超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――バルコニーでタバコをくゆらせながら、エヌラスは呆然とプラネテューヌの夜景を眺めていた。感傷的になることなんてもう無いと思っていたが、存外自分はそうでもないらしい。
「……まじぃ」
いつも吸っているはずのタバコの味が、今日はいつになく苦く感じる。半分ほどまで吸ってから、エヌラスはドラッグシガーケースの片脇についている携帯灰皿へ落とし込んだ。
夜風を浴びながら室内の明かりに目を向ければ、ゲームをしているネプテューヌがプリンパフェを泣きながら食っている。ふんぞり返っているユウコにネプギアが苦笑していた。
こうして蚊帳の外から眺めているのが自分には分相応だ。そう思っていると、くしゃみが出る。やけに寒いと思ったら、包帯だらけだった。右腕の調子を確かめて、指先までの感覚がしっかりと戻っていることを確認するとエヌラスは包帯を外す。教会を覗き見るバカはいないと思うが、半裸で部屋に戻った。
「ちょ!? バカ、服くらい着なさいよ!? なに半裸で出てきてるのよ!」
「いや、お前ら俺の上半身見ただろが……」
「あの時はあの時で心の準備があったからいいのよ!」
取り乱すアイエフに比べて、コンパはと言うとジッと見てから、微笑む。
「えぬえぬ。怪我の具合はどーですか?」
「んー。まぁ悪くないな。自分で治したんだから」
「手当だったらわたしがやるですよ」
「そうか。それは助かる、その時はよろしくな。コンパ」
「はいですぅ」
自分でやると、どうしても雑になる。傷口を真新しく生成した肉で塞ぐという医療とも呼べない再生魔術で済ませてしまう。
「わり、先に風呂入る……なんかもう、身体がダルい」
エヌラスがのっそりと部屋を横切って脱衣場の扉に手を掛けた。
「あ、お風呂は今――」
誰かが呼び止めようとしているが、まだふらつく頭のエヌラスには遠く聞こえる。
ガラガラガラ…………。
「ほぇ?」
「えっ…………」
「…………あー」
ちょうどお風呂から上がったばかりなのか、艶やかな肌を伝う水滴に、ほんのりと赤みのついた頬と肢体が二人分並んでいた。垂れる金髪は湯に濡れて妖艶な雰囲気を醸し出し、女性らしく肉付きの良い肉体は程よく鍛えられており、引き締まっているところは締まり、余分な肉が落とされていた。だがそれでいて筋張っているような印象はない。そして、もうひとり。結んでいた髪を解いたチーカマの髪は背中を覆い隠す程長く、発展途上の身体は小柄な背丈相応に貧相な肉付きだった。しかしそれでいて、色気づいている。
見つめ合うこと数秒、時間が停止していた。
「……入ってたのか」
「ぁ……あ、あ……!」
(あー、やっぱ二人とも身体綺麗だなー。ネプテューヌ達もそうだけど、こっちはこれで……)
間抜けなことを考えていると、二人の悲鳴と一緒に投げつけられたコップがエヌラスの顔を強打する。かに見えたが、戦闘慣れしているエヌラスは難なくそれをキャッチしてしまった。
「キャーーー! イヤーー! なんで見てるのぉ!?」
「そうだぞ、エヌラス! チーカマの裸よりもわたしの方が断然肉付きが良い! いや、そういう趣味であるならばわたしは口を挟まんが……」
「あぁ、悪い」
ガラガラガラ……。エヌラスは気の抜けた返事を返しながら脱衣場の扉を閉めた。
振り返ると、静まり返った室内。痛い視線が突き刺さる。深呼吸をしてから、エヌラスは深い溜息を吐き出して目頭を押さえていた手を放す。
「…………なぁ、誰でもいいんだ。俺をぶん殴ってくれ」
「かしこまりィ!!」
アイアンクローからの、叩きつけ。ユウコの腕力によって床に叩きつけられたエヌラスが悶絶する。
「あ、気絶してない」
「ッ~~~~~……!!」
後頭部を押さえながら涙目で転げ回るが、なんとか立ち上がった。
「おぉ……これが噂にまで聞いたラッキースケベ! いやぁ、こういうのってわたしみたいな美少女がやっても同性だから反応薄いんだよね。あ、ノワールは別だけど!」
「お前が美少女っていうのはちょっとどうなんだろうな」
「なんですと!? まさかの美少女拒否!? わたしが美少女じゃなかったら誰がそのポジションなのさーエヌラス!」
「ネプギア」
「即答されたぁ! 姉より強い妹なんていねぇ! 姉より強い妹なんていないんだぁー!」
エヌラスに美少女認定されたネプギアが顔を真っ赤にして硬直している。
「え、えと、わたしなんかよりお姉ちゃんの方がずっとずっとかわいいと思います」
「ネプテューヌもかわいいのは認める。だけど何分、ネプテューヌの場合は変身後に全部持っていかれてる印象しかない」
「なんだかんだ言って、ちゃんと見るところは見てるんだから」
「……ねぇ、本当に大丈夫? エヌラス、まだ調子悪いなら寝ていなさいよ」
アイエフが様子のおかしいエヌラスを気遣うが、それに腹の音が応えた。ぐぅ~……。
その視線が向かうのは、目が合って頬を赤らめるユウコ。
「晩飯の残りとか、あるか?」
「え、あー。そりゃもちろん。どうせお前が寝起きでバカスカ食うだろうと思って用意してあるけど」
「なら頼む……腹の中空っぽで何もやる気しねぇ」
「んじゃーちょっと待ってて。今準備するから」
そういって足早にユウコはキッチンへと消えていく。エヌラスは半裸のまま椅子に腰を下ろすと、天井を仰ぐ。
「…………なぁ、俺の上着は?」
「ユウコさんが洗濯しちゃって。あ、でも乾燥したと思うので今持ってきますね」
そそくさとネプギアも乾燥機に入れたエヌラスの上着を探しにいく。アーサーとチーカマがようやく着替えを終えたのか脱衣場から出てくる。ふたりは顔を赤くしていた。というのも、湯上がりだからという理由だけではない。
「うぅ……まさか裸を見られるとは思わなかったぞ」
「ぐすん……」
「裸の王様はいねぇ」
「なるほど。つまりお主の前では私もただの少女、ということか! その発想はなかったぞ」
「うわぁん、男の人に裸見られたぁ。責任取りなさいよ」
「良いではないかチーカマ。こういうドッキリイベントも醍醐味だ。ただ、見られたのが美少女ではなくエヌラスというのが気がかりではあるが……」
どういう判断基準なのだろう。だが、そこでふとアーサーが半裸のエヌラスを見て眉を寄せるなり近づいた。
「お主の身体、傷だらけではないか。それも古傷ばかりだ」
「ん、おい……」
「それも、刀剣によるものばかりではないな。この傷はまるで猛獣にでも引き裂かれたような痕だ……」
「勝手に触んなって、くすぐったいだろ」
「まぁまぁ、よいではないかよいではないか。わたしの裸を見た以上はお主のも見せてくれ」
それを言われては何も言い返せない。仕方なく興味津々といった様子で触るアーサーの好きにさせていると、ネプテューヌが飛びついてきた。
「んもー、ミリアサちゃんばっかりずるいー。わたしもわたしもー!」
「なんでだよ」
「ははは。ネプテューヌとエヌラスは仲が良いのだな。ほーれほーれ」
「それそれー」
「やめろ、バカ、くすぐってぇだろ!」
三人で戯れてる内に、ネプギアが上着を持って戻ってくる。それからユウコも両手いっぱいに夕飯を持ってきた。袖を通し、できたての夕飯に手を合わせ――ちょっと待ったと手を止める。
「ユウコ」
「ん? どうした」
「いや、残り物で良かったんだが……」
「残り物もあるだろ?」
「そうなんだが」
「あれ? これわたし食べてないよ?」
「あー、うん。バレちゃった? ご飯残ってたからどうしようか考えてたんだけど、手っ取り早く大盛りチャーハンで全部片付けたんだ」
肉大盛り。ご飯山盛り。刻みネギ多数。卵複数。エヌラスはレンゲでチャーハンを食いながら夕飯の残り物である惣菜にも手を伸ばした。
「うまいか?」
「もぐもぐもぐもぐ……マズイわけがねぇ」
みるみるうちに減っていく山盛りチャーハンと料理の群れに、アーサーが目を白黒させる。
「驚いた。この量をまさか一人で食い切るつもりか……」
「ふふん。アーちゃん、こいつの胃袋は宇宙だよ」
「なんと!? エヌラスの胃はそのように偉大なのか!?」
「しかもお腹壊さないし。腐ってても食う!」
「それは人としてどうなのだ?」
「だって生で肉にかぶりつくし」
「いや、調理はしてやれ。それでは扱いが犬や猫と同義ではないか」
あながち間違いでもない指摘に、全員が苦笑していた。
「ごちそうさん」
「おそまつ! んじゃ片付けるね。食後のお茶は?」
「いや、いい」
「じゃあデザート」
「いらねっての」
「はーいプリンパフェ一丁ー入りまーす」
「聞けよ!?」
エヌラスの意思を完全に無視してユウコが再びキッチンへと姿を消す。
「さて。それでは一段落したようなのでわたしは別次元のわたしに連絡をしておきますね。もしかするとあちらのゲイムギョウ界でもそういう事があるかもしれませんので」
「じゃあわたしは、今のうちに諜報部で集めた情報をまとめておきますね」
「それじゃわたしはゲームでもしよっかな」
手持ち無沙汰なエヌラスは、さてどうするか、と考えているとアーサーの視線に気づいた。
「なんだ?」
「いや、少し疑問に思うところがあってな。お主はどうしてそんな傷を負ってまで戦っているのだ? 出会った時も邪神とやらと殴り合っていたではないか」
「……」
「そのような無謀をせずとも、もっと楽に片付けられるとユウコは言っておったぞ」
確かに、そうだ。一撃でカタをつけることだって容易なはずである。
「俺が“本気”になれば、楽だろうな」
「ならば」
「だが生憎と、こっちじゃ本気出せないんだよ。全部ぶっ壊しちまう」
エヌラスの真価を発揮するためには、ゲイムギョウ界はあまりに窮屈過ぎた。かつての通り名であった戦禍の破壊神は伊達ではない。だが、邪神を相手にするためにはそれだけの破壊をもたらさなければ勝ち目はなかった。ただ倒すだけではなく、消滅させる為には。