼれ落ちないように我慢するのを見てソラたちは一気にいたたまれない気持ちになって焦った。
「あー、ほらユウコ! うちの新作なんだけどよかったらちょっと味見してくれないかな。それにほら、通話中ってことはちゃんとうちの通信サービスが機能している証拠だからさ!」
「うむ、そうだぞユウコ! 今回は少しばかり間が悪かっただけだ! 少し時間を置いてからもう一度電話してやればいい! な、アルシュベイト!!!」
《おう! 俺もそう思う! だから泣くな!》
「んー、でも通話中ってことは向こうで新しい女の子とよろしくにゃーんしてるってことかな?」
大魔導師が無言でムルフェストの脇腹を蹴り飛ばす。冗談のように吹っ飛んでいく吸血姫はあっという間に商業国家から叩き出されていた。
それと入れ替わる形でドラグレイスがいつもの茶葉を買いに立ち寄る。
「……なんの集まりだ。ムルフェストが向こうに吹っ飛んでいったが」
「急用を思い出したらしい」
すっとぼける大魔導師に、ドラグレイスは「…………そうか」と深く突っ込まなかった。
「ゔぅぅぅぅぅ~~……! 泣いてないもんんん……!!」
鼻をすすって、顔を赤くしながらユウコが悔しそうに唇を噛みしめる。だが流石に堪えきれなかったのか、八つ当たり気味に叫ぶ。
「ゔあー! エヌラスのばぁかぁぁぁぁ~~~!!!」
「で、そっちの加湿器はなんだ?」
「あんま触れないでくれると助かるよ、ドラグレイス。話がこじれると厄介だ」
「恋心拗らせてる女などこちらから願い下げだ」
「うわーん、増税してやるぅぅぅ! 税額引き上げてやるからなぁぁぁ!
──覚悟しろよ大魔導師」
「!?」
本当に珍しく、大魔導師が当惑していた。
なお後日本当に犯罪国家相手に関税が引き上げられて大魔導師が寝込んだ(ふて寝)。
──それから更に九ヶ月の歳月が過ぎた。音信不通の一件から月に一度集まって電話をかけるというのが密かに月次業務に加わったが、ただの一度もエヌラスが電話に出ることはなかった。
ソラも試しに連絡を取ろうとしたものの、結果は同じ。お手上げ状態。
「クソメガネ、お前の技術力なら居場所逆探知できない?」
「ごめん無理ー。それやろうとするとフル稼働で一年は掛かる」
「じゃあなんで去年やんなかったのさ」
「そっちにリソース全ツッパしなきゃなんないんだからやるわけないでしょ」
まさかの正論にユウコもバツが悪そうに唇を尖らせる。
「さて。今のところ全戦全敗なわけだが」
「そうだねー、繋がらないたびになんか地味に増税されてるから本当にそろそろ辞めてほしいんだけど」
「ふふん、その点おれの方は問題なく利益を出させてもらっているぞ」
《その収支計算するのは俺だがな……》
アルシュベイトが苦労をにじませた呟きと共に明後日の方向にため息を吐いていた。そもそもそんな横暴がまかり通っていいはずがないのだが、引き上げた分はどこかで減税されてもいるので結局のところ均衡が保たれている。
「……えいっ」
ユウコが投げやり気味に通話ボタンを押す。
もう、どうせ繋がらないのだから……。そんな気持ちでユウコはスマホを投げようとした。
しかし、四回目のコール音が途切れる。
画面には『通話中』の文字がはっきりと表示されていた。通話時間もカウントされている。
「………………えぇぁ??」
ちょっと聞いたことがないくらい間抜けな声がユウコの喉から絞り出される。何を話すかもなにも決めていなかった。頭の中が真っ白なまま固まる。
受話口からは獣の咆哮とゴォーという台風のような風切り音。
大魔導師が読みかけていた書物から視線を外し、商業国家の道路に目を向ける。遠くから近づいてくる獣の咆哮じみたエンジン音は聞き慣れたものだった。
やがて、一台の大型二輪がソラの喫茶店の前に止まる。
「何言ってっか全ッ然聞こえねぇわ!」
ノーヘル、ながら運転、速度超過。看板無視。路駐。スリーアウト超えた免停役満のエヌラスは、不思議そうに顔ぶれを見回す。お巡りさんが現行犯で取り押さえようとするがハンティングホラーはすかさず飼い主の影の中に身を潜めた。これだから魔術犯罪は。
問い詰めようにもその場に並ぶ顔ぶれを前にして強く出れる者はいない。たとえ商業国家の公務員であろうともだ。引き下がる警官に会釈しながら向き直るエヌラスは、呆然と立ち尽くすユウコを見て眉を寄せる。
「教会行ったらお前いねーし、なんか電話かかってくるし。クソメガネの店だろうと来たらビンゴだったな。っていうかなんで全員揃ってんだ? よ、アルシュベイト」
《…………おう》
剣姫が無言で立ち上がった。
ムルフェストも珍しく無口なままエヌラスの背後に回る。
大魔導師は本を閉じてその場を離れた。
ソラも眼鏡を直してから、そそくさと厨房に逃げる。
アルシュベイトは頭を振った。
《エヌラス》
「なんだ?」
《お前は本当に、一回と言わず気が済むまで殴られた方が良いと思うぞ……》
がっしり。剣姫とムルフェストがエヌラスの両腕を拘束する。
「ユウコ、やれ」
「思う存分やっちゃってー」
「へ? なんだ? なんで俺のこと捕まえるんだお前ら!? ちょっと待てどういうことだ!?」
スマホをテーブルに置いたユウコが肩を回し、腕を引き絞った。
──気の所為ではない。怒髪天だ。
不機嫌を通り越した怒りが赤い陽炎となって揺らめいている。
「オメーは何も言わずにどっか消えるんじゃねぇぇぇぇえええええっ!!!!!!」
「俺がいったい何をしたってんだぁあああああああッッ!?!?」
ガス管が破裂したかのような、爆発にも似た破裂音が商業国家ユノスダスのうららかな昼下がりに響き渡った。
「で!? どこで何してきてどの面下げて帰ってきたわけ!?」
「首が折れるかと思った……」
「人間には骨が二百本あるんだから一本くらいでガタガタ抜かすな」
「首の骨はここにしかないんだよなぁ! どこで何してたって、そりゃ……どこほっつき歩いてたっていいじゃねぇか」
「よくねーから言ってんだよおめーはこのバカハゲアホマヌケ一文無しの穀潰しの人でなし!」
喧々囂々、取り付く島もない。ユウコの怒りは留まるところを知らず、エヌラスは教会に連行された挙げ句説教が始まってから小一時間正座させられていた。顔にきれいな紅葉をつけて。
眉を釣り上げたユウコは納得がいく返事がこないことにますます不機嫌になる。
「言えないようなことしてたの。私に黙って?」
「ぁ~……いや、まぁ、そう聞かれるとちょっと……答えにくい」
「……あたらしい女の子と、仲良くしてたの?」
「して……たり、しましたけども。不可抗力です……」
「……じゃあなんで帰ってきたのさ。向こうでよろしくしてたらいいのに」
「なんでってそりゃ……────帰ってきちゃダメか?」
「ダメなんて言って──、言ってるかも、しんないけど……なんか、嫌なの。わかってよそんぐらい、付き合い長いんだから」
エヌラスはますます参った。付き合いが長いのだから、自分がどれだけダメな奴かなんてわかりきっているならそんなに気にしなくてもいいだろうにと思う。
(でもこれ言ったらぜってぇこじらせんだよなぁコイツ……)
さて困った。
「んー……ユウコ。確かになんも言わずにどっかフラッと消えて、戻ってきたことに関しては申し開きも何もクソも言う気はない。事実だし」
「……それで?」
「俺がどこで何してたのかって話に関しても、他所様巻き込んで喧嘩してたってだけで」
「……また怪我増やしたの?」
「増やしました……」
「ハァ?」
女に一番言われたくない言葉ランキング不動の一位がユウコの口から鋭く飛んできた。
エヌラスはちょっと泣きそうになった。
「すんません、本当に……めっちゃ怪我しました……でもほら、なんつうか……他にマジで行く当てなくてさ。はた迷惑なのはわかってるんだけど、俺にとっちゃ……ここに帰って来るのが一番安心するっていうか……」
「……現地妻はいいの?」
「現地妻ってお前……そっちはいいんだよ。そん時、その場所で仲良くなった相手とはちゃんとお別れ言ってきてるから」
ユウコは知っている。
エヌラスが、別れを切り出す話題を意図的に避けているのを。
そういう湿っぽいのが苦手だから、できるだけ湿っぽいことは言いたくないのに。口をついて出てきてしまう。寂しさを紛らわしてほしくて。
「だからそのー……また今後どっか行ったりすっかもしんねーけど、いや確実にどっか行ったりするけども! 俺は此処以外に帰って来る場所ねーの!
だから飯食わせてもらっていいですか……」
──ぐごごごごぎゅるるるいぐないぃぃ…………。
「……相変わらず地獄の釜の蓋が開くような音出す腹だね」
「なんつうか、お前の飯が食えないと俺は駄目かもしんない……」
「ほかで食べればいいじゃん」
「いろんなとこほっつき歩いて野垂れ死にしそうに数え切れないくらいなってるけども! お前の作る飯が一番美味いのは今でも変わってねぇの! だから恋しくなるっつーか、なんつーか調子狂うっていうか! あー、もう!」
立ち上がったエヌラスが半ばヤケクソ気味に胸を張る。
「俺はお前の飯がなけりゃ生きていけねぇんだ悪いか!!!」
「…………──────」
思わず、笑みがこぼれた。鼻で笑ってしまうくらい、我ながら単純だと思う。
多分そこまで考えてもいないだろうけど。バカだし。
それでもやっぱり、嬉しいものは嬉しい。
「ほんっとうにしょーがない奴。いいよ、作ったげる。但し、条件付き」
「おう、任せろ。俺にできる範囲なら何でもやってやる」
「絶対。何があっても。どこで何してきても。必ず! うちに帰ってくること。わかった?」
「……、なんだ。そんなことか。当たり前だろ」
──お前のメシ食いたくて、死に物狂いで戦ってるんだから。今までも。そしてこれからも。