超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「……あっという間に行っちゃったわね」
「そうね。でも、彼のおかげで邪神を倒すチャンスが出来たのも事実だわ」
「それに、ミリアサちゃんもですわ。あのカードのような召喚術は気になるところですし」
「なにはともあれ。邪神は撃破完了ね」
――パチ、パチ、パチ。
「…………」
その場に、突然拍手の音が届いた。一体誰かと音の主を探すと、いつからいたのか。
仮面の邪神が立っていた。全身黒ずくめで、付けている仮面には貌が無かった。虚無の仮面――無貌なる漆黒。だが、その全身から放たれる神気が人ではないことを物語っていた。
「テメェは……!」
それに、怒りを露わにしてエヌラスは奥歯を噛み締める。忘れもしない。忘れられるものか。ネプテューヌ達もまた構えるが、それを仮面の邪神は手で制した。
「……勘違いをするな。戦いにきたわけじゃない」
「喋れたのかよ」
「まぁ。まずは、狂犬の駆除おめでとう、といったところか」
狂犬――先ほどの邪神のことであるというのは容易に想像がつく。だが、なぜそれを差し向けたであろう当人が祝福するのか。バカにされている気分に、ノワールが腹を立てていた。
仮面の邪神が袖を捲る。そこには無数の刺青が彫り込まれていたが、それがただの刺青ではなく魔術紋様――エヌラスの銀鍵守護器官と同等の性質を持っている物だ。その一画が薄れていた。
「俺もいい加減、あの狂犬の扱いに困っていたところでな。礼を言わせてもらう」
「その物言い。気に喰わないわね」
「テメェは何が目的だ!」
「……目的、ね」
呆れ果てたように肩を竦めて、仮面の邪神は首を振る。
「“俺”や“俺達”に、目的なんて無い。ただあるがままさ――そうだろう? 邪神は邪神らしく、振る舞うだけだ」
「それで? 一体何のためにわたし達の前に姿を現したのかしら……? まさか、本当にお礼を言うためだけに出てきたわけじゃないわよね」
「……そうだ、と言ったら?」
とはいえ、相手は邪神だ。放置しておいて良い相手ではないことは明々白々。四人が武器を手にするが、アーサーは違った。
「貴様が、あの狂犬の主なのだな」
「ああ。とはいえ、手綱も満足に握らなかった放任主義だがね」
「ならば答えてもらおうか。アレは一体、誰だ。なぜ私を知っていた!」
「それは、お前が自分で調べればいいさ――アーサー王?」
「!」
なぜ、名前を知っているのか。驚愕に目を見開いたアーサーに、仮面の邪神は手にしている無貌の剣に顔を向ける。
「ソレはお前達にくれてやる。必要ない」
「まぁ。太っ腹ですのね?」
「元々はアイツを呼び出すための触媒だった。その結果があんな狂犬とあってはな。無用の長物だ」
「……」
「少なくとも。お前の知っている騎士じゃないがね……」
背を向けて、その先の空間が歪む。その先には暗闇だけが広がっていた。
「気が向いたらまた暇潰しの相手でも送ってやる。それまでバカンスでも楽しめ、旧神」
「ほざけよ。ここでテメェを逃がす理由がどこにある、邪神!」
「最初に言ったとおりだが――」
仮面の邪神は背を向けたまま、ゆるりと手を挙げる。そして、指を鳴らしながら振り下ろす。すると、巨人の鉄槌でも落とされたかのような重力にネプテューヌ達が砂浜に沈む。
「くっ、あぁ……!」
「これは、何ですの……!?」
「俺はお前達と戦いに来たわけじゃない。それじゃあな、超次元の女神様方」
「待ち、やがれ……!」
「生憎とそういうわけにもいかなくてね。お前にやられた身体の回復に、まだ時間がかかりそうなんだ。それまで俺もおとなしく旅行でも行ってくるさ」
仮面の邪神は暗闇の中へと消えていき、渦が消えると同時にネプテューヌ達を地面に縛り付けていた重力も効力を失っていた。
「ぺっ、ぺっ! うぅー、砂が口に入ったぁ!」
「逃げられたわね……」
「……」
エヌラスが身体を起こすと、浮かない顔で沈んでいるアーサーに手を差し出す。
「ほら、手」
「あ、ああ……すまぬ、エヌラス」
「大丈夫か?」
「うむ。小難しく考えるのはやめだ! 戦いに勝ったというのに落ち込んでいては民が不安がるからな! ところでこの剣、どうするのだ?」
「アーサーが持ってていいと思うが。ノワールは使えそうだけどな」
「いらないわよ、そんな曰く付きの装備。貰った日から呪われそうだし」
「だ、そうだ。遠慮無く戦利品として取っとけ」
「しかし――」
アーサーの視線が、エヌラスの左腕に向けられていた。その頭に手を置いて、無理やり撫で回す。
「怪我なんて、毎度のこった。気にすんなよ、アーサー。王様らしくふんぞり返ってろ」
「……うむ、分かった!」
「エヌラスが順調にミリアサちゃんとフラグ立ててくけど、いいのかな?」
「いいんじゃない? 少なくともアナタよりはマシだと思うけど」
「そんなこと言って、ノワールだってかまってもらいたくて仕方ないんじゃないのぉ~」
「なんですってぇ~!」
「うわ、ノワールが怒った! 逃げろー!」
逃げ出すネプテューヌをノワールが追い回した。つい先程まで命の削り合いを邪神としていたような剣呑さはなく、あるのはただいつもの超次元な日常。
「ユウコさん。少しよろしいでしょうか?」
「あ、イーちゃん。どうしたの?」
プラネテューヌの教会では、膝の上で眠るピーシェの頭を撫でながらユウコがネプテューヌ達の帰りを待っていた。それに、指を唇に当てて起こさないように促しながら話を聞く。
「はい。以前頼まれていた資料がまとまりましたのでそのご報告だけでも」
「ありがとう。でも今はピィちゃん眠ってるし……それに夕飯の支度もあるから後でもいいですか?」
「分かりました。では、夕飯の後にでも改めて」
ユウコのエプロンを握りながらピーシェは気持ちよさそうに眠っていた。髪を撫でて、ほう、と溜息を吐く。
「あぁ~、かわいいなぁピィちゃん。ほんとかわいいなぁ、ユノスダスに持って帰っちゃダメかなぁ。そしたら私めちゃくちゃ頑張れそうな気がするんだけど」
「ダメですよ。ピーシェさんはあちらの次元の女神なのですから」
「あ、そうなんだ。へー……へぇぇぇえええええ!?」
「シッ! 起きてしまいますからもうちょっとお静かに」
「ごめんなさい……」
「むぅ~……」
もぞりと動くピーシェを抱き抱えて、ユウコが立ち上がった。
「……ゆっこ……」
「んー? 起こしちゃった? ごめんねー、ピィちゃん。よしよし」
「おなかすいた」
くぅ。小さなお腹の音に、笑ってご飯の支度を始める。エプロンの紐を直し始めるユウコのポケットで携帯がブラスバンド演奏の着信音が鳴り始めた。相手はエヌラス。
「はーいもしもし。どうした穀潰し。今日の夕飯? 今から作ろうと思ってたんだけど――え、なに? 邪神撃退記念の勝利の祝杯パーティー? アーちゃんの提案で? んー、しょうがにぃなぁ……んじゃ材料とかそっちで用意してよ。こっちもあるもの使って下準備だけはしておくから。それじゃ」
「では、ネプテューヌさん達は例の邪神を撃退したのですね?」
「そうみたい。後ろの方でネプちゃんとかノワちゃんとかはしゃいでたし」
はしゃいでいた、というよりは逃げるネプテューヌがエヌラスの周囲をぐるぐる回ってノワールから逃げていただけなのだが――それは置いといて。
「ひとまずの危機は去りましたね。邪神が現れたと言われた時はどうなることかと思いましたが、流石はネプテューヌさん達です」
「伊達に女神様じゃないね。さーて、たまには私もエヌラスでも労ってやろうかな。ギアちゃんにも言われてるし。ちょっと、ちょーっとくらい。ほんのり隠し味程度くらいには、優しさくれてやろうかな」
「ユウコ、顔まっか!」
「んー。ほら、ピィちゃんがかわいいからだよー。ぐりぐり~」
「うきゃー!」
ユウコが頬ずりすると、ピーシェからは黄色い悲鳴。すっかり仲良くなった二人の和やかな姿に、イストワールも自然と頬が緩んでいた。