超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ジーンだけは腕を組んでアイエフを見下ろしている。この状況を危惧しているのはどうやらひとりだけらしい。
《本部に移送という形でも良いが、どこの誰かも分からない相手だ。不用意な詮索は止めておけ》
《むーん、面白くないこと言うなよジーン。お前そういうキャラだっけ》
《うるさい。今何時だと思ってる。日付が変わる前に日記を書いておきたいんだ》
《じゃあ行ってらっしゃい》
日付が変わる、というとアイエフは相当な時間気を失っていたようだ。今頃ネプ子達は心配してるだろうな、と考えながらコートの腰周りに付けていた携帯を後ろ手で探る。せめてメールのひとつでも入れられればこの状況を打破出来るだろう――と。
《ああ、外部と連絡しようとするなら無駄だからやめておいた方が良い。ここは電波が悪い。特に坑内はな》
(っ、気づかれてる……)
《そう睨まないでくれ。今はあまりジーンを刺激しない方が良い》
うんうんと他のメンバーが頷く。
《アイツ、狙撃の名手なんだがなーんかなぁ》
《ノリ悪い時あるよな》
「多分それ、普通の反応よ?」
《ははは、まさかそんな》
《B2AM総合特務班トライアドのメンバーがまともなわけないじゃないか》
「……トライアド?」
《うん、俺達の所属している部隊。といっても四人だけなんだけど》
「四人なのに、トライアドなの?」
場の空気が凍った。言われるまで何も疑問に思っていなかったらしい。
「トライアドの原義は、三人組よね。一人多くないかしら」
《…………》
《…………》
《…………》
「……えっ、何この空気。わたし変なこと言った?」
その時、アイエフの携帯電話が鳴り始めた。それにセイン達の緊張感が一斉に高まり、咄嗟に身構えるもののそれ以上動かない。坑内は電波が悪いはずだ、たまに繋がることもあるだろう。しかしアイエフの携帯から鳴り響く着信音は止む気配がなかった。誰からの着信なのだろうか、それに出たいが今は身動き出来ない状態である。そして、相手もそれをどうするか考えているのか動かない。
《おい、うるさいぞ》
戻ってきたジーンにセイン達の視線が殺到する。それに、背部ラックから大口径のハンドガンを取り出すとアイエフの足元に向けて全弾撃ち始めた。身を竦ませるアイエフの額に、目にも止まらない速度でリロードを済ませたハンドガンの銃口を突きつける。
《ディル、携帯を取れ》
《了解だ》
《おい。妙なことは言うなよ》
「わ、わかったわ……」
《えーと、どれだ? これ、でもないな……こっちか》
「壊さないでよ?」
《むぅん。シュラ、すまんが頼む》
《これだろ? えーっと、着信は――》
画面に表示されているのは『ネプギア』の四文字。それにシュラがぎこちない動きで通話ボタンを押すとアイエフの耳元に当てた。
「……もしもし?」
《あ、やっと繋がった! よかったぁ。電波が悪いみたいで中々繋がらなくて不安だったんです》
「そ、そうなの。それで?」
《エヌラスさんのD-Phoneでテザリングしてもらって無理やり電波を引っ張ってるんですけど、アイエフさん、今どこにいるんですか? 街中探してもいないから心配で》
少しだけ涙声になっているネプギアに、背後から聞こえる風切り音から恐らくは飛行しているのだと分かる。エヌラスも一緒にいるのだろう、バイクのエンジン音が微かに聞こえた。
「ごめんなさい、ネプギア。心配かけたみたいね。わたしは大丈夫よ」
チラリとアイエフの視線がジーンを一瞥する。銃口が額を睨んでいた。
「その、ちょっと連絡入れる暇が無かったのよ。だから心配しないで」
《本当ですか?》
「ええ。思ったより楽な仕事だったから、ちょっとバイクで走りたかったの。近いうちに戻れるとは思うから心配しないで。ネプ子たちにもよろしくね」
《はい! でも、何かあったらすぐに連絡してください》
「そうさせてもらうわ」
《あ、ちょっと待って下さい。なんですか、エヌラスさん――すいません、替わりますね》
《俺だ。聞こえるか、アイエフ》
「聞こえてるわよ、なに?」
《電波の悪い場所らしいが――お前今どこにいる?》
その一言に、アイエフが言葉を詰まらせる。
《バイクで気ままにツーリングしてるみたいだが、屋外にしては随分とまぁ電波が悪いんだな。森の中か?》
「……だとしたら、なによ」
ジーンの突きつける銃口に睨まれながら、緊張感が場を支配していた。口を滑らせようものなら自分を亡き者にするくらいわけもないだろう。他の三人とは違って、このロボットだけは何かがある。アイエフはそう踏んでいた。
《携帯電話をコートの周りにぶら下げてるお前が電波の悪い場所で長居するのは妙だと思ってな》
「――そうかしら? 休憩がてら、お昼寝してただけよ」
《連絡があった八時間以上前からか?》
(なんでそう、鋭く痛いところを突いてくるのよ……)
今だけはエヌラスの察しの良さを恨む。だが、状況は劣悪なまま好転する気配はない。
《なぁ、アイエフ。まさかとは思うがお前》
「あぁもう、別にいいじゃない! アンタはわたしの保護者かなんかなわけ! たまには一人で気楽に過ごしたい時だってあるのよ! 察しなさいよそれくらい!」
《…………》
怒鳴りつけられて、電話越しに唸るエヌラスの様子が思い浮かぶ。
《その、まぁなんだ。すまなかった》
「わかればいいのよ――」
《そういう日もあるよな。女の子だもんな。ごめんな》
「ちょっと?」
《男の俺には分からない事もあるよな。まぁ、その……うん、ネプギアに代わるわ。悪かった》
何か変な誤解を招いたような気がする。
《ネプギアです。あ、あのアイエフさん……》
「なによ」
《ごめんなさい。わたしもそういうの配慮が足りなかったみたいで》
「気にしないで……」
《それじゃ、切りますね》
ツー、ツー、ツー――……。ピッ。通話を終えてから、場の空気が緊張感から気まずい物に変わっていた。シュラがおとなしく携帯電話を元のホルスターに戻す。ジーンも突き付けていた銃口を下ろした。
《…………すまなかった、銃を突きつけたりして》
「もういいわよ……」
《ごめん、俺達はそういうのに疎いんだ》
「だから」
《その、縄解いたほうがいいかな。身体に障るし……》
「あぁぁぁぁもぉぉぉう!! バカばっかりかぁぁぁ!!」
エヌラスのせいであらぬ誤解を招かれたアイエフは、トライアドから腫れ物を扱うように丁重にもてなされる羽目になった。
――Nギアを太もものホルダーに戻して、ネプギアはホッと一息吐く。
「よかった。アイエフさん無事みたいで」
「どうだろうな」
「えっ?」
ハンティングホラーでプラネテューヌの夜空を駆けながらエヌラスはD-Phoneを操作する。
「ネプギア。プラネテューヌで電波が入らない場所、悪い場所は分かるか?」
「えっと、ごめんなさい。流石にわたしもそこまでは……」
「そうか。別にお前を責めるわけじゃないが、ダンジョンとかひとりで潜り込んでるわけでもないのにおかしいと思わないか」
「というと?」
「さっきの通話、音がおかしかった。なんというかな、反響してる感じだったんだよ」
「電波が悪かったからじゃないですか?」
「それだけならいいんだけどな……モンスターがいるようなダンジョンだぞ。そこで昼寝とか考えられるか? あのアイエフが」
「あっ」
ネプギアも察しがついたのだろう。それにあの怒りようは、恐らく――そういう日ではなく、通話を打ち切りたかったからだ。そうなると不自然な点が浮かび上がる。
「もしかすると、何か事件に巻き込まれてる可能性が高い。捕まってるかもな」
「それなら、早く助けに行きましょう! アイエフさんが」
「落ち着けネプギア。問題はアイエフの居場所が分からないことだ。街中探していないなら、街を外れた場所になる」
と言っても、探すのは容易ではない。何しろ街の中よりも街の外というのは広すぎる。国境を越えるかその付近まで視野に入れると一月や二月ではとてもではないが人探しなど困難だ。
「じゃあ、どうすれば……」
「一旦教会に戻るぞ。ユウコからの頼みで調査を頼まれた場所を片っ端から潰して回る」
ハンティングホラーを反転させて、教会に向けて進路を取る。後ろから抱きついているネプギアの手が少しだけ力を込めてエヌラスの身体にしがみついた。
「アイエフさん……」
「大丈夫だ。何がなんでも見つけて、必ず助ける――事と次第によっちゃ問答無用でシャイニング・インパクトだ」
「えっと、地形が変わらない程度にお願いします……」
本気でやりかねない。というよりも、口ぶりから察するにエヌラスは本気でやるだろう。ネプギアはそうならない事を祈った。