※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード31 静かな田舎の森の奥から見知らぬアイツの声がする

 

 ――プラネテューヌ第三資源採掘場では朝から掘削機による資源採掘と原料の抽出の為に溶鉱炉が稼働していた。熱気と蒸気と機械油が混じり、そこに土臭さと泥臭さが融け込んだ労働環境は、健常な嗅覚の持ち主であればまず間違いなく顔をしかめるであろう。容易に想像できるそんな劣悪な環境に加えて、作業工程上で発生する汚染物質の除去作業。こればかりは人間に任せるわけにはいかない。

 

《エッホ、エッホ》

 そこで彼らのような作業用ロボットが開発された。動力源は、現在採掘している環境汚染物質。プラネテューヌの土壌深くに埋もれているその物質の除去と共に加工するのが彼ら第三資源採掘場での主な仕事だった。活動メンバーは四人とごく少数だが、それは言い換えてしまえば四人が職場の中でも浮いているからである。他のメンツとソリが合わないというのもあるが、彼らの性能が特化型であるのも要因だ。

 シロトラの目指す部隊運用に、セイン、ディル、ジーン、シュラの四人は敵わない。だが、それを彼らは気にしたことなどなかった。

 

《おーい、シュラ。そっちの作業はどうだー!》

 バーナーを手にしていたシュラがバイザーを上げてディルに向き直る。

 

《リペアならもうそろそろ仕上がる頃ー!》

 そのシュラの作業台に置かれているのは、ディルの使用する多連装型ミサイルタレットだった。それはあくまでも設置するものではなく、担いで運用する為に大きさはコンパクトにまとめられている。弾数は六発。それぞれの近接信管の調整もシュラの仕事だ。武装の改良、整備点検のみならず修復作業では一番の技師と言ってもいい。

 

《どこが悪かったー!》

《強いて言うなら、やっぱミサイルのハッチー! 留め具の部分が劣化してるー!》

 演習で使用する武装は実戦と変わらない。その為、装備も当然ながら壊れたりする。しかしそれをいちいち新調していては組織の経済状況も芳しくない。直せるものは直し、使えるものは使う。

 バックパックに背負った修理装置のユニットを手にして、整備中のタレットに照準を合わせる。動力部から正常にエネルギーが通っているかがまるでレントゲンのように表示され、エラーメッセージが表記される画面をタップ。すると、円盤状の遠隔修理装置が起動。タレットを自動で修復し始める。

 

《とりあえずコッチはオッケー!》

《おーう、ありがとなー!》

 ディルは太い腕で重いレバーを下げる。目の前のベルトコンベアに転がり落ちてくるのは、原石だった。この辺りでは鉱石も多分に採掘出来るようで、それを知ったシロトラがそちらも副業で選別作業を割り当てている。

 

《ジーン!》

《わかってる》

 黙々と、原石の選別作業を始めるジーンは淡々と手を動かし始めた。

 

《ディルー、ちょっと背負ってみてくれ!》

 バックパックに接続したタレットを持ち上げて、背中を向けたディルの背部に繋げる。すぐにラックで固定されて問題なく稼動を始めた。

 

《重心が寄ってたりとかはない?》

《うむ。大丈夫だ! なら次はスチームパイクだな》

《おーうふ、まさかこき使われる可能性》

 ミサイルタレットに比べれば作業は楽ではあるが、それでも仕事には変わりない。

 

《でぇぇぇぇぇきたぁぁぁぁぁあああああきええええぇぇぁあああああ!!!》

 突如、第三資源採掘場に響き渡る奇声。

 

《キエエエエァァァァアアア!! 俺は天才だぁぁぁぁああっはっはっは!! フゥーハッハッハ!》

 三人が顔を見合わせて、声の主の姿を探すとそこには――机の上に耳、耳、耳。足元にはよく分からない謎の液体だらけのセインがいた。ペンキでも塗りたくったような空間に、三人が無言で戸を閉める。

 

《そっとしておこう》

《そうだな、疲れてるんだろう》

《今日のお昼どうする? 出前?》

《いやいやいやツッコめぇぇぇいお前らぁぁぁぁぁ!!!》

 がらがらぴしゃん。

 何も言わずセインを隔離した。

 

《ガラッ!》

《いやお前、それ別な人のネタだろう。あぶねえな》

《うるさい! いいから聞け! この狂気のマッドなサイエンテイスティングによって生み出された化学の申し子! 製薬会社に勤め、警備員だった俺は出来心から媚薬を以下略》

《そこを端折るなよ! めっちゃ続き気になる!》

《――それによってクビを言い渡された俺はシロトラ教官と出会い、今の職についた! 俺の経験が活きた! 活きましたぞぉぉぉぉひょおおおおほほろろろおおおおお!!》

 

《……いつにもまして頭のネジが飛んでるな》

《どうするディル。処す? 処す?》

 フラスコの入っている液体は、なんというか緑色に発光している。確実に人体に悪影響を与えるであろう謎の暗黒物質には三人も同意しかねた。せめて色だけでもどうにか出来なかったのかと。

 

《出来た、できたんだよ! 遂にできたんだ! 俺は、俺には出来た! 流石俺だ! ほめろ! 褒め称えろ! 崇め奉れ! たいよぉぉぉう!!》

《駄目だこりゃ。で、なにができたんだ》

《ケモミミが生えるお薬》

《お前は天才だセイン!》

 即落ち二コマばりの手のひら返しに、セインとディルが固い握手を交わす。それにシュラも交ざってハイタッチをしていた。

 

《お前、お前天才だな! なんかゴメンな! ココ最近ひとりで部屋にこもってブツブツと独り言言いながらネチョネチョ変な音がするから友達やめようとか思ってたけど、お前流石天才だな!》

《ディル……まぁいいや、ありがとう! そしてありがとう!》

《部屋の前にオナホ置いたの俺なんだ……へへ、バカみてーだ。そんな差し入れいらなかったよな》

《シュラ、お前だったのか……使い捨てオナホとエロ本置いたのは》

《エロ本はジーンが置いた》

 三人は固く肩を組み合わせる。その光景を遠巻きに眺めながらジーンは鉱石を選別し終えて、コンベアの電源を切った。

 

《バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!》

《よーし、胴上げだ! どぉりゃああーー!!》

《ぎゃああ!!》

 ガラガラガシャーン。ドゴーンパリーン。ゴロゴロ。ビクンビクン。

 ディルの手で上空に投げられたセインが天井にぶつかり、落下してくるときにコンテナの縁に頭部と背中を強打。地面に倒れる。

 

《あ、スマン……》

《ふふ、今の俺は歓喜のあまり何をしでかすか分からない! とりあえず外の空気を吸いに行ってくる》

 途端に冷静になったセインが出来上がったケモミミの生えるお薬(名称未定)を持って朝日を浴びた。

 

 

 

 見渡すかぎりの大自然。青々と生い茂る緑の海、普段は何も無いクソがつくド田舎の辺鄙な場所でありながら、なんと清々しい空気だろう。胸いっぱいに取り入れるだけで目が覚めるような清浄さに、身体だけでなく心まで清らかになった気さえする。

 

《ケモミミ、最高!》

 穢れしか残らなかった。これには青空に浮かぶ仏も苦笑い。

 

 ――Arrr……!!

 

《――!? なんだ、今の声は……!》

 獣の遠吠えのような、森を震わせるような咆哮だった。セインは、どうしてかその方角に向けて頭を向ける。バサバサと飛び立つ無数の鳥達に、獣達が逃げ出していた。片手にケモミミが生えるお薬(名称未定)を持っていることを思い出したセインは、落とさないように気をつけながら詰め所へ戻ろうとする。

 

《今のはなんだ! 敵襲か!?》

《獣の声だったか……、いや、今のはもっと違う、別な……》

《どちらにせよ、武装しておいたほうが良さそうだな。シュラ。セインのバックパックを》

《了解だ》

 各自が背面に武装ラックの付いたバックパックを装着して、ジーンがスコープを覗き込んだ。セインもそれを受け取る。

 

《何か見えるか?》

《……交尾している野鳥》

《マジで!? 見せろお前》

《思春期のガキか。……いたぞ、六時の方角》

 スコープの倍率をさらに上げる。

 

《なんだ? エンシェントドラゴンか?》

《なんか今日は肉が食いたい気分だな》

《言われてみればそうだな。よし、今日のお昼はハンバーグにしようぜ》

 親指を立てるシュラの足元に向けてジーンはサイドアームのハンドガンを取り出して装填された十二発を撃ち尽くした。

 

《うるさいよお前ら。少し静かにしろ》

《さーせん》

《それで? 何が見える》

《……分からん。分からんが――凄く、嫌な感じのする奴だ》

《詳細は》

《――言わずとも分かる。来るぞ!》

《まぁそうなるよな。発砲音で》

《うむ、銃声で》

《まぁ大口径ハンドガンだよなぁ》

《今日の日記は捗りそうだ……!!》

 キレ気味のジーンが覗いていたスコープから目を離す。ガサガサと猛スピードで森の奥から飛び出してくるのは――黒い霧を纏った人型。

 カチャリと金属の擦れる音に、センサーの倍率を上げる。詳細は一切わからない。だが、その無骨さと流麗さが奇跡的なまでの芸術となって全身を包み隠す甲冑であるのが辛うじて見て取れる。

 

《なんだ、コイツは……?》

『――a……』

 兜の中からくぐもった声。だがそれは理性も知性も感じられない獣のような唸り声だった。

 

『Ar――……Guaaaa!!』

 獣が咆哮する。威圧感が大気を震わせ、その邪悪さに森が震えていた。

 

《ッ、なんて邪気だ》

《俺達にやれるか――?》

 ディルが単式の大口径機関砲を構える。ジーンは片手でハンドガンをリロードして、シュラはポンプアクション式のショットガンを向ける。

 地面を這うような、前屈姿勢からの跳躍。それをセインが避けようとするが、蹴り飛ばされる。

 

《どわぁっ!?》

 ぱりん。

 

 ――ぱりん? 薄いガラス容器が割れるような音に、一瞬だが静寂が流れた。

 

《あ…………》

 セインが自分の右手を見る。綺麗に割れたフラスコ。こぼれた液体。蛍光色の緑色。宇宙生命体の体液じみた謎の液体が地面のシミとなって消えていく。

 

《アアアアァァァァァァアアアァァアアア!?!?!?》

『Arrrr――――!!!』

《ぎええええあああぁぁぁほぉう、嘘、うそだぁぁぁぁあああ!? あ、あぁぁぁ!? 俺の、あえええあああ!? グゥゥォオオオアアアアア!?》

 セインが絶叫していた。膝から崩れ落ち、地面のシミを前に四つん這いになってそれがもう手遅れであることを示している。

 空を仰ぎ、両腕を広げた。

 

《神は死んだ! 神は死んだ!! この世に救いはないんですかぁぁぁぁ!!!!》

 吼える。ひた吼える。血の滲むような絶叫が森を震わせる。

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