超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネテューヌを駆け抜ける一陣の風。高速で移動する為にアイエフが購入した大型自動二輪は順調に稼働していた。
街並みを抜けて、外れていく。休息を取りながらアイエフは街から遠く離れたある施設を目指して移動を続ける。峠を攻めるようにカーブして、遠方に僅かながら見える建造物にスピードを落として止まった。確かに稼働しているようだ。過去にプラネテューヌで資源採掘に使われていた施設は、現在はそのエネルギー問題も解決したことから既に運用停止となっているはずだった。それが今、動いている。
どこの犯罪組織に名を連ねる者かは分からない。だが、アイエフは如何なる組織に連なるものであっても容赦する気はなかった。そして、それが例えハァドラインであっても――再びバイクを走らせる。
「……ここからは徒歩ね」
施設に繋がる道路は途中から封鎖されており、それもそのはずだ。こんな場所に来る物好きは居ない。森の中を歩いていると、徐々に戦闘音が大きくなっていく。交戦? 一体誰とだろうか。
アイエフは身を隠しながらゆっくりとその様子を眺める。
四体のロボットが銃器を巧みに操って躊躇なく引き金を引いていた。
連射されるハンドガンの弾丸を手にしている刀で弾きながら迫る。空の弾倉を交換しながら身を引いて避けるそこへ、今度は散弾銃がベアリング弾を扇状に放つ。だが、それをシールド発生装置で防ぐとリロードを済ませる。
(なに? 仲間割れ……? 見たところハァドラインみたいね)
だが、一体何が起きているのだろう。こうして隠れて眺めているだけでも彼らの身内に向ける殺意が感じ取れる。
ミサイルが降り注ぎ、それを全て迎撃するとグレネードランチャーが榴弾を撃ち出して土煙と爆風が四人を引き離した。
《貴様ら……なぜ分からんか!》
《それはこちらのセリフだ、セイン!》
《どうやらお前達とはこうなるしかないらしいな》
《冗談じゃない、譲り合う気はないのかお前ら。人のこと言えないが》
どうも、何やら揉めているらしい。アイエフがいることに気づいていないようだが、どうするか。彼らの仲裁に入ろうにも、その実力は今しがた見せつけられた。流石に四人を相手にするのは厳しい。
そこへ、新たなロボットが現れる。背中にはコンテナを積んでいるが、その重量を物ともせずに行動していた。それはアイエフも見覚えがある――確か、隣町でシロトラと一緒に居たロボット。
《おーい、お前ら。何しているんだ》
《ドバル! すっこんでろ!》
《いや、そうもいかんだろ。シロトラ教官が来たらお前らやばいだろ、これ》
ドバルが指差すのは、えぐれた地面。戦闘の痕跡が、よもや内輪揉めではあの教官のことだ。酷い目に遭うのは目に浮かぶ。
《ちゃんと直しとけ? 俺は知らんぞ》
《む、むぐぐぐ……分かった……せめて手伝ってくれないか》
《無理だ。配達が山程ある、とりあえず置いていくぞ》
その場にかがんでコンテナを降ろすと、錠前を外して中身を渡した。
そこには弾薬だけでなく生活用品――薬品と思わしき瓶の山。それだけでなく、中には危険物の印が押されているものまである。
(……何かの取引、いえ補給物資かしら)
《いつも悪いなドバル》
《こっちだって一日でルウィーからここまで移動して疲れてるんだ。整備もしたい》
(ルウィーから……? だけどあの薬品は一体……)
見たことがない。ドバルは空になったコンテナを背負い、背を向けて走り去る。ギャリギャリと地面に履帯を押し付けながら移動する後ろ姿を見送って、四人のロボットは手にしていた武器を見下ろしてから背面に背負った。
《……まず、片付けするか》
《そうだな》
水を差されて頭を冷やしたのか、四人はすっかり大人しくなって片付けを始める。それがシャベルを四人で持ち出してひたすら穴を埋めるという地味な作業は眺めているアイエフも退屈極まりなかった。とはいえ、彼らがここで違法な資源採掘を行っているのは火を見るより明らか。ここを拠点としていると見て間違いはなさそうだ。
(わたし一人じゃ手に負えそうにないわね……)
ひとまず、クロと見ていい。アイエフはばれないように隠れながらその場を後にしようとするが――四人がまた揉めている。
《だーかーら、何故分からんか貴様ら! イヌミミしかないだろう!?》
《いーや、ネコミミだ。そこは譲れんな》
《キツネミミこそ至高だと言っても聞かないのか……》
《どーして分かってもらえないんだ、タヌキミミ……いや、厳密にはその尻尾なんだけど》
(はぁ、バカしかいないのかしら……)
呆れながらアイエフが離れようとするが、再び銃声と砲声。そして剣戟。また始まった……そう思いながらも足を止めることはなかった。
しかし、交戦の最中でジーンが背負っていたセントリーガンを起動。それによって戦局が有利に傾きつつある。
キュイー……キュ……――ウィー……!
《ん? 誤作動か……》
設置したセントリーガンがあらぬ方角を向いて、ジーンがそちらへスコープを覗き込む。木々の間で揺れる双葉リボンに、片手を挙げて他の三人を制した。
《どうした、ジーン! 降参か! お前もネコミミ派になるか!?》
《うるさい。俺はキツネミミから抜けるつもりはない、侵入者だ》
(見つかった――!?)
アイエフはその場から全力で走り出す。それを障害対象と判別したのか、セントリーガンから吐き出される銃弾が森の中へ向けて斉射されるものの、アイエフは立ち止まらなかった。
《まずいな……どうする。トライアド班長》
《――バカな遊びは此処までだ。取り逃がすなよ、シュラ》
《分かってる。ジーン、援護を頼む》
《相手は人間。俺の火力では生け捕りは難しい。お前たちに任せる》
ディルを残してセイン、ジーン、シュラの三人が森の中へ消えていく。そして、ふと足元を見れば新たに出来上がったクレーターに落胆した。
《しまった……これ、俺が一人で片付けるのか……》
逃げられたと気づいた時には既に遅い。三人の姿は消えていた。
(わたしとした事がしくじったわ! この状態じゃ流石にまずいわね)
携帯電話を取り出して、急いでネプギアに繋ぐ。立ち入り禁止の看板を飛び越えて、停めていたバイクに跨るとエンジンを掛けてスタンドを上げる。そのまま走り出す、だが、まだネプギアに繋がる気配はない。
接近してくるブースター音に歯噛みして、コールを中断してアイエフは運転に集中した。フルスロットルで走り出すバイクに、しかし一体だけ追跡してくる姿がバックミラーに映る。黒いカラーに緑のラインが入った隠密強襲機――セインだ。
《俺から逃げられると思うなよ!》
「嘘でしょ!?」
《マルチチャージャー起動!》
出力を抑えて稼働時間を重視された設計のチャージングシステムが起動する。赤いバーニア炎を噴き出しながらセインがアイエフのバイクに迫っていた。装甲を犠牲にした軽量型の挙動は、最低限の加速だけでも他の追随を許すことはない。
「この、!」
バックミラーを確認しながらアイエフは拳銃を取り出し、ミラーに映る姿を頼りに引き金を引いた。しかし、セインはアイススケートのように軽やかに避けながら背面に背負う幅広の刀を抜き放る。その刃を緑色の粒子が包み始めた。二発三発と命中するはずの弾丸は、セインの斬撃によって真っ二つにされて失速すると路面を転がる。
追いつかれる――そう思っていたアイエフだったが、相手が急に失速して距離が離れていった。チャージングシステムの容量が尽きたのか、セインが緩やかに速度を落とすと背面に背負うグレネードランチャーを構える。
ポン、と間の抜けた音と共にアイエフの頭上を超えて越えて、空中で炸裂する衝撃波に舵が取られた。それでも転ばないようになんとか操舵するとバイクのエンジンを更に吹かして、しかし。
地面に撒かれていた三菱型の地雷を正面から踏み抜いた。タイヤを挟みこむように勢い良く食いつかれて、バイクから投げ出されたアイエフの身体が宙を舞う。
「くっ――!?」
道路を転がり、軽い打ち身程度で済んだのは持ち前の身軽さが活きたと言える。両手にカタールを構えて迎撃しようとするアイエフだったが、その刃だけが撃ち抜かれて衝撃に手放してしまった。
(狙撃、どこから!?)
だが、警戒した第二射は飛んでこない。セインがゆっくりと歩み寄りながら刀を突きつける。
《お前が今日、あの場で見聞きしたことを他言しないというのであれば見逃すのも一考。しかしながらその様子では――交渉はすべくもないな》
「っ……あんた達は一体――」
バチィン! アイエフの身体が跳ねると、意識を失ったようにその場に崩折れて横たわった。その背後には、テーザー銃を持つシュラ。
《シュラ、先回りご苦労だった》
《なに、これくらいはお安いご用さ。彼女が此処に来るまでの移動手段に徒歩とは考え難かったからな》
《ジーンも。武装の無力化、見事だった》
セインが親指を立てる。その様子を、スコープを覗きながら樹の枝に腰掛けていたジーンが見つめて鼻で笑う。
《……お望みなら、ここからお前の頭でもふっ飛ばしてやれるが?》
《それが必要な時は頼む――さて》
セインとシュラの二人が、気を失っているアイエフに視線を落とす。
《……思わず捕まえてしまったが、どうしようなこれ》
《やっべー、何も考えてなかった……》
咄嗟の事態に対応は出来たものの、その後の事は全く考えていなかった。