超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
邪神が現れたという場所へ到着した四人が見たものは――、形容しがたい喧嘩のようなどつき合いだった。だがそれは喧嘩と呼ぶにはあまりに完成された武術による攻防の応酬。コートの裾を翻して、目眩ましの後ろから回し蹴りが邪神の頭部を横から蹴りこむ。そこへ、レオルドが飛び蹴りで更に吹き飛ばすと邪神が道路を派手に転がっていった。それを援護と見るか妨害と見るかだが、エヌラスにとっては後者。舌打ちを漏らす。
「なんだよ、いいとこだったのに」
《いや、確かにそうっすけど……あれ、あんまり効いてないみたいっすよ?》
「知ってんだよそんなこたぁ! 俺はイライラしてんの! アイツ殴る! 俺、スッキリ! オーケーか!?」
《なんで片言っすか!?》
というよりも余裕しゃくしゃくといった様子だった。
「エヌラス! 援護に来たわよ」
「全員並ぶと壮観だな」
《えっ?》
レオルドが固まり、集合する四女神の顔ぶれを見るなり悲鳴を挙げる。
《ヒ、ヒィエエエエエエッ!?》
「? どうしたのよ、レオルド」
「まぁいいか。仕方ねぇ。さっさとあの野郎片付けるか」
《ア、アババ。も、もしかして一緒に戦うんですか?》
「ええ、そのつもりよ」
《む――無理です!? お、俺にはそんなの恐れ多くて絶対無理です! パープルハート様と一緒に肩を並べるなんて、帰ったら何されるかわかったもんじゃないんすよ!?》
ワタワタと手を振るレオルドを見て「ああ。そういえばコイツはハァドラインの手のものだったな」と他人事のように思い出していた。だが今はそんなことを言っている場合ではない。
「なら、私達と一緒に戦うのは出来ないの?」
《あ、他の女神様なら別に……》
「別にってどういう意味だテメェ!!」
《ヒィ、怖い! ホワイトハートさん小さいのに怖いっす!》
「誰 の 何 が 小 さ いって言ったぁぁぁっ!」
《ぎゃあああああごめんなさいごめんなさい! 別に悪気はないんです! 勘弁して下さい! これしかないです!!!》
チャリーン(レオルドの財布から小銭が落ちる音)
「ちっ……いや、別にカツアゲする気はねぇよ」
《ほ、ホントっすか……》
「スクラップになりたきゃ話は別だがな」
《ぴぎぃ……!?》
ガタガタ震えながらエヌラスの背中に隠れるレオルドに、グリーンハートが頬に手を当てながら吐息を漏らす。噂に聞いていたB2AMというのも大したことはなさそうだ。
「まぁ、手伝ってくださるのならありがたいですわ」
《あ、はい。よろしくです、グリーンハートさん》
「…………」
「どうかしたの、ベール?」
「あ、いえ。特別扱いされるのがネプテューヌ、というのは中々に新鮮な気分なだけですわ」
冗談を言っていられるのも、邪神が増えた顔ぶれに唸り声をあげながら威嚇しているまで。
『Urrr……!! Gaaaa――!!!』
胸が張り裂けんばかりの咆哮。その雄叫びで路面がヒビ割れ、ガラスが割れる。放たれるプレッシャーも他のモンスターの比ではない。だが、その視線が向くのは、ミリオンアーサーただ一人だった。
「こやつ――なぜ私だけを狙うのだ?」
「知るかよ。おい、レオルド! アーサーを守りながら守護女神を援護、出来るな!」
《あ、はい! 大丈夫っす! むしろ俺みたいな弱小万年戦績最下位ドベ太郎には相応しい仕事です!》
「自分をそこまで卑下しなくてもいいぞ!? 自信を持て!? アーサー、俺とレオルドで守る。魔法で支援できるな」
「うむ。私を誰だと思っている」
エヌラスが引腰のレオルドに喝を入れながら指示を出す間に、既にパープルハート達は邪神へと迫っている。一番手はノワール。
「ハァァァッ!」
振り上げた大剣を、白刃取りで受け止める。手の触れた部分から侵食が始まるが、それを横からパープルハートががら空きの胴体を狙った。
しかし、片手で刃を掴みとると宙に飛んで二人を同時に蹴り飛ばす。着地の隙を狙ったグリーンハートの刺突。それを、全身を捻るようにしながら寸でのところで避けると柄を握りしめて思い切り振り上げた。グリーンハートが長槍ごと投げられて上空から重い一撃を与えようとしていたホワイトハートにぶつけられる。
「きゃあっ!?」
「どわ! 大丈夫か、ベール」
「ええ。あの邪神……狂ったようにみえて、戦い慣れていますわよ」
それは、猛獣のように怒り狂ったわけでもなく、激戦の中で鍛え上げられた確かな“技”だった。多勢に無勢。それはまるで数多の戰場を駆け抜けてきたかのような。
決闘のように一対一で競う勝負よりも、一対複数。そちらの方が邪神にとって都合の良い状況であるかのように。
「狂ってる割に、中々腕が立つじゃない! 私ほどじゃないけれど、ね!」
ブラックハートの大剣がアスファルトに突き立てられる。切っ先を沈み込ませて、振り上げた衝撃波で邪神の身体を吹き飛ばす。その身体が路駐の車に激突する。ボンネットの上でバク転すると、掌を車両に当てて構えていた。
『Grrrr……!!』
「嘘、そんなのまで武器にするっていうの!?」
邪神の手によって汚染されていく車両。運転手がいないはずの鉄の箱が、エンジン音を鳴らした。それをまるで自らの慣れ親しんだ軍馬であるかのように走らせ始める。それには堪らず女神達は宙に飛んで避けた。だが、飛行能力のないアーサーもレオルドもその場から逃れるので精一杯だった。
《大丈夫ですか!?》
「ああ、問題ない! ――また来るぞ!」
「おまえらアホか」
エヌラスが両手に偃月刀を召喚する。そして、角度をつけて道路に投げつけた。その間隔は、ちょうど車両のタイヤが乗る位置――車は急に止まれない。こと尚更、相手を轢殺しようとする暴走車両は。
邪神の駆る鉄の軍馬は、即席のジャンプ台によって空高く舞い上がった。
「へっ。バッチリだぜ!」
全身を使って振り下ろされる戦斧によって、ホワイトハートが邪神ごと車両を叩き潰す。ひっくり返った腹に向けて、ブラックハートが大剣を突き刺して地面に向けて串刺しにすると即座に離脱する。
「32式、エクスブレイド!」
「シレットスピアー!」
そこへ、パープルハートとグリーンハートの二人から放たれる無数の剣と槍が次々と突き立てられて車両が爆破。炎上する。黒煙の中に向けて、ブラックハートが更に急降下していた。
「オマケよ、持っていきなさい!」
ヴォルケーノダイブによって更に打ち上げられる形となった邪神が爆炎の中から飛び出す。
全身を覆っていた霧が晴れ、ヒビ割れていた胸部はそのままなのか赤黒い光が漏れている。それに、パープルハート達が眉を寄せた。
「……あの光、もしかして」
「ああ。間違いなくネガティブエネルギーだ。負の感情、恨みや憎しみでアイツが動いているんだとしたら相当厄介だぜ」
『Guu……』
だが、先ほどの車両の爆発に巻き込まれて痛手を負ったのか無数の破片によって全身に傷跡がついていた。霧が腫れている今ならば――さらに追い込もうとして、異変に気がつく。
晴れたはずの霧が集まっていた。それは全身を覆うようにではなく、一箇所に集中して。その霧の中へ邪神が手を伸ばす。
左腰に顕現したのは、装飾もなく、ただ機能性のみを求めたかのような。のっぺらぼうの剣。特徴らしい特徴を持たないそれは、優美さに欠けておりながら人目を惹きつける何かがあった。
「アイツ、武器持ってないんじゃねぇのかよ!?」
ホワイトハートの疑問は尤もだが、静かに抜き放たれたその剣にアーサーは目を疑う。そして、目を凝らして、擦り、やはり眉を寄せている。
「……なんだ、あの異様な不気味さは」
霧に覆われた剣は、その拵えも刃渡りも刀身の厚さも長さも不鮮明に揺れていた。さしずめ“インビジブル・ミスト”といったところか――邪神が構える。
浅く握り締めた剣は、薄らぼんやりとだがアーサーの持つエクスカリバーと似ていた。まるで瓜二つの血を分けた兄弟のように。鏡写しのように立ちはだかる剣の切っ先は、やはりアーサーをピタリと狙っている。
『――Ar、thur……』
「どうやら、ミリアサちゃんにご執心のようですわね」
「だけどここから先は一方通行よ。貴方はここで私達守護女神が倒すわ」
『Guuaaaaaッ!!!』
それが、全て障害であるかと言うように邪神が剣を手にして走った。それを阻もうとするホワイトハートの戦斧を滑りこんで避ける。地面を叩いて身体を跳ね上げ、振り下ろされるブラックハートの大剣を避けた邪神の動きは、騎士甲冑を着込んでいるとは思えない軽やかさだった。