超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
無手の格闘。剣撃で応じる。剣道三倍段という言葉があるが、この狂戦士じみた邪神にしてその段ですら意味は成さない。切っ先を甲手で受けて、流す。返し刃が翻るよりも先に拳を伸ばすがアーサーはその脇を抜けるように身を屈めている。すれ違いざまに避けて、カードを取り出した。
アーサーの魔法剣が準備を整えるよりも先に邪神は既に自らの得物を手にしている。
「なに!?」
それは下水道への道を塞いでいたマンホールの蓋だった。力任せに引き剥がしたそれを、バックラーに見立てて魔法剣を受け止める。表面が軽く溶解したそれを、今度はフリスビーのように投げた。一瞬だけ背後に気を配ると、まだ避難途中の市民がいる。アーサーはマンホールの蓋を受け止め、歯噛みした。衝撃で痺れる手を振り払うと、今度はエクスカリバーで拳を防ぐ。
「くっ……」
人々が逃げるまでの時間を稼がなければ――剣を構え直す。邪神の手が伸びる先には、街灯。
『Aaaaaa!!』
ねじ切り、長槍の如く先端を構える。エヌラスが言っていたのはこういうことだったのかとアーサーは身を持って理解した。数多のアーサーを選定してきた王の聖剣、エクスカリバーがただの街灯と鎬を削るというのは悪夢でしかない。しかし、多芸は無芸と言う。伊達に手に馴染んだ聖剣ではない証明に、アーサーは街灯を横から打ち払って邪神の胸部に鋭い突きを食らわせた。
硬い感触、アーサーはその突きが浅手である手応えに悪寒が走る。剣の間合いを把握した立ち回り――それはエクスカリバーを“知っている”ことでもあった。
「――お主は」
素早く剣を引いて、距離を取る。一度や二度、戦っただけで剣の間合いを指し図るだけではなくそれに準じた動き。“敵はこの剣を以前から知っている”かのように。
「……もしや、私を知っているのか」
『――Ar……Thur!』
「やはり――!」
だが、誰だ? お前は一体何者なのだ? アーサーは記憶を巡るが、そこにはやはり該当する者はいなかった。
「だが、貴様は何者だ! 私の知人に邪神などはおらぬぞ! 並み居るアーサーの中にもいなかった!」
『Gaaaaa!!』
「ええい、私に分かる言葉で喋らんか! 狂犬め! 私以外のアーサーなど五万どころか百万人いるぞ! 人違いではないのか!?」
しかし相手は聞く耳を持たずにアーサーへと街灯を振り回す。中心部を持って回転させて動きを読ませずにしながら突き出した。避ける、攻めこむ暇も与えない怒涛の攻勢に加えて自分のリーチに持ち込めない。
その動きに石突を入れ替えるように下段から振り上げると、エクスカリバーが跳ね上げられた。
(これは、まずいか!)
踏み込み、横殴りの衝撃にアーサーの身体が吹き飛ばされて軒先に身体を叩きつけられる。
「くァ……ッ!?」
『Ar――Thurrrrr……ッ!!』
逆手に持ち上げた街灯を投げつけようとする邪神から逃れようとするが、強かに打ち付けた身体が思うように動かない。
「アーサー!?」
チーカマが叫ぶ、そこに助けに行く人影はなかった。だが――、代わりに横から差し出されるのはレジ袋。中には駄菓子が山程入っている。
「え?」
《持っててくれるっすか!》
「あ、うん……あなたは?」
大腿部に装着されているスラスターがバーニア炎を勢い良く吹き出して機体を走らせた。その背中には武装の数々を背負ってチャージングシステムを起動させる。
邪神の手から投げ放たれた槍は、レオルドのジャンプキックによって軌道を逸らされた。アーサーの横に突き立つ街灯からどす黒い気配が消えていく。地面を転がる頃にはただのねじ切られた街灯となっていた。
「お主は?」
《国境警備隊、レオルドっす! プラネテューヌにはパシリで来ました! 理由はともかく、助太刀します!》
「うむ! かたじけない、私はミリオンアーサー。アーサーとでもミリアサとでも呼ぶが良い!」
『Grrrrr……!!』
獣のように唸る邪神の身体が、突如横殴りに吹き飛ばされる。それに呆気に取られているのも束の間、そこには無人のバイクが停まっていた。
派手に転がりながら受け身を取って態勢を整える邪神に影が降りる。
「ア、ク、セ、ル・インッパクトォ!!」
紫電を纏わせた強力な踵落としを防ぎ、弾き返した。黒衣の外套を翻しながら着地するその青年に、避難しようとしていたプラネテューヌ市民が立ち止まる。
「あ、あれは……!」
「間違いない。黒衣の英雄だ……」
「ビニ本を白昼堂々と女性スタッフに差し出した、勇者だ」
「まさに性癖の英雄……!」
「テメェ等、後でしばき倒すから逃げんなよ」
プラネテューヌ市民は全力で逃げ出した。
「エヌラス! 助けに来てくれたのか!」
《エヌラスさん!》
「あん? アーサーだけじゃなくてレオルドもいるのか。どうしたんだ、今日は」
《今日もパシリっす》
「ご苦労なこって」
今回は北方第一線部隊での小規模演習。武装もそのままなのは、今回頼まれた品々が軽いものだけだったからだ。
《話には聞いていたっすけど……禍々しいっすね……だが、誰であろうとプラネテューヌの平和を脅かすなら容赦はしないっすよ!》
エヌラスの影の中へとハンティングホラーが収納されて、エヌラスは拳の骨を鳴らす。邪神を睨みつけながら歩み寄る。
「あ、おい!」
《素手なんて無茶っす!》
無茶だと言われて、エヌラスは人知れず笑っていた。今はどうしようもなくむしゃくしゃしている。
邪神の拳を受け止めて、殴り返した。銀鍵守護器官の出力を上げて右腕の回路に注ぎ込む。
「イライラしてたんだ、テメェちょっとばかし殴らせろぉ!!」
『Aaaaaaa!!!』
邪神の面頬に思い切り拳を叩きつけると、騎士甲冑が宙を飛んだ。当然、殴った側もただでは済まないがそんなことは今、エヌラスにとって重要ではない。
この苛立ちをぶつけることの出来る相手がいる、というのが大事だ。
「みなさん、緊急事態が発生しました。プラネテューヌの街中に邪神が出現したとの通報が」
「ねぷっ!? 言っているそばから出てくるなんてフラグ回収早すぎない!?」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょ。ほら行くわよ」
「ええ。タイミングが悪かったですわね」
「よりによって四人が集まっている時に出てくるなんてね……」
教会に入った通報によってネプテューヌ達は女神化するなりバルコニーから飛び立っていく。その後姿をピーシェとプルルート、ユウコとイストワールが見送る。
「…………」
「ぷるると?」
「う~ん……なんだろ~……胸のあたりがぁ、モヤモヤするんだぁ~」
ユウコは既に飲みかけのジュースやクッキーの片付けに入っていた。しっかり小分けにして持って帰れるように準備だけはしておく。
「プルちゃん、大丈夫? 胸焼け?」
「そうじゃないけどぉ~……う~ん、う~~ん……」
首を傾げて悩んでいる内に、プルルートが押し黙ってしまった。
「……?」
横からそっと覗きこむ。
「すぅ……」
「あらら、寝ちゃってる」
「ぷるると、お昼寝?」
「そうみたい。ピィちゃんはどうする?」
「ピィ、遊びたい!」
「そっか。じゃあプルちゃん起こさないように、向こうで遊ぼっか」
「うん!」
しっかりとベッドに運んでシーツを掛けてから、ユウコはピーシェと二人で遊び始めた。
パープルハート達がプラネテューヌの上空を飛び、連絡のあった場所に向けて高度を下げていく。そこにはアイエフが携帯を片手に他の諜報部と情報を交換しながら待機していた。
「あいちゃん!」
「ネプ子! こっちよ。市民の避難誘導は済んでるみたい」
「今はどうなってるの?」
「そうね。被害はまだ少ないわ。ミリアサが避難するまでの時間を稼いでくれたみたいよ。それに、偶然買い物に来ていた国境警備隊が一名、加勢してくれてるわ」
「なら、さっさと片付けてしまいましょう」
「気をつけなさいよ。ああ、それと――エヌラスも戦ってるわ」
その言葉に、ホワイトハートとグリーンハートの顔が渋る。
「……あの方も、ご一緒ですの?」
「なにか問題が?」
「ま、まぁ今はそうも言ってらんねぇ。行くぞ、ベール」
「ええ……気乗りはしませんが」
「一体エヌラス、どれだけやらかしたのよ……」
これ以上街の被害が拡大する前に、一刻も早く邪神を撃退しなければ。四女神は顔を見合わせて、頷いた。
「いくわよ、みんな」
パープルハートを先頭に、四人が現場へと急行する。