超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
バーチャフォレスト近辺。プラネテューヌへ続く街道を歩く二人の少女が居た。
片方は赤い衣装に身を包み、王冠をかぶった少女。もう片方は淡い水色のツインテールの少女だった。
「うむ! 実に興味深い場所だな!」
「ちょっとアーサー。少し、休ませなさいって……」
「何を言うかチーカマ。せっかく“ゲイムギョウ界”とやらに来たのだから私は一刻も早くだな――」
二人は街道を歩いていたが、休憩を挟むことにする。
「むぅ。私は早く街に行きたいのだが……」
「しょうがないでしょ。わたしはあくまでも貴方のサポート妖精なんだから」
「まぁまぁそうふてくされるな。これぞ旅の醍醐味、というやつだ。こうして足を止めて自然の環境音に耳を澄ませるというのも風情があるぞ」
アーサーと呼ばれた少女は目を閉じて小鳥の鳴き声、風に揺れる木々の音。爽やかな青臭い風の匂いを胸一杯に吸い込む。
それに混じって、何か別な音も聞こえてきた。
「――うむ?」
「どうしたの?」
「いや、なんだろうな……聞き慣れたような、そうでもないような戦闘音が聞こえてくるのだ」
「どっちなのよ」
「……これは、戦の音だな。片方は……甲冑騎士のようだ」
激しく打ち合っている金属同士の衝突音、かと思えば打撃音。転々と奏でられる戦闘音に、アーサーは首を傾げた。銃声、剣戟、打撃、魔法の類も感じられる。しかし、どうにも大人数で戦闘しているような様子ではないらしい。
「これは妙だな、気になる」
「ちょっと? まさかとは思うけれど、首を突っ込むつもり?」
「案ずるな、少し覗くだけだ。もしかすれば美少女同士が誰にも迷惑を掛けまいと鍛錬しているかもしれんしな」
「仮にそうだとしても、厄介事に首を突っ込むのはやめなさいよ……」
「チーカマは此処で休んでおれ。すぐ戻る」
そう言い残して、アーサーは戦闘音の聞こえてくる方角へ向けて足を運ぶ。少しだけ覗く、とは言ったが場合によっては手助けも必要だろう。
――その頃、ネプテューヌ達は隣町に来ていた。アイエフが受注したクエストは、近隣のモンスター駆除。ここ最近はそういった被害が増えているらしい。
「ねぇ、あいちゃん。こっちの方角ってラステイション方面だよね?」
「そうね」
「んもー、ノワールは何してるんだろ」
「それを言うなら、国境警備隊に言いなさいよ。本来なら彼らの仕事でしょ」
噂をすればなんとやら。街中を歩く白い機体色に、アイエフが声を掛けた。隣には赤いカラーリングのロボットと黄色と黒のツートンカラーのロボットを引き連れている。
《これは、女神パープルハート様にパープルシスター様。並びにアイエフさん》
「ちょうどよかったわ。アンタに聞きたいことがあったのよ」
《なにか?》
「近隣のモンスター駆除、国境警備隊の領分でしょ? なに油売ってるのよ」
《……ラステイション方面に関しては、あちら側の防衛隊に任せている》
「職務怠慢も甚だしいわよ」
「あいちゃん、今日はどうしたの? やけに機嫌悪いけど……」
「誰のせいだと思ってるのよ、誰の! もう、モヤモヤするわ」
冷静さを欠いているのは誰が見ても明らかだった。それにシロトラは赤いカラーリングのロボットに目配せする。
《初めまして。自分はカフェテリア《マグメル》の従業員、ジンガです。こちらはドバル》
《よろしく》
《此処でお会いしたのも何かの縁。休憩がてら寄って行きませんか? もちろん、厚意でメニューは無料で提供させていただきますが》
「えっ、いいんですか!?」
《はい。なにせプラネテューヌの女神様ですから》
「……何か企んでないわよね」
「まぁまぁあいちゃん、落ち着いて。向こうはああ言ってるんだし、お茶でも飲みながら話そうよ。ねぇねぇ、プリンはある?」
《それはもちろん!》
赤いカラーの機体、ジンガは自分の働くカフェへと案内した。
《シロトラ様は?》
《すまない、本部から緊急の伝達だ。ここを離れる、任せたぞドバル》
《了解》
ファイルを受け取り、それに目を通すとジンガに渡した。
カフェテリア《マグメル》ではロボットも人間も利用できるように店内を仕切りで隔てていた。ネプテューヌ達が案内されたのは人間用のスペース、もちろん禁煙席だ。
「へぇ。こんなお店があったのね」
《はい。最近オープンしたばかりですが、味には自信があります》
アイエフがぐるりと店内を見渡すと、女性客が多い。団欒とした食事風景には確かに何も仕掛けはなさそうだ。
《ジンガ。私は配達に出てくる》
《ん、済まないな。こちらも呼び止めてしまって》
《気にするな》
「配達?」
《私の担当は、配送業者です》
言われて、ネプギアがドバルの脚部を見ると、履帯と一体化した二足歩行。接地性を重視した重厚なフォルムに目を奪われる。
「わぁ……」
《過酷な環境下に置いても確実な配送を可能とするのが、私のコンセプトですので。ルウィーへの配達なども承っています》
「おぉ~」
《ですが、リーンボックスだけはどうにも》
「あぁ……」
陸続きならば問題はないらしい。少しだけ名残惜しそうにしながらドバルは店の裏口から配達に向かっていった。
ジンガはと言うと、エプロンを着けて他のスタッフへの指示などを出している。シロトラと同伴していた以上は、彼らもB2AM――ハァドラインの手の者だ。油断だけはしないようにアイエフが身構える。
《お待たせしました。プリンとケーキセットです》
「わぁ……」
《甘味は頭の働きを良くしますからね。あとこちら、サービスで飲み物です》
食事と飲み物を用意した上で、ジンガはその場に腰を下ろした。
《色々と、尋ねたいこともあるでしょう。自分で良ければ話を聞きます――例えば、シロトラさんのこととか》
「あら。意外と協力的なのね」
《はい。自分はB2AMでは裏方に回る方ですから。国境警備隊などの前線に立つよりは、こうして裏から支える方が性に合っています》
「あなた達って、戦闘用じゃないんですか?」
《いえ、違います。元は全員、作業用ロボットです。ただ、その機構が偶々武装運用に適していたので最近はモンスター退治なども請け負っているだけなので》
「シロトラは?」
《あの方は、純粋な戦闘用の機体です。その戦闘力は我々の比ではありません》
ジンガの下に女性スタッフが駆け寄り、耳打ちする。頷くと厨房に回るように手配した。
《実は、経営難でして》
「いきなり重いわね」
《あ、違います。この店ではなく、B2AMがです。ほら、最近はそういった不穏な噂も絶えないので……ウチも仕事がめっきり減って》
「世知辛いわね……」
《そこで、こうした形で組織とプラネテューヌの両方を支えられないかと思ったのです。ちなみに此処は二号店です。いつかはプラネテューヌに進出したいと考えていますね》
「しっかりしてるわねぇ。……どこかのプリン頬張ってる女神と違って」
「ねふっ?」
美味しそうに食べて皿を空っぽにすると、満面の笑みを浮かべているネプテューヌにアイエフが毒気を抜かれて呆れている。どうしてそう、気楽なのか。
「まぁいいわ。しばらくゆっくりさせてもらうわよ」
《はい。どうぞごゆっくり。何かあればお呼びください》
それにしても、と紅茶を一口含みながらアイエフは考えていた。B2AMが経営難という話は気にかかる。それならば当面の資金をやりくりするために様々な仕事に手を出しているというのも納得がいった。ハァドラインと言えど、お金には勝てないらしい。
「はぁ。なんだか拍子抜けしたわ。B2AMに関する調査はもう切り上げようかしら」
「ただのいい人達みたいですし……」
「そうね。今はプラネテューヌの為に働いてるみたいだし……このケーキもらうわね」
「はい、どうぞ」
ケーキセットから取ったチーズケーキをフォークで切り分けて、口に運ぶとその意外な風味にアイエフが目を丸くしていた。
「……おいしいわね。持って帰れるかしら」
《お持ち帰りですか? それでしたらレジで注文の方を》
「できるの? ありがと。知り合いにも食べさせてあげたいと思ったのよ」
《それは嬉しいですね。作った甲斐がありました》
「えっ!? ジンガさんの手作りなんですかこのケーキ!?」
《はい。お菓子作り、楽しいですよね》
「女子力たけぇー……」
そう言いながらネプテューヌもチョコレートケーキに手を伸ばす。ひとくち食べると、口の中に広がる甘みとほんのりとした苦味、チョコレートの風味になめらかな舌触り。とろけるようなクリームの絶妙な加減に思わず手が止まってしまった。
「これ、いーすんにも食べさせてあげたいなぁ! すっごくおいしい!」
《お持ち帰りでしたら大歓迎です》
「でも、いいんですか? 経営難なのにわたし達のメニューは無料だなんて」
《店の経営には問題ありませんので。仮にB2AMが経営破綻で潰れても私には菓子作りがありますし》
「ちゃっかりしてるわねホント……」