超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――圧倒的だった。ネプギアもノワールも、ネプテューヌもまた別の意味で言葉を失っている。
機動性。行動力。判断力。人間の限界を超えた性能が可能とした、不可能を可能とした瞬間をその場に居合わせたのだから無理もない。女神化したとしてもここまでの突破力は望めない。だが、この三人はモンスター達の習性を含めて立案した作戦を成功させた。不慮の事態にも即時対応で突破。間違いなく最強の三人だった。
これに、先程まで自分達が銃口を向けられていたのだと思い出すだけでも寒気がする。
危険地帯を抜けて、しばらくの間は警戒していたが、追ってくるモンスターがいないことを確信したトライデントが音速巡航へ移行した。肩部装甲を畳み、空気抵抗を下げた形態からブースターの出力を上昇させる。
次の瞬間、暴力的な加速にネプテューヌ達が襲われた。生身で新幹線に貼り付けられているかのような暴風にトライデントの背中にピッタリと身体をくっつける。
段違いの加速で森を抜けた先は、海だった。見渡すかぎりの大海原。その洋上に浮かぶ国があった。半透明のドームに覆われ、そこへ通じる道路がいくつも見える。内部には幾つもの近代的な建造物が伺えた。外観としてはプラネテューヌに近い。
電脳国家インタースカイ。目的地が見えてきた――。
森の中では決闘がいまだ続いている。アルシュベイトの打ち込む豪剣が生み出す剣圧を、エヌラスはただ片腕に持った倭刀一本でいなしていた。
幾度と無く相まみえても、その現象だけはいまだに受け入れ難いアルシュベイトは唸る。
《いつ見ても、誠に奇っ怪な剣術よ》
「言ってろ」
それに比べて、エヌラスの額はじっとりと汗ばんでいた。気を集中させている倭刀の重量は苦にならない。むしろ自分の手足の如く、羽のように軽かった。だが冷や汗の原因は対敵、アルシュベイトにある。畏怖の念を込めて、整息した。
どんな鍛冶技術で刀を打てばそうなるのか甚だ疑問である。
「むしろ、俺の剣でぶった斬れないそっちの方が俺は怖いね」
ただ剣を振るだけなら猿でも子供でも出来るだろう。刀同士が打ち合うというのは愚策だ。衝突した刃同士が潰れ、最悪の場合は折れる可能性だってある。だからこそ、エヌラスは倭刀を添えるように相手と衝突させて切っ先を逸らしているのだ。ところが、アルシュベイトの豪剣はそうではない。そも、逸らすことが精一杯なのだ。その都度に渾身の気迫を込めた一刀を繰り返す疲労感は尋常ではない。
内蔵が締めあげられ、呼吸が乱れる。その両方を整えながら凌ぐ。これほどの神業もそう長くは続かない。幸いにもアルシュベイトの太刀筋は必殺、まさに一撃一撃が殺人的な破壊力を誇る。もしまともに叩きつけられれば原型すら留めない肉片と化す。
両者は、まさに綱渡りの状態で張り合っていた。
むしろアルシュベイトが注視していたのは、五指をゆるりと開いた左手にある。“あれ”に触れられれば、むしろ窮地に追い込まれるのはこちら側だ。かつてはそれで敗北を喫したのだから。
どれほど頑強な装甲であってもあの倭刀の前には紙切れのように切断される。むしろ刀はブラフと言ってもいい。
それは、機人にとっては必殺にして必滅の一撃だ。末恐ろしい話である。
生体電流を極限まで捻り上げて電磁パルスと化すとは、どれほどの修練と鍛錬を重ねれば可能となるのか――機械の身体を得たアルシュベイトには、もはや到達し得ない極致だ。
再度、両者の剣戟が鳴らされる。豪剣が生み出す暴風、倭刀が曲線の軌跡を描く。ただそれだけ、たったそれだけのことで地面は抉られ、土煙はあがり、木々が悲鳴をあげてたわむ。その只中にあってなお、爆心地の中央に根を張った大樹のごとく動かない、人間――これが悪夢と言わずしてなんと言おう。
何度目の死合を繰り広げただろうか――突然、アルシュベイトが長刀を振るう手を止めた。センサーに反応があったのだ。これを好機と見て踏み込む勇気はエヌラスにはない。
恐ろしいことに、今までアルシュベイトと剣を交わしてきた中に「小細工」という言葉は存在しなかった。
《……エヌラス》
「……なんだ」
そして、決闘の最中に口を挟んだのもまた、これが初めてのことである。
《人が落ちてくる》
「はぁ!?」
素っ頓狂な言葉に、エヌラスが思わず上空を見上げた。だが、そこに人影はない。肉眼では捉えきれない距離の人間を捕捉したのだろうが、それにしたって互いに無防備を晒していた。
やがて、アルシュベイトが長刀で方角を指し示して、そこに焦点を合わせて目を凝らすと――辛うじて、見える。人っぽい何かが。
《助けたほうがいいだろうな》
「だったらテメェでやれや」
《俺の身体で受け止めた場合、逆に怪我をさせる可能性がある》
「俺にやれと!?」
《他にいるか?》
「テンメェ、後で覚えてやがれ!」
行き場のない怒りを倭刀に叩きつけて、エヌラスが変神しようとした矢先にアルシュベイトが剣を地面に突き立てた。
《乗れ、エヌラス。あそこまでの上昇は見込めないが、距離を稼ぐくらいは出来るだろう》
「それはありがとうよ!」
《なぜヤケクソ気味になっているんだ》
「普通はなるわボケナスがぁぁぁぁぁ!」
叫びながらもエヌラスはアルシュベイトの背中に掴まり、上空高く飛び上がっている。
「きゃあ~~~~~……」
徐々にその輪郭がハッキリとしてきた。間延びした緊張感のない悲鳴(?)の主は、まるで部屋着か寝間着のような格好で、靴に至ってはスリッパである。
《エヌラス、高度限界近いぞ》
「じゃかぁしいわ、近づけ!」
《一気に口悪くなったな!》
「うっせぇぞハゲ!」
《ハゲとらん!》
そして、アルシュベイトの背中を蹴り出してエヌラスは空中で少女を受け止めた。キョトンと何が起きたか分からない様子で、借りた猫のようにおとなしい。が、問題が起きた。エヌラスは変神しても飛行能力はない。つまりは――二人仲良く、ぐんぐん迫る地面に向かって真っ逆さまだ。
高度三百メートル、絶望的な高さ。
「掴まってろ」
それだけ短く答え、エヌラスは右手に赤い自動式拳銃を召喚するなり、あらぬ方向に向けて発砲する。反動で横に向けて移動しながら、今度は“
そして、地面にぶつかる寸前に身体を滑りこませたエヌラスが自分の身体が悲鳴をあげるのを聞いた。
「がっ――――くそ……!」
ポカンと口を開けて、目を白黒させていた少女が周囲を見渡して身体を起こすと眠気を堪えているかのように目尻の下がった大きな目が覗きこんでくる。
「え~っとぉ~……だいじょうぶ~?」
「いきてる……だいじょうぶ……」
「よかったぁ~」
ほ~、と胸を撫で下ろしている少女が手に持っている物を見て、エヌラスは更に眉を寄せた。
「……何持ってんだ、それ」
「え~? これぇ~? ぬいぐるみだよぉ~? かわいいでしょ~」
「……」
かわいい。かわいいのだが、そのデフォルメされたデザインが誰かに非常によく似ている。
「これねぇ~……」
「すっげぇ見覚えあるどっかのネプテューヌそっくりのぬいぐるみだな……どこに売ってんだそんなもん……」
「わたしの~、手作りなんだ~」
毒気を抜かれる非常にゆったりとした口調に、エヌラスが顔を覆った。
――ダメだ。この子は、ダメだ。頭の奥が痛くなってくる。
《無事か、エヌラス》
「テッメェ……! 人がこうなると分かってて受け止めろとか無茶ぶりしやがって……!」
高度三千フィートから落下してくる人間一人を無傷で受け止めろとか言う鋼の軍神様が律儀にも心配してくれているがええそりゃもう骨の一本や二本くらい大丈夫ですとも。人間様には250本もあるんだから今更骨の一本や二本折れたくらいで文句の一つ言う気も起きないが、やはりそれでもあえて言わせてほしい、くたばれ。
《無事なようだな》
「ははっ、しねよ」
《そう怒るな……致し方無いだろう。そうだ、今朝のテレビ占いではお前の運勢が一位だったぞ》
「子 供 か!! そんなんで機嫌直るかボケがぁ!!」
《……ちなみに、俺は真ん中だった》
「知・る・か・よ!!!」
段々むかっ腹が立ってきたエヌラスは怪我の痛みも忘れて立ち上がった。コートの裾が何かに引っかかって、振り向くと少女が裾を掴んでいる。どこか不安そうな顔をしていた。
「えっとぉ~……戦うの~?」
「ああ」
忘れそうになるが、決闘の最中だ。明らかに劣勢どころか窮地に追い込まれたのが目に見えているエヌラスの裾を、それでもまだ離さない。睨みつけると、にっこりと微笑んだ。
「じゃ~……あたしも手伝ってあげるね~」
「いい」
「どうしてぇ~?」
「決闘中だから」
そこで、少女が手を離して「う~んとぉ~……」と考え始める。
「なんで~?」
「もう、ホント、お願いだから離れてくれ……マジで」
ギシギシと軋む肋骨を押さえてエヌラスが倭刀を右手に持つなり、構えた。
戦いに巻き込むつもりは毛頭ない。だが、アルシュベイトもそんなエヌラスを見て考えていた。
《……本気で続ける気か?》
「アクシデントはあったが、付き物だ。しゃあねぇよ」
《せめて、回復くらいしたらどうだ。その方が俺も気兼ねなく相手出来る》
「都合よくできたらな……」
「回復薬~、飲む~? 持ってきたんだ~」
「…………一本ください」
もうこの際回復できるならワラでもいいから口にしたい。