超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――どれほどの時間、気を失っていただろう。アイエフは痛む身体の節々に起こされて目を覚ます。固い感触に、自分が地面に横に倒れているのが分かった。薄暗く、土の臭いに混じって機械油の臭いに顔をしかめるも、立ち上がろうとして身動きが出来ない。見れば、自分の腕と足が縛られていた。
記憶が前後している。頭を振って、口の中に入った砂利を吐き捨てながら今一度自分の置かれている状況を整理する。
イストワールからの調査結果、それを見たユウコが不審に思った点があり、その為の調査に赴いた――すると、そこがハァドライン、B2AMが違法占拠している拠点の一つだった。プラネテューヌ第三資源採掘場は数年前のエネルギー問題の解決に伴って停止している。そのはずだ、しかし現実は違った。
なんとか逃亡を試みたが、失敗に終わる。と、大体はそんなところだ。アイエフは改めて自分の置かれている状況に嘆息する。
「あんな変なロボット達に遅れを取るなんて、わたしもまだまだね……」
とはいえ、いつまでも捕まっているつもりもない。誰もいない今のうちに何とか抜けだそうと身じろぎするが、しっかりと縛られている。これを抜けだすのは苦労するだろう。携帯電話は無事なようだが、武器は没収されていた。恐らくはバイクも接収されている。万事休す――誰かが助けに来てくれることを祈りたいが、それも今の状態では難しい。
《ふっふっふ……》
《フッフッフ……》
《ふっふっふ……》
「っ!?」
不気味な笑い声に、身じろぎしてそちらを向くとロボットが三体並んでいた。腕を組んでアイエフを見下ろしている。
「くっ……わたしをどうするつもり……!?」
《ふっふっふ……考えていなかった》
《フッフッフ……さてどうしようなこれ》
《ふっふっふ、俺たちこれからどうすればいいんだろうな》
「アンタ達バカなの!? 普通はもうちょっとこう、なんかあるんじゃない!?」
思わずツッコミを入れてしまったが、それをなだめるように重量型のディルがアイエフの身体を起こして椅子に座らせた。ついでに土汚れも払い落とす。
《まぁまぁ、落ち着いてくれお嬢さん。こちらも突然のことでつい反撃してしまったのだ》
「どうかしらね。口封じでもするつもり?」
《……うーむ、そのことなんだが……我々もものすごく困っている》
「は?」
《いや、だってなぁ……殺人はマズイだろ》
《それも女の子……》
《死体の処理とか色々面倒だし》
「いや、それ以前に不法占拠も立派な犯罪よ? わかってる?」
《それはそれ》
《これはこれ》
セインとシュラが見えない荷物を置いといて。お互いに困っている状態らしい。そこであれやこれやと話し合いをしているうちに目覚めてしまったらしく、咳払いを一つ挟んでディルが話題を仕切り直すと自己紹介を挟んだ。
自分たちがB2AMのロボットであること。ここでは資源採掘を行っていること。それが違法なのも承知していること。女神パープルハートを信仰していることも、プラネテューヌのシェアが低いことに悩んでいることも話した。
「――つまり、貴方達なりにネプ子……パープルハート様の力になりたいと行動してるのね」
《そういうことになります。ですが、これは私事になりますけれども――プラネテューヌを襲ったかつてのエネルギー問題。その環境汚染物質で我々は動いているのです》
「? どういうこと?」
《数年前に発見されたエネルギー物質はご存じですか?》
「ええ、もちろんよ。植物のような性質を持つ無機物、たしか……『ニュード』だったかしら?」
《はい。ニュードはその性質から電圧を加えることにより変異したり、特定の条件下においてその形状を変化させます。万能のエネルギー物質ですが、その反面》
「著しく環境を汚染することからその採掘はすぐに取り止められた……」
《その通りです》
人体にも影響を及ぼすことから、ニュードの採掘や関連した事業はすぐに撤退させられた。それも既に十年以上前の出来事だ。
《元々、我々のようなロボットが開発されたのもニュード採掘をするためでしたが、それが問題視されて稼動停止された以上、行き場がなくなってしまったのです。路頭に彷徨う我々が行き着いた先がここ、B2AMなのです》
「ハァドラインって知ってて?」
《はい。目的のないロボットであることよりも、例え犯罪者と罵られようとこの国の為に、ひいてはパープルハート様の為に動こうと》
「……シロトラは?」
《あの方は別です。元は、シロトラ教官と、オペレーターの二人という小さな組織でした》
《ディル、話し過ぎだぞ》
《……そうか。いや、すまないなセイン。話せば理解をしてくれるだろうと思ったのだが》
《あまり我々の情報を公開すると後が厄介だ》
少しだけ名残惜しそうにディルは押し黙り、セインに譲った。
《今、彼女に明かすべき情報はそれではない。違うか》
《そのとおりだ、セイン。すまないと思っている》
《そう落ち込まないでくれ、ディル。二人で港のコンテナ置き場に忍び込んで『洋画のクライマックスシーンあるある動画』を撮ってネットに投稿した仲じゃないか》
「そこ。何してんのよ」
《警備員に見つかってメチャクチャ焦ったなー、あの時》
《そうそう。クレーン勝手に動かしてコンテナ倒したりな》
「バカなんでしょ!?」
ちなみにその時の動画は今だに一部の層から根強い人気があるらしく続編を希望する声があるとかないとか。
《まぁそれはさておいて、だ。時にお嬢さん、お名前は?》
「アイエフよ。ゲイムギョウ界に吹く一陣の風、とでも言えばいいかしら?」
《プリベイトなウインドさんと同じ香りがする。よろしく、アイエフさん》
さて。と、一度話を区切ってセインは腕を組んだ。今大事なのは、組織の生い立ちや自分たちのことではない。アイエフの処遇をどうするべきかだ。
《あなたの武器は我々で預かっています。それとバイクもタイヤがパンクしたので直しておきました》
「え、あ、ありがと……変なことしてないでしょうね」
《うーん、エンジンオイル交換とブレーキパッド交換とある程度のメンテナンスくらいしか》
「ハァドラインじゃなくてそっちで食っていけるんじゃない?」
《いえ、俺には大切な仲間がいるので。ひとりだけ鞍替えというのも何だかな、と》
シュラが少し照れくさそうに頭を掻いていた。それにセインとディルが肩に手を置いてからかうように胸を小突く。
《おいおいおーい、嬉しいこと言ってくれるじゃないかシュラー》
《へいへーい、いいこと言うなぁ。このこの》
《よせやい、照れるだろぅ》
「仲良し三人組なのはいいのだけれど。それで? わたしをどうするつもりなのよ」
《う~~~~~ん…………!!!》
本気で悩み始める三人の後ろから、もう一体。細身のロボットが現れた。
《目が覚めたのか》
《ああ、ジーン。お前、何してたんだ?》
《掘削機の停止と後片付け。毎回俺に片付けを押しつけるな》
少しだけ苛立った口調に、他の三人と違ってひとりだけ武装を解除していない。
《先ほど、本部に連絡を入れた。侵入者有り、とな》
《それで?》
《一応、捕縛してはあるとも追加で連絡した。シロトラ教官が直々に相手してくれるらしいが、いつになるやらな》
《教官は今何処に?》
《さぁな。時折、フラリと出かける方だ。数日は預かることになるだろう》
それに落胆の色を隠そうともせずにセイン達が重い溜息をついた。
《マジかよ……》
《ご飯とかどうするんだ?》
《後は見張りとか、それに――》
「それに……?」
ジッ、と四人の視線がアイエフの頭からつま先まで値踏みするように上下する。
《女の子、だもんな……》
《お風呂とか、髪の毛のケアとか、そういうのもな。出来るか?》
《ちょっと待っててくれ、ネットで検索してくる》
「えー、と……気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、そこまでしてくれなくていいわよ?」
《風呂ってあったっけ? 普段俺らの使ってるシャワーくらいじゃないか?》
「お風呂入るの!?」
《え、そりゃあ……》
《ねぇ……? 汚れるし》
え、俺たちおかしいこと言った? とでも言いたげにセイン達が顔を見合わせて首を傾げていた。