超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
《しかし、今の貴様の姿は……俺が記憶するにはあまりに辛い。楽にしてやる》
そうして、アルシュベイトは長刀を振り上げる。
「――ねぇ~……」
声を掛けられて手を止めた。ぬいぐるみを持ったプルルートが、アルシュベイトを見上げている。
《……なんだ》
「どうしてぇ、そういうことしちゃうの~」
《もとより命を賭けた決闘だ》
「だって、エヌラスは力尽きてるんだよぉ~? なのにぃ、殺しちゃうの~? 決着、着いてるんだよね~」
言われて、アルシュベイトが困惑した。
《いや、まだだ。どちらかが死ぬまで我らの決闘は――》
「そういうの~、あたしよくないと思うんだぁ~……」
《……?》
俯いていたプルルートが顔を上げて、ぬいぐるみを持ち上げる。
《ぬいぐる、ミ”ッ!?》
セミの断末魔のような叫び声を出したアルシュベイトの身体がもたついた。
プルルートがその大腿部にねぷぐるみを叩きつける。
「ねぇ~、どうして~。ひどいことしちゃうかなぁ~、もう決着着いてるのに~殺しちゃう必要ないんじゃないかなってぇ」
《ま、待て! 待て!?》
「そう、思うんだよねぇ~」
ねぷぐるみが叩きつけられる度に、アルシュベイトが後退る。綿を詰められているとは思えない重量感で殴りつけられ、胸部装甲が受け止めた衝撃を逃しきれずに下がった。無関係な者を戦いに巻き込みたくないという点では共通した両者の見解だからこそ、プルルートの始末に戸惑いを見せている。アルシュベイトなら尚更だ。力加減一つ間違えるだけで人間など握り潰してしまう。
「こういうのぉ……見てて、すっごいムカつくんだよね~」
《待て、待て待て待て! 分かった! 頼むからそのぬいぐるみで殴るのをやめろ!》
「やめてください、でしょ~? なに命令してるのかなぁ? 何様のつもり~?」
《私はアゴウ国王アルシュベイトだ! それ以上でもなければそれ以下でもない。それ以上手を出すと言うのなら、反撃もやぶさかではないぞ!》
「ふぅ~ん……そうなんだぁ~……――あれぇ?」
プルルートが自分の異変に気づいた。だが、アルシュベイトが長刀を持ち上げている。加減はするだろうが、それはエヌラスの意識を叩き起こし、結果的に更に命の危機に瀕させることなる。
「――――――!」
声にならない声をあげて、アクセル・ストライクで長刀を蹴り飛ばした。それが今のエヌラスにとってどれだけの危険な行為か。出血が更に酷くなる。それでも、プルルートの間に割って入り、アルシュベイトの前に立ち塞がった。
《……エヌラス――》
「――、……――」
既に言葉を発するだけの気力も残されていない。その眼光だけが鈍くギラついている。窮地にあってもなお輝きを失わない、エヌラスの魂に刻まれた誓約。
“諦めない”男の気迫に折れたのはアルシュベイトの方だった。左腕のコネクタを再接続すると関節の動作確認を済ませて、長刀を拾い上げて突撃銃を担ぎ直す。
《そうだな。我らの刃は、我らの血だけで汚れるだけが望ましい。そうだろう》
瞬間、緊急回線が開かれた。通信先は――インタースカイ近辺、トライデント部隊。
《こちらトライデント部隊! アルシュベイト様、マズイことになりました》
《どうした》
《インタースカイにドラグレイスが襲撃を仕掛けています! 現在応戦中!》
《至急向かう。持ち堪えろ! 少女たちはどうした!》
《援護していますが、そう長くは保ちません》
要点のみを簡潔に伝えたアルシュベイトが通信を切る。その両大腿部に内蔵した携帯食料その他簡単な医療器具を取り出すと、プルルートに渡した。その背後で糸の切れた人形のようにエヌラスが倒れる。
《この男の治療を頼む。目が覚めたら伝えてくれ、またいつか再戦する、と》
アルシュベイトが腰部ブースターを吹かして
――時は遡り、ネプテューヌ達がインタースカイに到着した直後……。
トライデント部隊が直通道路に着陸する。往来を走る車は見当たらず、閑散とした道で屈み込み、ネプテューヌ達が降りた。
「凄い乗り心地だったなぁー。ねぇねぇ、また今度乗せてよ!」
《断る。二度とゴメンだ》
「えー、いいじゃんいいじゃん。減るものでもないし」
《推進剤が減る。後、私の精神が磨り減る……》
《あぁ! 01、しっかりしろ! お前がそんなんでどうする!》
《そうですよ、しっかりしてください! 目的地に到着したのですからいいじゃないですか!》
《可能ならば精神安定剤をありったけぶちこんだ培養槽に浸かりたい……》
「……苦労、してるんですね」
「そう……みたいね。ちょっと同情するわ」
ネプテューヌ被害者であるノワールとしてはランス01に同情するしかなかった。慰めても惨めなだけだ。ともあれ、目的地に到着した三人はインタースカイへ向けて移動を始める。
入国手続の申請はトライデント部隊が済ませ、意外にもすんなりと通してくれた。
電脳国家というだけあり、インタースカイでは住民よりもむしろ無人機の方が多く見受けられる。掃除ロボや警備ロボ。そして、街の中央にそびえるタワーをネプテューヌが見上げた。
「ほえー……」
幾つものワイヤーが伸びて固定されている真っ白な巨塔、おそらくそこにバルド・ギアがいるのだろう。
タワーのフロントロビーで受付嬢――これもまたロボットだった――に、用件を伝えると残念ながら面会が拒否された。
「えー、どうして!?」
《大変申し訳ありません。現在、バルド・ギア様は治療中の為、面会を断らせていただいてます》
「どれぐらいかかりそうですか?」
《明朝までには、と予定されております。治療が終わり次第、お客様が面会を希望していた旨をお知らせいたしますのでまた後日改めて来訪してください》
《さて、どうする》
「どうする。って言われても、私達の目的はそもそもインタースカイから元の世界に帰ること。肝心のバルド・ギアと面会できないんじゃここで待つしかないわ」
《幸いにもここは娯楽に恵まれている。飽きることはないだろう》
「そうなの! わーい、じゃあ遊び放題だね!」
《ところで、金はあるのか?》
所持金を尋ねられて三人が顔を見合わせる。小銭くらいしか手元にない現実に気づき、冷や汗が流れた。これでは今日の宿が取れるかどうかすら……途方に暮れる三人に、トライデント部隊がやれやれと言わんばかりにカードを差し出した。
「あの、コレって……?」
《インタースカイ施設のフリーパスだ。我らとアルシュベイト様がバルド・ギア国王の好意によって譲り受けたものだが、もう使うことはないだろう》
「でもそんな高価なもの」
《構わん。どちらにせよ、世界がこの様な状況で“敵国”に遊びにくる機会など無い》
彼らにとってインタースカイは敵国。自分達の領土を一歩外に出ればそこは隈なく戦場となる。アダルトゲイムギョウ界で戦争が起きているという現実を改めて思い知らされた。踵を返し、トライデント部隊がネプテューヌ達に別れを告げようとした、その時である。
車が通ることのなくなった道路を悠々と歩く騎士甲冑があった。竜を模した全身鎧に、大剣を担いでいる。
《――ドラグレイス!》
入国審査を受けて、拒否された瞬間にガードロボが両断された。一斉に警報が鳴り響く。トライデント部隊が即座に武器を構える。
その毛色の違う三人に気づいたのか、ドラグレイスはまっすぐ歩み寄ってきた。機人達の背丈に負けぬほどの巨体、身長は二メートルを超えている。ネプテューヌ達からすれば、巨人にすら思えた。銃口を向けられてもまだドラグレイスはゆっくりと歩く。その進路を阻むガードロボ達が間合いに入った瞬間に大剣を振るいながら。
「……お前たちが、何故ここにいる。アゴウ国王親衛隊」
《そこにいる少女達を送り届けに来たのだ》
「いつから親衛隊は女の運び屋など請け負うようになった」
感情を欠いた声であった。
「まぁ、良い。俺の邪魔立てするというのなら、斬り伏せるまでだ。道を開けろ、トライデント」
《目的は何だ》
「しれたこと。バルド・ギアを討ちに来た」
《こんな真っ昼間。それも正面からとはな……イカれてるぜ、お前》
「貴様らの国王とて、同じであろうに」
トライデント部隊が突撃銃の引き金を引いた。幅広の大剣に身を隠し、銃弾から身を守る。
《君たち三人も早く避難を! ここは我らが食い止める!》
「何言ってるの、私達も戦うよ! ネプギア、ノワール!」
「もちろんです! ここまで送り届けてくれたのに、見捨てることなんてできません!」
「そうね。バルド・ギアを今討たれたら堪らないもの。加勢するわよ、トライデント」
《この、お人好し共め。02、支援射撃は任せる! 03、前衛を頼めるか》
《腕が鳴るってもんだぜ、大将! 任しとけ!》
「……あくまでも。俺の前に立ち塞がるというか、貴様ら!」