超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――翌日。エヌラスはイストワールに事情を話し、ユウコに渡した資料のコピーに目を通す。アイエフに調査を頼んだ施設や企業を片端からピックアップしていき、リストにまとめるとプラネテューヌに繰り出した。
「大丈夫か? プルルート」
「う~ん、まだちょっと気分悪いけどぉ……がんばるぅ~」
「そうか。無理だけはするなよ」
「はぁ~い」
ネプテューヌも女神の仕事に復帰しているが、やはりまだ気分が悪いらしくネプギアとアーサーの監視の下でやる気なさそうにしていたが大丈夫だろうか。今回は別行動で、ネプギアが気を遣ってくれたのかプルルートとふたりきりだ。ユウコとピーシェも買い出しに行くと言っていたが、あの二人はあの二人で別な意味で心配になってくる。主に周囲の被害が。
「それでぇ、アイエフちゃんをさがすんだよね~?」
「ああ。とりあえず、B2AMの手が回ってる企業と施設。片端から当たってみる」
「えぇ~……」
「……不満そうだな」
「だぁってぇ、疲れそうなんだもん」
確かにそうだが、そう言われても他に効率的な方法が見当たらないのだから仕方ない。だが、電波の入りが悪かった点を考慮してみれば街の中とは考えにくい。それに加えて、あの時の音の悪さ。整備された場所に捕らえられているとは考えにくい。そうなると、街の中を探すという選択肢は自然と後回しになった。
そこで、ふとエヌラスは思う。そんなまどろっこしい事をしなくても手っ取り早い方法があった。
「よし」
「?」
「ハンティングホラー」
街の中で、突然歩いている人間の影から大型二輪が出てくれば通行人の悲鳴も納得がいく。それに跨がり、エヌラスは後ろの座席を指差した。
「プルルート、行くぞ」
「うん~」
「しっかり掴まってろよ?」
「はぁ~い」
一応、スピード違反にはならない程度の速度でプラネテューヌを走る。――考えてみれば、相手方の組織が判明しているのだから直接本部に赴けばいいじゃないか、とエヌラスは考えた。
そうすんなりと話が通るとは思ってないが、その時はその時だ。
「エヌラス~」
「なんだ」
「どこいくのぉ~?」
「B2AM本部だ。場所は一応メモしてきた! 手っ取り早く行くぞ!」
「わ~い、デートだぁ~!」
エヌラスがうっかりハンドル操作を誤って転倒しかけるが、ハンティングホラーが自律的に踏み留まってくれたおかげで難は逃れる。確かに世間的には男女二人で出かけるさまをデートと言うのかもしれないがそれはそれとしても自分とプルルートでデートという単語が出てくるとさすがにちょっと世間様はそういうのをデートと呼んでくれないような気が――。
『あー、あー。そこの大型自動二輪、止まりなさーい』
「ファッキン国家権力!!」
ありがたくもないことに、親切な誰かが通報してくれたらしい。事情を説明すること数分、イストワールに連絡を入れてどうにかしてもらうのに三十分ほど時間を取られた。呼び止めた警官をエヌラスが思う存分睨みつけて、顔面蒼白になって歯の根が合わず、涙目になりながら何度も頭を下げて去っていく。暴言のひとつ出てこなかったことが我ながら奇跡的だと思いながらも深呼吸。
その通報内容が『少女が誘拐されている』だったことが尚更エヌラスの腹を立てていた。
「プルルート。俺、悪くないよな……」
「なでなでしてあげるからぁ元気出して~。なでなで~、えへへぇ」
「…………」
命拾いしたな親切な通報した一般市民。エヌラスはプルルートに頭を撫でられて、怒りを腹の底に落とし込んだ。撫でている相手は少しだけ頬を赤らめて楽しそうにしている。
「元気出たかなぁ?」
「ああ、うん。結構」
「そっか~」
「じゃあ、気を取り直して。行くか」
エヌラスは改めてハンティングホラーを走らせた。次、呼び止められたら何が何でも振り切るか暴れるの二択だ――そんな願いが通じたのか、エヌラスは何事も無くB2AM本部近辺、ルウィー国境付近にひっそりと建てられている施設に到着した。
レオルドの所属する国境警備隊北方部隊はB2AM本部直轄となる。その為、そこで警備に当たる人員も大所帯となっていた。その中でも万年最下位のレオルドがヒィヒィ言いながらどうにか部隊の最後尾に並ぶ。
基本、部隊演習は陣営をふたつに別けて行われる。時折開催される『スクランブル』は個人戦、他にも『スカッド』という少数での対抗戦や『大攻防』と呼ばれる攻撃側と防御側に分かれた大規模演習も行われていた。ただし、それらの演習は非常に大規模な戦場となるために他の陣地での許可を得なければならない上に運用費もバカにならない額が動く為、経営難という状況下ではここ最近は行われていない。
『――作戦時間、終了! そこまでよ!』
上空を滞空していた輸送用ヘリから大音量で響き渡る合図を皮切りにして、北方部隊演習は終了した。逐一記録された戦績を元にして、今回の最優秀戦闘、最優秀貢献、最優秀占拠の三人が両陣営から選出される。そこから更に最優秀総合戦績が選ばれるのだが――今回はシャニが制した。前回は他の仕事の都合で不参加となっていたが腕に衰えはないらしく、本人もそれは満足そうにしている。
それとは反対に、最下位戦績はやはりレオルドだった。
『お疲れ様、シャニ。相変わらず凄い活躍ね』
《当然だ。私はシロトラ様の右腕となるべく日々組織に尽力しているのだからな》
『みんなもお疲れ様、ゆっくり休んでちょうだい』
普段よりも柔らかい口調のオペレーター、ヨルドの言葉に各々が各部の自己診断テストを行いながら武装を解除していく。徐々に高度を下げる輸送ヘリに乗り込むB2AMのロボット達だが、それを見送る姿があった。
『レオルド、貴方はいいの?』
《自分は後片付けをしておくっす!》
『そう。今までよりは良い動きだったわ、その調子で最下位から抜け出しなさい』
《オッス! ありがとうございます、ヨルドさん!》
頭を下げて高度を上げる輸送ヘリを見送って、レオルドはルウィーに視線を向ける。
プラネテューヌ、ルウィー国境付近に位置するB2AMの活動拠点――北方防衛拠点《ベルスク》でレオルドは一人、演習の後片付けを始めた。だが、そこにもう一体。
《おーいー、レオルドー》
《あ、ロゼさん。どうかしたっすか?》
《みんなはー?》
《もう帰っちゃいましたよ》
《そっかー。んー……》
今回の最優秀戦闘賞に輝いたのは他でもないロゼだが、本人はそんなものに興味が無いのかこの通りのマイペースを貫き通している。武装を背負ったまま、ロゼはレオルドが持ち上げていた鉄骨を担ぎ始めると鈍重なホバー音と共に動き出した。
《片付け、手伝うぞー》
《すまねっす……》
悪路であってもホバー型脚部のロゼには関係がない。だが、重装甲の為に機動力が死んでいるものの有り余る馬力を誇る。眠そうな闘牛、というのがロゼへ抱かれる印象だった。
そこへ、エヌラスがハンティングホラーでドリフトしながら着陸する。チラホラと雪が降る中で吐く息は白く染まっていた。
「うぃ~、寒ぃなおい」
《あ、エヌラスさん。こんちゃっす》
「おう、レオルド。なんだ、お前ここの所属だったのか」
《……そちらの方は?》
「あたしぃ~? え~っとねぇ、プラネテューヌのぉ女神さま~。プルルートって言うんだぁ~、よろしくね~」
《……? プラネテューヌの女神様って、パープルハート様じゃないんですか?》
《おれはロゼだー。よーろしくねー》
「うん。よろしく~」
レオルドの疑問は無視して、のんびり屋のロゼとプルルートは馬が合うのか早速意気投合している。エヌラスは白い息を吐きながら周囲に見られる戦闘の痕跡に眉を寄せた。
「だいぶ激しい戦闘があったみたいだが」
《北方部隊の合同演習っす。今さっき終わったばかりで、これから俺が後片付けするところなんです》
「エヌラス~、さむい~」
「ああ、悪い。ほら、これでいいか?」
「わ~い!」
プルルートを抱き抱えてコートで軽くくるむと、首に手を回して抱きついてくる。それを見ていたロゼが羨ましそうにしていた。
《いーなー……あったかそうだー》
《まぁ、俺らは寒いとか暑いとか関係ないっすけどね》
《そだなー、あははー》
《えっと、それで。エヌラスさん、どうしたんすか? 一応ここ、B2AM本部直轄の私有地なんで見つかると色々と面倒なことになるっすよ》
「ああ。そうだな、お前がいるなら丁度いい。聞きたいことがあるんだ」
《俺に分かる範囲と答えられる範囲でいいなら、いいっすよ》
エヌラスはレオルドに、アイエフが何か事件に巻き込まれた事を簡潔に話す。そして、それにB2AMが関与している可能性が高いことも付け加えた。
《そんな――でもなんのメリットがあって》
「ああ、だから俺も疑問に思ってな。何か心当たりはないか?」
《うぅーん……》
《なー》
「なんだ、ロゼ」
《それならー多分ートライアドだと思うぞー》
「根拠は」
《うんとなー。昨日ーヨルドさんとちっひーちゃんがー、もんのすごい形相で通信してたからー》
「ヨルド……は、レオルドの言ってたオペレーターか。ちっひーって誰だ」
《あ、ちっひーさんは愛称です。みんな親しみ込めてそう呼んでます。本当は、チヒロさんです》
《ちっひーはー若いけどーいい子だぞー》
トライアド? 初めて聞く名前に首を傾げる。レオルドはそれに思い当たる節があるのか《あー……》と唸っていた。
「どんな連中だ?」
《えっとですね……端的に言うなら物凄く強い連中なんですよ。総合特務班トライアド。少数精鋭ながらその実力はB2AMでも指折りに入ります》
《でもなー、変人なんだー》
《いつだったか、ちっひーさんのシャンプー飲んで謹慎食らってましたし……》
《他にもー、超高速屈伸運動で膝の関節ぶっ壊してグラさんに徹夜させたりなー》
「なんか心当たりあるわそいつら……」
主に邪神との戦いで出会った二度と関わり合いになりたくない連中のことを指す。だがしかし、そんな情報を明かしていいのかと、ロゼに尋ねる。
《べつにーいいんだー。おれ、そういう面倒事わかんないしー》
「そうか……」
《それにー、困ってるならー助け舟くらい出さないとなー。なー、レオルドー》
《そっすね。なんだか仲間を売っているみたいであんまりいい気分じゃないっすけど……まぁ、トライアドですし》
《そだなー、トライアドだしー。いいんだー、あいつら滅茶苦茶強いのに変態だからー》
「オーケー分かった。ありがとな、ロゼ、レオルド。そいつらの居場所、分かるか?」
《プラネテューヌ第三資源採掘場っす。良かったら案内しますけど》
「いや、いい。大体の座標教えてくれたらバイクでかっ飛ばす。いや、それにしても昨日の今日ですぐ場所が分かるのは僥倖だな、助かった」
エヌラスがはにかんでレオルドに礼を言ってハンティングホラーを飛ばそうと思った矢先、銃声に飛び退いた。
《今の、もしかして……!》
《ふん――何か妙な生体反応が接近していると思えば、人間とはな……何をしているレオルド、ロゼ。そいつは我らB2AMの私有地に侵入した敵だぞ。何を悠長に雑談など》
《シャニ! 違う、この人達は敵じゃない! 銃を下ろしてくれ》
《貴様も食らうか? 蠍の一突き》
ガチャリと銃口を向けられてレオルドがたじろぐ。三点バーストながら、その貫通力と弾速は並み居る武装の中でも優れ、総合バランスでも一二を争う程の逸品だ。シャニの機体性能とそのAIM力が加わればまさに蠍の毒針である。
《シロトラ様が不在の今、B2AMは私が守る。覚悟は良いか、侵入者!》
「くそ、そうやすやすと行かせちゃくれねぇか! プルルート!」
「……すやぁ~」
「うぉーい、なんて穏やかな寝顔だよ女神様ー! 起きてくれー!」
《寝顔かわいいなー。写真撮りたいくらいだー》
「俺の携帯貸すから撮ってくれ。後で送るから」
《いいぞー》
《……戦闘前に巫山戯るなよ!! 貴様からはあの変態狂人集団と同じ臭いがする!》
「あの変人共と一緒にすんじゃねぇぞ! くたばれブリキ野郎!」
割りと本気で切れそうになったエヌラスの横で、ロゼがD-Phoneでプルルートの寝顔を撮っていた。