超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「あの野郎を浜辺まで連れてくぞ」
「でも、どうやって?」
「んなもん戦いながら考えろ!」
言うが早いか、ブラッドソウルは邪神へと駆け出している。丁々発止、幾度もぶつかる金属音が奏でる戦闘音に銃声が交えられた。魔法も射撃も効かないが、それでも衝撃で動きを鈍らせる程度のことは出来る。
二挺拳銃が撃ちだす弾丸に身体を撃ち抜かれて、衝撃で動きが鈍ったところへブラックハートの大剣が邪神の身体を大きく吹き飛ばした。態勢を整えるよりも先にグリーンハートが既に距離を詰めている。
長槍のリーチを活かした立ち回りに、邪神が攻めあぐねていると不意に距離を離した。
「食らいやがれぇぇぇええ!」
それと入れ替わるように飛んできた戦斧が邪神の顔面を強打。しかし、それでも踏みとどまる姿にブラッドソウルとブラックハートが目配せして頷いた。
「いくわよ、エヌラス!」
「タイミングはテメェの好きにしろ!」
「ついてこれるかしら?」
「テメェがついてきやがれ!」
ブラックハートの高速剣技に、ブラッドソウルは偃月刀を多重投影して追従する。その処理速度は邪神の汚染よりも早く、武器を取る暇も与えない。ブラックハートもそうだが、ホワイトハートが驚いたのはその剣にブラッドソウルがタイミングを合わせていることだった。
邪神の周囲に突き立つ偃月刀。全部で六本。指を鳴らすと、結界が発動して邪神の身体が焦熱結界へと閉じ込められた。逃げ場のない魔術に、更にブラックハートが術が切れると同時に一閃する。
『Grrrr……!!』
「しぶっといわねぇ、狂犬の分際で」
「パープルハート、海はどっちの方角だ」
「向こうよ」
「ありがとよ。レオルド、突っ込むぞ!」
《自分っすか!?》
「ゴチャゴチャほざくなロボット凡骨!」
《うっす! ……ぐすん》
若干鼻をすする(?)音が聞こえてきたが、多分レオルドは泣いていた。とはいえそれとこれでは話が別だ。チャージングシステムを起動して邪神に迫る横に、ブラッドソウルが滑空する。
地面を這うように飛びながら足元を掬う。不意にバランスを崩した邪神に向けてレオルドは全身を回転させて、遠心力でグレートソードを叩きつけた。引っ張られるように飛んでいく姿に、更に追撃する。
「レオルド。手榴弾」
《えっ? なんに使うんすか?》
「いいからよこせ」
《嫌っす!》
「鉛球くれるから」
ガチャリ。レオルドは自分の眉間に突きつけられる深紅の自動式拳銃に左前腕部の手榴弾をおずおずと差し出す。それを受け取ると眺め、ブラッドソウルは手で感謝のサイン。
「で? これ、時限式だよな。何秒だ」
《スイッチ入れてから、三秒っす……》
「ああ、だから安全ピンついてねぇのか」
掌サイズ。具体的にはソフトボール程の大きさ。おにぎりのような手榴弾をブラッドソウルは片手に持ってパープルハートと肩を並べた。
「それで? それをどうするつもり」
「まずはアイツの霧を引っぺがす。だが街でこれ以上戦うわけにもいかねぇだろ」
「どうしてイライラしてるの?」
「思ったように暴れ――ゲフン。思うように戦えないってのが面倒くせぇだけだ!」
「今、暴れたいって言わなかった?」
「あっはっは! うるせぇ!」
アーサーと邪神が激しく斬り合う。だが、邪神の猛撃にエクスカリバーが弾かれた。それをカバーするようにブラッドソウルのブルースシミターが鞭状に解けて霧を纏う剣を絡め取る。それに自分の身体を引き寄せるようにしながら飛び蹴りで街から引き離していった。
『Gaaaaa!!!!』
浜辺を転がる邪神に、レオルドが二挺のサブマシンガンを連射する。全身を打ちのめす銃弾の雨あられに身動きが出来ずにいると、そこへグリーンハートが無数に召喚した槍で追撃した。
「これだけやっても、まだ倒れませんの!?」
「おい、エヌラス! ここまで連れて来てやったんだ、トドメさせなきゃテメェを海の藻屑にしてやるからな!」
「悪いが深海生物に知り合いはいねぇ!」
ブラッドソウルが先陣を切る。左手に持った手榴弾を起動させ、タイミングを見計らって投げつける。邪神も本能的にそれが危険物であることを察知したのか、避けようとするそこへグリーンハートの支援魔法が邪神の足を引き止めた。
足元に転がる手榴弾が爆発し、その爆炎の中に邪神の姿が消える。そんな威力の代物を常備しているレオルドを女神たちが白い目で見ていた。
「貴方、あんな危険物常に持っていますの?」
《あ、いや。一応アレ、災害用です。瓦礫の撤去とか》
「威力高すぎねぇか……」
《自分も思ってます……》
とはいえ、霧が晴れている。その隙にアーサーがデッキからカードを取っていた。
記憶が正しければ――。
「頼むぞ、騎士たちよ!」
『GA!?』
光属性の魔法剣によって身体を貫かれた邪神の胸部が更にひび割れていく。しかしそれでもまだ驚異の生命力で持ち堪えていた。ネガティブエネルギーによってシェアエネルギーをある程度打ち消しているとはいえ、それにも限界はある。
「銀鍵守護器官、最大出力――!」
ブラッドソウルの左胸の刺青――魔術紋様が光を放っていた。無限の魔力が右腕の魔術回路を通して掌に集まっていく。それに邪神も気づき、阻止しようとするが四女神が立ちはだかった。
「エヌラスの邪魔はさせないわよ!」
「征くぞ、レオルド!」
《了解です!》
アーサーとレオルド、そして四女神を前にして邪神はなおも吼える。しかし、その激戦の最中でも見据えるのはただ一人、アーサーだけだった。それをカバーしているのがレオルドだが、邪神を相手に刃が立たない。グレートソードの背に手を当てて叩きつけられる剣を防いでいたが、合金製であってもさすがにその猛撃に軋みを上げていた。壊れるのも時間の問題かに見えたが。
「この剣技、見切れるか!」
一閃。刹那――無数の剣閃が邪神の身体を刻みつける。怯んだ隙に、レオルドがグレートソードの切っ先を下げた。
《グレートソード――キィック!》
「いや、剣を使え!?」
一応重心のバランスを取る為に使っているが割愛。だが、その威力はただの蹴りと侮れない。
「畳みかけるわよ!」
霧を纏っていない今ならば、シェアエネルギーを叩きこめばダメージが通るはずだ。パープルハートの太刀が、ブラックハートの大剣が、ホワイトハートの戦斧が、グリーンハートの長槍が邪神“
太刀に肩鎧を砕かれ、大剣を肩口に受けて、戦斧を塞いだ左腕を千切ろうと、長槍が兜を貫こうとも。
『Ar――Arthurrrrrrr!!』
その声は、怨恨は止まらなかった。四女神を出し抜き、レオルドの身体を剣撃で吹き飛ばして――遂に邪神はアーサーと正面から向かい合う。
「なんという鬼迫だ……」
『Arrrrrrr――!!』
エクスカリバーが、能面の如く無貌の剣と。激しく打ち合う。だが、徐々にアーサーが劣勢に押し込まれていった。流麗にして華美、それでいて剛撃。美しく、それでいて強力無比なる剣の圧力は女神達を相手にしている時の彼我ではない。
叩きつけられる剣を防いでいたアーサーの手から、遂にはエクスカリバーが宙を舞う。痺れる右腕に、どう足掻こうと避けられない必殺の刺突が命を刈り取ろうと待ち構えていた。
剣の切っ先がアーサーの額をピタリと狙っている。
『URRRRRR!!!』
それは、まさに一瞬の出来事だった。剣が消えたと思った瞬間に、視界が塞がれる。そして、頬に熱い感触――切っ先が掠めたのか、頬に薄い線が走った。だが、それ以上に鼻についたのは鉄の香り。いや違う、とアーサーは頭の中で冷静に判断している。これは、血の臭いだ。
「悪いがテメェは此処で終いだ! 渇かず飢えず、無に還りやがれ邪神ッ!」
ブラッドソウルの右掌に浮かぶ白い闇。渦巻く無限熱量の結界に、パープルハート達がサッと青ざめた。レオルドもそれは本能的に死を予感して全力でその場から退避する。
邪神が貫いていたのは、ブラッドソウルの左腕だった。それで軌道を無理やり逸らした腕からは鮮血が垂れて砂浜を赤く染めていく。だが、引き抜こうとする邪神の頭に押し当てられるのは、絶対必滅の近接昇華呪法。
「シャイニング――インパクトォォォッ!!!」
『AIEEEEEEEEEE!!』
超至近距離から放たれるその迫力に、アーサーは思わずその場で硬直していた。
『――Ar――thur――――!!!』
「限界出力だ、消し飛びやがれぇぇぇええええッ!!!」
銀鍵守護器官が更なる熱量を結界に注ぎ込んでいく。その無限熱量の結界の中へ消えていく邪神の姿にアーサーは思わず手を伸ばしそうになって――、塵も灰も残らない空間へ行き場がなくなった。
シャイニング・インパクトが直撃した砂浜はガラス化したクレーターが出来上がっており、熱く照りつける太陽によってキラキラと綺麗に輝いている。
結局――あの邪神は、なぜ自分をあんなにも求めていたのだろうか。答えは出ないまま邪神の脅威は消え去った。
「……とんでもねぇな、オイ。あんなの街中で撃たれてたら跡形も残らねぇぞ」
「そうですわね。誰もいなくてよかったですわ」
「ま、こんな時期に海に出てるバカなんていないでしょ?」
「それもそうですわね」
四女神が変身を解除する。レオルドも胸を撫で下ろしていた。
「エヌラス、左腕」
「あ? ……あぁ、これか」
ブラッドソウルの左腕には、邪神が突き刺した剣がそのまま残されている。それを無造作に掴むと、躊躇なく引き抜いた。
「うわ、痛そう……」
「これぐれぇ日常茶飯事だよ。俺にとっちゃな。戦利品の一つくらいねぇと、割に合わねぇだろ」
そして、エヌラスもまた変神を解除する。アーサーの視線は、見れば見るほどにエクスカリバーと瓜二つの剣へ向けられていた。
「それにしても、まさかあそこまでしぶといとは思いませんでした」
「ええ、そうね。流石に疲れたわ……」
「レオルドもありがとうねー! わたし達を手伝ってくれて。感謝感謝だよー!」
《はっ、いや、その!? 自分なんて足引っ張ってばっかでむしろ居ないほうがマシだったっていうか自分のようなぽっと出の新キャラがパープルハート様と一緒に戦うなんてことして生まれてきてゴメンナサイというか生きててすいませんでした!》
「なんでアナタ、そんなに腰が低いのよ……」
「それに、わたしのことはパープルハート様、だなんて堅苦しく呼ばなくてもいいよ。ほら、ネプテューヌって」
《む、無理無理無理無理無理!! 無理ですゴメンナサイ! そればっかりは出来ないです!》
「んもー、プラネテューヌを守る守護女神様の言うこと聞けないっていうの! この反国民! これは命令!」
《あ、あわわわわ……あの、その……パ、じゃなくて……ネ、ネプ……》
「うん!」
《ネプ――――――無理ですごめんなさぁぁぁぁぁぁいッ!!!》
「ねぷっ!? 逃げた!」
レオルドは身に起きた出来事を直視できず、その場から全力で逃亡を図る。