超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エピソード37 静かに騒がしくそして賑やかに
――キンジ塔を走る。手を繋いで、離さないように強く握りしめて。
満身創痍のエヌラスに連れられて螺旋階段を登る。
「……エヌラス」
「だい、じょうぶだ……もうすぐ、終わる……」
せめて――せめて、彼女だけでもと。ユウコだけでもと。アルシュベイトも、バルド・ギアも、大魔導師も、ドラグレイスも全て犠牲にして。それでも選んだひとりを救おうと、エヌラスはユウコを連れてキンジ塔を登る。
それでも、世界は非情だった。世界を作るシステムはイレギュラーを認めない。
「――――ん、でだよ……なんでだよ……! なんでだ、どうして!!」
悲鳴に近い叫びと共に、エヌラスは“門”を叩いた。拳を打ちつけて、叫ぶ。
「開けろ――!! 開けてくれよ……ふざ、けんなよ……! ここまで来たんだ、頼むぜ……セロン。こいつ、だけでも――俺は」
限界だった。もう、懲り懲りだった。折れて、砕けてしまいそうな心が悲鳴を上げている。もうこれ以上は、耐えられない。全てが救えないのなら、ひとりずつ助けてやりたかった。だが、次元神セロンはそれを許さない。門は固く閉ざされて、エヌラスの拳から骨の砕ける音と血の滴る音にユウコは目を背けずに、優しく手を取った。
「いいんだ」
「……っ、いいわけがあるかよ。俺が、どれだけ犠牲にしたと思ってる! 俺がどんな思いであいつらを殺したと思ってやがる! 俺は――!! 俺は、ただ……」
「分かってる。お前はそうしてまで、私を助けたかったんだろ? 私を救おうとしたんだろ。バカだなぁお前は。本当に、バカだよ。そんな一銭の得にもならないようなことをして、一文無しのくせに」
はにかみながらユウコはエヌラスを抱きしめて、軽く口づけを交わす。
「エヌラス……私、痛いのは嫌だから」
「……嘘、だろ……やめろよ……よせよ――!」
嫌だ。駄目だ。ダメだダメだダメだダメだ! それだけは認められない、ここで諦めたくはない。他に方法があるはずだ。今からでも遅くはない、だから――止してくれ。
「泣くなよ、バーカ。お前はいっぱい戦って来たんだろ? それで、どうしようもなくなって、私だけでもと思ったからこんな所にまで連れてきたんじゃないのか」
「……ユウコ」
「いいんだ。知ってる……分かってる。エヌラス」
何度繰り返しただろう。何度目を背けて、何度この光景を繰り返してきただろう。
エヌラスの手には、銃が握られていた。吸血鬼を殺すために造られ、ただ怪物を殺すために作られたレイジングブル・マキシカスタムに銀の銃弾を装填する。泣きながら、嗚咽を殺して。それでも手は機械的な動作で一連の動作を終えた。
コツン、とマズルスパイクに額を押し当てて。ユウコは震える唇を噛み締めてエヌラスをまっすぐ見つめる。
「そ、そんな顔するなよう。次は大丈夫だって」
「――だい、じょうぶなわけ、ねぇだろ……」
「……そうだとしても。私は知ってる。信じてるよ、エヌラス」
撃鉄を起こす。
「私は、この意味を知ってる。お前が、私を選んでくれたのは本気で嬉しいんだ。だからさ、大丈夫。約束する」
「――ユウコ……!」
「何度繰り返したって、どんな世界だったとしても――私はお前の面倒を見てやるからさ。だから――」
ユウコは静かに涙を流していた。
「――だから、また一緒にごはん食べような」
発砲音は、銃声というよりは砲声のように鈍重に響き渡る。
「――――――――」
物言わぬ死体が倒れていた。脳天を撃ち抜かれて、即死している。そこにあったはずの顔は銃弾で無残に噛み千切られて原型を留めていない。
「――――ぁ」
涙が止まらなかった。誰もいなくなったキンジ塔で、ただひとり残されたエヌラスは泣き喚いた。迷子の子供が雑踏に残された恐怖に涙するように。嘔吐して、死体を抱き上げて、冷たくなった女性の身体を抱きしめてエヌラスはただ、泣いた。だが、もう彼女は帰ってこない。
他でもない自分が、その手で殺してしまったのだから。
「ユウコ……! ユウ、コ――俺は……!!」
何度コンティニューしたって、絶対に諦めない。
門が開かれていた。その先に待つのは、次元神セロン。大いなる“C”だ。
「――俺は、何度でも繰り返す……何度繰り返してでも、俺は……必ずお前達を、救ってみせる。例えそれが、どんな欺瞞や自己満足だとしても。傲岸不遜の
世界のすべてが笑顔で染まる、ハッピーエンドに。
それまで誰が諦めるものか――折れかけた心を繋ぎ止めて、立ち上がる。その先にどんな地獄があろうと歩き続けると誓ったのだ。
その手に抱いた少女の亡骸に。物言わぬ骸の山に。
(――――――…………)
それは、いつかの夢泡沫。何度目だったか数えるのも億劫になるほどの、遠い過去の記憶。どうしてそんなものを見てしまったのだろうかと、寝起きの頭でぼんやりと考えるがやはり分からない。記憶を辿っても、自分は確か邪神と戦って――それからどうしただろう。気を失ったような気がする。
此処がどこかと上体を起こすと、夜になっていたのか部屋は暗かった。外を見ればプラネテューヌの街並みが夜景に染まっている。
(……ああ。ここ、教会か…………)
右腕の感覚がなくなっていることに気づいて、エヌラスはコートを探した。しかし、暗い室内で黒のコートを探すのは難しい。それでもボンヤリと見えるシルエットを探ると、シガレットケースを取り出す。ちょっとした空間魔術の応用で、見た目はコンパクトだが中身はン次元ポケットのように山程ドラッグシガーが詰まっていた。
火を点けようとして、エヌラスはバルコニーに出てから吸おうと思い立って部屋を出る。
そこではネプテューヌとネプギアの二人が楽しそうにゲームをしていた。イストワールはアイエフとコンパと共にお茶を飲んでくつろいでいる。
「あら、エヌラスさん。ご気分はどうですか?」
「……あんまり、良くない」
倦怠感と頭痛に襲われてテンションが低い。夢見も悪かった。タバコを吸いに外に出ようとして、ふとイストワールが気になったように尋ねる。
「そういえば。その煙草って変わった匂いがしますけれど……どうして柑橘の香りなのですか?」
「エヌラスってミカンとかゆずとか好きだったっけ? あんまりそういう印象なかったんだけど」
「……んー? ああ、別に。大した理由じゃねぇよ」
「分かった。ユウコでしょ! いっつも柑橘系の髪留めしてるし、シャンプーとかもそっち系の匂いで統一してるんだよねぇー」
ネプテューヌがどうだと言わんばかりに胸を張るが、エヌラスはそれにノる気分ではなかった。
「ああ」
「やっぱり? でも、どうして? 好きだから?」
「……守らなきゃいけないやつのこと、忘れるわけにいかねぇからな。これがないと落ち着かねぇ」
エヌラスはフラフラとバルコニーに出て、タバコに火を点ける。
「ロマンチックですぅ~」
「エヌラスさん、やっぱりユウコさんのこと大事に思っているんですね……」
「あれ、そういえばユウコは?」
「………………え、えっとー。なんか? 私? 出るタイミング逃したとか、そんな系」
キッチンから戻ってきたユウコの手にはネプテューヌへの差し入れとして小さめのプリンパフェがトレイに載せられていた。
「さっきの話、聞いてたの?」
「いや、盗み聞きとか立ち聞きとかするつもりなかったんだけど出るタイミング掴めなくて……そしたらあの野郎、何言ってんだまったくよう……うぅ」
「ユウコ顔真っ赤っかでかーわいー!」
「にゃんだとう? そういうこと言うネプちゃんプリンはこうして! こうだぁ!」
「あぁーーーー!!! わたしのプリンがぁぁぁぁぁ!! ぷるぷるプリンをスプーンで掬う、最初の一口はまた格別なのに! それを……それを、どうするつもりだぁーユウコー!」
「これをな? イーちゃんの口にあ~んだ!」
「はぷっ。……モグモグ……こくん。大変美味しくいただきました」
「あ、あ、あぁ……わたしのプリンが……」
ユウコ特製ネプちゃんプリンパフェ(食いかけ)を置いて、ユウコは腰に手を当てる。
「ふふん、私を辱めた罰はな。怖いぞ」
「うぅぅ。胃袋を握られるってこういうことなんだなぁ……ユウコマジ怖い」