超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――ホテルの一室。ベッドに腰掛けてバスタオルを身体に巻いたアーサーが世界の終わりを前にした表情で沈み込んでいた。
「……吐いた。ふふ、盛大に吐いたぞ、私は……それも男の前で……終わった……我が生涯がいっぺんに台無し……」
トイレに向かって盛大にぶちまけた結果として、アーサーは上の服が少々汚れたので現在エヌラスが洗濯中だ。ありがたいことに、脱衣場にはコインランドリーが用意されている。ただし一人用だが。
アーサーの介抱をしていたエヌラスのコートと上着も被害をこうむったので自分の服を手洗いしていた。乾燥させるにはアーサーの上着が洗い終わってからである。
「おーい、いつまで落ち込んでるんだよ」
「お主には分かるまい……私の身体を通して出るこのオーラが……」
「嫌というほど分かるよ、その負の感情……どうしてこう酒に負けて吐いた奴は同じ顔するんだ」
つい最近、見かけた気が――酒樽を用意してアホのように飲み比べをしていたパーティー。大魔導師とエヌラスと、ソラ。そしてドラグレイスも含めた『第ン回だか忘れたけれども折角だから開催したよパーティー(発案者、大魔導師)』の最早恒例となっていた。ちなみに第一脱落者は言うまでもなく、ソラだったりする。その後すぐにアルシュベイトの世話になりながら吐いて――アーサーとまったく同じような事をしていた。
『どうして君らはそう、アホみたいに酒飲めるんだよ馬鹿じゃないのか……飲まなくても生きていけるだろおかしいよ君ら……おぉっぷ……』
『おい、ソラがまた吐いたぞ。エヌラス』
『ゲロでも飲ませとけ! 次持ってこーい!』
大魔導師が最終的に残り、ドラグレイスは酔い潰れ、エヌラスは樽が壊れて脱落。その飲み比べ大会も勝利が決まった後、大魔導師は盛大に吐いてクロックサイコの世話になっていたが。
「お主も吐けば分かる……」
「分かりたくない」
「頼みがある。誰にも言わないでくれるか、特にチーカマには」
「あー、うん」
口うるさいチーカマのことだ。どうなるかが目に浮かぶ。
「とりあえず、明日の朝になったら教会に戻って適当言っておくか。そんな目で見るなよ、心配すんな。悪く言ったりしないから」
「うむ……」
少し落ち着きを取り戻したのか、だがアーサーの顔色はまだ優れない。エヌラスは備え付けの冷蔵庫の中身を見ると、ご丁寧に飲料水がいくつか入っていた。その中から天然水を持ち出すと手渡す。力なく受け取り、一度だけラベルを確認してから飲み始めた。
エヌラスは隣に座り込む。ベッドに半裸で腰掛ける男女――それに思い当たったのは同時なのか、盗み見た視線がぶつかった。
「……」
「……」
「その、なんだ。ホテルに泊まるのには慣れているが、こういう場所は初めてなのだ」
「そ、そうか」
緊張感をはぐらかすようにアーサーは室内を見渡す。
「普通のホテルとは、また違うな! うむ、好奇心がそそられなくはないな」
「こういう時って大抵お約束で、ゴムとか見つけるよな」
「ゴム? うーむ、これか?」
「なんで見つけちゃうの……」
顔を覆う。なんで見知らぬそれを手にしてしまうのだアーサー。だが、本人もソレはよく知らない物体なのか首を傾げている。
「それで、ゴムというのは何なのだ? なんで置いてある?」
「それはだな、アーサー。ここが愛を営む為の場所だからだ」
「む? 愛を営む為に必要なのか?」
「そうだな。夜の営みの心強いお供だ。かくいう俺も何度か世話になってる」
「ほう。経験豊富なのだな」
「まぁ……かなり」
両手の指でも足りるかどうか。それどころか、リセットも含めると――考えたくない。ありがたい事にそれで死ぬことはないのが銀鍵守護器官のおかげだ。
「……私もその一人になるのか?」
「お前が望むなら、そうするが」
「……これを、どう使うのだ」
口をゴムで隠しながらアーサーはエヌラスの顔を見上げる。バスタオルで隠された身体が見え隠れしていた。
「使い方を教えてやってもいいが……そうするとだな、その……」
「言ったであろう。予行演習だと」
「……」
「……正直、私はすごく怖いのだが――」
アーサーが脳裏に浮かべたのは、邪神を相手にしていた時のエヌラス。真っ先に脅威へ身を投げ出して戦う姿。惚れ込んだわけではないのだが、その姿がどうしてか目に焼き付いていた。
きっとそんな戦いを繰り返したのだろう。それが当たり前の日常で、それが彼にとって当然のことだった。その背中に――その姿に、騎士が重なる。相手の脅威など関係なく、ただ一点――“守る”ということに全身全霊を懸けた行動。
「お主は、そんな騎士ではないと信じている」
バスタオルをはだけさせて、アーサーはゴムを咥えていた。紅潮している頬と、差し出すように口を出すと、目を閉じる。
「ん」
「…………」
「……んっ」
ぐいっと迫るアーサーの顔から、エヌラスが思わず身を引いた。
「んー!」
「わかったよ。ただし、痛かったらすぐ言えよ」
「痛いと言ったら、やめるのか?」
「そりゃ……なんか後味悪いしな」
「……変なところで優しいのだな」
「変神してやろうか? 加減しねぇぞ」
もちろん冗談だが、アーサーをベッドに押し倒す。強引にではなく、ゆっくりと。まるで病人でも寝かせるようにして見つめ合う。
はぁ、と吐息を漏らす。アーサーは初めての事に戸惑いを隠しきれず、落ち着かない様子だ。
「き、緊張……するな」
「……俺も」
「なぜだ? 慣れているのではないのか」
「お前とは正真正銘、初めてだから緊張してるんだよこれでも……俺も気を遣うんだよ」
頬に手を添えて、撫でる。ふっくらとした弾力が癖になりそうだ。触れられて少し驚いたアーサーが身体を震わせる。
「ん……ぁ、いや今のはちょっと驚いただけだ。気に、するな……」
尻すぼみになるアーサーの言葉に、エヌラスは顔を近づけた。唇ではなく、頬に口づけする。何度かそれを繰り返して、少しずつ首元へ降りていく。舌を這わせるとアーサーの身体が強張った。シーツを握る手に力が込められている。
「むぅ、されるがままというのも……中々いじらしい、な」
エヌラスの口づけは徐々に鎖骨から下へ向かっていく。手を伸ばして、肌に触れるかどうかのギリギリを責めるタッチにアーサーが身体をよがらせる。焦らされるような、それでいて触れるのを躊躇う風ではなく、これがエヌラスなりの気遣いだと思うことにした。
「くすぐったいぞ、こそばゆいな。もっと、こう……」
「がっつくような真似はしたくない」
「んぅ」
ピク、と身体の奥底。下腹部がじんわりと熱を持ち始めている。
「……キス」
「ん?」
「エヌラス……やはり、私とキスをするのはイヤか?」
「いや、別に。どうしたんだいきなり」
「吐く前に、口移しで酒を飲ませただろう。だから、もう一度……したいのだが」
気にしているらしい。エヌラスはそれを無視してアーサーと唇を重ねた。
「――ふ。これは……良いな、エヌラス……ん、ちゅ……よ、予行練習だからな? 私がアーサー王となった日の為に……」
「分かってるって」
「……ん」
触れ合った唇を少しだけ離し、舌を入れる。口の中に入り込んだ異物にアーサーの身体が僅かに跳ねたが、すぐに受け入れて首の後ろに手を回して抱き寄せた。最初こそエヌラスにリードを握らせていたアーサーだったが、自らも舌を絡め始める。唾液が混ざり合い、どこからどこまでが自分のなのかが分からなくなるくらいお互いの口内を嬲る。水音が鳴り始めた。ぴちゃ、くちゅとその音が塞ぎようもなく耳に入ってくる。
抱き寄せた身体が。触れ合う肌と肌の境界が曖昧になってくる。
「――ん、ハァ……こく……癖になりそうだ」
「騎士が王様とこんな事をするなんて、過去の英霊に殺されそうだ」
「だが、お主は旧神だ。神を縛る法などありはしないではないか」
エヌラスはアーサーの唇を塞いだ。
例え、どんな神の摂理であろうとも――この手に抱いた女も、手を差し伸べた輩も奪う権限はない。
「当たり前だ――」
ああそうだとも。この手に抱く以上は、命に換えても守る価値のある人だ。手を回して抱き合っているうちにエヌラスの手は、アーサーの身体を弄り始めている。
背筋を撫でて、そのまま下着を脱がせていく。
生まれたままの姿で、アーサーが身体を抱き寄せていた。
「は、裸の王様というのも……いないのだぞ? だから私は今、ただの少女だ」
「……美少女の間違いだろ」
髪を梳いて、解いていく。それに顔をこれ以上無いほど真っ赤にしている。髪は女の命というが、その結び目を解くというのは一番恥ずかしいのだろう。