超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
親指を立ててディルが先行する。機関砲を背面に背負い、左腕に装備したスチームパイクの充填を始めた。蒸気圧縮される基部には相応の時間が掛かるが、直撃を受ければ邪神と言えど一溜まりもない。
《こちらはスチームパイクの装填中だ。時間を稼いでくれ》
「その前に倒しちまっても恨むなよ!」
エヌラスが走る。ロード・オブ・インフィニティは無手で姿勢を低く構えていた。セインもその隣でブースターを吹かして走る。
《俺は隠密強襲型だ。隙を作る、任せたぞソウル・ブラザー》
「いや、そこまで信頼されても困るけどよ……」
まさかケモミミに賛同するだけでここまで信頼関係が築けるとは思ってもみない。だが、これから死線をくぐり抜ける仲だ。四の五の言ってもいられない。
《何を言うか! 変態的趣味嗜好が賛同されることほど男に嬉しい事はない!
《セイン、上だ!》
《邪魔だ!》
飛びかかる邪神を“あしらい”“見向きもせずに”レーザーブレイドで弾く。ガキャンと甲鉄同士の擦れる音。
《――分かち合う喜びを共にしてこそ、最愛の友! 魂の昂ぶりを共感できるこのシンパシーが!》
『ARRRRRッ!!!』
《君がソウル・ブラザーだと告げている!b》
「いや、お前さりげなく神がかってるからなそれ!?」
親指を立てながら全身鎧の邪神の猛攻を捌く。身を屈めながら腰部ブースターを稼働させた回り込みによって背中合わせの状態から切り上げる。背後からの攻撃に体勢を崩した邪神に、エヌラスの飛び蹴りが突き刺さり大きく距離を離した。そこへジーンのスナイプが更に頭部を直撃する。
《……強化し過ぎたか……》
ポツリと呟く声は、加熱された銃身の状態を見ていた。出力の微調整を誤ったらしく、威力が上がったはいいがその分負担が普段よりも大きい。その場で即座に軌道修正に入るとジーンを狙って邪神が走りだす。だが、その足元にフリスビーのように投げられるのはシュラの投げ放つ地雷――の、形をしたトラバサミ。
バチンと見事に踏み抜いた邪神がつんのめって、そこへセインとエヌラスの斬撃が叩き込まれる。
《オマケだ、持ってけ!》
「レイジングブルもだ!」
左肩に担いでいたグレネードランチャーと実弾が連続して撃ち込まれ、邪神が爆風に呑まれた。
《うむ、見込み以上だ。ますます気に入ったぞソウル・ブラザー!》
《ナイスジョブ!》
《グッジョブ!》
《グッボーイ!》
《転属したい》
「お前らノリと勢いで生きてるって言われたことねぇか……」
《記憶に無い!》
しかし、とエヌラスは思う。改めて見れば、その装備の規格は共通している。腰、もとい大腿部に装着しているブースターは形状こそ違えど、レオルドと同じのようだ。背面に背負った武装ラックも。
「……もしかして、お前らレオルドの知り合いか?」
《うん? そうだが、君も知り合いなのか。ならば尚更、お互いに遠慮はいらないな》
「みてぇだな。来るぞ!」
『GAAAA!!』
あれだけの攻撃を食らってもまだ邪神が弱る気配はない。流石は、と思う。
そして、近くに転がっていた鉄パイプを拾い上げて――エヌラスが舌打ちを漏らした。
「くそ……こっからはマジでやべぇぞ」
《たかが鉄パイプだろう?》
《よくチャンバラごっこで使ってて割りとボロいけどな》
「お前ら子供か!?」
《馬鹿言うな! ただのチャンバラじゃないぞ! 子供は『時代劇の殺陣シーンを俺たちで再現してみた動画』なんてインターネットに投稿したりしない!》
「お前ら本当は頭悪いだろ!」
言っている間にも邪神の手にした鉄パイプがみるみる変色していく。
『Guu……Ar……!!』
それが、二本。両手に携えられる。長さにすれば、ちょうど大小の二刀流。鉄パイプからは金属質な光沢が消え失せている代わりに、禍々しい赤と黒のオーラが付き纏う。
「くそが、拾ったもんは何でもかんでも自分の得物にしやがって……」
エヌラスも偃月刀を奪われ、それが壊れるまで散々苦労させられた。となれば、次の獲物である得物は……。
「セイン。武器取られないように気をつけろよ」
《フラグを立てるな。俺は踏み抜いた挙句寝込む男だ》
「一生寝てろよお前……」
疲れる。付き合ってて会話するだけで体力と気力が持っていかれる。ネプテューヌのようにハイテンションでもなければ、ユウコのようにハイパワーでもない。なんというか、過酷な環境に身を置いているような、サバイバル生活のような心境に近い。
邪神が鉄パイプを持ってセインに殴りかかる。幅広の刀身を持つ刀型のレーザーブレイド《ジリオス》が火花を散らす。
《なに!?》
長い鉄パイプで捌き、短い方の鉄パイプが手首を絡める。それを押さえこんだまま逆にひねり、関節部が悲鳴を上げた。身体を蹴り飛ばされ、もぎ取るようにジリオスが奪われる。
《ホラ見ろ、俺はフラグ回収が上手いんだ!》
「威張るなやコラァァァァァアアアア!!」
鉄パイプを捨て去り、新たに手にした得物がみるみる変色していく。緑色に発光していた刃は赤く濁り、刀身は黒い霧が覆い隠していた。セインはその場から後退する。目配せすると、ディルが頷いた。
バシュン――プシュー……ガチャン。
蒸気によって圧縮された機関部が弾芯を装填する。
《スチームパイクの充填完了だ。時間通りだ、流石だなセイン》
《彼が来てくれたのは嬉しい誤算だった。かましてやれ、ディル》
《おうッ!》
円盤状のスラスターから大容量のブースターを吹かして、ディルが迫った。丁々発止、目にも止まらない神速の剣技の応酬へと身体を突っ込ませて、多少の損害を覚悟して右腕で邪神の左腕を掴んだ。
《フゥンッ!!》
ガゴォン――ッ!
炸裂する弾芯は邪神の加護を貫いて直接ダメージを与えたのか、邪神が初めて苦悶の声を挙げる。しかし、弾芯もまた、一発限りで先端から潰れていた。
『G、A――!』
《ディル、耳を塞げ》
巨体の後ろからショットガンが伸びる。シュラが担架代わりにディルの肩口から引き金を引く。超至近距離から全身にベアリング弾を受けた邪神が身体を吹き飛ばされる――だが、怪力のディルはその手を離さずに踏み留まった。
《おぉっと。俺から逃げようなんて――思うなぁぁぁぁ!!!》
両手で邪神の身体を持ち上げ、そのまま地面に背中から叩きつけるとスラスターを吹かしながらその場で旋回を繰り返す。ハンマー投げのように上空高くへ放り投げられた邪神が姿勢を整えようとする。そこへ、一条の光線が突き刺さった。無防備な邪神には防ぐすべもなく、更に体勢を崩される。
ディルは左肩に背負っていたミサイルターレットを展開。上空の邪神に全弾ロックする。しかし、それを予想していたのか、ジリオスを逆手に構えると投擲。
先端が空気を裂きながら矢のように迫る。
《……》
ジーンはシールド発生装置を手にすると、シュラへ向けて投げた。それを受け取り、角度をつけて設置する。そこへセインがチャージングシステムを起動しながら、光学障壁を足場にして飛び上がった。
ディルの頭部火器管制システムがミサイルを全て発射状態へ移行するのと、セインがその視界を一瞬だけ塞ぎながら身体をひねってジリオスを掴み、離脱するのは同時だった。直後、着地と同じタイミングでミサイルターレットから装填数六発全てが発射される。
邪神に向けて白い尾を引きながら迫るミサイルは一発を掴まれ、二発目と相殺された。その爆風で軌道が逸れるも、追尾するミサイルを足で、腕で迎撃する姿にセインが面倒そうにグレネードランチャーを発射した。
ポン、と間の抜けた音を立てながら邪神が都合四発の爆炎に呑み込まれて森の中へ落ちていく。
エヌラスがそれを追いかけようとするが、その下は崖になっていた。水柱が上がり、そのまま川に流されていく。
(……こいつら)
まるで打ち合わせていたかのような連携。それぞれの装備を熟知した上で、完璧なまでの適応性を見せていた。自分の迎撃に武器を投げるだろうという予感を含めて。恐らくはあらゆる戦場に身を置いたその瞬間から彼らは適応する。それは、相手の地の利を自らの土俵にしてしまうという地形の得手不得手を無視した即応性。敵に回したくはない――そう思いながら振り返ると……。
《イエエエエエエェェェェェイ!!!》
無邪気にハイタッチをしていた。
《見た? 見た!? 俺、すっげぇスタイリッシュに刀掴んだ! 映画ばりのアクションで!》
《くっそー、録画しときたかったなー。あの連携とかマジ最高だったのに》
《それよりシュラ。スチームパイクの弾芯が潰れたぞ、これ直せるか?》
《今日の日記は長くなりそうだ》
「…………」
エヌラスは頭が痛くなってきた。出来ることならこれ以上、関わり合いになりたくない。お前らのそのテンションの落差はなんなんだ。
「俺はあの邪神を追うから、お前らはここにいろよ……」
《あ、あぁ……すまなかったなソウル・ブラザー》
《俺たちはいつでもここにいいる。困ったことがあったらいつでも来てくれソウル・ブラザー》
《秘蔵のコレクションを共に眺めながら紳士的な時間を過ごそうじゃないか、ソウル・ブラザー》
《良ければまた来てくれ、ソウル・ブラザー》
「誰が来るか!!!」
頼まれても来ない。エヌラスは川に落ちた邪神を追って崖から飛び降りた。
――その姿と生体反応が遠ざかったことを確認して、セインは通信回線を開く。
《こちらB2AM本部、オペレーター》
《あ、ちっひー? シロトラ教官います?》
《気軽に呼ばないでください、勤務中です》
《なら、シロトラ総司令官に連絡を。こちらB2AM総合特務班、トライアド。想定外の事態が発生した。緊急で頼む》
《はぁ……どうしてそう、いつも真面目に出来ないんですか?》
《私は煩悩で動いている》
《はいはい……はぁ》
《あぁ、ちっひーの息遣いがマイク越しに……あ、切られた》
B2AMでは、彼ら総合特務班をこう呼ぶ。
“頭のおかしい連中”だと。