超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「……って、のんびりお茶会してる場合じゃなかった。エヌラスの助けにいかないと」
「珍しいわねぇ。こんなやる気あるネプ子見るの初めてかも」
「モチベーションとかの問題じゃなくって、エヌラスはひとりで戦わせると何をするかわからない不安で一杯なんだよー、あいちゃん」
「そんなにヤバイなら首輪でも繋いどきなさいよ」
「…………エヌラスに」
「首輪…………」
ネプテューヌとネプギアの脳内に浮かび上がるのは、首輪をつけられて困惑しているエヌラスの姿。
「なんだろ。ムクムクと湧き上がるこのえっちな気分は……好奇心旺盛なわたしの魂に火が点いた気がするよ!」
「ア・ン・タ・は~~~!! もう知らないわよ! 行くなら勝手にしなさい。わたしは此処でお茶でも飲んでゆっくり頭冷やしてるから!」
「うぅ……あいちゃんが怖いよぅ……あ、ネプギア。ケーキ貰っておいてねー!」
ネプテューヌが逃げるようにカフェ『マグメル』を後にして去っていく。
「もう、まったく……なんでわたしがこんなにイライラしないといけないのよ」
「アイエフさん。そんなにエヌラスさんが嫌いですか?」
「別にどうとも思ってないわ。それよりもネプ子よ、ネプ子。なんであんなにエヌラスにベッタリなわけ? リア充になって浮かれ過ぎじゃないかしら」
「お姉ちゃん、エヌラスさんのこと好きですし」
「ネプギアも?」
「はい」
恥ずかしそうに、だが幸せそうに言うネプギアにアイエフは「ふーん……」と呟く。
「不思議なのよね。エヌラスってそんなに良い奴かしら?」
「まぁ、少なくとも……あまり素行がいい人とは言えませんね」
どうしようもないバカの度し難いクズ、であるというのはネプギアも知っている。しかし、それとは別にエヌラスの素性を知っている側からすればアイエフの抱いている意見にも否を唱えた。
「確かに、アイエフさんの考えている通り。エヌラスさんは自分勝手なところもありますし、生活基準が怪しい所もあります」
「そこは言うまでもなく自覚があるのね」
「でも――」
それでも。
あの人は優しかった。助けてくれた。命がけで何度でも戦ってくれた。自分が命の危機に晒されても、誰よりも自分を優先してくれた。それがどんなに危険なことも知っている。だけど、エヌラスはどんな時でも自分が困っている時に助けに来てくれる。
「でも、エヌラスさんは本当に良い人なんですよ……? 悪いところばかり目立ちますけど、でもそれ以上に――優しいんです」
「……それだけ、かしら?」
「えと、他にも……ちゃんと仕事はしますし、多分環境が悪いんだと思います……」
ネプギアの記憶が正しければ、エヌラスはユノスダスではキチンと仕事していたし、気配りも出来る。環境が悪かったのだろう、と予測を立てていた。確かに――九龍アマルガムは犯罪国家と呼ばれるほどに治安が悪い。そこで国王など勤めれば治安改善など徒労に終わる。だからああなってしまったのだろうと考える。
「ねぇネプギア。わたしの話を聞いてくれるかしら」
「はい」
「貴方が言うように、確かにエヌラスは本当は良い人なのかもしれないわ。でも、わたしが言っているのはそういうことじゃないのよ」
「というと……」
「下世話な話になるけど、エッチなことしたんでしょ? そのせいで悪く言えないんじゃないかって勘ぐっているの」
(あ……アイエフさんが悪く思っているのはそういうことだったんだ)
なら話はもっと単純で簡単だ。誤解を解くのもそう難しくない。
「えと、お姉ちゃんやわたし、ノワールさんがアダルトゲイムギョウ界に行ったって話はしましたよね」
「ええ」
「そこでは世界の滅亡が始まってて、全面戦争の真っ只中で。そんな時に出会ったのがエヌラスさんなんです」
バルド・ギアとの戦闘から、ドラグレイス。そして軍事国家アゴウのアルシュベイト。彼らとの激戦を語る。クロックサイコ、ムルフェスト――そして、大魔導師とヌルズとの死闘。
アイエフはネプギアの話に耳を傾けて、静かに頷いていた。
右腕を潰し、左目を奪われて。それでもまだ戦い続けている。生き残り、再会を果たした。
笑ってお別れをしようと約束をして、そして今――笑って、一緒に生きたいと考えている。
「――アイエフさん。だから、エヌラスさんをあまり」
「わかったわよ。反省してるわ……まったく、そうならそうと言えばいいのに」
「エヌラスさん、自分のことを話すのは苦手ですから」
「そうやって甘やかすとろくなことにならないわよ。ネプ子みたいに」
「そういえば、お姉ちゃん……」
エヌラスの助けに行くと行っていたが、ひとりで行かせて大丈夫だろうか。
――アーサーは、木陰に身を潜めて戦闘の行われている場所へと辿り着いた。そこでは、異様な戦闘光景が繰り広げられている。
かたや、一切の華麗さもない漆黒の甲冑騎士。一部の隙もない全身鎧でありながら、その動きは肉食獣のように軽やかだ。だが理性を失っているのか狂ったように猛攻を繰り出している。
対する相手もまた、黒一色。赤い瞳だけが業火のように燃えていた。
(見たこともない騎士甲冑だが……)
そんな二人が、武器も持たずに徒手空拳で殴りあっている。騎士甲冑の甲手で殴りつけられれば相応の威力が見込めるであろうが、青年の動きは柔らかい。剛を制する柔――アーサーは知る良しもないが、エヌラスの扱う武術は由緒ある歴史のあるものだ――騎士甲冑の禍々しいオーラを受け流し、やおら隙を見つけると転じて鋭い蹴撃を見舞う。一撃、二撃と蹴りあげて空中で更に回転しながら側頭部を強烈にブーツで横殴りに蹴りつける。それは流石に効いたのか、騎士甲冑の身体が横っ飛びに転がっていた。残心。
「はぁ……はぁ、はぁ――クソが」
しかし、疲労の色が見て取れる。毒づきながら口端から垂れる血を拭う。整息して構える。騎士甲冑が起き上がり、両手を広げて姿勢を低く構えていた。
『
「しぶてぇな……腐っても邪神なだけはあるな」
邪神? アーサーは禍々しいオーラを纏う騎士甲冑に視線を向ける。なるほど確かに、普通の敵ではなさそうだ。加えて、青年の方は疲労している。しかし邪神の方はダメージが通っていないのか、動きに全く疲労の色が見えない。一方的な防戦を強いられている青年は相手の攻撃をうまく捌いていた。一瞬の隙を突き、相手を吹き飛ばす。
「クソ……ッ!」
懐に手を入れて、取り出すのは一本のタバコ。火をつけるなり、吸い始めていた。戦闘中にそんな余裕を見せるだけの余裕があるとは思えない――しかし、不思議なことにタバコをくわえたまま戦う青年の動きが転じて、騎士甲冑の邪神を押し返していた。
腕を搦めとり、足元を蹴飛ばす。崩れた相手の腹部――ディルのスチームパイクを食らってヒビ割れた胸部に空けた手のひらを当てて、掌打を打ち込む。地面に深く沈み込む騎士甲冑に向けて、更に拳を打ちつけて地面に縫い付ける。容赦のない追撃に、しかし青年は立て続けに拳を何度も打ち込んだ。
一方的な、徹底した暴力。思わず制止の声を掛けてしまおうかと思うほどに苛烈な攻撃に、アーサーは腰を浮かしそうになる。
――だが、青年の顔が掴まれて今度は地面に叩きつけられた。
『Aaaaaa!!!』
地面を転がり、蹴り飛ばされて受け身を取りながら立ち上がる。しかし今度は邪神の拳が腹部を深々と穿つ。顔面を殴打して、殴り返して、脇腹を殴られ、顔を殴りつけて、互いの腹に蹴りを押し当てて距離を放す。すると、青年が吐血した。膝を着く相手に更に追い討ちをかけようとする邪神に、いよいよ持っていてもたってもいられなくなったアーサーが飛び出した。
「はぁぁぁっ!!」
『GA――!?』
その手に持った、エクスカリバーから響く確かな手応え。金属音に邪神が飛び退く。
「お主、大丈夫か!」
近くで顔を見れば、全身傷だらけだった。額からも血が流れているが、乾いている。時間の経過からして少し前だろう。
「誰だ、お前?」
「わたしは――いや、名乗るのは後だ。今はお主の手当が優先だな、じっとしていろ」
カードを取り出して、騎士の力を借りようとするアーサーの体がバランスを崩した。
「ぅわ!? 何をする!?」
「俺の回復は後回しだ!」
『Ar――Guuuaaa!!』
飛びかかる邪神の体を、エヌラスは蹴り返す。“ジュージュー”と肉の焼けるような音に顔をしかめてアーサーは音源を探る。
「くそが。人の胃袋潰しやがって。今日の晩飯食えなかったらどうすんだ……」
もご、と口の中で咀嚼してから唾を吐き捨てる。それは損傷した体組織も混じえて吐き出されていた。
「お主、もしや再生しているのか?」
「ああそうだよ。あの野郎を相手に回復なんてしてる余裕がねぇ」
銀鍵守護器官で補助魔法と自動回復を並行して自らにかけながら、エヌラスは構える。
「何はともあれ、手を貸すって言うなら余計な世話だ。アレは俺が殺す」
「何を言うか! そんな怪我だらけで言われても説得力などないぞ」
「ああそうかよ」
「王の施しを無下にするとはなんて傲慢な……」
「いや、俺も一応一時期は国王だったんだがな……」
「なんと奇遇な」
今度は破顔して笑みを見せる少女と肩を並べて、エヌラスは邪神に向かう。