超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――仮面の邪神は、驚くべきことに次元渡航能力を持っていた。それに対抗出来るのは、同じく単独で次元を移動出来る手段を持っているエヌラスだけ。自然、二人の戦いはあらゆる多次元宇宙を巡って繰り広げられた。エヌラスの知るブリテンもまた、そのひとつ。国を救うべくして立ち上がった一人の少女が王の剣を抜いたその日から、戦い続けていた。ただひたすらに理想を追い求める姿があまりに鮮烈で、その世界で築いた絆の数々があまりにも眩しくて、共に轡を並べて邪神退治の片手間に戦った日々。
しかし。騎士の一人が行方知れずとなってから歯車が狂い――最期には、全てが滅んだ。最後に残されたのは王と、エヌラスだけ。
頬を我が子の血で濡らしながら、剣を手にした少女が泣き縋る。
『お願いだ、エヌラス。私を糾弾してくれ……』
全て、手遅れだった。その丘は血で染まり、黄昏に照らされるまでもなく赤い大地が広がっていた。どこで間違えていたのだろう。耐え切れなくなった少女の、王の弱音にエヌラスは何も答えない。それもそのはずだ。自分たちは出会ってはいけなかった。お前のせいじゃないとでも言ってやれば、上辺だけでも救われたかもしれない。
誰のせいで滅んだのか。それはエヌラスが一番理解している。こんな結末には至らなかったはずだ。だがこの期に及んで、その王は自らを責めていた。
『俺がお前を止めてやれれば、きっとこの国は滅ばなかった』
『なぜ、止めてくれなかった!』
『――それは、俺がお前達と同じ世界の住人じゃないからだ』
共に盃を交わしながら酒を浴びた。命を預けた仲だ。だが、自分のやるべきことはこんな寄り道ではない。我が子に剣を突き立てたまま、王は動かなかった。
『誓う。アーサー……いいや――』
初めて、少女をその名前で呼んだ。お前は王ではなく、ひとりの少女だと。
『俺は必ずあの邪神を殺す。この国が滅んだ原因は、恐らく俺だ』
『そんなはずはない! 貴方は』
『俺がお前達と出会っていなければ、アイツが円卓の騎士を狂わせることはなかった。この国も』
逃げるように背を向けて、邪神の後を追うエヌラスは王の顔を見ることが出来なかった。
――果たして、あのアーサー王はあの後どうしたのだろう。
「…………」
ミリオンアーサーは、エヌラスの顔を見る。
「疲れた顔をしておるな」
「今日はくたびれた」
「そうではない。一日二日の疲労ではなく、もっと前からだ。そうだな、具体的には――来る日も来る日も右斜め四十五度を延々と走り続けている顔だ」
「その角度に意味があるのかどうかはともかくとして、ただの苦行じゃねぇかそれ。なんの拷問だ」
「そんな顔をしている、と言っておるのだ」
アーサーが近づき、頬に手を添えた。柔らかい指先が輪郭を撫でてくすぐったい。
「エヌラス。お主は王ではないのだ。ひとりで全てを背負うな」
「アーサー。お前は王の器だ。だがひとりで全部背負うな」
「器ではない。UTSUWAだ」
「そこ、大事なんだな……」
毒気を抜かれた気がして、エヌラスは微笑んだ。夜景と月明かりに照らされた笑みに、アーサーの頬が少しだけ紅潮する。
「う、うむ……」
「俺からのアドバイスとしては、理想を追い求めるのも結構だが程々にな、ってことだ」
「……実は、な。エヌラス。私は考えていることがあるのだ。私の旅の目的は話しただろう」
「ああ。優秀な騎士の因子がどうのこうの」
「そうだ。だからこそ、お主に折り入って頼みがある。私の騎士になってくれ」
「守ってくれ、って言うなら言われるまでもねぇよ」
「――へっ!?」
「俺はお前と一緒に戦うし、お前を守るって言ってんだ」
あっけらかんと言うエヌラスの前で、アーサーが目を白黒させながら顔を赤くしていくが更に畳み掛けた。
「お前を死なせるわけにはいかないだろ。お前は俺の知っているアーサーよりも人の心が分かるみたいだしな。だから、別にいいぞ。ただ俺もこう見えて多忙でな」
アーサーの手を取り、エヌラスは手の甲にキスをする。騎士の忠義の誓い――それに今度こそアーサーは顔を真っ赤にしていた。
「多少なりとも、かなりの頻度で無茶をするが目を瞑ってくれ。ミリオンアーサー」
「~~~~! わ、私がどれだけ自分を奮い立たせて言ったと思っているこにょ馬鹿者! 美少女ならともかく喜々として言ってのけるのを、お主が異性で男性で男だから頑張ったのに、どうしてそう私に恥をかかせるのだこの! この!」
「イテ! イッテェ! 何しやがる! 叩くな!」
「ええいうるさい! 私に恥をかかせるだけでなく裸まで見られたのだ! もうこれは決定事項だ! 既成事実もやむ無しだ! 貴様を婿に引き入れてやる!」
「んん!?」
「考えてもみればそう、一世一代の王ではダメだ。跡継ぎも必要になるであろう。そうなればどれほど美少女を侍らせたところで世継ぎは出来ぬ。となれば、私自身が相応しい者を探すしかあるまい」
「うわぁ、すげぇ正論……」
「それがお主だ! うむ、全て解決した!」
「俺はむしろ困惑しているんだが!?」
「ええいうるさい、黙って私を孕ませろ!」
「ちょっと待って落ち着け! 酔ってるだろお前!」
どうにか落ち着かせると、アーサーは頭を押さえている。エヌラスはタバコの火を消して携帯灰皿に落とす。
「頭が痛い……」
「頭悪すぎて俺も頭痛がする……」
「取り乱したのはすまぬと思っている。ただ、何故かこう……抑えきれない衝動のようなものに駆り立てられてな」
「あー……」
心当たりがあるものをコートの裏ポケットにしまいこんだばかりだ。
「多分、ドラッグシガーのせいだ」
「む?」
「魔術回路の励起だけでなく精神高揚の効能もあるからな。しかも外部だけでなく、霊的な物。ようはエーテルの類なんだが、多分それが作用したせいでタガが外れたんだろう」
「なるほど、そうだったのか。恐ろしい煙草だな……」
「つまりは“本能的になる”ってことなんだが」
「なるほど――――――」
…………。
「………………………ん? つまり、それはなにか? 私は本能的にエヌラスとエッチがしたいということになるのか? それだけでなく子供も産みたいと?」
エヌラスは何も言わず、顔を背けている。
「いや、待て! 待て待て待ておかしいだろ! まぁいや確かに戦闘中のお主に少しばかり惚れ込んだ可能性は決して否定しきれたものではないがそこまでかと聞かれたら正直首を傾げるぞ私は! どうなのだそれは。そこんところどうなのだエヌラス!」
「……いや、まぁ。王のUTSUWAなら胸を張ればいいんじゃないかと思います」
「私はともかく、エヌラスはどうなのだ。私と子作りしたいと思っているのか?」
「…………子供が出来るかどうかはともかくとしてすげぇエッチしたい身体であるのは馬鹿正直に言わせてくれ、アーサー」
「――――――」
「………………」
「――――ぃ、いのか……私と?」
「頼むから俺の理性のタガを外そうとするのはやめろよどいつもこいつもよぉ!!」
半ば悲痛な叫びになりつつあった。どうしてこう、身の回りの女性がこんなにも異性に飢えているのかエヌラスは疑問に感じて仕方ない。お前らもう少し色恋沙汰に手を出してくださいお願いします。俺のような穀潰しのろくでなしの人でなしで度し難いクズでどうしようもない馬鹿の極みに身体を預けないでください。自分で言ってて悲しくなってきたエヌラスが手すりに体重を預けて室内に目を向けると、人が少なくなっていた。
「……って、お前等。いつから盗み聞きしてた?」
エヌラスが視線を投げるが、無言を貫き通す。アーサーが疑問符を浮かべるが、右手に深紅の自動式拳銃を召喚すると銃口を向ける。
「ごー、よーん、さーん――ヒャア我慢できねぇゼロだ」
「ぅわわわわわ!? 降参、降参!」
「ネプテューヌ!? それだけでなくネプギアに、他の女神まで!? 一体いつからそこにおったのだ」
「え、えっとえっと……」
「ミリアサさんの旅の目的辺りから、です……」
「ほぼ全部ではないか!? ということは――」
「ええ。ミリアサさんがエヌラスとエッチしたがっているのもバッチリ聞いていましたわ」
「うぅおおおおおおおおおおおお!?!?」
アーサーの悲鳴が夜のプラネテューヌに木霊した。