超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――ユウコから解放されたエヌラスは、顔が死んでいた。チーカマの説教からようやく解放されたミリアサもまた、沈み込んでいる。
『はぁ~~……』
そして、ふたり同時に盛大に幸運が激減すること間違いなしな溜息をついていた。
「まったく。邪神を倒す旧神様が聞いて呆れるわ、この倒錯性癖め。変態」
「アーサーもよ。そんな理由でこの国に来たんじゃないでしょ? 何回言えば分かるのよ、もう」
ユウコとチーカマはそんな落ち込む二人の背中に向けて厳しい視線を向けている。だがこれ以上パーティーに水を差す気はないのか、ユウコはキッチンへと足を向けようとするがピーシェがエプロンを掴んで引き止めていた。
「どうしたのピィちゃん?」
「ピィ、ユウコもいっしょがいい!」
「え?」
「さっきから料理ばっかでユウコたべてない!」
「あー……」
頬を膨らませていたピーシェが満面の笑みを浮かべる。その口周りについているナポリタンソースを拭き取ると、ユウコは抱き抱えて膝の上に座らせた。
「もー、じゃあちょっとだけだからね。ピィちゃん」
「うん!」
「ピーシェさんは本当にユウコさんがお気に入りみたいですね。ところで」
「あ、そうだ。イーちゃん、例の資料。いいかな?」
「はい。ちょうどお渡ししようかと思っていたところですが……よろしいのですか?」
「ぜんぜん大丈夫。これくらいチョロいチョロい」
「ユウコ、あーん!」
「あーん。もぐもぐ……」
「おいしい?」
「うん、ピィちゃんの唐揚げすっごく美味しいよー。ぐりぐり~」
「やったー!」
家族団らんのような和やかな風景から視線を移せば――そこには正座している旧神とそれを取り囲む女神勢。
「ちがうんです、コレには深いワケがあるんです……」
「ネプテューヌとネプギアだけなら、まぁまだ許せなくもねぇ……ノワールもだ。でもな、プルルートまで手を出してるってどういうことだこのド変態!」
「ブラン、ダメだよ! エヌラスそんな風にいじめると喜んじゃうから!」
「テメェの息の根から止めてやろうかネプテューヌこの野郎! 喜ばねぇよ! むしろ俺の尊厳はボドボドだ!」
「まぁ、ブランったら。自分からフラグを折っていくんですの?」
「えっ?」
激怒するブランに、余裕たっぷりのベールが異を唱えた。
「だってそうじゃありません? ネプテューヌやネプギアちゃん、プルルート。と、くれば次は当然、あなたの可能性だってありますのよ? なのに自分から好感度を下げるような発言はどうかと」
「仮にそうだとしても、ルウィーの守護女神として相手はちゃんと選ばせてもらうわ」
「エヌラスの何がいけないんですの?」
「そうだそうだー! エヌラスは何にも悪くないよ。むしろちょっと性癖が手広いだけで」
「お前もうホント黙ってろよ頼むから! むしろ黙らせてやろうか!?」
半泣きになりながらエヌラスはネプテューヌを黙らせる。具体的にはヘッドロックで物理的に。
「じゃあ聞くけど。ベールはエヌラスの何がいいって言うの?」
「そうですわねぇ……強いて挙げるならば、まるでアダルトなゲームの主人公みたいなところでしょうか?」
「いや、俺一応アダルトゲイムギョウ界の住人なんだが……」
「後はちょっとやそっとじゃ折れそうにないところですわね」
「今ちょっと折れそうになってるんだけどな……」
「他には、そうですわね……ネプテューヌ」
「なに?」
「……痛かったですか?」
「うぅん、全然! むしろ気持ち良すぎるくらいかな!」
「あぁぁぁぁああぁぁああああ!!! お前は! お前はァァアアアアア!!!」
「……ノワールはどうでしたの?」
「へっ!? 私!? えっと、その……――――す、すごく元気、かしら?」
「オオオオオォォォォォ……!!」
可能ならば今すぐ大量の睡眠薬を極めて度数の高い酒で飲み下したい。だが残念なことに銀鍵守護器官は常に燃料を求めているので即座に燃焼されて貯蔵されていく。エヌラスが今、社会的地位を野良犬以下からミトコンドリア級にまで格下げされているのをよそにしてプルルートが首を傾げていた。
「もぉ~。みんな、エヌラスのことイジメちゃやだなぁ~……」
その、不穏な発言に一瞬だが場の空気が凍る。含まれている意味を汲みとった賢明な者はソレ以上の言及をやめたが、何も知らないアーサーだけは疑問符を浮かべていた。
「なぜだ、プルルートよ。エヌラスを糾弾しているのは現在ブランだけではないのか?」
「そ、そうですわ」
「あ、ベールテメェ! エヌラスを外堀からいじめていた癖に自分は逃げるのかよ!」
「別にわたくしはそのような意図があってネプテューヌやノワールに聞いていたわけではありませんわ。あくまでも参考のために」
「なんのだよ」
「それはもちろん、男と女の夜の営みですわ。お二人の発言から察するに、エヌラスは――エッチは上手くて、精力旺盛! 絶倫!」
「一周回ってお前の頭の悪さは清々しく感じてきたぞ、ベール」
「褒めてますの?」
「歯に衣着せなかったら死ねばいいと思ってる」
いっそ地獄に落ちろ。人知れず心の声で叫ぶ。
「まぁとにかく。わたくしとしてはエヌラスの性癖はどちらかと言うと「ただの女性には興味が無い倒錯趣味」であると見当をつけましたわ」
「…………言われてみれば確かに。みんな女神ね」
「なるほど。ベールよ、つまりお主の言いたいことはこうか。エヌラスは普通の女性では満足できない身体の持ち主だと!」
「バカしかいねぇのか!? むしろ俺を怒鳴りつけていたブランがまともに思えてきたぞ!」
ブランの怒声が今は何よりも精神安定剤だ。ブランなら――!
「…………」
(あっれーおかしいなー。どうしてちょっと顔を赤らめて満更でもなさそうなんだろうこの幼女女神。しかもかわいいから尚更なにも言えねー……)
「そんな身体なら、まぁ、仕方ないわね」
「どうしてそれで納得しようと思ったホワイトハァァァァトッ!? ホワーイオカシイダルルォー!?」
「……それはそれで、小説のネタになりそうね」
「へ? 小説?」
「なんでもないわ。とにかく、これ以上パーティーを台無しにしても仕方ないわ。ユウコの料理でも食べましょう」
「さんせーい! エヌラス、何か食べたいのある?」
「もうお腹いっぱいだっつーの……」
むしろ吐き気すら覚えてきた。エヌラスが右手でワイングラスを持とうとして、波紋が広がっているのを見て下ろす。
「悪い、タバコ吸ってくる」
「また? エヌラス、ちょっと吸い過ぎじゃない?」
「しょうがないだろ。邪神と戦ってる時だってこいつは手放せないんだから」
そう言いながらも器用にシガレットケースから一本だけ口で取り出す仕草に、ベールが熱い吐息を漏らしていた。
「あぁ……普段はクールを装いながらもその実残念なイケメン……目の前にいると思うだけでわたくしは滾りますわ……」
「あー、誰か今すぐめっちゃ目の前にいる黙ってればヴィーナス級に美しい女神が口を開くと超絶至極残念頭なのどうにかしてくれねぇかなー……」
「言っちゃ悪いけど、アナタ達なんだかんだで似た者同士でお似合いよ?」
ノワールの言葉は聞こえなかったふりをしてエヌラスはバルコニーに一人逃げ出す。だが、その後をついてくる姿があった。
「アーサー?」
「私も少し、夜風を浴びたくなってな。なに、すぐに戻る」
「別にいいけどよ。タバコはやらねぇぞ」
「吸わん。安心せよ」
バルコニーに出て、エヌラスは自らの指を発火させてドラッグシガーに火を灯す。すぐに紫煙が漂い始め、アーサーがその香りに息を吸い込む。身体に良くないのは喫煙者もそうだが、二次喫煙である周囲にいる人間もだ。性質上、周囲の人間よりもエヌラスの体内――魔術回路に作用するものとはいえ余り気の良いものではない。一般的に服用されるタバコよりもよっぽど有害なのだから。
「甘くて良い香りだな」
「風下に立つなよ。脳みそ溶けるぞ」
「そこまでの代物。なぜお主は手放さない」
「常用してりゃ、中毒にもなるさ」
冗談のように笑いながら、エヌラスは白い煙を吐き出す。バルコニーから一望するプラネテューヌの夜景、夜風で揺れる金髪を押さえながらアーサーは遠くを見つめていた。
黙っていれば、女神にも負けない美女だろうに。エヌラスはそれを惜しく思いながらアーサーの横顔を見ていた。
「……何も聞かないのだな」
「聞いて欲しいのか?」
「だって、そうであろう? なぜわざわざ私が二人きりになろうとしたと思っておる」
「…………」
「例えば、私がどこから来たとか。ゲイムギョウ界に来た目的とか、色々あるであろう」
「まぁ、話題は探せば事欠かさないな」
「ならば聞けばいいではないか。私のUTSUWAは大きいぞ」
そう言いながら破顔するアーサーは月明かりを浴びて輝いていたが、それがどこか無理に作っている笑顔だとエヌラスはすぐに見抜く。しかし、敢えてそれには触れずにドラッグシガーの灰を携帯灰皿に落とし込んだ。
「旅の目的は」
「いきなり核心を突いてきたな……それを話すには、まず私の故郷について話さねばな」
「結局両方話すのかよ」
「一石二鳥、というやつだ。ここではない遠い土地、ブリテンという土地から私はゲイムギョウ界に来たのだ」
「……ブリテン、ね」
「知っておるのか」
「まぁ。なんというかね……知り合いがいる。奇妙なことに、そいつもアーサーって言う名前で、エクスカリバーを持ってて、金髪だ」
「なんだ、私か」
「あと、胸が小さい」
「私ではないな。自慢ではないが小さくはないぞ」
「見りゃ分かるさ」
少なくとも揺れる程度には“ある”のがアーサーの胸だが、今は置いておく。
「会うのが楽しみだ。そのアーサーとやらにも」
「……会えることはないだろうな」
「む? なぜだ?」
「――俺の知っているブリテンと、アーサーのブリテンは別だろうからな」
「別次元のブリテンということか」
「そして、そいつのいたブリテンは“とっくに滅んでいる”んだ。詳しくは話せないが、俺とあの仮面の邪神との戦いに巻き込まれてな……それはもう、
国を一つ滅ぼしても。世界を一つ滅ぼしても、邪神との戦いは終わらない。エヌラスはドラッグシガーを燻らせながら、アーサーの顔色を窺う。別次元とはいえ、同じ名前の土地を滅ぼされては堪らないはずだ。
「……私の旅の目的は、優秀な騎士の因子を探しに来たのだ。他のアーサーに負けないほどの強い騎士の力を借りることが出来れば、いずれ戦いは終わるであろう。私が全てのアーサーの頂点に立てば、きっといつか。いや、必ず終わらせてみせる」
「内乱だけでなく、外敵の侵略まで受けている国、か……」
エヌラスはそのブリテンの様相に、アダルトゲイムギョウ界を照らし合わせる。同じ状況だ。だからかも知れない。少しだけ、アーサーに親近感が湧いた。だが、決定的な相違点が一つだけある。
騎士を探し求める旅をするアーサーと、仲間が居ない孤独な戦いを続けるエヌラス。
王であるならば当然だ。守るべき騎士が必要になる。だがエヌラスは王ではない。最早、人ですらないのだ――。
「だから私は――」
「俺はゴメンだね。王にはなれない――そんな“
「……エヌラス、お主は私の戦いが罪だと言うのか? 何もせず、ただ涙を呑んでいろと」
「民が望むのはなんだ。平和な世の中だ。天下泰平だ。そしていずれ、戦いが終われば英雄を糾弾する。当然だ。いつの時代も“一番弱いのが強い”世界だ。戦う力も罪もない国民に、いずれお前は追われることになる」
「そんなことにはならぬ!」
「させるつもりはない。そんな下らん理由で、滅ぼされてたまるかよ……!」
「――――」
何度も見てきた。繰り返す都度、見てきた。民衆に殺される王の姿を。そんな都合の良い振る舞いが許されてたまるものか。邪神との戦いの最中で見てきた。目の当たりにしたのは、邪神に立ち向かう英雄を賞賛しておきながら、満身創痍の戦士を危険だと糾弾する者達。馬鹿馬鹿しい――お前達のそんな言葉が聞きたくて戦ったんじゃない。
「アーサー」
「……」
「俺はもう、ブリテンが滅ぶのを見たくない。そして――人の心が分からない王の姿も見たくない」