超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「うぅ~。このままでは私がただのエロイ王様になってしまう~。知恵を貸してくれぇ、チーカマ」
「どう知恵を貸せばいいのよ……」
ひとりで料理を食べていたチーカマは泣き縋るアーサーに困惑している。だが、ネプテューヌ達から向けられている視線が生暖かいことから、なにかよくない事があったのだろうとは察しがついた。とはいえどうサポートしてやればいいのやら……エビフライを食べながらチーカマは考える。サクサクの衣に、新鮮なエビの弾力が口の中で混ざり合う。ユウコ特製のソースもまた味を引き立て、チーカマは尻尾まで食べていた。
「大体エロイ王様ってなに?」
「うむー。実はかくかくしかじか」
「わからないから端折らない」
「……実は先ほど、ドラッグシガーとやらの効能でうっかり口を滑らせてな」
「へぇ。モグモグ」
「エヌラスとエッチしたいと言ってしまった」
「モグぶぅーーーっ!!」
チーカマが盛大に吹き出す。
「本気で?」
「それがわからんのだぁ~」
「というか、そんなの常用しているエヌラスって大丈夫なのかしら」
「本人は大丈夫そうだが」
エヌラスは今、ネプテューヌ達に囲まれて酒を飲んでいた。
「そういえばプルルート。酒、飲めるのか?」
「飲めるよぉ~。女神様だも~ん」
「そうか……」
ただ、その絵面が「近所の悪いお兄さんにお酒を飲まされるいたいけな少女達」という表現以外にない状況が頭痛の種でもある。頼むからせめて外見年齢を自分並みに引き上げてくれと切に願いながら、エヌラスは手にしていたワインボトルを空にした。
「エヌラスさん、お酒強いんですね」
「そういえばお酒飲んでるの見たことないかも」
「ん? まぁそりゃー、飲む必要ないしな」
金もない。
「基本、酔わないし」
「そうなの……?」
「一応そういうのは持っているが……」
そう言いながらエヌラスがコートの裏ポケットから取り出したのは、スキットル。
「中身はウイスキーですの?」
「そんじょそこらの酒だと思うとひどい目に遭うから飲むなよ?」
「そう言われると好奇心が止まりませんわ。一口だけでも、よろしいでしょうか」
「…………ワンショットな」
「あー、ベールずるい。わたしも飲む! 刮目せよー!」
「まーたこの女神は……」
パープルハートがパーティードレスで参上。ベールと並ぶ。
「飲み比べといきましょうか、ベール?」
「あら、そういうことでしたらわたくしも――変身」
「おぉい?」
「女神グリーンハート、参上ですわ」
「大惨事だよ! なんだこの状況!」
「ノワールはいいの?」
声を掛けられて、ノワールもグラスを空にした。
「私は別にいいわよ」
「あら……」
「そう?」
「女神化してまで飲もうとは思わないもの。ね、ブラン」
「ええそうね。そんな得体のしれないお酒を飲むリスクに見合う報酬がないし」
言われて、エヌラスがふと、考える。
「これ、秘蔵の酒だしな……そうだな。飲めたら――俺のこと好きにしていいぞ」
「アクセス!」
「変身!」
「へんしん~!」
「なんで全員本気出した!?」
四女神が揃い踏み、そしてアイリスハートもまた普段のボンテージ衣装のプロセッサではなくドレスを着ていた。
「だってぇ、好きにしていいのよねぇ? じゃあ本気で飲むわよ」
「それに、ネプテューヌに負けるのはなんか癪だし。付き合うわ」
「私だけ除け者にされるっていうのもつまんねぇからな、飲むぞ」
「あ、はい……」
エヌラスは全員分のワンショットグラスにスキットルの中身を注ぐ。見た目は透き通った色をしている、ただの水のようだが――匂いを嗅ぐ。これもまた無臭。ほんのりとアルコールの香りがするが、それ以外に目立った特徴が無い。女神たちが首を傾げる。
「ねぇ、これ本当に凄いお酒なの?」
「呑んでから言え、そういうの」
「じゃあみんな、せーのでいくわよ」
『せーの!』
ぐいっ。
女神達がワンショットグラスの中身を一息に飲み干した。グラスを置いて、二杯目を待つ――次の瞬間全員が卒倒する。
「お姉ちゃん!? ベールさん達まで大丈夫ですか!?」
「だーから言わんこっちゃねぇ……おーい、大丈夫かアイリスハート」
返答無し。全員が目を回していた。
「えっと、エヌラスさん。そのお酒って一体なんですか?」
「んー?」
ぐいっと一口だけ含んでエヌラスはスキットルの蓋を閉める。
「製造元は九龍アマルガム。ただの酒かと思ったら大間違い。まず人間の手で造れない。大魔導師の蒐集品のひとつ、そいつがこのスピリチュアルなアルコール――鬼殺しならぬ神殺しだ」
「すごい名前ですね」
「そう名付けたの大魔導師だけどな」
正式名称は『アフトゥ』という銘柄の酒だ。もちろんこれを手にする為にどれだけ大魔導師が苦労したかは、入手した直後に半径数キロを永久凍土にしたほど。その原料が何か。正気の沙汰ではとても思えない代物なのだが、要点のみを簡潔にまとめたエヌラスの説明では『邪神の血肉を一部使った秘蔵酒』とのこと。そんなものを酒にした挙句、趣味でオカルト品を蒐集する大魔導師は頭が病んでいるのだろうか。その加工工程だけでも腕利きの酒造が何人犠牲になったことか。
「ン・ガイの森に生えてる黒い木々の中でも特に長老級、瘴気を振りまく樹木があってな。そいつの樹液を使ったらしいが」
「なんだろう、だんだんわたしが聞いちゃいけない領域の話の気が……」
「アルコール度数89%」
「え?」
「度数89。ストレートな」
それをワンショット。女神ワンキル。あながち神殺しという名称も間違いではない。
「しかもただの酒じゃないって言ったろうに、こいつらときたら」
一杯で、一口飲んだだけで酔い潰れた。あられもない姿にエヌラスが顔を背ける。
「ネプギア、こいつらベッドに運ぶの手伝ってくれ」
「はい。でも、そんなお酒呑んで大丈夫なエヌラスさんってすごいですね」
「銀鍵守護器官がなんでもかんでも分解して自分の魔力にしちまうからな、そのせいで酒だろうがなんだろうがあっという間に消えちまう」
その生成を抑えるためのドラッグシガーでもあるのだが、どちらにせよまともな身体ではない。
「よい、しょっと」
エヌラスがアイリスハートを抱きかかえる。
「ぅ、ん……」
「……」
艶めかしい声をあげる酩酊した女神に湧き上がる情欲をぐっと堪えて、エヌラスは寝室に運びこむ。ベッドに寝かせて、次。
「ん、はぁ……」
「…………っ」
パープルハートを運び込み、ホワイトハートはネプギアがなんとか寝かせている。次だ次、エヌラスは考えるのを止めた。
「あつ、い……」
「脱ごうとすんな」
ブラックハートを運びだして、寝かせる。そろそろ我慢の限界なので勘弁して下さい、最後。
「はぁ――」
「――――――」
グリーンハートをベッドに寝かしつけてエヌラスは戻ってくるなりスキットルを取り出すと再び中身を呷った。喉が焼けただれるような痛みを訴えるが飲み干して蓋を閉める。脳を揺さぶられる感覚が平衡感覚を奪い、急速に回る酒の主成分が視界を朦朧とさせるだけでなく精神を別世界にトリップさせられているような幸福感すらも飲み下し――まるごと女神たちの寝顔も銀鍵守護器官で燃焼させてエヌラスは立ち直った。
「死ぬかと思った――! 俺の理性がぶっ壊れてケダモノになるところだった――! 女神を酔い潰れさせて襲うとかあんまりにも鬼畜の所業だろう俺……!」
そこはちゃんと互いの合意を得た上でキチンとしておきたい。
「今、かなりの量飲みませんでした?」
「結構いった。ガッツリ飲んだ! 正直ちょっと酔ってる! これただの酒じゃねぇからな、飲んだらアレやぞ。どれだ、あーっと。精神的にちょっとアレな方向にかっ飛ぶぞ、ガンギマリになる程度には酔っ払うからな」
「えっと、お水持ってきますか?」
「お願いする」
ソファーに腰を下ろしてひと休みするエヌラスの隣に、アーサーが腰掛ける。
「あー……久々に飲んだ……」
「まさか女神達が一口で潰れるとは、そんなものをよく飲めるな」
「こうでもしないと、酔えない」
「無理に酔わんでもいいではないか」
「ひとりだけ素面ってのもつまんねぇよ」
あー、と天井を仰ぎながら呻く姿に少しだけ距離を詰めた。気づかれていないと思い、肩が触れ合うほど近づくとエヌラスが抱き寄せる。
「アーサー、ダメだー、めっちゃ酔ってるー……頭フラフラする」
「だ、大丈夫かお主……?」
「エヌラスさん、お水持ってきました」
「サンキュー、ネプギア」
「えと、お邪魔でしたか?」
「い、いや気にするな! なぁエヌラス」
「ぐびぐび……悪い、ネプギア、もう一杯貰えるか……」
「はい。任せて下さい」
ネプギアがそそくさとその場を後にして、女神たちのいないパーティーは静かなものだった。
「エヌラス、私ピィちゃんとお風呂入ったら後片付けしてイーちゃんの資料読んだら寝るからよろしく」
「あいよー」
「わたし達も遅いからもう寝るわね、それじゃ一足お先に」
「ああ、おやすみアイエフ」
「うむ、良い夢を」
「アーサー。悪いけどわたしももう寝るわ」
「あ、うむ……」
「おやすみ、チータラ」
「だからチーカマだってば」
残されたアーサーとエヌラスの間に、妙な空気が流れる。というのも、バルコニーでのドラッグシガーの件があるからどうにも意識してしまう。両手でグラスを持って硬直しているアーサーが思考を張り巡らせる。
(い、いや待て。これはある意味チャンスではないか? ネプテューヌ達は酔い潰れ、ユウコも風呂に行った。アイエフ達も先に寝ると言っておったし、二人きりだ……いや、だがネプギアはどうする!?)
チラと横を盗み見るとエヌラスはまだ酔いが回っているのか腕で目を覆っていた。酔った勢いで情事に持ち込むのはどうかと良心が訴えかけるが、アーサーの中で渦巻く情念が「うるせぇワンパンで勝ちゃいいんだよ!」と一撃必殺。
(逃すのか、この好機! ――もしや、エヌラスはこの状況を作り出す為に酒を用意したのではないか? ネプテューヌ達を酔い潰れさせたのもこのためか! 恐ろしい、恐ろしいぞこの男……! そこまで考えておるとは……)
――なお、少なからず酔いが回っているのはアーサーも同義である。
(臆するのか、私! いいのか私! ジャスティストレイン、ジャスティストレイン!)
もはやよく分からない言葉で自らを奮い立たせようとするアーサーだったが、もう後ひと押し。背中を押してくれる勇気が欲しい。そんな時に便利なのが目に入った。
(ええい、ままよ!)
アーサーが立ち上がり、飲みかけのワインボトルに手を伸ばす。それがエヌラスが口をつけていたボトルであるというのはひとまず置いておくとして。
「酒が飲めずに何が王か! ゆくぞ! ジャスティストレイン、ミリオンアーサー!!」
「お、おおう。それ、俺が飲みかけてた奴だったような」
「ごぷっはぁぁぁぁぁ!? お主は私をどれだけ辱めれば気が済むのだ!」
それでもちゃんとボトルを空にして置いておく辺り、律儀だ。酔いが回って赤くなった顔のままアーサーがエヌラスの隣に座り込む。深呼吸を繰り返して、頭に酸素をしっかりと送り込んでアーサーは少しでも心の整理をしておく。
「エヌラス」
「なんだ?」
「その、だなぁ……予習というか、練習というか……そう、そうだ。予行練習というやつだ、何分私もそういうことには疎い。どういったものなのか具体的な想像が出来ない事は認めよう」
「何の話だ……」
「だから! ああもう、面倒だ! ハッキリ言えばいいのであろう!」
「エヌラスさん、お水――」
「私と子作りしろと言っているのだこの馬鹿者め! これ以上私をどうする気だ!」
間。
「……うわぁ、すごいタイミングで戻って来ちゃった……」
「ネプギア、お主、いつ戻ってきた……」
「ちょうどミリアサさんがエヌラスさんに、その――を、言うところです……ごめんなさい。あの、お水置いておきますね! そ、それじゃごゆっくり!」
ネプギアが気を遣ってグラスを置いて去っていく。アーサーはこれ以上ないほど落ち込み、うなだれていた。
「可能ならば今すぐにでもネプギアの記憶を消し去りたいのだが、存在を消すにはどうすれば良いと思うエヌラス……」
「落ち着けアーサー。暗黒面だだ漏れてるぞ」
「もうだめだ……おしまいだぁ……! 私のジャスティストレインは全て遠き理想郷でしかないのか」
「しなびた野菜みたいな事言うなよ。そうだな……お互い酔いが回ってるし、外の空気でも吸いに散歩でも行かないか」
「うむ……そうしよう」