超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
銃弾を跳ね除けて、ドラグレイスが躍り出る。その隙にランス03がランス02に突撃銃を投げ渡し、背負った長刀を二本構えて初撃を受け止めた。それに続くようにネプテューヌ、ネプギア、ノワールの三人も武器を召喚してドラグレイスに斬りかかる。
長刀を交差させていたランス03を力の限り蹴り飛ばし、その身体を足場にノワールが飛びかかるも力任せのなぎ払いで地面に転がされる。次いで、ネプテューヌの攻撃を防ぐなり、背後のネプギアを見向きもせずに蹴った。そのまま大剣を持ち上げて得物を弾き上げる、すると大剣めがけてランス02のグレネードが着弾して衝撃に取りこぼした。ランス01が腰部ブースターを吹かして接近すると、その勢いに任せてドラグレイスを蹴り飛ばす。
《大丈夫か、ネプ……テユーヌ!》
「名前くらいちゃんと呼んで!?」
《ネプチューヌ》
「惜しいけどさ!」
《漫才やってる暇ぁねぇぞ、01!》
ランス03が再び突貫する。大剣を拾い上げたドラグレイスと激しく切り結ぶが、左手を胸部装甲にあてがった次の瞬間――まるで冗談のようにランス03がビルに吸い込まれるように吹き飛んだ。
「たぁぁぁぁ!」
ネプギアが取り回しの悪い大剣の攻撃をかい潜って鎧を切りつけるが、表面を軽く削った程度で防がれる。
「邪魔だっ!」
《危ない!》
間一髪のところでランス02がネプギアを抱えて距離を離すも、掠めた肩部装甲がひしゃげていた。損傷の度合いを見て、軽微と判断する。
《くっ、やはり我々では相性が悪いか……》
「貴様ら程度ではまるで話にならん。俺の攻撃に“ひと無で”されるだけで、その体たらくではな……」
「あの剣――」
ドラグレイスの構える大剣を見ていたノワールが、何かに気づく。あれはただの鉄の塊ではない。もっと何か、別な力――そう“見えない力”の加護が施されているようだ。
「……そこな黒髪の小娘は、気づいたか。そうとも、機人というのはつくづく厄介な存在でな。ただの物理攻撃であれば傷一つつけるだけでも苦労する。だが、魔法に対する防御、というのがまるで絶望的だ」
「魔法剣、ってわけね」
「いかにも」
《それが、どうだってんだァァァ!!》
ランス03の剣撃を両手で防いだドラグレイスの身体が後方へ大きく吹き飛ばされる。そこへランス01とランス02が追撃のグレネードランチャーを放つも、巧みな剣捌きで榴弾は哀れ、弾頭を両断されて背後のビルを倒壊させた。
「うえぇぇ、こんなボスラッシュの世界でどうやって生き残るってのさー……」
ブツクサと文句を垂れるネプテューヌの背中を、ランス01が優しく叩く。
《戦うだけだ》
空になった弾倉を交換しながら、ランス01は左肩のラックに背負っていた突撃銃を取り出す。
「そうかもしんないけどぉ」
《今日、生き残ることを諦めれば我らに明日はない》
二挺の突撃銃が一斉に火を吹いた。その銃弾を大剣で凌ぎながら逆に突撃してくるドラグレイスの大剣を飛び上がって回避する。空中で腰部ブースターを吹かして姿勢制御と同時に豪雨のごとく銃弾を容赦なく浴びせかけるが、片手で展開した防御魔法陣に全て防がれていた。その隙だらけの左右からランス02とランス03が同時に接敵。爆炎と紙一重の剣撃で大きく吹き飛ばした。
「チッ」
増幅する魔力の気配に、ノワールとネプギアが二人の前に出て生み出される衝撃波を防ぐ。
《すまない、助かった》
「さっきのお返しです」
あれだけの攻撃を受けて、ドラグレイスから放たれる闘気は微塵も衰えを見せない。それどころか思わぬ苦戦に怒りのボルテージを上げているかのようにも見えた。
「貴様ら――」
その手が、シェアクリスタルを呼びだそうとした瞬間、不意にドラグレイスが背後の気配に振り返る。
《チェェェェストォオオオオオオオッ!!!》
「アルシュベイト――!!」
豪剣一閃。ドラグレイスが寸でのところでその一撃を防ぐことに成功したものの、その巨体がビルを三棟ほど貫通して瓦礫の下敷きになる。長刀を地面に突き立てて、トライデントとネプテューヌ達に向き直った。
アルシュベイトがここに来たということは、エヌラスはもう――悲観にくれそうになった三人の様子に気づいたのか。
《エヌラスは健在だ。安心しろ、命までは奪っていない》
「えっ」
《むしろ、余計な邪魔が入ってな。勝負は預けた》
ほぼ勝敗は決したようなものであった。だが、完全な決着に至らない限りそれはアルシュベイトにとって、引き分けなのだ。白か、黒のどちらしかない。灰色などという中途半端な結末など彼は決して認めなかった。決闘は己の過去を乗り越え、成長したという達成感と充実感をアルシュベイトに与えただけであり“それ”と“これ”では話が別なのだ。
それが自分達の緊急回線によるものであると、トライデントは自らの非を詫びた。
《アルシュベイト様……この非礼、どう侘びたらいいか……》
《気にするな。貴様らは我が分け御霊。貴様ら三人が揃ってこそのトライデントだ。誰一人として欠けることは俺が許さぬ。貴様ら自身が最期を望もうと、俺が赦さん》
倒壊したビルを砕く魔力を込めた斬撃が飛んでくる。だがこれを、アルシュベイトは正面から豪剣を打ち下ろして叩き伏せた。圧殺された衝撃は一陣の風と成り果てて土煙を舞い上げる。
《ここは退け、ドラグレイス。貴様とて、数の不利が解らぬバカでもあるまい》
「ふん。だからどうだと言うのだ。むしろ好都合だ、貴様もろともにインタースカイを落とせば戦局は大きく傾く」
《……あくまでも、俺と死合を所望か、ドラグレイス》
「見れば、相当に消耗しているようだ。これを好機と言わずしてなんと言えばいい」
アルシュベイトは無言を貫いた。それが、怒りを表してるなどと身近なものでしかない。
《――トライデント。少女達の避難を》
「えっ?」
《あの痴れ者を、少しばかりぶっ飛ばす故にな……》
「あの、ちょっ……」
有無を言わさずトライデントがネプテューヌ達を担ぐなり、その場から全力で退避した。ぐんぐん遠ざかる戦場で、ノワールがアルシュベイトの手にシェアクリスタルが浮かび上がるのを見る。だが、変神した後の姿までは見ることは叶わなかった。
「な、なんで?」
《すぐに分かる》
そして、その直後に桁外れの轟音が響き渡る。インタースカイのドームに海水が降り注いだ。まるで海面に隕石でも落ちたのではないかと錯覚するほどの衝撃に、電脳国家が揺れる。
《こういうことだ》
トライデントは、ニヤリとした笑みを含めた口調で絶対の自信を持って言った。
それから、一時間ほどして戦闘を終えたアルシュベイトが戻ってくる。その全身に浅い切り傷をつけて、まるでそれが武勲であるかのように誇らしく胸を張って。
《ドラグレイスは退いたようだ。よく持ってくれた、トライデント》
《もったいなきお言葉にございます、アルシュベイト様》
《そちらも。重ねて礼を言う。我が親衛隊が世話になった》
「い、いえとんでもないです!」
ネプギアが慌てて頭を下げた。
「むしろ助けてもらってばかりだったと言いますか、迷惑ばかり掛けたと言いますかなんと言えばいいか……」
「とにかく、ありがとってことだよ! ねー、ネプギア」
「は、はい! そうです!」
「ところで、エヌラスは本当に無事なの?」
《あの男らしい、無謀の極みであったが……いつも私は、それに遅れを取ってきた。今回こそはという自信はあったが、如何せん上手くいかぬものよ。雌雄を決すと言いながら、情けないものだ》
はぁ……、と低く電子音声で吐息を漏らす。
《我々は目的を果たした。命が惜しくば、我らの争いに首を突っ込まぬことだ》
アルシュベイトがトライデントを引き連れてインタースカイを後にする。その機人達の背中が遠ざかり、見えなくなってからネプテューヌ達はこれからどうするか考えた。
「どうしよっか……」
「あんなことがあった後だもの、疲れたわね」
「え~、せっかくだから遊んでいこうよ」
「ホント、遊ぶこととなると体力が底無しになるんだから」
先ほどの戦闘による被害も即座に修復作業に取り掛かっている。無人の重機が列を作って道路を走っていた。しかしそれにしたって奇妙な感覚に囚われる。まるで箱庭の中を歩いている感覚に、空を見上げた。そこには半透明状のドームが青空を映し出している。
「なんだか、お腹空いちゃった」
「言われてみればそうね。何か食べて行きましょ」
「さんせーい! 何か美味しい食べ物あるといいな~、できればプリンとか、プリンとかぁ。あとプリンとか!」
「プリンばっかじゃない……」
三人がインタースカイの街を散策していると、公園でオープンカフェを見つけた。例に漏れずここでもまた店員はタッチパネルのメニューを付けたロボットだった。
《承りました》
そう答えると、車輪を動かしながら接客ロボはキッチンへ姿を消す。何気なく公園を見渡して、その静けさにネプテューヌが寂しそうな顔をした。
「……静かだね」
「そうね……」
人々の笑い声も、すれ違う人々の話し声も何も聞こえない静かな世界。まるで自分達だけが取り残されたような静寂感に言い切れない不安があった。三人だけの隔離空間。
「どこかに人、いないのかな?」
「一人くらいいてもいいはずよね」
そもそもインタースカイに到着してからネプテューヌ達は“人間と会っていない”のだから不安は尤もだった。
《お待たせいたしました》
三人のテーブルに各々注文したメニューが運ばれてくる。サンドイッチにサラダに、プリンアラモード。
「ちょっと、ネプテューヌ。アナタ勝手に追加したわね」
「へっへーん、いいじゃんいいじゃーん。きっと美味しいよ」
「まぁいいわ。それじゃ」
『いただきまーす』
ぱくり。もぐもぐもぐ……もぐ……。
咀嚼の音が段々と鈍くなり、飲み込む。確かに、美味しい。決してマズイわけではない。むしろ店で出すレベルとしては上々な方なのだが、何故か三人は浮かない顔をしていた。
きっと、厨房も無人なのだろう。完璧なまでに正確な味付けも皿の盛り方も機械的な挙動で作られたに違いない。だからこそ、素直に喜べない美味しさだった。市販で売られているプリンよりも遥かに美味しいのだが、決定的に欠けている。
「……美味しいんだけど」
「ええ……美味しい、のよね……」
「なんだか……味気ない、ですね」
そこには、人の温もりが圧倒的に欠けていた。機械の冷たさしか感じられない食事に喜びの声が上がるはずもない。
電脳国家インタースカイには、機械の冷たさだけが人々の温もりに変わって流れていた。
無血都市――ここは、知る人にはそう呼ばれている。