超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
アルシュベイトの粋な計らいによって休息を挟むことになった。興が削がれた戦いを思い切って仕切り直す、その度胸に今は感謝するばかりである。エヌラスは空から降ってきた少女の姿を改めてまじまじと眺めると、小首を傾げてネプテューヌのぬいぐるみを持ち上げて腕を上下させた。
「えー……っと。俺はエヌラス、君は?」
「あたしはぁプルルートだよ~。プラネテューヌの、女神様なんだ~」
「……ん?」
プラネテューヌの女神? だがそれと同じセリフを聞いた覚えがある。
「プラネテューヌの女神はネプテューヌじゃ」
「あ~! ねぷちゃんのお知り合いなの~?」
地面に倭刀は突き刺し、あぐらをかいたエヌラスに身を乗り出してプルルートと名乗る女神は息巻いた。それに思わず身を引くと、骨が軋む。回復薬を分けてもらったとはいえやはりまだ完全に快復とまではいかないらしい。
「え~っとね~。プラネテューヌで災害があってぇ~、調べてたら落ちちゃったんだ~」
「……」
「そっかぁ~、ねぷちゃんの知り合いなんだ~」
事の経緯はどうやらネプテューヌ達と同じらしい。にこにこほんわかとした和やかな雰囲気を放つプルルートを前にしてエヌラスは頭痛すら覚えてきた。緊張感とは無縁な少女を見て、言っては失礼だがこれが治める国は途方もなく平和なのだろうと思える。そんな世界にすら崩壊の影響を与えてしまっている自分の行いは最早、次元を超えた戦犯だ。だからこそ、尚更この少女を戦いから遠ざけたいと思ってしまう。
エヌラスが立ち上がる。倭刀を手にして、整息。
“全力は……現状、一発か二発が限界……”
魔術を嗜んだ身としては己の状況分析をする頭の冷ややかさに驚かされる。感情や激情を理性で抑えつけて魔力と融合させる――とは、師の教えだ。自分の身体のコンディションを確かめるように拳を二度、三度握りしめる。
“……、限界を超えた一撃は一発が精々。シェアの残量も踏まえりゃ……これが俺の死力だな”
これがもし、アルシュベイトが相手でなければ十分すぎるほどのお釣りだ。
しかし。この鋼鉄の鬼神が相手となると、現状、まるで勝ち目などない。腕一本持っていければ賞賛ものだ。付け加えて――まだ互いに
「プルルート。危ないから少し離れててくれ……」
「はぁ~い」
「少しばかり全力出す」
その言葉に沈黙を保っていたアルシュベイトが顔を上げて反応した。
《ほう……いいだろう。来い》
「なら、一手。馳走してやる、たらふく喰らえ」
バチィン。左手に紫電が迸る。閃光の中から現れたのは撃鉄の付いた一本の鞘。次いで、倭刀にまで紫電が伸びた。陰と陽。二極を限界まで引き合わせる。
《
光速にして必殺の一撃――それを、真正面から“受けて立つ”などと世迷い言を言うのはアダルトゲイムギョウ界でもアルシュベイトただ一人だ。だが、それが世迷い言でもなければ戯言と聞き捨てるわけにもいかない。
今、まさにエヌラスは隙を曝け出している。一刀、抜き放てばその瞬間にアルシュベイトの機影は閃刃の中に消えるはずだ。それは両者が理解している。
ザッ――!
《――!?》
だが、次の瞬間にアルシュベイトの姿勢が揺らいだ。エヌラスが構えを保持したまま駆け出したのに一瞬だが対応が遅れる。二人の距離は徐々に狭まっていた。
「
カァ――ン……!
間の抜けた衝突音。それこそが落胆に値する、必殺であった。アルシュベイトの振り下ろした豪剣に打ち下ろされて電流が四散する。
《貴様――》
「アクセル・ストライク」
そして、次の瞬間。体内で“
「
《おぉ……!》
落胆が驚嘆に変わった。感激に胸が打ち震え、アルシュベイトはその神々しさに危うく長刀を取りこぼしそうになる。必殺に必殺を重ねた、必滅の布石――それこそが本命であった。
果たして、変神を遂げたエヌラスはすぐさま両手の刀と鞘を転送して新たに口訣を結ぶ。
「受け取れよ、アルシュベイト! コレが正真正銘、俺の死力だ!
新たに握りしめられるのは、長大な鞘だった。あまりの長さに抜き放つことすら一苦労するであろうその鞘の長さは二メートルに及ぶ。右肩に担ぐやいなや、即座に金具で固定された。そして、それを収めるべき刀もまた、長大な野太刀である。人ひとりが担ぎあげ、振るうにはあまりに馬鹿げた長さのそれを、エヌラスは右肩の鞘に収めた。一度抜き放たれれば壱式“迅雷”の比ではない破壊力をもたらす。
《貴様の全身全霊。俺の魂をぶつける価値がある! 正面より受けて立つぞ!!》
「抜刀術・
ガコンッ!
鞘の上部が開放される。内部で限界ギリギリまで充填された圧力が野太刀を持ち上げた。刃の背が背中に触れるほど大きく振り上げた野太刀を一気呵成に振り下ろす。
「
《チェェェストォォオオオオオオッ!!!》
それは光の柱が振り下ろされるほどの苛烈な光の暴力であった。世界が白く染め上げられ、そのあまりの光量に戦いを眺めていたプルルートが目を覆う。
想像を絶する光景に、驚愕した。その只中にあって尚、一歩も退かぬ鋼の鬼神。その手応えを感じているのか、エヌラス=ブラッドソウルは歯噛みした。
心臓が軋む。螺子が軋む。歯車が歪む。
ギリッ。キシッ。ミシッ。
口の端から気づかぬ内に血が垂れた。左胸の鼓動がやけにハッキリと聞こえてくる。
ドクン――。
「――DAAAAAY、DAAARAAAAA!!!」
咆哮だった。絶叫だった。悪鬼羅刹の雄叫びがアルシュベイトを閃刃の中へと葬り去る――。
――焼け野原と化した森林の中に、エヌラス=ブラッドソウルが着地する。その手に、その脚に、その全身に紫電をまとわりつかせて、鬱陶しそうに振り払った。同時に変神が強制解除される。シェアエネルギーの残量が底を尽いたのだ。右手の指にはめたシェアリングが光を失う。
地に足を着けるやいなや、エヌラスはその場に膝をついて胸を押さえた。全身の血液が恐ろしい速度で体中を駆け巡る。心臓が暴走状態に陥っているような鼓動を繰り返し、やがてエヌラスが吐血した。
「ッハ――ハッ、はっ……カ、ぁッ……!」
それを見かねたプルルートが駆け寄ってくる。黒く焦げ付いた焦土がまだ熱を持っているにも拘わらず、呼吸を整えるエヌラスの傍に屈みこんだ。
「だいじょうぶ~……?」
「――だい、じょうぶ……だ、ッ……!」
ゴフッ。
言った傍からエヌラスが口を押さえこむ。咳き込み、むせる度にその口からおびただしい量の血が吐き出されていく。オロオロと戸惑うプルルートが背中を擦る。
アルシュベイトは――健在だった。
だが、全身を超電磁圧力の一刀に呑まれて無事に済むはずがない。駆動回路が時折ショートして関節から火花が出ていた。原型を留めて、豪剣も健在。表面上は何も変化はないように見える。だが、その意識を司る魂がすっぽりと抜け落ちていた。
エヌラスが立ち上がり、倭刀を召喚して深く呼吸を吸い込む。
アルシュベイトの機首が持ち上がる。その眼光に射抜かれて、半狂乱状態になりながらエヌラスが駆けた。
「オオオォォォアアアア!」
空しくもその剣がアルシュベイトの身体に傷を付けることはなく、装甲に阻まれ、長刀に遮られて防がれ、エヌラスの身体が遂には崩折れる――その一瞬“左手”がアルシュベイトの腕を掴んだ。もっとも警戒していたはずの腕に掴まれて、絶句する。
必殺のブラフから必滅の一刀を超えて――まださらにその状態から、放つというのだ。
「――“紫電”鬼哭掌……ッ!」
《バカ、な――……!?》
その一撃を最後に、エヌラスは今度こそ力尽きた。
腕一本。その目測は一寸の狂いなく読み通りだった。今やアルシュベイトの左腕はコネクタをカットされてダラリと力なく下げられている。刹那の差で切り離すことに成功した左腕の接続端子を見て、アルシュベイトは堪えきれなくなった笑い声を上げた。
《見事。見事だ、エヌラス! お前の足掻き、俺の左腕一本に相当する! 流石だ、お前にはどれほどの賞賛を浴びせてもまだ尽きぬ! 力を失い、国を離れ、不自由に拘束され、万策尽きてもお前にはまだこれだけの力が残っている! これを死力と呼ばずして、なんと呼ぶ! お前の魂を掛けた一撃、しかと受け取った!》
「……、……ざ……け……」
耐え切った。凌ぎ切った。乗り越えた。その達成感がアルシュベイトの胸を埋め尽くしていた。かつての敗北がなければ最後の足掻きで自分は全身の回路が残さずパンクしていただろう。
仰向けに倒れたエヌラスの身体からは焼け焦げた匂いがしていた。連続して放つ必殺の数々が少なからず内蔵を焼き付けていたのだから無理もない。満足に声も出せないエヌラスの首元に長刀の切っ先が突きつけられた。