超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
うなだれるセインには目もくれず、謎の全身鎧の怪物は無手のまま臨戦態勢で構えるディルとジーン、シュラの三人に襲いかかった。
《くそ、なんなんだコイツ!?》
《射撃が効いていないぞ!》
衝撃はあるのか、機関砲の弾丸を受けて動きを鈍らせる。シュラが回りこんでショットガンを放つ。だが体勢がぐらつく程度で決定打にはならない。排莢動作を挟んで、更にもう一発。今度は吹き飛び、ディルが機関砲を連射する。
『Gaaaa――!!』
だが、高熱の弾頭を捉え、弾く。
《なに!? くっ!》
組み付こうとする怪物に機関砲の先端を振り上げて咄嗟に迎撃するが、姿勢を低く構えると先程よりも早くディルに迫った。黒い霧を纏う怪物に閃光が突き刺さる。
ジーンの高出力光学狙撃銃の銃口からは熱が漏れて陽炎が揺らめく。
《世話を掛けるな。装填に難があるんだぞ》
《助かる!》
体勢の崩れた怪物にディルがタックルで突き放した。そこへ散弾銃が全身を打ちのめし、大きく距離を離す。だが、ダメージはないのかのっそりと起き上がった。
《弾代の無駄だな》
《減俸ものだぞ、これ》
怪物と対峙する三人だが、相手は一向にダメージを食らった様子はない。
《――許さん……》
《セイン?》
《……許さんぞ、貴様……! 貴様は俺を怒らせた。本気で怒らせた! 俺の十二時間かそこらの努力と血と汗と涙とよく分からない体液とその他諸々の欲望を費やした時間を無駄にした貴様だけは!》
身体を起こして、右手に荷電圧縮されたエネルギーを射出するアサルトライフルを持つ。その原料は環境汚染物質ではあるが、電圧を加えて変異させている。
《……セインが切れてるな》
三人がそれとなく怪物から距離を離す。
《B2AM強襲部門第二部隊所属、セイン! 挑ませてもらうぞ、貴様……》
『――』
チャージングシステムが起動する。腰部ブースターから排出される燃焼剤が出力を増幅させて、赤い炎を吹きながら加速。怪物に迫った。
交錯する刹那、三点射のエネルギーが怪物の顔を撃つ。面食らって視界が塞がれた一瞬で背後に回りこみ、背負っている日本刀を左手に構えて鍔元のスイッチを押す。薄っすらと刃を包むような緑色のブレードが形成され、怪物の脇腹に一閃する。
『――!』
浅手ではあるが、確かな損傷を認めた。
《銃はダメか。白兵戦が有効のようだ。ディル、行くぞ。シュラ、ジーンは援護を頼む》
《了解》
《最初からそうしていろ、元B2AM特務隊》
だが、人型の怪物はそれでもなお引く気はないのか――吼える。歓喜の色を込めて。
『Arrrr――……!!』
まるで戦いに生きる狂戦士の如く、奮い猛っていた。
――その頃、プラネテューヌではエヌラスが邪神の気配を察知してアイエフ達に一言断りを入れる。
「どうしたの、エヌラス?」
「…………悪い。今日は一緒にいけそうにない」
「えっ? 急にどうしたのよ」
「俺の予想以上に早かったな。多分だが、邪神がもう来てる」
その一言に、緊張が走った。
「仮面の邪神?」
「いや、違う。だが……アイツを野放しにしておくわけにはいかねぇ」
「エヌラスさん、わたし達も――」
「お前達の手は借りない。俺が片付ける」
「そんな……」
「ま、俺の個人的なわがままだ。邪神と戦ってる時の姿は見てほしくない」
言うなれば、狂犬。狂った猟犬だ。ただひたすらに目の前の闘争に命を燃やすだけの狂暴な戦士。理性もなく知性もなく、本能に駆られるままに。
「ハンティングホラー」
パチンと指を鳴らし、声を掛けられるのもまた獣だ。闇夜を狩るもの――ハンティングホラーがエヌラスの影の中から這い出てくる。エンジンを暖めて、主が背に乗るのを待っていた。
《READY_?》
「アイエフ。スピード違反するが、今回は目を瞑ってくれ」
「はいはい。どうせ言っても違反するんでしょ? 好きにしなさいよ」
「んもーそうやってまたわたし達を遠ざけるんだから! なんと言われても付いて行くからね!」
「追いつけたらな」
ガォォォォ――!!
ハンティングホラーの機関部が唸る。獣の咆哮が生み出す爆発的な瞬間加速によってネプテューヌ達の前からエヌラスの姿が遠ざかっていった。その大型自動二輪の前輪が浮き、そしてそのまま宙を走る。前輪と後輪のリムに刻み込まれた魔術文様を読み込む事によって生み出される浮力が「空中を走る大型バイク」という謎の物体を実現させた。一から設計したハンティングホラーは比べ物にならない推力と馬力によって既にプラネテューヌから走り去っている。
「ポカーン……」
「……空中を走るバイク、かぁ……なかなか良い趣味してるじゃない。……わたしのバイクも改造してもらえるかしら」
「あの、アイエフさん?」
「へ? いや、別に頼もうとか考えてないわよ!? ほんとよ!?」
「って、エヌラス追いかけないと!」
「そーのーまーえーに! 仕事しなさい!」
「うっ、そうだった……女神のお仕事しないとゲームもプリンも禁止なんだよねぇ……」
「エヌラスさんはどうしよう?」
「まぁ早々やられるなんてこともないと思うから、今はわたし達のお仕事優先! ゲームとプリンの確保が最優先! それからエヌラスの手伝いに行こう!」
どうせ暴れるからすぐに場所も分かるだろう、というのがネプテューヌの意見。それにはなんとなく同意出来てしまう。後で絶対に怒られる。
「でもどうして邪神と戦うのを避けさせたんだろ……」
「変神されたら堪ったものじゃないわよ。だからじゃないの?」
「……なんだか、それ以外の理由がある気がするなぁ」
とはいえ、今は自分の仕事に集中しなければ。ゲームもプリンもネプテューヌにとって、引いてはプラネテューヌの平和の為にも必要なのだ。
――次元神セロンは言っていた。
『お前の選んだ道は、確かに正しいのかもしれない』
『だがそれは同時にお前自身の破滅にも繋がる』
『お前は一体いつまで戦い続けるつもりだ?』
その問いに、自分はなんと答えたのだろう。
気づけば戦っていた。邪神と戦い続けている。だからかもしれない。
人一倍その気配には敏感だった。何が正しくて、何が間違っているかはわからない。ただ――邪神の手で悲しむ人達が大勢生み出されるのは、後味が悪くて放っておけなかった。
「…………」
《__?》
「ああ、なんでもない。気にするな、ハンティングホラー」
気遣うような、表示される電子メッセージにエヌラスはハンドルを握り締める。
どの次元世界であっても、自分は邪神を相手にしてきた。まるで自分に呼び寄せられているかのように集まる群れを倒してきている。それが、このゲイムギョウ界でも起きていた。
ネプテューヌ達のいる超次元で。エヌラスは奥歯を噛みしめる。
「邪神は皆殺しだ……一匹残らず、
ハンティングホラーが嗅ぎつけた邪神の気配は、プラネテューヌから遠く離れた辺鄙な場所だった。見渡す限り大自然しか見当たらないような、人気のない山奥で爆発が起きている。そちらへ向けてハンドルを切るまでもなく、ひとりでに動いていた。自ら判断して思考し、動くこの無機物生命体は魔力で動いている。その動力源は何か。答えは魔導書だ。それがハンティングホラーの『マギウス心臓』であり、ナコト写本と呼ばれる魔道書のさらなる写し――ナコト写本機械言語版。機械の部品もヒヒイロカネをふんだんに使用している。これは“リセット”を繰り返しながら集めた。自動修復プログラムも搭載し、ナノマシンまで導入している。
――次元神セロンは言っていた。
『私は、お前が戦い続ける限り此処で待とう。次元の狭間で。次元の境界で。この
『三千世界の果ての果て。無限宇宙の果てなき闘争。あらゆる邪神がお前の魂を狙うだろう』
『――心せよ、エヌラス。これは英雄の物語ではないのだからな』
「…………わかってるさ、セロン。これは英雄の物語なんかじゃねぇ」
邪神と交戦しているのは、四人のロボット。
「これは、愚かな男の話だよ。自分の持つべき
自分は果たして、人間なのか。魔人なのか。それとも旧神なのか。かつてはそうだった。
魔人であり人間であり、旧神に至った自分は今――果たして何者なのだろう。答えがないままエヌラスはハンティングホラーで邪神を横から撥ねた。
理由なんかどうだっていい。今はただ、戦い続けるのみ。
ここには守らなければならない彼女達がいるのだから。
《貴様、何者だ!?》
「通りすがりの暇な神様だよ。アレは俺の獲物だ、悪いがやらせてもらうぜ」
《我々の味方と見ていいのか》
「お前達が敵対しなければな」
無銘の倭刀とレイジングブルを召喚して、構える。
「当方の一身上の都合により、お前を封神させてもらう――」
身体を起こす邪神の名は――。
「“
『――
まるで、まるで己の名を忌み嫌うかのような憤怒の咆哮が前に立つもの全てを滅ぼさんと吼える。現にこの邪神は滅ぼしてきた。仮面の邪神を追うエヌラスの前に現れて、その戦いに巻き込まれた村を、町を、国を、文化も思想も何もかも。終わらない戦いの犠牲に吠えてきた。遂には、相手しきれずにエヌラスが次元の狭間に蹴り飛ばした始末だ。だが恐らくは――仮面の邪神が再び喚んだのだろう。
そうでなくては説明がつかなかった。
《名前は》
「エヌラス。お前は」
《セインだ》
《俺はディル》
《シュラだ、よろしく頼む》
《……ジーン。一発だけなら誤射かもしれん》
「そんときゃスクラップだ、覚悟しとけテメェ」
改めて対峙する。邪神を相手に遅れを取らなかった四人――シロトラがB2AM内で目指すチームプレーを誰よりも先に体現していた。打ち合わせ無しの即時連携。スタンドプレーによって生み出される自然なチームワーク。アイコンタクトも、号令もなく動くこの四人はむしろ他のメンバーからは頭がひとつ抜きでたスコアを叩き出す。だからこそシロトラはこの四人を隔離した、辺境の土地へと。
《時にエヌラスよ、君はケモミミは好きか》
「大好物だ。それが」
《オーケー。今この瞬間から君は俺達のソウル・ブラザーだ!》
――もうひとつ言うなれば、癖の強い変人しかいないので協調性がなかった。