超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
次元渡航。多次元宇宙を自由に移動できる能力というほど便利なものはない。あらゆる次元、あらゆる世界に顔を出す。それは彼にとってしてみれば、軽い旅行のような感覚だった。ただひとつ問題があるとするならば、その移動には少なからず代償が伴う。自然、移動を頻繁に行えばそれだけ消耗する。そんなわけで、彼は自分がどの次元に移動したとしても休息を摂ろうと決めていた。
辿り着いた先は、見知らぬ廃墟。既に崩壊した後の次元。彼にとってしてみれば、見慣れた世界。
自分がいた世界は、いつだってこういう結末だ。自分が望み、思い、願うままに破壊してきた。それに理由はない。なぜならそれが自分という存在定義。意味などない。ただそうするべくして生まれたのだから当然だ。
廃墟から飛び降りて、歩く。辛うじて原型を留めている街並みは優れた科学技術があったことを物語っているが、それも今となっては文明の欠片さえ感じられない背景となっていた。一体どうして滅んだのかまで気にするほどでもないので彼は歩く。
「へぇ……珍しい。こんなところにお客さんとはね。こんにちわ」
――声を掛けられるとは思わなかった。むしろ、人がいることに驚いて振り返る。
少女だった。ツインテールに、黒い服を着たその少女は、不気味なほど不敵な笑みを浮かべて優しい声色をして彼に近づく。
「どこから来たんだい?」
「……何処でもない」
嘘は言っていない。彼は何処にでも行ける。故に、どこがスタートかさえも分からない。
「へぇ、それは困った。どこから来たのかも分からないなんて、迷子かい?」
「……俺の起源が何処から、という意味なら――終焉だ」
「……」
「だから“何処でもない”」
全ての始まりには終わりがある。スタートした以上、ゴールには必ず辿り着く。しかしその是非は問わない。彼の場合は、それが逆なだけ。ゴールに辿り着いて、スタート地点に向けて引き返している。
それに、少女が笑みを浮かべて顔を覗き込んだ。仮面を付けていることを思い出して、彼は少女の瞳をまっすぐ見返す。
「仮面を付けてまで、君は何を隠しているんだ? 良ければ顔を見せてほしいんだけどね」
「……」
どうしてか、少女の隣が心地よい。何も無い世界で、滅んだ後の次元で出会ったこの少女の瞳には自分と同じ物を感じたからかもしれない。
彼は仮面を外した。左目だけが黄金の輝きを灯していたが、すぐに血のように赤い瞳の色に変わる。
「これでいいか」
「これは、驚いたなぁ。まるでオレと同じじゃないか」
「奇遇だな。俺もそう思った」
「ふふっ。これは思わぬ出会いだ。きっと運命ってやつなんじゃないか」
「だとしたら、黒い糸だ。血のように赤い糸だ」
「おっと、オレとしたことが……まだ自己紹介をしてなかったね」
少女が名乗り、彼は自分の名前を考えた。なにせ今までろくに名乗ることさえしなかった。
「……俺は、名前がない。“貌”すらない、邪神だ。形が定まらない、だからこその混沌だ」
「それは困ったなぁ。オレは君が気に入った。だから名前くらいは呼ばせてくれないか?」
「……そうだな……俺は――」
邪神は、思う。自分はなぜ生まれたのだろう。自分は何処から生まれて来たのだろう。女神が人々の信仰で生まれるのなら、自分は一体何で生まれてきたのか。
「俺は――絶望から生まれた邪神だ」
「そうか。じゃあ、そうだね……オレが名前をつけてあげよう。その代わり、オレと手を組まないか? そうしたら、ここにある物は全部好きにして構わないよ。……オレでさえも」
少女が手を差し出す。その条件に乗るか、どうするか邪神は悩まなかった。
きっと、この少女との出会いは必然だ。全ては“
「俺にとって“
「本当に面白い事を言うね、君は」
「俺は既に“終わっている”――お前と同じようにな」
「……ふふ、あはは、あははははは! そうか。うん、そうだ。そうに違いない。これは“
少女が腹を抱えて笑う。それに、邪神は手を差し伸べた。
「お前と手を組もう」
「はぁ、こんなに笑ったのはいつぶりかな。まぁいいか。これからよろしく頼むよ、絶望さん」
そして――邪神は、少女と手を繋ぐ。
プラネテューヌ第三資源採掘場――そこでは、いつもの日常にちょっと形容しがたい奇声と騒音と銃撃音とかなんかこう、もう色々と滅茶苦茶なことが起きていた。
毎度のことながらその騒動に頭を悩ませているジーンですらも狙撃銃を片手に仲間を狙う。
散弾銃が穿つ地面をセインが飛び退いて避ける。
B2AM総合特務班トライアド同士による正面衝突。四つ巴の激闘は誰が制したわけでもなく、互いに互いの銃口を額に向けて膠着状態で決着となった。
《イヌミミだ!》
《いいや、ネコミミだ!》
《キツネミミこそ至高》
《タヌキミミ!》
――バカしかいないのは毎度のことではあるが、その戦場における雌雄を決すべく理由はその一点。
果たして、女神パープルハートに生やすケモミミの種類とは何か、である。然して、その製薬の為に必要な材料の種類によって左右されるのがこの内輪もめの原因だった。
誰がどれを見たいかだけで死闘を繰り広げられる総合特務班トライアドだが、誰も止められないのだから手がつけられない。
《イヌミミバンザイだろうが! アホか貴様ら!》
《ネコミミだろうJK! 女子高生じゃないぞ!》
《セーラーパープルハート様だと……!? 濃いのが出るな……!》
《スク水は何処いった! いや、いつもスク水のようなものだったけど太もものラインとかすげぇエロイと思う!》
変態しか居ない戦場がカオスを頼まれもしないのに加速していく程にプラネテューヌは平和だった。
ただし、教会を除いて。
――エヌラスとアーサーは正座している。
「それで。アーサー? エヌラスと一緒にパーティー会場抜け出して、お昼に帰ってきて今までどこで何してたの」
「何か弁明はありますか、エヌラスさん」
現在、二人の前にはイストワールとチーカマの二人が並んでいた。
「昨夜、アーサーと酔いを覚ますために夜のプラネテューヌを歩きました」
「はい」
「ところが、気分が悪くなったと言っていたのでホテルに泊まりました」
「へぇ。それで?」
「起きたらお昼。急いで戻ってきたわけです、以上」
エヌラスは一言一句、嘘を言っていない。ちなみにネプテューヌとプルルートは二日酔いで頭痛のあまり寝込んでいる。本日の女神のお仕事は無理であると判断、ネプギアが看病中だ。
「イーちゃん、こいつの場合なに言っても無駄だよ」
「ですが、ユウコさん」
洗濯カゴを持って家事をしながらユウコが足を止める。ピーシェは肩車しておとなしくしていた。
「あー無理無理。ふんじばろうが何だろうが、こいつは誰かを守るって決めたら絶対に折れないし」
「それで良いのですか?」
「うん。別に私は気にしないよ? だって恋人何人いても神様文句言わないし」
「吸血鬼が言うことかよ……」
その神様当人が言って良いのだろうか、というツッコミは野暮なので無し。
「む。それともなに? エヌラスにはずっと戦ってろって?」
「……」
「私は嫌だけど。言っておくけど、禁欲しろとも考えてないし。それだけのこと今までしてるんだし、大目に見てあげないと。それにも程度ってものはあるけどね。ねー、ピィちゃん」
「ねー!」
「よーし、ユウコさんタクシー安全運転ではっしーん!」
「はっしーん!」
キャッキャッとはしゃぎながら二人が去っていく。イストワールはエヌラスがいなければ邪神が撃破できていなかった点も考慮して、不問にした。
「あまり他人の厚意に依存するのもよくないですよ、エヌラスさん」
「真っ当に生活出来る金が稼げたら教会出ていく予定だったんだよ。ユウコまで泊まるとは思ってなかったからな」
「えっ?」
「だってそうだろ? 俺の本業は邪神退治なわけだし、プラネテューヌに居ずっぱりなわけにも――」
『えぇぇぇぇーー!?』
ネプテューヌとプルルートの声が重なる。二日酔いで青い顔をしながらフラフラになって壁に寄りかかりながら出てくる姿は女神というよりはまるで幽霊のようだった。
「そんなのやだぁ~……」
「そうだそうだぁー……」
『頭いたい~』
「見事なまでのシンクロニシティ。流石プラネテューヌの女神」
「子供みたいな事言わないでください、ネプテューヌさん。こう見えてもエヌラスさんなりに考えて」
「こう見えてって失礼だな……」
そうとしか見えないのだから仕方ない。
「だってぇ、エヌラスと再会できたのにお別れなんてあたしやだよぉ~」
「そうだよぉー、ぷるるんがこう言ってるんだしまだゆっくりしてってよー」
「…………明日からな。今日はお前の代わりに仕事してきてやるから、養生してろ。いいな」
『は~い』
エヌラスの面倒見の良さに、イストワールは苦笑した。だが、チーカマはまだアーサーに向かって説教している。すっかりしょげて意気消沈している姿にまだ足りないのか説教は続く。
「そういえば、アイエフは?」
「アイエフさんですか? それでしたら」
「んー? アイちゃんは、ちょっと調査に行ってもらってるよ。私が出回るわけにはいかないし」
「ユウコの用事か」
「はい。引いては、プラネテューヌの。ハァドラインに関する調査です」
「なんかあったのか?」
ユウコは肩車しているピーシェを喜ばそうとしているのか、身体を傾けている。振り落とされまいとしがみついているピーシェはピーシェでそれが楽しいのかニコニコと笑っていた。
「うきゃー!」
「うん。例の資料を読んだら、プラネテューヌの電気とガス、水道の三つ。生活に必要なそこら辺の企業にB2AMの手が回ってた。いつでも首を押さえられるようにって感じなんだけど」
だがそれにしては妙な話だ。女神信仰の狂信者がわざわざ自分たちの首を絞めるような真似をするわけがない。だが、続きがある。
「単に給料が良いからみたい」
「ただの生活困難かよ!」
関係ないオチに思わずツッコミを入れてしまった。その大声にネプテューヌとプルルートが顔をしかめている。
「で、それで……」
「そっちはともかくとして――洗いざらい読んでたら」
「本来であれば稼働停止中である資源採掘場から、物資の輸送が行われていることが判明しました。その出荷ルートは不明、恐らくは企業ではなく個人によるものだと思われます」
「と、いうわけ。だからそこの調査をアイちゃんにお願いしたんだ」
「なるほどな……」
あのアイエフのことだ。問題はないだろう。